アリゾナ州フェニックスの医療施設で10年以上昏睡状態の女性患者が、レイプされた上に妊娠した。警察の捜査が続く中、施設のCEOがこのほど辞任した。ハシエンダ・ヘルスケアセンターがハフィントンポストに発表した声明文によると、ビル・ティモンズ氏は今週始めに病院との「雇用契約を解消した」ということだ。事件をスクープした地元TV局KPHO-TVによると、29歳の匿名患者は数回にわたってレイプされていたが、病院スタッフは陣痛が起こるまで妊娠に気がつかなかったと言う。女性患者は12月29日、元気な男の子を出産した。
1月8日火曜日、女性患者をレイプして妊娠させた人物を特定するべく、捜査官はハシエンダ・ヘルスケアに捜査令状を出し、全職員のDNAサンプルを要求した。声明によれば、施設側では警察当局によるこうした最終手段を「捜査の進展にむけた措置」だと発表した。
「当院は、従業員にハシエンダ病院内でDNA検査を受けさせる、またはハシエンダが自主的に従業員の遺伝子検査を実施することの合法性について、弁護士の助言を仰ぎました」と、施設側はコメントした。「いずれの場合も連邦法に抵触するだろう、との返答を得ました・・・当院としては、フェニックス警察をはじめ全捜査当局に協力し、以前にも起きたこのような痛ましい事件の事実解明に取り組んでまいります」
被害に遭った患者は地元のサンカルロス・アパッチ族のメンバーで、水難事故により14年間昏睡状態だったと、部族のスポークスマンが火曜日に声明を発表した。
「わが部族のメンバーがこのような対応を受けたことに、部族を代表して心から遺憾の意を表明します」とテリー・ランブラー氏は語った。「愛する者が延命治療を受けている場合、家族は非常に弱い立場にあり、他人を頼みの綱として、介護者を信頼するのです。悲しいかな、彼女の介護者は信頼に値する人物ではなく、彼女を利用したのです」
被害に遭った女性患者の元介護人は、地元TV局ABC-15との匿名インタビューに応じ、妊娠に誰も気づかなかったとは信じがたいという考えを述べた。
「9か月間毎日ずっと患者の身体を洗っていたのに、月経が止まっていることに気がつかないなんて信じられません。腹部が大きくなっていたでしょうに、看護師らは(患者の体重を)測定していなかったんですよ」と元介護人は言う。「こんなことが起きるなんて、ショックです」。
一時的にせよ、半永久的にせよ、昏睡状態での妊娠は、(昏睡状態または脳死状態下で性的暴行を受けた場合も含め)極めて稀なケースではあるが、決して前例がないわけではない。2015年、アルゼンチンのスペイン語の報道機関が伝えたところでは、今回と似たケースとして、昏睡状態の女性が性的暴行を受け妊娠させられた。だが、患者の家族が告発しなかったため、警察の捜査は行われなかった。
早まった性的行為の合法性はさておき、昏睡状態での妊娠は医学的危険性を伴うだけでなく、患者の家族に複雑な倫理的問題を突きつけることになる。
「満期分娩することは可能ですが、それも妊娠がどこまで進行しているかによります」と2015年、WebマガジンViceとのインタビューで生物倫理学のアーサー・キャプラン氏は語っている。「妊娠28週なら帝王切開も可能です。ですが妊娠2週間程度ですと、胎児を傷つける危険性があるのでどの病院も避けるでしょう」
だが2001年、まさにそうした事態が起きた。自動車事故で重傷を負い、昏睡状態でシンシナティの病院に入院していたチャスティティ・クーパーという患者が、妊娠2ヶ月であることが病院医師によって判明した。医師は昏睡状態の患者に麻酔を施す危険性を考慮して、帝王切開手術を断念。
1995年には、「キャシー」という名の女性が10年間昏睡状態にいたが、ニューヨークの介護施設で介助人からレイプされ、妊娠した。発覚した時はすでに妊娠4か月。だがローマカトリック教徒の家族は堕胎に反対し、満期分娩を選択した。キャシーは男の子を出産した後、まもなく死亡。この件を受けて1998年に「キャシー法」が制定され、看護師の経歴チェックが義務付けられるようになった。
フェニックスの女性患者の家族は、当面は公の場での発言を拒んでいるが、家族の弁護人はハッフィントンポストとのインタビューにこう答えた。「家族は、ハシエンダ・ヘルスケアに入院中の娘が、暴行を受け、蔑ろにされていた事実に怒りをあらわにするとともに、大変傷つき、衝撃を受けています・・・(家族に代わりまして)ご報告いたしますが、生まれた男の子はすでに愛情あふれる家族に引き取られ、大切に育てられていくことでしょう」。