まず田中は、自分がミックステープ・カルチャーに魅了された理由について、このように話している。
田中:ここ数年、2000年代半ばにリル・ウェインが始めて、2014年にヤング・サグが発見されたタイミングで本格的に花開いたミックステープ・カルチャーに端を発するサウスのヒップホップに魅了されてた。なぜかと言うと、サウンドだけでなく、ビジネス的なスキーム、アティテュード、そのすべてにおいてゲームの規則が抜本的に刷新されたという興奮があったから。
では、具体的にミックステープ・カルチャーは何を変えたのか? 田中はこのように説明している。
田中:例えばカニエ・ウェストは、ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』からの伝統を受け継ぐ形で、アーティストはアルバムというフォーマットを通して価値観を更新させていくんだ、っていうアティテュードをずっとリプレゼントしてきたわけじゃない? 一方で、それとは真逆のことをやったのがリル・ウェインだよね。彼は『カーター』シリーズみたいなしっかりとしたアルバムも出すけど、同時に、何枚ものミックステープを出す。しかも、その中身は流行りの曲に自分のフリースタイルを乗せただけのビートジャックだったり。つまり、乱暴に言うと、質より量で勝負しようとした。実にカニエとは対照的だし、やっぱり独自のルールを作り上げたんだよね。で、そうした価値観や戦略、スタイルを多くのラッパーが受け継ぐことで、すっかりゲームの規則が更新されて、今のラップ主導の時代が訪れたわけじゃない?
リル・ウェインが2018年に発表したアルバム『Tha Carter V』
リル・ウェインが2017年に発表したミックステープ『Dedication 6』では、ケンドリック・ラマー「DNA.」やポスト・マローン「ロックスター」など同年の人気曲のトラックがふんだんに使われている。
そして、そうしたルールの更新後に訪れたのは、「容赦ない椅子取りゲーム」の時代だと田中は分析している。
田中:そのゲームの規則が固まってきたと感じ始めたのが去年の秋。
その後、2人の会話は、この椅子取りゲームの時代におけるチャイルディッシュ・ガンビーノの批評性や、ゲームの勝者であるドレイクやトラヴィス・スコットなどにまで広がっている。
Edit by The Sign Magazine
田中宗一郎と宇野維正の2018年の年間ベスト・アルバム/ベスト・ソングのSpotifyプレイリストはこちら。