宇野:ポップミュージック全般で今年一つ顕著に表れた傾向としては、『グレイテスト・ショーマン』『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/ スター誕生』と、ラップ以外のアルバムのメガ・ヒットがほぼ映画絡みっていうことですね。その一方では、トム・ヨークやジョニー・グリーンウッドを筆頭に、バンド出身、もしくはバンド在籍中のミュージシャンが映画音楽家として足場を固めつつあるという状況もある。つまり、白人のミュージシャンは音楽と映画の境界線上にその活路を見出している。レディー・ガガの復活も含めて、それはネガティブな文脈でとらえるべきことはなくて、「その方法があった!」っていうことですよね。
トム・ヨークが映画『サスペリア』に提供した「Suspirium」のパフォーマンス映像
宇野:『クリード 炎の宿敵』のサントラはマイク・ウィル・メイド・イットがプロデューサーを務めて、錚々たるラッパーが勢揃いしているわけだけど、そこでメイン・テーマを手がけているのはボン・イヴェール。テーム・インパラやジェイムス・ブレイクが相変わらずプロデューサーの一員やネタ元としてラッパーたちから重宝されているのもそうだけど、白人の一部のミュージシャンは映画やラップと交わることによって存在感が高まっている。だから、今年もカーディ・Bと一緒にやったりしていたマルーン5みたいに流行に擦り寄るのも一つの手だけど、むしろ向こうから必要とされる場所にいるっていうことが重要なんじゃないかと。
田中:「外部としてのロック」が求められてるってことだよね。
宇野:そうそう。そして、そこでの重要人物もはっきりしてきた。
一方の田中は、白人の表現ではグライムスとビリー・アイリッシュに注目しているという。
田中:白人の表現ということで言えば、グライムスの新曲「ウィ・アプリシエイト・パワー」も面白いと思った。
宇野:ビリー・アイリッシュはエモ・ラップと地続きの部分もあるけど、確かに白人が白人文化に回帰している流れはありますよね。流石にここまでブラックのモノ・カルチャーみたいになってしまうと、それの反動が起こるのは理解できる。しかもそれが面白い形で出てきているっていう。
その後、2人の会話は、こうした海外の状況を受け、日本のアーティストの意識や表現はどのように変化しているか? というテーマへと進んでいき、星野源、米津玄師、SKY-HIなどについて本誌では議論をしている。
Edit by The Sign Magazine
田中宗一郎と宇野維正の2018年の年間ベスト・アルバム/ベスト・ソングのSpotifyプレイリストはこちら。