「サンキュー・ネクスト」は、故マック・ミラーをはじめ、ビッグ・ショーン、リッキー・アルバレス、ピート・デヴィッドソンといった元カレたちの実名を挙げて、アリアナが彼らへの感謝と別れを告げる曲。田中は同じく元カレのことを歌って同性から支持を集めてきたテイラー・スウィフトと比較しながら、「サンキュー・ネクスト」の新しさを説明している。
田中:「サンキュー・ネクスト」との対比で言うと、テイラー・スウィフトっていうのは、敢えて意地悪な言い方をすると、自分の元カレとの共依存的な関係や、それを断ち切ることからの解放感を綴ったリベンジ・ポルノ的な曲によって同性からのプロップスを高めてきたとも言える。でも、アリアナは元カレたちに祝福と感謝を投げかけた。「Im so fuckin grateful for my ex」という象徴的なラインね。「みんなありがとう、でも私は次に行く」っていう強い姿勢を示したんだよね。
2018年は、#MeTooの運動が象徴するように「100年、1000年単位で降り積もってたジェンダー問題の膿を出すべく、社会のシステムや意識の変化」が押し進められたものの、それが部分的に「自分とは違う立場の人間を貶める目的のために政治利用され」て、「当初の目的とはかけ離れた、奇妙にねじれた現象が起こっている」と田中は位置付けている。しかし、「サンキュー・ネクスト」は、そうした時代の空気が変わり始めていることの表れではないかとも語っている。
田中:そういう意味で、今年のもっとも素晴らしい気運や兆しを象徴する、未来に向けて書かれた曲。「サンキュー・ネクスト」が持っている大らかなフィーリングが来年以降に繋がるのであれば、時代は間違いなく更新されるんじゃないかな。
本誌での2人の会話は、2018年の社会のムードを象徴する出来事として、カニエ・ウェストの失言問題や、ジョン・ラセターやジェームズ・ガンのディズニー解雇問題にも及んでいる。
Edit by The Sign Magazine
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