音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。
本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。1990年代末のAIR JAM周辺のシーンのなかで突出したスキルとセンスを持っていたプレイヤーがLOW IQ 01だ。SUPER STUPIDでのベースプレイとヴォーカルに限らず、ソロ活動ではギターをメインに多彩なアプローチを展開。彼の音楽に詰まっている「こだわり」は今もピュアで輝いている。

Coffee & Cigarettes 09 | LOW IQ 01

取材を行ったのは東京・四谷にある昭和感満載の純喫茶。取材前、パンクスと純喫茶って似合うのかなと思っていたが杞憂に終わった。ライブでは激しくパフォーマンスを見せる”イッチャン”ことLOW IQ 01だが、不思議なほど純喫茶が似合う。

喫茶店のうれしいところは喫煙がOKなことだ。イッチャンも珈琲とタバコを片手にインタビューに臨んでくれた。

2018年のイッチャンの活躍は素晴らしかった。気さくでムードメーカーであるイッチャンは若手からベテランまで幅広い世代のミュージシャンに慕われ、フェスやイベントを盛り上げた。そして、イッチャンのライブが今とにかく素晴らしい。
本人も今年1年を振り返りながらこんなふうに語ってくれた。

「2017年はアルバムをリリースして忙しかった。2018年はリリースがないからのんびり出来るかと思っていたけど、ライブがたくさん出来て忙しかったね。ツアーも回ったし、9月頃は毎週末イベントやフェスだったから。ミュージシャン冥利に尽きるよ。で、今さらなんだけど、ようやくライブ慣れしてきたの(笑)。だって、昔は月に1本とかしかライブをやってなかったから。やっぱり楽しいよね。練習も大事だけど、本番が大事だなって」と、本人も長いキャリアの中でライブへの手応えを一番感じているようだ。

昭和感漂う喫茶店のノスタルジックな雰囲気に促されてか、話はイッチャンが音楽を始めた頃のことに及んだ。

シーンの中で、ベース・ヴォーカルとして確固たる地位を築いているイッチャンがベースに目覚めたのは中学生のときで、きっかけはセックス・ピストルズのヒストリー映画『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』だという。そして14歳のとき、早くも地元の祐天寺でステージに立つ。
もはやその時点でプロ志向だったということか。

「もちろん音楽で有名になれればいいなとは思っていたけど、プロ志向ではなかったかなぁ。周りのみんながスポーツやゲームに夢中になっていたように、自分はロックやベースに夢中になっていた感じ。でもベースを手にしたとき、”自分の武器”を手に入れた気持ちになったね。だからプライドはすごくあった。80年代初頭の中学生だと、エレキ・ベースやエレキ・ギターを弾くヤツもぜんぜんいなくて、『ベース弾けるんだ! すごい!』って言われたくて必死だった」 と、タバコを燻らせながら語ってくれた。

中学を卒業し、高校に進学したがすぐに退学。そして、先輩のバンドのローディーを務めるようになった。そのバンドの対バン相手のメンバーだったのがアイゴンこと會田茂一氏。アイゴンとの出会いは、結果的にイッチャンをプロの道へと誘った。アイゴンと結成したACROBAT BUNCHで1993年にレコードデビューを果たしたのだ。「楽しかったよね。
当時はハイスタ、ABNORMALS、COKEHEAD HIPSTERSとかとライブハウスでやってたんだけど、客が身内しかいなかったりして(笑)。でもそのうちに、アイゴンとはお互い追求する音楽が違ってきちゃって。俺はもっと激しい音楽をやりたくなって、友人のジャッキー(大高ジャッキー)を誘って結成したのが、SUPER STUPIDなんだ」と、SUPER STUPID結成のまでの経緯を教えてくれた。

SUPER STUPIDは、メロコア・シーンにおける伝説の3ピースバンドだ。5年間の活動で2枚のアルバムしかリリースしていないが、インド音楽やサンプリングを積極的に用いた多様な音楽性は、メロコアの領域を超え、様々なバンドに大きな影響を与えた。だが、バンドは”内部崩壊”を起こし、99年に活動休止。休止のときの心情を聞くと「逆にチャンスって思ったね(笑)。ソロができるから。実際に活動休止する前からソロの準備にかかっていたんだよね」と屈託なく答えてくれた。

LOW IQ 01が語る、バンド時代とソロ20年の歩み
Photo = Shuya Nakano

そのSUPER STUPIDが2015年のBRAHMAN主宰の「尽未来祭」で一度だけ再結成をしたことは本誌の読者ならご存知だと思う。「TOSHI-LOWが『SUPER STUPID、もう一回やんないの?』って言ってきたんだけど、断ったんだよね。だってジャッキーは音楽活動から遠ざかっていたから。
別のバンドでもなんでもジャッキーが現役だったら一緒にできたんだろうけど、ほぼライブ活動していない状態のジャッキーをフックアップするのは無理だと思って」と、イッチャンはSUPER STUPIDの再結成を頑なに拒んだことを告白してくれた。だが結局、活動休止中だったSUPER STUPIDを解散するために、SUPER STUPIDとして「尽未来祭」に出演を果たした。あれから3年が経つが、あの日の出来事をどう感じているのだろうか?「スッキリしましたね。昔から一緒にいた周りのバンドも解散したり活動休止したりしてましたけど、時々また集まって演奏したりして、みんな帰る場所があるんだなと。俺には帰る場所がないような状態だったから。でも、だからこそソロを頑張ってこれたんけどね。あの日、1日だけ再結成して、俺の帰る場所が分かっただけでも大きいよ」とイッチャン。

帰る場所とはSUPER STUPID?と聞くと「いや、SUPER STUPIDはあの日で解散したので。帰る場所はベースだって気が付いたの。ソロではギターを弾いてきたけど、SUPER STUPIDではベースを弾いて、『俺、ベーシストなんだ』ってあらためて感じたんだ」とハッキリと答えてくれた。

では、もうSUPER STUPIDとして演奏することはないのだろうか?

「実は今、ジャッキーがソロを作っているんだけど、俺も1曲歌う予定」とうれしいニュースを教えてくれた。「ジャッキーはSUPER STUPID時代に”SADHU”といったサイケな曲を書いてたんだけど、ストレートなロックナンバーを書いてきたことがあって。
けど、その曲に取りかかるタイミングでバンドが活動休止になってしまって。だから、SUPER STUPIDとしてそれだけやり残してたんだよね。で、ジャッキーがソロでその曲を録るらしいんだけど、『歌はイッチャンしかいない』って。それで参加することにしたんだ。昔はさ、『オレが!オレが!I LOVE ME (笑)』だったけど、時が経って、誰かと支えあったり、助けあったりできるようになったんだよね。SUPER STUPIDを解散して、ジャッキーが新しくやりたいことを見つけたのもうれしい。そのジャッキーの力になれることもうれしくて。俺、大人になったと思わない?(笑)」と、イッチャンは少し恥ずかしそうにおどけた。

大人の定義は難しいが、20歳が大人だとしたら、2019年はくしくもソロ20周年だ。2019年はアルバムをリリース予定とのこと。2017年のアルバム『Stories Noticed』のときのインタビューで、イッチャンは声高に「このアルバム、売りたい!」と言っていた。そのことを告げると「ミュージシャンってみんなそうだと思うけど、”俺の音楽は世界一”って思っているわけ。
だから、たくさんの人に聴いて欲しいんだよね」と。

LOW IQ 01が語る、バンド時代とソロ20年の歩み

Photo = Shuya Nakano

イッチャンの楽曲はメロディラインが抜群に美しい。前作にも「青い鳥」を筆頭に名曲がひしめいているが、20周年でリリースするニューアルバムはどんな感じなのだろうか?「サウンド的にはライブ感の強いシンプルな感じだね。ライブの最中、いろんな要素を詰め込んだ曲だと、音と音がケンカしちゃうってことに気づいたの。ライブをやっていると余分なものがそぎ落ちていくんだよ。だから、次のアルバムはシンプル・イズ・ベストなサウンド。それとメロディラインに関しては前作を超えてます。だから、よりたくさんの人に聴いてほしいんです」と自信に満ちた表情で語ってくれた

2020年は50歳になる。ミュージシャンとしてだけではなく、人としても紛れもなく大人の領域だ。若い頃は暴飲をして数々の伝説を作ったらしいが、酒やタバコの嗜み方も大人になったという。「最近、休みの日には立石(東京都・葛飾区。大衆酒場の聖地)に行って呑むんだよね。昔はああいう場所はよそ者には敷居が高かったの。それゃあそうだよね。見知らぬ若いヤツがルールもわきまえず呑んでいたら、ただの迷惑。でも、この歳になると郷に入っては郷に従えで、その土地のルールで呑めるんだよ。例えば、一軒目は軽くつまみながら酎ハイ1~2杯飲んで、一服して次の店に行くとか。若い頃はそんなことできなかったもん。呑むなら、つぶれるまで!みたいな(笑)」

この純喫茶が似合う理由が腑に落ちた。長いキャリアの中で、ミュージシャンとしても、人としても大きく成長したイッチャンの20周年が本当に楽しみだ。

LOW IQ 01
1970年12月13日生まれ。10代の頃から数々のバンドでベースやヴォーカルなどを担当。1994年にHi-STANDARDを筆頭としたAIR JAM世代を象徴するバンドの一つ、SUPER STUPIDを結成。99年からソロ活動を開始。2019年にソロ20周年を迎えるにあたり、約2年ぶり8枚目となるフルアルバム『TWENTY ONE』のリリースが4月24日に決定した。また、『TWENTY ONE』を引っさげた「LOW IQ 01 20th Anniversary ”LOW IQ 01 LIVE TOUR 2019”」を開催。千葉から新潟までの5公演はLOW IQ 01、フルカワユタカ、山崎聖之 (fam、The Firewood Project、The Yasuno N°5 Group)の3人で構成されるLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSとして、大阪からファイナルの東京までの3公演はさらに渡邊忍(ASPARAGUS)を加え、4人編成のLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS+として回るとのこと。チケットは3月3日より一般発売を開始する。

HP: http://www.lowiq01.jp/
Instagram: @lowiq01
Twitter: @LOWIQ01_staff
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