「40 TRIPS AROUND THE SUN」ツアーと銘打たれた、TOTOの17回目となる来日公演。このツアーは昨年2月にリリースされた、デビュー40周年を記念する最新ベスト・アルバムの名をタイトルに冠していて(直訳すると”太陽の周りを40周”で、太陽が地球の周りを1周するのが1年だからつまり40年!)、そこから想像できる通りバンドの歴史を総括する集大成的な内容となっている。2月14日(木)の広島公演を皮切りにスタートした全国8都市8公演のツアーが、いよいよ20日(水)に日本武道館公演を迎えた。
「天に旅立ったスティーヴの兄弟のことは一度たりとも忘れたことがない。ジェフ&マイク・ポーカロにも大きな拍手を!」(スティーヴ・ルカサー)
感無量ーー今回の武道館公演を観て湧いてきた言葉はまさにそれだった。満喫、とか、堪能、あるいは単純に、良かった、ではなく感無量。それはデビュー当時から彼らを追いかけ、彼らの音楽によって人生を変えられた自分の素直な気持ちだ。感動的、というのとも少し違う、まさに感無量なひと時…。
19時06分、照明が落ちてショーがスタート。オープニング・チューンは集大成となるボックス・セット『All In』に収められた新曲を収めたディスク『Old Is New』の2曲目に入っていた「Devils Tower」だった。元々は81年頃に録音し、ジェフ&マイク・ポーカロ兄弟のプレイがCDに収められた重要曲だが、その曲で始まるのはちょっと意外な感じがした。と言うのも、昨年3月からスタートしたデビュー40周年のヨーロッパ・ツアーでは同じく新曲の「Alone」がずっと1曲目に演奏されていたからで、それは1月末にリリースされたCD/DVD/Blu-rayで多くのファンが確認済み。

Photo by Masanori Doi
2018年の曲で始まり続いて1978年のデビュー曲をやりながら、その40年の隔たりを一切感じさせないところにこの曲順の意図があるのかもしれない、そう思わずにはいられなかった。2018年の曲がどこか懐かしく、1978年の曲が今なお新鮮。そして、それこそが彼らのデビュー40周年記念コンサートの本当の意味なのではないだろうか?3曲目は1982年の名作『TOTO IV』から、LP時代のB面のトラック2に収められていた「Lovers In The Night」で、ここではジョセフ・ウィリアムスがリード・ヴォーカルを担当。そしてこれがまたなんとも新鮮だった。
ジョセフがリードを歌った、つまりそれは、オリジナル・メンバーにして数々のヒット曲の作者でもあるキーボーディスト、デヴィッド・ペイチの不在を物語っている。そう、「Lovers In The Night」はレコードではペイチが歌っていた曲だ。ペイチが今回来れないことを知って、がっかりした人は少なからずいたと思う。


Photos by Masanori Doi
ゼイヴィアーの話が出たので、その他のサポート・プレイヤーに関してもここで触れておこう。まずはドラムスから。ドラムスはジェフ・ポーカロを崇拝するシャノン・フォレストで、彼は3年前の来日公演でもプレイしているから多くの方がご存知のことであろう。以前ペイチが、『シャノンとやっていると、時たまジェフがプレイしているんじゃないかと思うことがある』と語るほどジェフの魂を継承するプレイヤーだが、この日もまさに『ジェフが降ってきた!』と思う箇所が何回か訪れた。前述の「Lovers In The Night」は間奏でキーボードのアンサンブルがフィーチャーされ、そこにキメのリズムが絡む、これぞTOTO!なサウンドを持つ1曲だが、そのキメのところのドラミングの”間”がどうしようもなくジェフでまたまた目頭が熱くなってしまった。
そして、これまでは、リー・スカラー、ネイザン・イーストといった重鎮が受け持っていたTOTOのボトム、ベース・パート。今回は北欧出身のイケメン、シェム・ヴォン・シュロックが担当したが、この彼がまたとても重要な存在になっている。ベース自体のサウンドももちろん申し分ないが、その弾き方がまた実にセクシーなのだ。そう、弾いている時の腰の感じはまさにセクシーと表現するのがぴったり。TOTOは職人気質のロッカー集団で、決してセクシーという言葉を連想させるグループではないが、そこにシェムが新風を巻き起こした。しかも、彼の歌声がまた半端なく良かった。ルークが『スーパー・ハイ・テナーの持ち主!』と紹介する綺麗な高音の使い手で、なるほど、これまでは必ず同行した女性のバック・アップ・シンガーが今回不要だった理由がしっかりと感じ取れた。そして、大半の曲のコーラス、および、「Home Of The Brave」の出だしではリード・ヴォーカルを務めたウォーレン・ハムもまさにGood Job!! 彼は1980年代にも二度TOTOで来日しているが、テナー、ソプラノ、アルトと3本のサックスを使い分け、さらに、途中のアンプラグド・セットでは絶品のフルートを響かせてくれた。加えて『Mindfields』からの「No Love」ではステージの前方に出てきてハーモニカまで華麗にプレイ。ちょっぴりアーシーなその曲に絶妙の風を吹き込んでくれた。
もう1人のサポート・メンバー、レニー・キャストロは過去にも数回TOTOと来ている、誰もが知る存在だ。今回も全ての曲に素晴らしい演出を施し、特に、『TOTO IV』でジェフと作り上げた「Africa」での歴史的なグルーヴを今回もシャノンとの2人で再現。武道館に広大なアフリカの風景を運び込んでくれた。
といった最高のメンバーと織りなす最高のTOTOミュージック。独特のムーヴでキーボードを弾くスティーヴ・ポーカロの”舞”は今回も健在で、ジョセフも喉の状態がとても良かった。そして、グループの顔であるルークはロック・スターの看板を残しつつ、しかし、エゴなどは全くない、どこか清々しい表情で終始プレイ。TOTOというバンドのアンサンブルを楽しみ、二階の立ち見席までソールド・アウトという大観衆を実感しているのがこっちにも伝わってくる。そして、それはルークの力があったからこそ、ルークが数々の困難にもめげず前進してきたからこそ得られた喜びなのだが、しかし、彼は常にバンド全員で成し得た快挙、と決して自分1人の力ではないことを強調。そして、TOTOは常に”ファミリー”なんだ!と繰り返す。この日もバンドのメンバー紹介の時に「デヴィッド・ペイチは残念ながら体調不良で今回は来れなかったけれど、今、回復に向かっているんだ!」とメッセージし、さらに、スティーヴ・ポーカロを紹介した後に「天に旅立ったスティーヴの兄弟のことは一度たりとも忘れたことがない。ジェフ&マイク・ポーカロにも大きな拍手を!」とコメント。そういった一つ一つの言葉やムーヴ、そして、スリリングこの上ないキメ、アンサンブルの瞬間、その全てがファンをどうしようもなく魅了。
文:中田利樹(COOL SOUND Inc.)
※関連記事:2018年、TOTOの「アフリカ」がなぜか再注目されている
TOTO
40 Trips Around The Sun 2019 JAPAN TOUR
2月14日(木)広島文化学園 HBGホール(終了)
2月16日(土)金沢歌劇座(終了)
2月18日(月)福岡市民会館(終了)
2月20日(水)日本武道館(終了)
2月21日(木)大阪城ホール
2月23日(土)岩手県民会館
2月25日(月)名古屋国際会議場センチュリーホール
2月27日(水)仙台サンプラザホール
詳細:https://udo.jp/concert/Toto