TUBEのギタリスト、春畑道哉がソロ10作目「Continue』を発表。ギターをキーワードに話を聞いた。


Jリーグオフィシャルテーマソング「JS THEME(Jのテーマ)」、フジテレビ系野球中継テーマ曲「JAGUAR」などで、ギターインスト曲を日本に根付かせたといっても過言ではないTUBEの春畑道哉。その春畑がソロアルバム10作目『Continue』を3月6日にリリースした。”ギター”をキーワードにアルバムの内容のことなどを語ってもらった。

―前作『Play the Life』から2年ちょいのインターバルでのアルバムリリースですが、今作『Continue』もいろいろと発見のあるアルバムでした。春畑さんの中でアルバムを作る上で最も大事にしていることは何ですか?

曲とかメロディですね。ギターを弾きまくって満足するのも大好で、自分もそういう曲を何度も作っているんですが、スタジオを離れて聴くと「あれ?」ってなって結局録り直しちゃうんです。

―春畑さんは速弾きもできるしフュージョンギターのプレイも出来るので、テクニカル的には何でも出来るだけに、悩ましいですね。

本当は長時間アドリブで持たせる力量がないだけなのかもしれないです。実際、16小節も弾いたら展開したいって思っちゃうんですよね。でもそういうソロを弾きまくるライブやCDを聴くのは大好きです。

―そこはギターサウンドが好きだったら一度は通る道だとは思うのですが、ギターを弾かない人にもギターインストを聴いて欲しいですもんね。

そうなんですよ。
だから、口ずさめるギターを常に意識しています。考えみたらクラプトン、ベック、ジミヘンも、皆がそのフレーズを口ずさめるんですよ。僕もそういう曲を作りたいなと思っています。

―とはいえ、ギターリフって既に星の数ほどあるわけですし、新しく皆が覚えられるリフをどうやって生み出しているんですか?

リフ作りは楽しいですよ。昨日もレコーディングしていたんですけど、「あれ? 何かのリフに寄っちゃったな」とかあったり(笑)。おっしゃる通り、ギターのリフって既に何万曲分もありますからね。でも、メロディに対して、その前を盛り上げるためだと考えるたりするとまた違うアイデアが出てきたりするんです。それから、チューニングを変えてみると新しいリフが出てきます。そういえば、最近、7弦、8弦ギターを弾く方も増えているみたいですが、今までにないリフを編み出したいとなると下の弦がどんどん増えていくんでしょうね。

―みなさん、あの手この手だと思いますが、春畑さんは、チューニングを変えているんですね。

それだけではないのですが、例えば、今作『Continue』に収録されている海外ドラマ「リーサル・ウェポン」シーズン2日本版エンディングテーマでもある「【Re:birth】」という曲はチューニングをドロップDにしています。6弦だけDにしたら、凶悪犯罪のドラマのテーマ曲になりましたね(笑)。


―こういうドラマのテーマ曲の場合、先方からテーマやお題をもらって曲を作るんですか?

この曲に関してはお題がありましたね。コンビの刑事の話なので、友情やスピード感、バディ感ということを言われました。僕は、お題がもらえるのは好きなんです。全く自由に作ってと言われると、どの方向にしたらいいのか逆に不安になっちゃうんです。先方に曲を渡してはみたものの、皆「ウーン……」って黙っちゃったりすると、どうしようって(笑)。

―春畑さんでもそういうことってあるんですか?

あります!あります! なので、自由に作っていい時は2パターン作るんです。どっちか決めてもらえるかなって。

―テーマ曲と言えば、Jリーグオフィシャルテーマソングの25周年バージョン「JS THEME(Jのテーマ)25th ver.」も『Continue』に収録されています。25年前、まだJリーグが認知されていない時からこの曲だけはみんな知っていましたよね。ポピュラーなのに時代を超えて残っているこの曲はどうやって作ったんですか?

この曲もお題を投げかけられて作った曲です。勝つチームも負けるチームもある。各地域でサポーターが付いて遠くまで応援しに行って、自分のチームが負けた試合の後にも流れる。
たくさん練習を積んでも試合に出られない選手もいる……そういうのを全部ひっくるめて作って欲しい。そんな感じでしたね。

―とはいえ、Jリーグの開幕前に作るわけなので、イメージするのが難しかったと思いますが、1曲しか作らなかったんですか?

サッカーの攻撃的な面をフィーチャーした激しい曲と2曲作ったんです。Jリーグ発足前はスピーディでトリッキーで攻撃的というイメージを思い込んでいたので、まずはそういう曲が思いついたんです。でも、最終的に今のバラードに落ち着きましたね。

―25年間Jリーグのいろんなシーンであの曲が流れた時はどういう思いでしたか?

現在Jリーグで活躍している選手が生まれる前からある曲なので、「これ春畑さんの曲だったんですか?」って言われることもあるんですが、若い選手がこの曲を受け継いていってくれて、そうやって変わらず使ってもらえるのは本当に有り難いですね。25年経ったので新しいテーマ曲を誰かに頼んでもおかしくないのに、リアレンジしてさらに使ってもらえるっていうのはうれしい限りです。で、喜んでいたら『100周年までいきましょう』って言われて(笑)、「えー! 100周年じゃもう僕生きてないですよ!」って(笑)。ただ、この曲を作る時も「春畑が死んだ後も世の中では流れるから」って言われましたからね。当時、20歳ちょっとだったのに死んだ後の話をされて(笑)。でも、今は現実味を帯びてきましたけど(笑)

―(笑)。音楽がどんどん消費されていっている時代に25年残る音楽って何だと思いますか?

とにかくその時の流行りの音にしてはいけないと思うんです。
スタンダードであることが大切です。25年前は、何年後にこの曲が流れても、オーケストラが演奏しても違和感のないようにと思い曲を作りました。例えば、トリッキーなリズムを使ってしまうと、数年後に聴いた時に「あぁ、懐かしいね」ってなりがちなんです。そうなって欲しくないとスタッフと話していましたし、ドラムのパターンにしても敢えて人が叩く速度にしました。だから逆に言えば新しくて斬新でカッコいいものではないんです。ただ、いつ聴いても同じテンションで聴けるようなものを目指しました。

―言葉でいうのは簡単ですが、そのイメージをギターインスト曲として仕上げ、実際に時代を超えてその曲が愛されているのは、奇跡だと思います。ただ、そうなると25周年ヴァージョンを作るのは難しかったのでは?

25周年ヴァージョンは、単純に今はあるけど当時にはなかったシンセの音とビートを入れて、ポジティヴなイメージで制作しました。リアレンジってあんまり今っぽさを出し過ぎると危険なんですよ。数年後に「うわ!」っていう感じになるので、そうならないように気をつけました。特にカッコいいビートがどこにでも溢れていて、それをもろに使っちゃうと数年後に「これ、〇〇年に流行ってたね」ってなっちゃうんです。

―確かに、ビートってすごく時代感が出ますよね。


ええ。でも、ローリングトーンズみたいなビートは古くならないんですよね。

―今回のアルバムのタイトル『Continue』ってもしかしたら「古くならない」という意味もあるのかもしれませんね。実際、『Continue』というテーマはどこから出てきて、どういう意味なのでしょうか?

TBSの新番組『じょんのび日本遺産』のテーマ曲を担当させていただくことになり、年齢的にTUBEのツアー中に、昔は行くことのなかったお城とかにオフの日に皆で行ったりしました。朝早めにホテルをチェックアウトして(笑)。以前は出発ギリギリまで寝ていたのに、もしかしたらこの地方に来るのはこれが最後かもしれないと思うと見ておきたいなって。段々そういう歴史的な建物の良さや歴史に興味が出てきて、そういうものを大切にしてずっと残していきたい気持ちが出てきました。しかも、資料用に頂いた日本遺産の映像が本当に綺麗で、これは日本の誇りだなって思えるものを沢山目にすることが出来たんです。なので、『Continue』は純粋にそういうものをずっと残していきたいっていう気持ちです。もう一つは、自分も音楽をこれからも続けていきたいし、ライブも続けていきたいしという気持ちですね。

―日本的な美しさは「東京classical」という壮大な曲に現れてしますし、「花鳥風月」はタイトルから日本的な要素全開ですよね。  

そうですね(笑)。
以前は漢字のタイトルは全く思い浮かばなかったですからね。

―先日、Charさんと話していたら、「日本の音楽はマイナーコードだよ。演歌は全部マイナーコードだ」とおっしゃっていたんです。古き日本をテーマとしているとなると、やはりマイナーコードは多く使用されているんですか?

さっき挙げていただいた「東京classical」という曲はマイナーコードが多かったですね。曲の後半はゲイリー・ムーア的に弾きたいなって、弾いているんですが……(実際にギター鳴らしながら)後半もやっぱりマイナーですね(笑)。

―なぜ日本はマイナーコードが似合うんでしょうかね?

不思議ですよね。CMでも京都の画になるとマイナーキーが流れますよね。でも、音楽ってそういうものだと思うんです。僕らがロックと言ってもそれは借り物なんですよ。ロックをコピーし模倣して、本場のロックを広げてきましたけど、この国では、マイナーコードが出てくると妙に落ち着くわけです。だって、古くは「荒城の月」みたいな曲を自然と日本人は作っていたわけなので。もちろん、メジャーキーの曲も日本にはありますけど、スコーピオンズもコピーするぐらい日本のオリエンタル感はマイナーキーにありますよね。

根本要さんをフィーチャーした「Every day is a new day」など、ポジティヴなエネルギーに満ちた曲も素晴らしいのですが、『Continue』は、日本ならではのマイナーキーの曲の情緒が大きな魅力の一つだと思います。それと、一発で春畑さんだとわかるギターのトーンもやはり魅力です。

ありがとうございます。

―そして、トーンと言えば、松本孝弘さんも唯一無二のトーンを出しますよね。その松本さんはギブソンの”The レスポール”の音。一方の春畑さんはフェンダーの”Theストラト”の音です。この二人の対比は面白いなぁと思っているのですが、春畑さんは松本さんの音を意識することはありますか?

意識するというより、松本さんの音、大好きなんです。しかも、Bzでデビューする前の演奏から好きで、片山 圭司さんと一緒にやっていた頃も好きでしたね。松本さんのトーンで言えば、エフェクターのロックマンの音とか、ワウの半開きの音とか、中低域プッシュの音とかも好きですね。

―やはり松本さんの出音は意識しているんですね。

それもそうなんですが、2017年の松本さんのBLUE NOTE でのライブにも行きましたし、ずっと仲良くさせてもらっています。しかもTUBEにも松本さんに曲を書いてもらっているんです。松本さんはギターリフをすごく重視しているんですが、そのリフが、弦を下にチョーキングするんですよ。松本さんは自然に下にチョーキングするんですが、僕は弦を上にしかチョーキングできないので……。あと、そこがDのリフだったんですけど、「今前田のキーはここからここまでで」って松本さんにお伝えしたら、「Dのリフでいくんで前田君ここまで頑張ってよね」って。「……ではなくて、前田のキーは今ここまで……」って丁寧に返したら「分かったよ、じゃあキーに合わせていいよ。でもリフ難しくなっちゃうよ」って。それでBフラットにしたらとんでもなく難しくなっちゃって。僕が弾いているのを見ていた松本さんが、指のポジショニングを指して「変な形。よく弾けるねそんな形」って(笑)。

―(笑)。

あと松本さんの映画音楽の企画アルバム『Theatre Of Strings』にも参加させて頂いてます。4人のギタリストが好きな映画音楽を持ち寄って、作ったアルバムなんですけど、僕は「戦場のメリークリスマス」とか「OVER THE RAINBOW」をギターバージョンで弾いたんですけど、何度か松本さんも一緒にスタジオにも入ってくれたんです。松本さんは先輩だから、「もっと他のフレーズある?」とか「もっと春畑君らいしいフレーズある?」ってディレクションしてくれたんです。フレーズには凄くこだわるんですが、「自然な感じで」って。すごくこだわるところとそうでないところのメリハリがすごいんです(笑)。

―(笑)。2人はよき仲間でありライバルなのかもしれませんね。ライバルと言えば、若いギタリストの追い上げはどう感じていますか?

みんな気絶するほど上手いです。昨年「JS THEME」のギターコンテストをやったんですけど「こんなの弾ける!?」「俺弾けないよ、そんなの」っていう動画がいっぱいきました(笑)。本当に上手いです。

―確かに若い人は上手いですよね。その一方で、春畑道哉というギタリストは益々唯一無二の存在になりつつあるなぁと今作『Continue』を聴いて思いました。

僕自身、あんまりテクニックのすごさで戦いたい感がないんです。どれだけ速く弾いて「よし!」みたいな感覚がちょっとなくなってきたんですよね。10代、20代の頃は誰よりも速く弾きたいと思っていたんですけど、今は速さ勝負のステージではないなって思ってます。もちろん速いことは潔いしカッコいいんです。誰にも弾けないスピードのフレーズももちろん大好きです。でも逆にゆっくりな曲の音の説得力も大事にしたいなって。ただ、それも速さとの対比だったりもしますよね。その対比が1曲の中だけではなく、1枚のアルバムとしても『Continue』では表現できたかなって思っています。

―本当にそういうアルバムに仕上がっていますよね。しかも「空」という曲はピアノのインストでしたし。

僕は最初に習ったのがピアノなんです。なので、アルバムにぽつん、ぽつんと「空」のようなピアノの小曲を入れるのが好きで。今回は、いいピアノに出会ってしまって。スタインウェイの100年くらい前のやつなんですけど。それをお借りして録音させてもらいました。

―何故、曲をピアノで行こうと?

サンボという名前のトイプードルがうちにいたんですけど、15年生きてくれたんですが、去年の10月、ちょうどこのアルバムを作っている頃にお葬式があって。家族でサンボを見送っている時間の空がものすごく印象的で、そういうタイトルにしたんです。ちょうど作曲期間中で、葬儀屋さんが「では2時間後ぐらいに…」って言われて、その間にピアノで作ってた曲です。

―愛犬のサンボに捧げた曲だったんですね。

そうですね。まあ、あんまりしんみりせず、笑いをくれ続けたサンボにありがとうみたいな曲です。

―そう考えると1枚のアルバムの中にサンボへの曲やJリーグの25周年の曲、刑事物の曲と……よく一枚のアルバムにまとめましたね。

なかなか振り幅の広いアルバムですよね。この2年間の中で「出会い、再会、別れ」を通じてできた大切な12曲が収録されています。この間、リリース前だったんですけど、このアルバムのライブをやったんです。日本的な「花鳥風月」をやってから「じゃあ次は……」って「【Re:birth】」にいくと、我ながら『すげぇリフだな!』みたいな(笑)。でも、アルバムとしてはそれが1枚にうまく収まっていますので、その振り幅も含めて楽しんでほしいですね。

<リリース情報>

春畑道哉がギターで表現した「出会い、再会、別れ」を語る

春畑道哉 New Album
『Continue』
発売中
■CD Online Shop/Download:https://smar.lnk.to/jkCjxLY

DISC 1【CD】
<Track List>
01.Every day is a new day(feat.根本要【Stardust Revue】)
02.Daybreak Highway 
03.花鳥風月   ※TBS「じょんのび日本遺産」エンディングテーマ曲
04.【Re:birth】 ※AXN 海外ドラマ「リーサル・ウェポン」シーズン2 吹替版エンディングテーマ
05.東京classical  
06.FULL MOON BOOGIE  
07.JS THEME(Jのテーマ)25th ver. ※Jリーグオフィシャルテーマソング
08.Symphony Blue  ※雲海酒造 本格麦焼酎「いいともBLUE」CMテーマソング
09.Midnight Snow 
10. Fly to the world
11.空 
12. Continue(feat.宮本笑里) ※TBS「じょんのび日本遺産」メインテーマ曲
*【Re:birth】の「:」は長 (発音記号)が正式表記/タイトルには 【  】 も含む

DISC 2【LIVE Blu-ray/LIVE DVD】(初回生産限定盤のみLIVE映像付)
「MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND 2018 Continue」(at. 昭和女子大学 人見記念講堂 2018.12.20)

<Track List>
01. LIFE
02. Sparkling Heaven 
03. Mother Ship  
04. Mermaids Kiss
05. Color of Life
06. Symphony Blue
07.空
08. Continue(feat.宮本笑里)
09.【Re:birth】
10. Straight to My Heart
11.青いコンバーチブル
12.花鳥風月  
13. JS THEME(Jのテーマ)25th ver.
14. JAGUAR 13

★オフィシャルサイト/SNS
・春畑道哉 HP:https://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata/
・春畑道哉 公式LINE:@haruhatamichiya(https://line.me/R/ti/p/%40haruhatamichiya
・TUBE Official Facebook:https://www.facebook.com/TUBE
・TUBE Twitter:https://twitter.com/tube__official
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