2018年のアメリカ国内のチャート上位10曲のうち、一人のシンガーソングライターが作詞作曲した曲がいくつあったか考えてみよう。答えはゼロだ。
ではその前年はどうだったか? これも答えはゼロ。

バズアングル・ミュージックのデータ分析によると、2018年にアメリカの音楽配信チャートのトップ10に入った楽曲にクレジットされているソングライターの数は、1曲につき平均9.1人と驚くほど多い。これほど多くの人数がクレジットされている一番の理由は、アメリカの商業音楽チャートの上位をヒップホップが多く占めていることだ。

ヒッピホップ曲の多くがサンプルを多用し、複数のプロデューサーと作詞家がソングライターとしてクレジットされる。加えて、2組のアーティストが1曲をコラボレーションするケースの増加も影響している。ソーシャルメディア上で互いのファンを取り込もうというあからさまな試みだが、これも作詞作曲クレジットに複数の名前が含まれる結果を生んでいる。

ビルボード・ホット100で一人の作詞作曲で1位になった最後の曲は、エド・シーランの「Perfect/パーフェクト」で、2018年1月のことだった。しかし、これはデータベース上の事実であって、実際にチャートで1位を獲得した「パーフェクト」は共同で作詞作曲が行われ、ビヨンセとのデュエットとしてレコーディングされている。これを踏まえると、一人の手によって作詞作曲された正真正銘の最後の1位曲は「ハッピー」で、2014年3月まで遡る。既に5年前だ。

音楽業界の重鎮の中にはこのトレンドを不安に感じている人もいる。アーティスト本人の非凡なビジョンを台無しにするリスクを懸念しているのだ。
ニューヨークに拠点を置くグラスノート・レコーズの創業者ダニエル・グラスは「完全なソングライター志向」を持つアーティストを自身のレーベルに迎えている。マムフォード・アンド・サンズ、フェニックス、ジェイド・バードなどがそうだ(フェニックスとマムフォード・アンド・サンズのクレジットにはバンドメンバーの氏名が入っているが、彼らは曲作りを外注することなくバンド内でおこなっている)。

「音楽ファンは非凡なソングライターの本物らしさを敬愛するものだし、それによってファンとアーティストとのつながりが全く異なるものになる」と、グラスが語る。「コラボレーションは良いことだ。アデルがいい例だろう。本物のアーティストなら誰とコラボレーションしても自分の『声』を確実に維持するという点で。しかし、集団で楽曲を作り上げる近年のトレンド――私はこれを6~12人のライターが束になって行う『シャーレー・アプローチ』と呼んでいる――には不安を覚える。正直に言えば、このやり方で生まれた楽曲は30年後も歌い継がれるものではないということだ」

グラスは続ける。「このトレンドに類似しているのが香水業界だ。シャネルの5番は一人のマイスター調香師(アーネスト・ボー)が作った香水で、ほぼ100年経った現在も香りのマジックと人気を維持している。つまり、真実と本物らしさが時の試練に耐えるということだ。一方、『シャーレー』内で合成されたものは明らかに時の試練に耐えられない」と。


しかし、時は常に変わる。現在イギリスで最もホットなアーティストの呼び声が高いソングライターがいる。サム・フェンダーだ。彼は現代の音楽業界では希少な存在である。メジャーレーベルと契約しているにもかかわらず(イギリスではポリドール、アメリカではインタースコープ)、すべての楽曲が自作なのだ。現在22歳のフェンダーはイギリス北部ニューキャッスル近郊のノース・シールズで育ち、誰もがほしがるブリット・アワード批評家賞を最近受賞した。過去にこの賞を授与されたのはアデルやサム・スミスといった世界的に大成功したアーティストである。

フェンダーのマネージャーであるオーウェン・デイヴィスは、キャリアをスタートしたばかりのフェンダーが成功した背景には、労働者が住む町で育った自分の人生をありのままに描写して音楽の中でさらけ出している点もそうだが、彼のソングライターとしての非凡さも重要な要素だと言う。「楽曲の共同制作に異論はないし、この業界ではそういうやり方も重要だ。しかし、サムが書く思いをストレートに込めた歌詞は、聴く者にしっかりと伝わるのだ。これこそが間違いのない真実だ。彼の曲は彼の生活や人生に深く根付いた物語なのだから」と、デイヴィスが説明する。


次に登場するマイク・スミスはイギリスの主要音楽出版社ワーナー・チャペルの代表取締役社長だ。彼がこれまで契約してきたアーティストの中にはカルヴィン・ハリス、マーク・ロンソン、ブラー、アークティック・モンキーズなどがおり、彼らは自分の楽曲を自作するアーティストばかりだ。しかし、現在のスミスの仕事の大きな部分を占めるのが、曲作り集団とマルチライターによるポップス・コラボレーションである。そんな彼に2019年の現在、なぜ「完全なソングライター」が絶滅の危機にひんしているのかをきいてみた。

「現在の音楽ビジネスには一切の逃げ場がない」とスミスが切り出した。これは、SpotifyやYouTubeなどで表示される音楽配信回数が好き嫌いを瞬時に知らしめる現状を指している。「成功を勝ち得るにはできるだけベストに近い楽曲を作ることしかない。だから近年のレコード会社では、A&R担当者が間に入って何度も関係者と連絡を取りながら、可能な限りベストな楽曲に修正していくわけだ」と述べた。

しかし、スミスは「私個人としては完全なソングライターが出現することを心底望んでいる。そういった状況こそが楽曲の特異性や独自性を担保するのだから」とも語った。

最後に、自分の楽曲は他人任せにしないを信条にしているこだわりのミュージシャン、つまりノエル・ギャラガーの言葉でこの記事の締めるべきだろう。「ソロアーティストとして、俺は自分の内側から生まれる音楽が重要だと思う。
そうじゃなきゃ、曲にどんな意味があるっていうんだ?」。これは彼が去年言った言葉だ。「(自分のじゃなきゃ)他人のメロディであり、他人の歌詞だ。それでもいいなら異論はない。そうやって生計を立てればいい。でもそんなやつに音楽について語ってほしくないね」と。

・著者のTim Inghamは、Music Business Worldwideの創設者兼出版人。2015年より、世界中の音楽業界に最新情報、データ分析、求人情報を提供している。毎週ローリングストーン誌でコラムを連載中。
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