アメリカ時間11日夜、ルイジアナ州セントランドリー郡で起きた教会の連続放火事件に関与した疑いで、ルイジアナ保安官代理の息子ホールデン・マシューズ(21歳)が逮捕された。マシューズは宗教的建造物に対する3件の放火で起訴され、1件につき最大15年の禁固刑が求刑される見込みだ。


警察は動機について明らかにしていないが、火災は3件とも歴史ある黒人教会で発生していることから、全米黒人地位向上委員会(NAACP)は今週初めにヘイト・クライム(憎悪犯罪)として位置づけた。マシューズのFacebookページにも動機と思われる手がかりがいくつか見つかった。

ニュースサイトのDaily Beastによると、彼はブラックメタルのミュージシャンを目指しており、ブラックメタルや反宗教的なページをいくつも閲覧していたらしい。記者会見でルイジアナのブッチ・ブラウニング消防局長は、マシューズがブラックメタルのコミュニティと「関係」があり、教会の火災にも「関与」していたと断定した。

誤解のないように言うと、マシューズの音楽の好み自体が必ずしも彼の政治的傾向を示唆していたわけではない。ブラックメタルのコミュニティの中には、白人系ヨーロッパの反宗教的な考え方をイデオロギーに取り入れたナショナル・ソーシャリスト・ブラックメタルと呼ばれる一派もいるが、「あれはブラックメタル・コミュニティの一部にすぎません。コミュニティの全体像を示すものではありません」と、極右過激派やヘイト・クライム、反政府勢力などの監視をおこなっている南部貧困法律センターのアナリスト、キーガン・ヘンケス氏は言う。

たしかに、マシューズがコメントを残したページの大半は、人種差別的あるいは反ユダヤ的な表現を積極的に禁止している。

にもかかわらず、ブラックメタル・コミュニティと過激派の思想には重なる部分もある。マシューズがノルウェーのブラックメタル・ミュージシャン、ヴァーグ・ヴィーケネスに関する動画にコメントしていることも、ひとつの証拠だ。ヴィーケネスはノルウェーのブラックメタル・コミュニティとネオナチ活動の両方でリーダー格と見られている。ノルウェーのブラックメタルバンドMayhemの元ベーシストだった彼は、「ブラックサークル」と呼ばれるブラックメタル仲間とともにノルウェーの教会に火をつけたと自慢げに語っていた。
理由については、キリスト教に対して「復讐」したかったから、またノルウェーを本来の無宗教の状態に戻したかったからだと語った。彼は放火罪と合わせて、1993年に契約上のトラブルでMayhemのメンバーであるユーロニムスを刺殺した罪で15年の刑に服した。

ヴィーケネスに関しては、ブラックメタル・ファンの間でも賛否両論はっきり分かれる。大勢が彼を非難し、大っぴらに否定するのに対し、彼を支持する者もいる。「極端に崇拝するものもいます。彼はブラックメタル・シーンでは非常に影響力のあるバンドに在籍していましたから、ブラックメタルのファンで彼が何者か知らない人はほとんどいないでしょう」とヘンケス氏。もっとも彼はネオナチだという主張を否定しているが、刑務所で立ち上げた彼のブログには、ネオナチ的な思想への支持や、イスラム教徒やユダヤ人に対する暴言なども見受けられる(ローリングストーン誌はメールでコメントを求めたが、ヴィーケネスはコメントを控えた)。

マシューズがヴィーケネスのファンだったかどうかは不明だが、マシューズの友人はBuzzFeed Newsに対し、彼が犯したとされる犯罪は映画『Lord of Chaos(原題)』に「影響されたのではないか」と語っている。

ヴィーケネスの生涯や教会の放火、1990年代初期のノルウェーのブラックメタル・シーンなどを題材にした映画だ。マシューズの名前で投稿されたFacebookのコメントには、ヴィーケネスの行動をはっきり支持しているとは言えないまでも、映画を称賛するコメントが書かれていた。「いい映画だ、まあ”ハリウッド系”ではあるけれど、それでも面白い。この映画が嫌いだというやつは、難しく考えすぎなんだよ。
ヴァーグの言うことをいちいち全部真に受けてるのさ」(おそらく、こうした意見なのは彼1人ぐらいである点に注目するべきだろう。ローリングストーン誌のコリー・グロウ記者がこの映画につけた評価は星1.5だった)。

ヴィーケネスの影響は今もなお、過激な思想を持つ一部のブラックメタル・ファンの間に見受けられる。たしかに、4月上旬にはジェイコブ・ローウェンスタインと名乗るブラックメタルのドラマーが、ニュージーランドのモルモン教の教会に火をつけて放火罪で逮捕・起訴された。ローウェンスタインは放火の動機をヴィーケネスとは語っていないが、多くのメディアがこの事件と『Lords of Chaos』の中に出てくる犯罪との類似点を指摘している。

16年刑務所に服役した後、ヴィーケネスは2009年に仮釈放され、妻子とともにフランスへ移住。その後は白人至上主義者で、2011年にノルウェー社会党員のサマーキャンプで発砲し、77人を銃殺したアンネシュ・ブレイビク氏の声明文を早い段階で受け取っていたと報道され、2013年に再び逮捕される。最終的にヴィーケネスは2014年、人種差別を扇動したとして、フランスの裁判所から有罪判決を受け、6カ月の執行猶予と罰金の刑を言い渡された。2013年の逮捕以来比較的おとなしくしているが、いまも自身のYouTubeチャンネルには定期的に投稿を続けている。

ヘンケス氏は、マシューズや事件に関する詳細が明らかにならないうちは、ルイジアナの教会の火災をヴィーケネスや白人至上主義全般と結びつけることに慎重な姿勢を見せている。「今回の事件を人種差別的な動機と結び付けるのには抵抗があります。その一方で、ここ数カ月多くの地域でみられる状況と切り離すこともできません」。
近年ヘイト・クライムの件数は著しく上昇し、FBIの調べでは2016年から2017年の間だけでも17パーセント増加しているという。教会や礼拝所はとくに標的にされやすい。2015年に起きたチャールストン教会の銃撃事件、昨年ピッツバーグのシナゴーグで起きた大量殺人、そして先月クライストチャーチのモスクで起きた殺人事件。これらの事件の犯人はすべて白人至上主義の思想に染まった人物だった。

マシューズの動機が何であれ、ルイジアナの歴史ある黒人教会の信者たちが、火災によってもたらされた被害からすぐに立ち直ることは難しいだろう。教会への攻撃は、コミュニティの中で「もっとも神聖かつ守られた空間への襲撃」だとヘンケス氏は言う。「非常に罪深いおこないなのです」
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