2018年のコーチェラでヘッドライナーを務めたビヨンセ。
脚本、監督、プロデューサーは当然、ビヨンセが一人で行ったという、このNetflixのコンサート・フィルムには、2週に渡って行われた彼女のパフォーマンスや、産後のトレーニングも含め、数ヶ月間行われたリハーサルの様子、そして自身の緻密なヴィジョンがありありと映し出されている。ステージの舞台裏映像はほんの少しだが、ビヨンセは映画の中で、ショウを作り上げるまでの多大なる苦労を、清々しいまでに表した。ここで、私たちがこのドキュメンタリー映画を見て学んだこと、そして明らかになった5つのことを挙げてみよう。
1.ビヨンセは常にHBCUへの参加を希望していた
ショウの企画をしている間(マーチングバンド、ステップダンサー、そしてグリークライフの文字の使用まで)、ビヨンセは自身の歴史について深く考えていた。ヒューストンで育ち、いくつもの音楽コンテストに出場し、プレリー・ビュー・A&M大学といった場所で行われる数多くのイベントにも参加した。さらに彼女は、ティーンエイジャーの時代から20代前半まで苦楽をともにし、テキサス・サザン大学でリハーサルをしていたデスティニーズ・チャイルドのことを、自分にとっての「大学」であると捉えている。彼女はポップ界で成功を収めることを優先させたが、それでも、HBCUへの参加はビヨンセにとって大きな憧れの一つだったのだ。
ビヨンセは映画の終盤で、「文化に造詣が深く、知的だなと思う人は、Historically Black Colleges and Universities出身の人が多かった。私の父のようにね。」と語っている。「HBCUの大切な経験は称賛されるべきだし、同時に守られて行くべきだわ」
全米のHBCUで、1年ごとに祝われる「ホームカミング」と銘打ったこのショウは、コーチェラにおける白人優位性への対立も含まれている。彼女や、そのコラボレーターたちはコーチェラにおいて、白人の優位性を常に感じているそぶりを見せていた。例え、ビヨンセがコーチェラにおいて、初の黒人女性ヘッドライナーであり、オーディエンスにその事実をはっきりと印象付けていたとしても。そんな状況で魅せるパフォーマンスは、ブラック・カルチャーの美しさを讃えるものであり、HBCUの経験はそこに欠かせないものであった。それは若さや楽しさに満ちた、今後彼女が築いていくであろう歴史の試金石となった。
2.妊娠は決して楽なものではなかったし、回復にも大きな苦労が伴った
ルミとサー・カーターをお腹に宿したことが、ビヨンセがコーチェラ2017のヘッドライナーを延期したきっかけだった。しかし彼女は、その妊娠がいかに大変であったかを明かしたことは無かった。作中では、高血圧や妊娠中毒症、妊娠高血圧腎症(肝臓と腎臓に機能障害が発生する、高血圧によって起こる症状)に罹ってしまったと告白している。さらに、双子のうち一人はお腹にいる間に心音が停止してしまったため、緊急帝王切開を行なったそうだ。
幸運なことに、彼女の赤ちゃんは無事健康体で生まれてきたが、良かったのは最初だけだったと言う。
「もう、元に戻ることは無理だって思っていたの」と、ナレーションで語ったビヨンセ。「ずっと同じ体型ではいられない。私の強さと忍耐力も、いつまでも持たないわ」これらの不安に打ち勝つために、厳しいヴィーガンダイエットと、骨の折れるようなトレーニング方法を実行したと言う。

コーチェラ2018でのビヨンセ。Photo credit: Larry Busacca/Getty Images
3. ビヨンセは厳しいボスだった
作品の見どころのうちの一つは、ビヨンセのようなポップの女王が厳しく、しかし優しく自身のチームを引っ張り、彼女の高尚なヴィジョンが見える部分だと言える。冒頭では、彼女は気づいてはいたが、改めてもう一度、皆で舞台を完成させるためランスルーを行う必要があることに注目している。ビヨンセは当初から、このショウをステージ上のパフォーマーや、そこにいる観客だけではなく、あらゆる人々に経験して欲しいと願っていた。しかしステージには200人以上が立つことになっていたのだから、それは重労働だ。彼女の語る詳細によると、カメラのスタビライザーの使い方や100人以上のパフォーマーをどのように演出するかも含めて、従来の慣習にとらわれないアイディアを持っていたと言う。リハーサルのためのサウンドステージは、3つ用意した:1つはバンドのため、1つはダンサーのため、そしてもう1つはクリエイティブチームのためだ。
4.共演者たちへ畏怖を抱いている
Beychellaはビヨンセのショウであるが、彼女をインスパイアし、彼女自身を象っているミュージシャン、ダンサー、シンガー、クルーメンバー、そしてクリエイティブチームと共に作り上げたものだ。彼女は明確に、ステージを共にした皆を称賛している: 若い黒人アーティストを起用し、ビヨンセの往年の名曲やパフォーマンス・スタイルによって、新たな視野を手に入れられるよう意図していた。
ビヨンセはこれについて、「黒人のオーケストラが欲しいと思っていたの。ステップダンサーに、ヴォーカリストたちもね。ステージにはそれぞれ、独特のキャラクターが欲しかった。皆が同じことをやっているようなショウにはしたくなかったのよ」と語っている。「そして、カッコいいものが折り重なっていけば、可能性は無限大になる。例えば、若い子たちが身体を動かしたり、音楽を演奏したり、ドラムロールをしたり、ヘアカットをしたり、身体そのものも……ただ、カッコいいのよ」
5. 愛娘ブルー・アイヴィーは、ミニ・ビヨンセになりつつある
ブルー・アイヴィーはビヨンセやジェイ・Zと共に公に姿を表した時、喜びに溢れている-彼女は、母親がグラミー・アワードに参加している時も、おやつをもらうことを忘れていない-だから、彼女が『HOMECOMING』に出演しているとしても 、それは失望することじゃない。ブルーと彼女の父親は、リハーサルにも参加し、母親のダンスを見て、いくつかのダンスの動きを覚えてさえいた。終盤に近づくと、彼女が「Lift Every Voice and Sing」を、母親による歌詞のヘルプを受けながら歌う。ブルーはとても入り込んでいて、もう一度歌いたいそうだ。
ビヨンセにとって、このショウがブルー・アイヴィーに与えた喜びは、深く感銘を覚えるものだったと言う。「私たちは、娘が誇りに思うことのできる何かを作り上げたのだと思うわ」と、映画の後半で語っている。