モーニング娘。19のコンサートに欠かせない大型ビジョンは、会場の奥までメンバーの熱いパフォーマンスを届けるためには欠かせない存在だ。スイッチャー松永氏の仕事は、ビデオカメラで撮影された映像をリアルタイムで切り替えること。ベストな画を届けるために、彼は綿密な準備をした上で現場に臨む。℃-uteやBerryz工房との仕事を経て、約1年前に前任者からバトンを受け取った氏に話を聞いた。
「カット割り」のプロセス
ー松永さんが担当している仕事の内容を教えてください。
モーニング娘。19のコンサートには基本的に3カメがついていて、ステージ前に2台、客席後方に望遠のカメラが1台あります。僕の仕事としては、まずツアーが始まる前に行われるスタジオでのゲネプロを見て、そこで撮った映像を確認し見ながらカメラのカット割り、つまりこの場面ではどのカメラが誰を撮るのかといったことを1曲ごとに決めていきます。そして、本番ではそのプランにしたがって3つの映像をスイッチングして大型スクリーンに映し出します。
ー3台も増えると、やり方も大幅に変わりますか?
基本的にはホールツアーをまわっていた3人のカメラを使いますね。あと、武道館だとメンバーが一列に広がったりすることがあるので「これはこのカメラで撮らないと無理だね」みたいな話し合いをしながら修正していきます。
ー1曲分の構成を組むのにどれくらい時間がかかるんですか?
早くて20分くらい。考え込むと1時間では終わらないですね。
ー時間がかかるのはどういうときですか?
変なこだわりが出るときですかね(笑)。「この画だとあんまり面白くないかな」「この子は2カメじゃないと上手く撮れないから……」みたいな。
ーうまい具合にカメラを振り分けたいと。
そうですね。カメラマンも流れを覚えて撮りますからね。
ーメンバーの映し方に関しても指示を出しているんですか?
はい。アップはアップでも、画面のなかで斜にずらしたりとか。あとはフォーカスイン、アウト。バラードの曲はフォーカスをずらしておいて、ゆっくりフェードインとか。
ー楽曲によっては、細かくつなぎすぎると曲の雰囲気にあわなくなったりもしますよね。
そうですね。速い曲ならカットが多くてもいいと思うんですが、じっくり見せたい曲は長くします。僕の前任者は長く顔を見せるのを得意としていたようですが、僕は同じ人を映すとしてもアップのあとに違うカメラでルーズな絵を差して、もう一回アップに戻す……ということをよくやります。お客さんからしたらそういう画はいらないのかなと思ったりもするんですけど。
ースイッチングで苦労する点は?
やっぱりカット割りかな。これができたらほぼできたようなものなのですけど、この事前作業が一番大変です。
ー現場ではどうですか?
現場では一回やってしまえば……修正がでることもあるとしてもほぼできあがってはいるので、いつもツアー初日には完成形に持っていきたいと思ってます。一本目だからしょうがない、というのは嫌で。お客さんはそんなこと知らないですから。
ーライブDVDだと、メンバーに寄ったとしてもバストアップくらいですが、現場だと顔の寄りが多いですよね。
あくまでも会場のお客さんに向けたサービス映像という考えでやっていると寄りが多くなるんです。メンバーが画面を背負って歌っているときに、本人より画が小さくならないようにというのは心がけています。
ー歌以外に、間奏でのカメラの動きも事前に決めているんですか?
そうですね。あまり指示していない曲に関しては、各カメラマンが考えてやってくれています。毎回、リハ前は前回の画を見ながらああだこうだやってますよ。「あそこは俺が誰々を撮るから……」って。
ーメンバーがフリーな動きをするときがあると思うんですが、そのときはどう対応するんですか?
でも、かなり決まってますよ。それでもちょいちょいドキッとさせられたのが佐藤優樹さん。
ー他にメンバーのエピソードはありますか?
佐藤さんは僕のところまでよく提案しに来ますね。「あそこってこういう風に撮ってますよね? それならこう動いたほうがいいですか?」とか、「あそこではこういう振りをするんで」とか。
ーやっぱりメンバーも意識しているんですね。
引きの本番映像を毎回撮ってるので、それは必ず観ていると思います。だから自分がどう撮られているかは分かっているはずです。カメラ目線もちゃんとしますからね。
ーカメラ目線はどうやって成立するんですか?
タリーと言って、カメラにランプがつくんです。基本はそれを見ていますけど、「この場面で映るのは私」というのはしっかり予習復習もしてると思います。それはツアー2本目で分かりますね。よく見てるなぁと。
ーメンバーは自分の歌とダンスに加えて、サービス映像のことも頭に入れていると。
そうですね。だからこっちも間違ったことはできない。急にプランを変えたりもできしない。よほど変えなきゃいけない場合は事前にちゃんと伝えます。意識していたら申し訳ないので。
ー松永さんから見て、最近変化を感じるメンバーは誰ですか?
森戸知沙希さんですね。最近よくなってきた感じがします。最初は表情が堅いように感じてたんですけど、そういうことが減ってきた。踊りは最初から凄かったです。昔の曲もちゃんと覚えてるし。
ーカメラで押さえやすいメンバーはいますか?
佐藤さん、小田さん、譜久村さん、石田さん……。石田さんは凄いですよね、やっぱり。
ーどういったところですか?
ダンスもそうだし、撮られているのがよく分かっているというか。ちょっとしたところでカメラを意識しているのが分かるようなことをするから、「やっぱり見てるんだな」って。
ー逆に意識していないメンバーは?
加賀楓さんかな。彼女はあまりカメラ目線をしないんです。まあ、カメラ目線が全てじゃないから、それは全然いいと思います。
ーそれにしてもカメラ3台ってすごく大変ですね。
忙しいですね。速い曲は特に忙しい。カメラマンもいちいちカンペ見ないでやってます。この曲のここからここまでは覚えて、この間にもう一度見直してって。
ーミスすることはありますか。
ありますね、やっぱり。押し間違えです。あとは台本を見落としてたり、飛ばしてしまったり、早めに押してしまったり。
ー確かにそういうことも起こり得ますよね。
逆に、一番好きなのは気持ちのいいタイミングで映像を切り替えられたとき。リズムゲームみたいな感覚ですね。
ーそこでメンバーが良い表情してくれていたら最高ですね。
最高っすねぇ。でも常に油断していることはないですよ。あ、生田衣梨奈さんはよくあるかな……。それはたまに注意も兼ねてアドバイスしたりします(笑)。
ー松永さんは、現場で一番メンバーの表情を見ているスタッフになるわけですよね。話を聞いていて面白いです。
そう言ってもらえるとうれしいです。今度からちょっと意識して映像を見てもらえたら。でも、僕らがどういうことをしているかなんて、何年も一緒にいるスタッフもいまいち詳しくは分かってないと思いますよ。かといって、僕も照明のことを分かってるわけではないですしね。
ーでもやっているうちに、ここの照明はこんな感じになるから、みたいなことは分かってくるわけですよね?
そうですね。照明が真っ暗になるところはこっちも一緒のタイミングで画面を消したいっていうことは多いです。あと、照明で魅せるようなおとなしい画のときも思い切って消したり。
ー前任者の東田さんは松永さんにとって師匠にあたるわけですが、世代交代するときに東田さんから受け継いだものってありますか。
10年前から℃-uteやBerryz工房で同じようなことはしていたので、アーティストが変わっただけではあるんですけどね。でも、℃-uteを担当することになったときも、東田さんのスイッチングを見に行ったりしました。アドバイスされたのは「顔をちゃんと撮ってあげて」ということで。ルーズな画はなくして作ってくれと。あと、その当時に℃-uteを担当していたカメラマンはアイドルの映像に関わったことのない子だったから、どう撮るのかちゃんと指示してあげてっていうことも言われましたね。僕のスイッチングを見て、「そこまで細かくしなくていい」って言われたこともあったんですけど、こっちも後に引けなくて。すげぇ意地っ張りなところがあるんですよ(笑)。東田さんに反抗するわけではないけど、東田さんと違うことをやろうという思いは頭にあったかもしれない。もちろん、東田さんが教えてくれたのは大事なことだったから、それは頭に置いてはいましたけど。
ー自分の核はブレないようにして、そのまわりを変えるというか。
そう、肉付けというか。東田さんはああやってるけど、自分はこっちのほうがいいと思うって。東田さんのいいところはパクったりしましたけどね。
ー松永さんから見て今のモーニング娘19の魅力は、どういうところですか?
作った顔がカッコいい。小田さんとか、本番でスイッチングしてるときに見入っちゃうことがあるんです。「あかんあかん! 指動かさな」って(笑)。そういうことは小田さんが多いかな。踊りもカッコいいし。他にもモーニング娘。19の魅力は結構いっぱいありますね。
ー他のスイッチャーの方と情報交換はするんですか?
あんまりないですね。東田さんくらい。あと、うちでもう1人スイッチャーを始めた人くらいかな。でもそれぞれのやり方があるから、「ここはこうじゃない?」ってことはあまり言わないようにしてます。自分が言われたら嫌だなと思うから、後輩には言わないです。
ー職人の世界ですね。
いい言い方ですね(笑)。
ー本当に職人ですよ。これはファンが知ったら、ビジョンの見方が変わると思います。
それはうれしいですね。まあ、あまりそっちばかり見てもらっても困るんですけどね(笑)。
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