20周年イヤーを駆け抜けてきたモーニング娘。’19が、令和初となるシングル「人生Blues / 青春Night」をリリースした。
Rolling Stone Japan vol.06に掲載された特集「スタッフとメンバーが初めて明かすモーニング娘。’19ライブの舞台裏」の中から、今回はマニピュレーター担当・大阪哲也 (アクティエンテ)氏の記事をお届けする。

大阪氏の仕事は、コンサートの大元となるサウンドを、MCのタイミングなどに合わせてPA卓に流すこと。モーニング娘。結成当初、大阪氏はバンドメンバーとしてキーボードを担当していたチームの古株。現在はマニピュレーターとして舞台袖からメンバーを見守っている彼に、外側からはわからない、メンバーや各セクションとの間で交わされる絶妙な「呼吸」について語ってもらった。

トラックは200以上ある

ー結成当初のモーニング娘。に対する印象はどういったものでしたか?

大阪 すごく小さい子たちで、「どこにでもいる子だな」っていうのが正直な印象でしたね。だけど、それぞれのキャラクターがとんがっているんですよ。「あ、個性ってこういうことなんだな」って。その後、後藤さん(後藤真希)が入ってきたあたりからものすごく注目を浴びるようになって、あれよあれよという間に人気者になって。あの時期のスピード感はすごかったですね。


ーモーニング娘。の現場における大阪さんの仕事はなんですか?

大阪 バンドメンバーだったときは、メンバーが「じゃあ、次の曲は○○です」って言うのに合わせて演奏を始めていたんですけど、曲紹介をした後に息を吸うタイミングで音が欲しいメンバーと、演奏が始まったときに息を吸うメンバーがいたので、そういうところは気にしていましたね。そのタイミングをメンバーごとに感じて音を出してあげないと、出だしが変なことになるんです。お客さんは気が付かないかもしれないですけど、たぶん本人は気持ちが悪い。ものすごく細かいことですが、そういうことを大事にしたいなとは最初から思っていました。今は演奏するのではなくボタンを押す立場ですが。

ー大阪さんは音のバランスの調整もするわけですよね?

大阪 そうですね。

ー客席にいるとオケのように聴こえますが、実際はコンピューター上でいくつものトラックに分かれているものをひとつの楽曲として流している。

大阪 そうですね。モーニング娘。さんはものすごい数に分かれています。例えば、メドレーになると200トラックくらいまでいきますよ。


ーそんなに多いんですか!

大阪 それが必要か、必要じゃないかって言われれば、結果的に1つあればいいんですけど、そこにたどり着くまでには、できるだけレコーディングしたプロセスに近いデータを手元に置いておくほうが、現場でリアルタイムに対応できるんです。だから単純に音を出すだけではなく、原曲のイメージをどうやってコンサートという空間で再現するかが大事なんです。その上でやっちゃいけないのは、「僕らの作品」にしてしまうこと。あくまでも、楽曲のイメージの再現なんです。

ーなるほど。各トラックをイジることで、その会場その会場に適したバランスに調整するんですね。つまり、音源と同じような曲に聴こえてはいるけれど、それはそう聴こえるように細かく調整していて、それがうまくできていればいるほどお客さんは何も感じないという。

大阪 そうです。だから、僕の理想はお客さんが「何かあったの? 特に何もなかったよね?」って思うことなんです。モーニング娘。19の歌を聴いて、彼女たちの姿を見て、「あ、カッコいいね! かわいいね! また来たいね!」っていう印象だけが残るのが、僕の立場からすると一番いいコンサートなのかなって。それを突き詰めていくと、「CD流せばいいじゃない」「カラオケ流せばいいじゃない」ってことになるんですけど、そうしても実際には同じようにはならないので、舞台にいる人たちがよりカッコよく見えるように動いています。


ー具体的にはどういうことをしているんですか?

大阪 感覚的にはミュージシャンなんですよ。どこをどうイジると音が変わるのか、例えば、楽器の配置を変えたり、もっと突き詰めると、ピアノやギターのボイシングを変えたりするとより音楽的になっていくし、音のバランスをイジることで調整することでよりPA的な仕事に寄っていく。

ー先ほどもお話されていましたけど、曲に入るときのメンバーとの呼吸の合わせ方は難しいものですか?

大阪 普段は全員での曲紹介はあまりなくて、MCで喋ってる誰か一人に合わせることが多いんですけど、そこで息が合うか合わないかっていうのは一番難しいと思ってます。だから、次の曲に入りやすいように、「ここはこうしようよ」っていう話はよくしますね。僕らが入りやすいっていうことは、恐らくお客さんも聴きやすいと思うんです。例えば、ものすごくしっとりしたバラードを歌うときに、「タイトルは○○です!」って早口で言われたら「あれ?」ってなるじゃないですか。そうじゃなくて、その曲の気持ちになって曲紹介をしてくれないとうまくつながらなかったりするんです。そういうところは難しいし、面白いところかもしれないですね。

ー言われてみると、タイトルコールから音が鳴るまでの間って絶妙ですよね。

大阪 絶妙って言ってくれるとありがたいです。実は目の印象も大きかったりして、照明さんとの関係性も大事だったりするんですよ。例えば、メンバーが喋ってるときはたいてい明かりがついていて、次の曲に入るときに明かりがついたままのときもあれば、一回暗転してからはじまるときもある。
後者の場合は暗転のタイミングに合わせて音を出すとより分かりやすくなりますよね。だけど照明がまだついていて本人たちの姿が見えてるときに曲が流れ始めて、その後に暗転してしまうとカッコ悪いんです。少なくともお客さんの意識としては「あれ?」ってなりますよね。それが嫌だなって。

ーそういうタイミングについて、メンバーと話し合うことはあるんですか?

大阪 ありますよ。コンサートが終わって、今日はこうだったああだったってスタッフを交えて話すときに、「あそこのタイミングが……」って話になると、「どうすればよくなるだろう」「じゃあ、照明はこうしたらいいんじゃないか」とか、「MCの言い方はこうしたらいいんじゃないか」とか。「じゃ、僕はこうするけど、どのタイミングで音が欲しい?」っていう話をすることはありますね。

各セクションの連携が生み出すもの

ーところで、モーニング娘。は時期によってサウンドの方向性が違いますよね。

大阪 そうですね。なので、新しい曲と古い曲を並べると音にものすごく差が出るんです。その違いをどう理解してどう処理していくかはPAさんと一緒によく悩んでますね。


ー違和感なくつなげないといけないわけですね。

大阪 『セカンドモーニング』(1999年)というアルバムは、生バンドを使ってニューヨークで録ったものすごくいい作品なんですよ。今聴いてもいい演奏、いい音楽に仕上がってる。でも、あのアルバムの曲を今のモーニング娘。19の楽曲と並べると、今の楽曲が強すぎて、色が薄くなっちゃうんですよね。

ーそういうときはどうするんですか?

大阪 ディレクターさんや事務所の方と相談します。どちらかに寄せるか、もしくはその真ん中あたりにするか、そのへんはケースバイケースですね。現場レベルで対応できないことは、レコーディングに戻って作り直すこともあります。そういった曲に対するこだわりに関しては、モーニング娘。さんはずば抜けていますよね。メンバーのパフォーマンスを見せられたらそれでいいということではなく、音楽的にもちゃんとしたものを作ろうとする意識の高さは凄いと思います。

ーなるほど。


大阪 レコーディングチームはコンサートのことをちゃんと想定していて、こちらからのリクエストもしっかり理解をしてくれる。それがものすごく大きいですね。

ー「これでやってくれ」と押し付けるのではなく。

大阪 そうですね。だから、僕らもレコーディングでのイメージをコンサートでうまく再現するために考えるんです。僕の立場としては、本当はお客さんにもそこを聴いてほしいですけどね。「モーニング娘。’19って音が違うよね」って。

ーそうやって各セクションとの連携がコンサートの出来不出来に影響を及ぼすんですね。そして、モーニング娘。’19チームはその点でうまくいっていると。

大阪 だと思います。最初は別にそんなことには気が付かなかったんですけど、ここまで続いてくると、やってる僕らが言うとアレですけど、「このチームって凄いな」って。お互いが自分の立ち位置をちゃんと理解しているんです。それぞれのセクションができることを勝手にやるんじゃなく、「じゃあ、こうしようよ」っていう足並みを揃えられるところがいいのかなって。

ー今、最も成長や変化を感じるメンバーは誰ですか?

大阪 それはどんな子にもありますね。急に変わるんですよ。技量ということではなく、アプローチの仕方というか。

ーそれはどんなふうに?

大阪 春のツアーが終わって、ハロー!プロジェクトのコンサートがあって、秋のツアーが始まると「あれ、どうしたんだろう?」っていうことは多々あります。特に、卒業を控えている子は変わりますね。今までもそうなんですけど、最後のツアーは違ってくる。

ー大阪さんは、ファンが全く気づかないところで変化を感じているわけですね。

大阪 お客さんが何を見ているのかは分からないので、そこは何とも言えないですけどね。でも、音楽を通して感じることってあると思います。阿吽の呼吸じゃないですけど、同じ舞台の上に立っているミュージシャン同士のやり取りと言うか。そういう意味では他のスタッフの方でもわからないことはあるのかもしれないですね。

ー20年ずっとモーニング娘。を見ていて、2019年のモーニング娘。’19のカッコよさはどこにあると思いますか?

大阪 カッコいいというのとはちょっと違うんですが、チームワークのよさですね。こういう言い方をするとアレですけど、極端に言うと、人とのつながりという意味ではもしかしたら仲が悪かったりすることもあるのかもしれない。だけど、舞台に立ったときのチームワークは素晴らしい。それって何でだろうって考えると、「ASAYAN」からはじまったモーニング娘。の歴史の中で、メンバーそれぞれがいろんなものを先輩から受け継いできているからなんだなって。それはものすごく感じますね。

ー”モーニング娘。イズム”みたいな。

大阪 そうですね。流行り廃りとかいい悪いじゃない”何か”があるんだろうなって。そういうことを大事にしていれば、次の世代、次の20年はもっとよくなると思います。

ーところで、スタッフチームで飲みに行ったりすることはあるんですか?

大阪 ないですね(笑)。僕はお酒飲めないんです。個別に行ったりはしているのかもしれないですけど。でも、そんなことをしなくても結果が出るところが凄いと思います。

<INFORMATION>

「人生Blues / 青春Night」
モーニング娘。’19
アップフロントワークス
発売中

初回限定盤A
モー娘。ライブの舞台裏 マニピュレーターがこだわる「呼吸」の大切さ


初回限定盤B
モー娘。ライブの舞台裏 マニピュレーターがこだわる「呼吸」の大切さ
編集部おすすめ