サウンドガーデン、トム・ペティの前妻ジェーン・ベンヨ・ペティ、ホール、スティーブ・アール、2パックことツーパック・シャクールの遺産管理人などがアーティストを代表し、2008年にユニバーサル・スタジオ・ハリウッドで起きた火災と、それによって焼失したと言われている50万曲以上のマスターテープをめぐる損害賠償を求めるため、ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)を新たに提訴した。
今回の訴訟は、UMGの不十分な火災防止措置のみならず、同社が正確な被害状況をアーティストに隠蔽しながらも、損害を埋め合わせるための訴訟や保険金請求を同時進行で行なっていた、として同社を訴えたものである。原告は、和解措置や保険請求によってUMGが手にした1億5000万ドル(およそ160億円)相当の半額と、さらなる追加損害に対する賠償を求めている。
2008年当時、火災は大々的に報道されたものの、正確な被害状況はニューヨーク・タイムズ・マガジンが最近発表した記事によって、ようやく広く知られる結果となった。同誌は、ルイ・アームストロング、エラ・フィッツジェラルド、エタ・ジェームス、チャック・ベリー、エルトン・ジョン、ニルヴァーナ、ザ・ルーツ、ジャネット・ジャクソンなどのアーティストの貴重なマスターテープや、数々の未発表音源をはじめとする50万曲分が焼失した(記事に名前が記された全アーティストが今回の原告グループのメンバーの可能性がある、としてリストアップされている)と報じた。
訴訟内容のほとんどは焼失したと言われているマスターテープをめぐるもので、原告グループのメンバーかもしれないアーティストが、自身の作品の使用と発表によって生じた「収益をレコーディングに関する合意に基づいてUMGと50/50で分け合うことを切望している」と述べた。さらに、UMGがこれらの音源を「保護し、維持するための十分な措置」を怠り、アーティストとの合意に基づく信頼関係と公正な取引に違反した、とも主張している。
今回の訴訟を行なっている弁護士のひとりであるハワード・キング氏は、ローリングストーン誌にこのように述べた。「被害を受けたアーティストの方々に代わって今回の訴訟を起こしたことで、10年以上にわたって隠蔽され続けてきた貴重なマスターテープの存在が見えてきました。私たちが求めているのは、アウトテイクや未発表音源を含む焼失物の完全な目録のみならず、損害補償としてUMGが受け取った金額に対する公正な分け前です。」
UMGの関係者はコメントを拒否した。
原告の主張には、UMGの親会社である仏通信・娯楽大手ビベンディと、UMGの貴重品保管室があったユニバーサル・スタジオ・ハリウッドの倉庫の所有者である米テレビネットワークNBCとユニバーサル・シティ・スタジオに対して火災後に作成されたUMGの法律関係書類にまで及ぶUMG側の文書が使われた。1990年に別の火災が発生した際も実施されなかったスプリンクラーシステムの最新化など、対策措置を求めるUMG側の書類内容を逆手に取る形となったのだ。
さらに、UMGが火災後に「偽りと誤った指図に基づく組織的な不正計画」に着手した、とも原告は主張している。火災の被害を軽んじたUMGがメディアに対して述べた「ごく少数のマスターテープと、1940年代と1950年代の無名アーティストによるその他の音源しか失わずに済んだ」というUMG側の発言を取り上げている。
UMGは、ニューヨーク・タイムズ・マガジンの記事が公開されてからも火災被害状況に異議を唱えたものの、焼失の可能性を心配するアーティストからの問い合わせに対して可能な限りの透明性を保証したことが報じられた。6月半ば、同社のルシアン・グレンジCEOは従業員に「私たちは、アーティストたちの質問に答えなければならない。私を筆頭に、この会社のシニア・マネジメントにも徹底させる」と記したメモを送った。
現時点では、2008年の火災で具体的にどのマスターテープが焼失したかは未だに不明である。新たな訴訟を起こしたアーティストのグループも、焼失が疑われる自身の作品の詳細については明かしていない。