2017年にYouTube上で発表したミーゴスの代表曲「Bad & Boujee」のビートジャック「BAD & ブジ」が好事家の間で話題になり、翌年にはシングル「WAKARIMASEN」を発表。YouTubeでのMV再生回数は200万回を超え、ヴァイラル・ヒット化した。日米双方のシーンを俯瞰しながら、独自の解釈で言語や文化をミックスしていく彼のスタイルは、実にユニークだ。今回、1stアルバム『WAKARIMASEN』をリリースしたMIYACHIに話を聞いた。
ーもともと、拠点はずっとアメリカですか?
MIAYCHI:はい、ずっとアメリカに住んでいます。NYで生まれ育って、20歳くらいの時に大学に入学してフィラデルフィアに引っ越しました。僕のお母さんは日本人で、お父さんはアメリカ人。お母さんが高校生の時にアメリカに引っ越して、お父さんと出会って結婚してNYに住むようになったんです。
ーでは、自然と子供の頃から日本語・英語の両方が混ざり合う環境にいたのでしょうか?
MIAYCHI:そうですね、家の中でお母さんと話す時は主に日本語でした。とはいえ、英語の方をたくさん喋ってたけど。日本語は、日本語学校に通って習っていたし、そこで日系アメリカ人の友達も出来たんです。
ーちなみに、NYのどの辺がご実家なんですか?
MIAYCHI:アッパーウエストサイドですね。
「喋り方がワサビ」のラインが登場する「9回裏のSASAKI」
ー子供の頃はどんなことをして遊んでいましたか? 日本のアニメや漫画に触れることもあった?
MIAYCHI:普通に、公園とか学校で遊ぶことが多かったかな。ミヤザキ(宮崎駿)の映画は全部見ていました。あとはドラえもんとかアンパンマン、サザエさんも。
ーでは、小さい頃から日本のカルチャーにも触れていたんですね。実際に日本に来ることも多々あった?
MIAYCHI:お母さんの実家が福岡で、よく行っていました。(日本での時間は)すごく嬉しかったし楽しかった。「町の中に外国人として一人だけ」みたいな気持ちもあったけど、ほとんどがいいエクスペリエンス(経験)だったと思います。
ーそのうちに、ラップを始めるようになるわけですが、一体どんなきっかけだったんですか?
MIYACHI:みんな周りの人がヒップホップを聴いてたし、12歳からの友達ーー今回のアルバムにも参加してるCofaxxって人なんだけどーーも、高校に入ったらトラックメイカーとして活動し始めて、それを見てインスパイアされたのがきっかけだったと思います。あと、高校生の時に周りのクルーもみんな遊びでラップをやってたから。
ーそのころ、NYではどんなラップが流行っていましたか?
MIYACHI:ちょうど高校4年生(アメリカの高校は4年制のところが多い)の時はジョーイ・バッドアスとかプロ・エラ、アンダーアーチーヴァーズとかアクション・ブロンソンたちがみんな出てきた頃だった。だから、あの頃はNYのエネルギーがすごく伝わってきた時期でしたね。

Photo by Aya Ikeda
ー最初は、英語でラップしていたわけですよね。
MIAYCHI:多分17歳の時にラップを始めて、そこから7年くらいは全て英語でやっていました。
ーリリックに日本語をミックスしようと思ったのはなぜ?
MIAYCHI:ある日、「日本語でラップしようかな」って思いついて。でも、あんなに騒がれるとは思ってなかったですね。
ー私も、YouTubeで「BAD & ブジ」を聴いて「なんだ、このスタイルは!」と驚愕して。
MIAYCHI:前は軽くラップをやっていて、そんなに真面目じゃなかった。でも大学に入ってフィリー(フィラデルフィア)に引っ越してから、色々と問題があったりしたんです。その時に、「もっとラップを頑張ってうまくなりたい。人生キツいけど頑張る」という気持ちがすごくあって。「BAD&ブジ」を発表して、「よし、(ラッパーとして)やっていこうか」みたいな気持ちになりました。
ーそのあと、程なくしてイベントのゲストとして日本に呼ばれ、渋谷のWWWでライブを披露していましたよね。オーディエンスの皆さんもすでにMIYACHIのことをチェックしていて、リリックを合唱している人もたくさんいてびっくりしました。
MIAYCHI:最初の来日の時のインパクトはすごかったですね。
ー日本でのブレイクを、どのように感じていましたか?
MIAYCHI:「自分にはラップしかない」という気持ちは前からあって、たとえ人気がなかったとしてもラップを続けるしかないなと思っていたんですが、ああいった反応をもらうことができて不思議な感じでした。
ーNYの友達やリスナーの反応はどうだった?
MIAYCHI:周りの友達は、普通に盛り上がって「すごいね」って言ってくれて、サポートもしてくれました。でも今でも、(NYでの)人気はまだまだかなって。NYでいいライヴもやってるんですけど、まだまだですね。
ーMV「WAKARIMASEN」のインパクトも強いですし、それがきっかけでよりワールドワイドにMIYACHIの名前が広がったのでは? そもそも、あの曲はどんな経緯でできたものだったんですか?
MIAYCHI:最初、トラックを先に作ったんですけど、その時「次は大きい曲を作らないと」と思っていたんです。だから、ハマりそうな言葉を探して、「英語わかりません」にたどり着いた。この言葉は半分は冗談で、半分はもっと深い意味があるんです。
ーアメリカ生まれ、アメリカ育ちのMIYACHIさんが「英語わかりません」と繰り返すフックはとても皮肉だし風刺が効いていますよね。
MIAYCHI:そうそう、わざとそうしたんですよ。
ーそこには、アジア系アメリカ人として人種的な問題も意識した結果ですか?
MIAYCHI:はい。このこと、分かってくれる人は絶対僕の気持ちが伝わると思います。警察からも立ち止まらされて「Do you speak English?」って聞かれたこともあるし。外国人にとって、アメリカは色々問題があるから。その問題と(歌詞が)繋がったら、すごく深いい意味を持つ曲なんです。
ー実際にこの曲を効いたリスナーからそういった感想をもらうことはありますか?
MIYACHI:あります。特に、他の国から(アメリカに)来た人からもらうことが多くて、それはすごく嬉しいですね。ハーフの人、特に日本のハーフの人からいつもメッセージをもらいます。
ーYouTubeで楽曲が話題になり、そこから数えて約2年半ほどで今回のメジャー・デビューに至るわけですが、このスピード感はいかがですか?
MIAYCHI:そうですね、いい感じだと思います。これからもっと色んなことをやりたいし。
ーアルバムを作り始めたのはいつ頃から?
MIAYCHI:去年の11月くらいから作り始めました。
ー日本語と英語の使い分けも巧みですし、ストーリーテラーとしての魅力やフロウの使い分けなど、1枚のアルバムにいろんなMIYACHIが入っていると思いました。
MIAYCHI:やっぱりコンビネーションですよね。なんて言うんだろう、新しいアジア系アメリカ人の音を作りたかったんです。このアルバムを聴いて、「こいつ、オリジナルなラップがうまいな」ってそれだけ伝わったら嬉しい。
ーアジア系アメリカ人といえば、ヒップホップ・シーンでは88risingの勢いも顕著ですよね。彼らにインスパイアされることはありますか?
MIAYCHI:僕はされない。面白いと思うけど、自分とは違うやり方だなと思いますね。でも、彼らの活躍を経て時代が変わっていくのは楽しみ。
ーアルバム『WAKARIMASEN』には韓国からワールドワイドに活躍するJay Parkも参加していますが、これはどういった経緯で?
MIAYCHI:前から、Jay Parkから「MIYACHIいいじゃん、かっこいい」みたいなDMを直接もらっていて。それで、「いつか一緒にやろう」みたいな空気だったんです。
Bryce Haseくんは、この曲をプロデュースした0445cが手がけているすごく若い男の子。すでにトラックをもらった時にこのフックが乗っかっていて、すぐに「ヤバい」と思いましたね。
ーご自身は、Jay Parkのことをどんな風に捉えていますか?
MIAYCHI:多分、JAY PARKは、アジア系アメリカ人にとって一番のアーティストだと思います。ロック・ネイション(ジェイ・Zが代表を務める音楽レーベル。リアーナらも所属)と契約してるし、アメリカでもアジアでも人気が高い。MIYACHIももちろん、それを狙っています。
この投稿をInstagramで見るMIYACHI • 宮地さん(@kingmiyachi)がシェアした投稿 - 2019年 6月月19日午前5時18分PDTMIYACHIとJAY PARKのツーショット
ー大きなコラボといえば、RADWIMPSが2018年にリリースしたアルバム『ANTI ANTI GENERATION』内の「TIE TONGUE」にもMIYACHIさんが参加していましたよね。しかも、つい先日はZOZOマリンスタジアムでのステージにもMIYACHIさんが登場して。
MIAYCHI:3万5千人の観客はすごかったです。パンツの中におしっこするかと思いました(笑)。僕が出てきた時にお客さんが盛り上がってくれたのが、すごくうれしかったですね。そんな反応がもらえるとは、全然思っていなかったので。とにかく、あんなにたくさんのお客さんからのエネルギーを感じたことは今までなかったです。
野田洋次郎さんはすごくいい人。あんなに有名なのに、優しくてハンブル(謙虚)なんです。最初、「一緒に曲を作ろう」と言って一回スタジオに行ったんです。で、二回目にスタジオに行った際、アルバムをちょっと聴かせてもらったらあの曲(「TIE TONGUE」)が出てきて、僕が「この曲いいね、やりたい」と言ってコラボが実現したんです。ただお互いの音楽がかっこいいから実現したコラボだと思うし、洋次郎さんもそう思ってると思います。
ーこの先、コラボしてみたいアーティストはいますか?
MIAYCHI:馬に乗って、リル・ナズ・Xとやりたい(笑)。でも、まだ分からないかな。僕が知っているギリシャのトラックメイカーも、かっこいいギリシャのラッパーを紹介してくれたし、これから色々やってみたいなと思っています。
ーMIYACHIさんの視点から見て、日本のヒップホップ・シーンはどんな風に映っていますか?
MIYACHI:とても面白いと思います。もっと色んな曲が出て、お客さんも増えていけばいいと思う。今、アメリカにもちょこちょこJP THE WAVYを知っている人がいるし、たとえばAwichもかっこよくて英語を喋れるし、アメリカでも活躍できるんじゃないかと思います。
ーMIYACHIさんが注目している日本人のラッパーはいますか?
MIAYCHI:ANARCHYはすごく好き。新しいアルバム(『THE KING』)も普通にかっこいいと思うし、20年ラッパーをやってきても、バッチリ今の音のセンスがある。かっこよく日本を見せることができるラッパーだと思います。
ー今後の目標は?
MIAYCHI:一番になること。あと、7月の終わりから「WAKARIMASEN TOUR」が始まる予定です。9月まではライブを頑張る予定で、そこからまた新しいプロジェクトに取り掛かりたいなと思っています。アメリカでもライブやプロモーションをやりたいですしね。

Photo by Aya Ikeda
〈リリース情報〉

MIYACHI
『WAKARIMASEN』
発売中
〈ライブ情報〉
WAKARIMASEN TOUR
2019年7月12日(金)東京・CLUB CAMELOT
2019年7月27日(土)大阪・GIRAFFE JAPAN
2019年8月2日(金)長崎・BETA
2019年8月3日(土)福岡・STAND-BOP
2019年8月4日(日)福岡・CUBE
2019年8月6日(火)熊本・LABO TE:D
2019年8月8日(木)京都・KITSUNE
2019年8月9日(金)愛知・ORCA
MIYACH公式サイト:
https://www.kingmiyachi.com/
レーベル公式サイト:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/miyachi/