2018年の中間選挙でも話題になった陰謀論ムーブメント「Qアノン」の支持者らに言わせると、JFKジュニアがまだ生きているだけでなく、20年の沈黙を破って世間に姿を現し、2020年大統領選の副大統領候補としてトランプ大統領の応援に駆け付けるつもりだと信じている。さらに、ピッツバーグ在住のヴィンセント・ファスカという男が実は自分がJFKジュニアだと信じ、自説を広めるTシャツまで作ってしまった。
最近になってQアノンの支持者らが「JFKジュニアのお面を作って、7月4日のトランプ大統領の集会に参加しよう」というチュートリアル動画を投稿したため、YouTubeで再び火が付いた。彼らは、JFKジュニアがこの日ついに姿を現すと信じているのだ(もちろん、現れなかった)。
ということで、この説は一体何を根拠にしているのか? いくつかポイントを挙げてみる。
・そもそも「Qアノン」とは何か?
Qアノンとは、巧妙に練られた陰謀論のこと。Qと名乗る匿名の人物(機密事項にアクセスできる権限「Qクリアランス」を持ったアメリカ政府高官とみられているため、この名がついた)が2017年秋ごろから、ヒラリー・クリントン氏やジョン・ポデスタ氏、バラク・オバマ前大統領といったトランプ大統領の政敵が大々的に反トランプ運動「ディープステート」を企てていると主張するメッセージを投稿している、というものだ。Qアノン支持者は、トランプの政敵が世界的な小児性愛組織を運営するなど数々の犯罪に手を染め、ロバート・モラー特別検察官の捜査は、実はそうした悪事を暴く捜査なのだと信じている。いつかQが正体を明かし、トランプが政敵を全員逮捕してグアンタナモ送りにする「嵐」の日が来るのを待っている。
・JFKジュニアが絡んできたいきさつは?
ケネディ氏が生きていて、Qを名乗っていたという説は、Qと名乗る匿名ユーザーが突然姿を消した直後の2018年6月に浮上した。Rと名乗る別の匿名ユーザーが8chanサイトのQアノンのフォーラムに現れ、JFKジュニアはディープステート陰謀のメンバーから命を狙われていたために自らの死を偽装したこと、実は彼がQだとほのめかす発言を投稿し始めたのだ。
この説は、リズ・クロキンという右翼陰謀論者のおかげでさらに世間の支持を集めた。
さらに火に油を注ぐかのように、JFKジュニアのものとみられるトランプ称賛の発言がソーシャルメディア上でQアノン支持者の間で広まった。「親愛なるドナルド・トランプ氏が豪奢な億万長者の生活を犠牲にして大統領になると決断したならば、彼は誰も止めることのできない究極の正義の担い手となり、民主党も共和党もほめたたえるだろう」という発言は、1999年6月号のGeorge誌に掲載された記事の引用だとみられる(ケネディ氏が命を落とした飛行機事故は1999年7月16日)。
事実確認サイトPolitifactがのちに突き止めたところでは、ケネディ氏がこのような文章をGeorge誌に、他のどの雑誌にも寄稿した記録はない(ただし、一緒に投稿された写真は紛れもなく本物で、1999年3月のニックスの試合に現れた2人の姿が映っている)。事実というたわごとに自説を邪魔されたくないQアノン支持者らは、ケネディ氏とトランプ氏が盟友だったという説に固執し、例の発言は今も世に拡散し続けている。またJFKジュニアの「別の」発言も出回っていて、「たとえ政府全体を転覆させてでも」父親の死への復讐を果たすと誓っているらしい(この発言が事実かどうかは定かではない――いずれにしても、故リンドン・B・ジョンソン前大統領が父親の暗殺の首謀者だという非難に基づいた発言だ)。
・ヴィンセント・ファスカとは何者か?
ソンマー氏が「チュニックを着た、ペンシルベニア出身のトランプ氏の熱烈なファン」と描写するファスカ氏は、トランプ陣営の政治集会の常連。時には、トランプ氏の演説のバックに映っている写真もある(ポーカー・ワールドシリーズのサイトで彼の名前を検索すると、第59回ポーカー・ワールドシリーズに出場し、結果は1572位だった)。Qアノン支持者の中には、ファスカ氏がトランプ陣営の姿を見せたことが、彼がJFKジュニアだという何よりの証拠だという者もいる。誰にも気づかれずに社会生活を送るべく、変装と整形手術で外見を変えたのだそうだ(ちなみに言うと、2人はまったく似ても似つかない)。
この説が出回った結果、ファスカ氏はQアノンの寵児となり、ファンと一緒に写った写真を投稿したり、暗号めいたツイートを投稿して噂を煽っている。ファスカ氏を名乗るTwitterのアカウントが「本物のRアノン」を騙ってツィートし、3万人ものフォロアーを集めたこともある(のちにこのアカウントを作成したのはファスカ氏ではなく、アリゾナ州緑の党の元州議員候補ライアン・パリッシュ氏だったことが判明した)。
・無くならない陰謀論
Qアノンはこれまでにも様々な媒体から何度となく正体を暴かれたが、にもかかわらず陰謀論そのものは拡散し続けている。しまいには、トランプ大統領本人も陰謀論の主要メンバーのツイートをリツイートするほどだ。Qアノン支持者らはトランプ大統領の集会やイベントに度々姿を現し、陰謀論もソーシャルメディア上で広く蔓延している。そのため、YouTubeやRedditといったプラットフォームはとくに目立つ支持者らを禁止する措置を取ったほどだ。特にRedditに関しては、「暴力やハラスメント、個人情報拡を誘因する」ことを禁じたユーザー規約に違反したとして、r/GreatAwakening(大いなる覚醒)というサブレディットを閉鎖した。
ただ念のために言っておくと、すべてのQアノン信奉者がJFKジュニアが死を偽装して、ピッツバーグ出身のトランプ支持者を装っているという説を信じているわけではない。だが、こうした説がいかにして広まったか、ある一部の人々に受け入れられたのはなぜか、真剣に考えてみる価値はあるだろう。