今年7月27日は、AC/DCの『Highway to Hell(地獄のハイウェイ)』のリリース40周年にあたる。1979年に発表されたこの作品はAC/DCにとって7枚目のアルバムであり、現在までに700万枚以上を売り上げた、AC/DC初期の代表作のひとつである。また二代目ボーカリストであり、ある意味でバンドを象徴する存在だったボーカルのボン・スコットの遺作ということで、ファンには忘れがたい作品なのだ。この記念すべき日を前に、バンドのYouTubeアカウントでは、1979年当時の「Highway to Hell」のライブ映像が公開されている。
7月27日当日には、AC/DCからなんらかの発表があるのではないかと期待されている。新たなワールド・ツアーの日程発表か、2014年の『Rock or Bust』以来の新作のニュースか。もし後者が実現すれば、オリジナル・メンバーのマルコム・ヤング(Gt)の死去後初のアルバムであり、マルコムの追悼アルバムになるのではという憶測も飛び交っている。彼ら最大のベスト・セラー『Back In Black』(1980年)が、急死したボン・スコットの追悼アルバムであったように。だがこの原稿を書いている時点では公式には何も明らかになっていない。
AC/DCが「世界一のロック・バンド」になるまでの歩み
AC/DCは1973年11月にオーストラリアのシドニーで結成されている。メンバーはスコットランドのグラスゴーから家族揃って移住してきたマルコムとアンガス(Gt)のヤング兄弟ら。
だが1980年2月に泥酔したボン・スコットが、眠りこけている間に吐瀉物を喉に詰まらせて窒息死。ちなみにレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムもこの7カ月後に同じ原因で死亡している。バンドは後任に元ジョーディーのブライアン・ジョンソンを迎え、すぐさまレコーディングに突入、完成したアルバム『Back in Black』(1980年)は全世界で5000万枚以上を売り上げ、歴代3位のセールスを記録するメガ・ヒットとなり(1位はマイケル・ジャクソン『スリラー』、2位はイーグルス『グレイテスト・ヒッツ』)、AC/DCは名実ともに「世界一のロック・バンド」となったのである。
入門編にうってつけのプレイリスト「はじめてのAC/DC」でも、『Highway to Hell』の楽曲が多数フィーチャーされている。
その後も多少の浮き沈みやメンバー・チェンジはあれど、常に第一線で活動し続けてきたAC/DCは、2014年にマルコムが認知症を理由に脱退(2017年に死去)、2015年にはフィル・ラッドが解雇され、2016年には聴力障害でブライアンがツアーを一時離脱(臨時代理ボーカリストはガンズ・アンド・ローゼズのアクセル・ローズ)するなど激動に見舞われたが、2019年に入ってメンバーがスタジオに入っていることが確認されており、久々のツアーやアルバムも期待されている。
ロックンロールを貫くAC/DCの本質
AC/DCは日本では想像もつかないほど海外人気の高いバンドだ。後進バンドへの影響力も極めて大きい。AC/DCの魅力とはどこにあるのか。それはアンガス・ヤングの次の発言にすべて集約される。
「オレたちの原点はロックンロールなんだ。ロックンロールこそ、オレたちが得意とするところで、それ以外のものを目指したことなんかない」
この信念とブレぬ姿勢。ごく初期にはアコースティックを使ったバラードがあったり、当時人気のあったグラム・ロックの影響を感じさせる曲があったりもするが、彼らのサウンドは『T.N.T.』以降まったく揺るがない。リフ主体の荒々しくタフなブギ&ロックンロールのみ。本当に必要なことしかやらない究極のミニマリズム。彼らの曲はBPM120台のミディアム・テンポが多い。速さや重さの追求よりもグルーヴを重視するためだ。適度なテンポが、良い酒に酔ったような心地よいスウィングを生む。ザックザックと切れ味のいいリフを刻むマルコムのリズム・ギター、ときおりトリッキーなフレージングをはさみこみつつも、オーソドックスなブルース・ギター・スタイルを崩さないアンガスのプレイ、そして堅実にボトムを支えるリズム隊はシンプルで、あくまでもソリッドでタイトだ。そしてボン・スコット~ブライアン・ジョンソンと続く塩辛声は、AC/DCというバンドのカラーを決定づけている。いわばパブで呑んだくれているような労働者たち、つまりは大衆の中から生まれたバンド、というイメージである。そうした路線が確立されると同時に金太郎飴と言われるワンパターンのブギ&ロックンロールも始まったわけだが、その信念の深さ、それを裏打ちする音楽の強さこそが、彼らがリスペクトされ続ける理由でもある。

『地獄のハイウェイ』リリース当時のAC/DC(Photo by Fin Costello)
彼らはデビュー以来、音楽シーンのトレンドが移り変わる中、そのつどさまざまなジャンルにカテゴライズされてきた。ハード・ロック、パンク、ヘヴィ・メタル、ガレージ・ロック……だが彼らの音楽性そのものは1ミリたりとも変わっていない。1ミリたりともだ。それは彼らの揺るがぬ姿勢が、ロックンロールの本質に直結しているからだ。
彼らの影響源として指摘されるのは、T・レックスやスウィート、スレイドといったグラム・ロックの流れ、あるいはレッド・ツェッペリンやフリー、ザ・フー、キンクス、ローリング・ストーンズといったブリティッシュ・ロック、そしてベーシックなブルースやブルース・ロックだ。だが彼らの源流にあるのは、チャック・ベリーに代表される50年代のオリジナル・ロックンロールである。
チャック・ベリーの代表曲「スクール・デイズ」は、良い子の規範を教わる退屈な授業が終わったら、ジュークボックスのある店で好きな音楽を全身で聴いて踊りまくれ、と歌われ、「古い時代とはおさらばさ」と高らかに宣する。もっとも初期のティーンエイジ・アンセムといわれるこの曲はロックンロールの原点と言えるが、それをもっとも正統に受け継いでいるのがAC/DCなのである。それはアンガス・ヤングの、昔から変わらぬスクールボーイ・ファッションに象徴されている。子供たちを縛り付ける学校の規範は、もちろん社会のメタファーでもある。AC/DCはロックンロールがもたらす自由と解放を体現し続けているのだ。リチャード・リンクレイター監督の映画『スクール・オブ・ロック』は全編でAC/DCの曲が演奏され、主演のジャック・ブラックがアンガスさながらのスクールボーイ・ファッションに身を包んでロックの魅力を説く、全編これ「AC/DC哲学」に満ちた大傑作だ。
映画『スクール・オブ・ロック』でAC/DCの曲が流れるシーンをまとめた動画
幅広いジャンル・世代に愛されてきた、AC/DCの影響力
そんなAC/DCに影響を受けたバンドやアーティストは、当然ながら数多い。シンプルでパワフルなバンド形式のロック、という意味では、同じようなバンドのほとんどすべてがAC/DCの影響を受けている、と言っても過言ではない。webサイト「Who Sampled」で、「Cover of AC/DC Songs」という項目を検索すると、全部で276ものバージョンが出てくる。その中でもっとも数多くカバーされているのは『Highway to Hell』のタイトル曲で30バージョンだ。
カバーの多くはハード・ロックやパンク、ガレージ系のバンドやアーティストによるが、シャキーラやサンタナ、フィッシュ、タイニー・ティム、マルーン5、シャナイア・トゥエイン、マーク・コズレック、奥田民生、斉藤和義、池田亮司、シェラック、マリリン・マンソン、ゴッドフレッシュ、ヘンリー・ロリンズ、フー・ファイターズ、さらにブルース・スプリングスティーンやボン・ジョヴィまで、音源ではなくライブのみのカバーも含めれば、ラテン・ポップ、フォーク~カントリー、オルタナティブ、インダストリアル、エレクトロニカから王道ロックまで、実に幅広い。もちろん、カバーをしていなくても、たとえば故カート・コバーンが『Back in Black』を「非の打ち所のない完璧なアルバム」と絶賛した通り、ニルヴァーナのようなバンドにも、深い影響を与えているのである。
マリリン・マンソンによる「Highway to Hell」インダストリアル・ロック・バージョン。
池田亮司による「Back in Black」グリッチノイズ・バージョン。2008年のコンピ『Recovery』に収録。
彼らの最大の魅力は、なんといってもライブだ。彼らのライブ・ビデオはいくつも出ているが、いずれも熱狂的な観客の反応も含め、ハイ・ボルテージなエネルギーが画面が吹き出てくるような熱いものばかり。91年英国でのライブを収めた『ライブ・アット・ドニントン』、1996年スペインの闘牛場でのライブを収めた『ライブ・イン・マドリッド』、2009年アルゼンチンでの『ライブ・アット・リヴァー・プレイト』など、どれも最高だが、とりわけ最後のブエノスアイレスでのライブは、観客の度を超した凄まじい熱狂ぶりを見ているだけでアガること必至だ。
ニュー・アルバム、そして2010年を最後に実現していない来日公演は実現することがあるのだろうか? 期待して待ちたい。

AC/DC
『地獄のハイウェイ』
試聴・購入リンク:
https://SonyMusicJapan.lnk.to/ACDCbest
〈イベント情報〉

①「ハイウェイ・トゥ・ヘル40周年パーティ atコヨーテアグリー六本木」
映画でもお馴染みの伝説のバー「コヨーテアグリー」でリリース40周年パーティの開催が決定! セクシーなバーテンダー”コヨーテ・ガール”のダンス・パフォーマンスを楽しみながら、AC/DCのヒット曲で踊って、歌って、騒ごう!
日時:2019年7月26日(金)20:00~翌04:00
会場:コヨーテアグリーサルーン 六本木
入場無料
※来場者には先着順で「40周年オリジナル・ステッカー」をプレゼント。
※ダンス・パフォーマンスは22:00/23:00/0:00(予定)
※未成年者は入場不可、顔写真付きの身分証明書をお持ちください。
http://www.coyoteuglysaloon.jp/roppongi/

②「AC/DC トリビュート・ライヴatハードロックカフェ東京」
イギリス生まれの世界的なレストラン・チェーン「ハードロックカフェ」でリリース40周年を記念してライヴ・パーティの開催が決定! ハードロックカフェのハウス・バンド「TOKYO HARD ROCKS」が演奏するAC/DCのヒット曲を一緒に歌って、踊って、盛り上がろう!
日時:2019年7月31日(水)
会場:ハードロックカフェ東京
※TOKYO HARD ROKSのライヴは19:00/21:00(2部入れ替え制)
※ご予約のお客様には「光るツノ」をプレゼント。
http://hardrockjapan.com/location/tokyo/
【7/26(金)~8/1(木)同時開催】
「ハードロックカフェ」で”HIGHWAY TO HELL” SPECIAL WEEKを開催。店内では「ハイウェイ・トゥ・ヘル」をはじめ、AC/DCのヒット曲をパワープレイ中!毎日ディナー・タイム先着順で、オリジナル・ステッカーをプレゼントします。
イベント詳細:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/ACDC/info/508678