今年、グラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされた新作『Dirty Computer』を携え、初来日を果たしたジャネール・モネイ。

ドラム、ベース、ギター、シンセサイザーというシンプルな編成のバンド・アンサンブルに支えられ、白で統一されたステージに満面の笑顔とダブルピースで登場したジャネール。続いて4人のダンサーが現れ、まずはアルバム『Dirty Computer』から「Crazy, Classic Life」でこの日のステージは幕を開けた。赤と黒を基調とする『リズム・ネイション 1814』期のジャネット・ジャクソンを思わせる衣装に身を包んだジャネールが、曲に合わせてポージングをするたび会場からは悲鳴にも似た歓声が湧き上がる。おどけた表情を作りながら、キャブ・キャロウェイよろしくステージを練り歩き、抜けるようなハイトーン・ヴォイスとドスの効いたラップを巧みに使い分け、あっという間にGREEN STAGEを掌握してしまった。
続いてギター・リフが印象的な「Screwed」。アルバムではゾーイ・クラヴィッツをフィーチャーしていたこの曲では、ステージ後方の巨大なスクリーンにデモの映像や、ブラックパンサー党をイメージさせる黒豹、アメリカ国旗などをコラージュ的に映し出す。さらに「IM DIRTY, IM PROUD」という、強烈なメッセージをバックに脚を大きく広げたジャネールのポージングでオーディエンスを圧倒。民族衣装的なケープを纏い、玉座に座りながらのラップは貫禄たっぷりで、ブラックパンサー党へのリスペクトを示唆した「Django Jane」のミュージック・ビデオを彷彿させもした。

「こんにちは!」
そう呼びかけ丁寧に二度お辞儀した後、ギターの硬質なアルペジオに導かれ、ピクシーズの「Where Is My Mind?」を引用した「PrimeTime」のコーラスと共にジャネールが話し出す。「ここに来られてとても嬉しい。日本に来るのは私の夢だったの! 今日は一緒に、忘れられないような思い出(unforgettable momory)を作りましょう」。
終始ポジティヴなエネルギーに包まれたステージ
「We Love Prince!」と叫び、一旦ステージを後にしたジャネールが、「Pynk」のイントロとともにミュージック・ビデオで着用していたあの話題の衣装(山本寛斎がデザインしたデヴィッド・ボウイのコスチュームをも思い起こさせる、女性器を模した「ヴァギナパンツ」)で現れると、会場からはどよめきや拍手、笑い声などが、あちこちから湧き上がる。カナダの女性シンガー・ソングライター、グライムスをフィーチャーしたこの曲は、”ピンクはあなたの中にある””ピンクは隠しきれない真実””ピンクは私のお気に入りの部分”と歌う、女性のセクシャリティや女性の強さを称えたメッセージ・ソングだ。
さらにジャネールから「クィアたち」と紹介されたバック・バンドの、「人力トラップ」とでも言うべき鉄壁のアンサンブルに乗せて歌った「Yoga」、オールディーズ風のコーラスが印象的な「I Like That」と続き、「Make Me Feel」のイントロが流れ出すとひときわ大きな歓声が鳴り響く。バンドの演奏に合わせ、マイケル・ジャクソンも「かくや」とばかりのキレッキレのダンスを披露したかと思いきや、満を辞してギターを抱えるとプリンスばりのカッティングを披露した。
そして、アルバム『The ArchAndroid』に収録された「Cold War」をエレキギター1本の弾き語りにアレンジし、ソウルフルに歌い上げた後、「私たちは、世界中の女性の権利のために戦い続けなければならない。LGBTを始め、セクシャル・マイノリティの権利のため、アメリカ合衆国で暮らす黒人たちの権利のために。そして、ワーキングクラスの人たちや、移民たちのために戦い続けなければならない」と力強く呼びかけ、最後はトランプ大統領へのアンチもしっかりと表明。間髪入れずに「Tightrope」へとなだれ込み、エンディングでは終わりそうで終わらないJBSばりの演出を何度も繰り返して大円団を迎えた。
シリアスなメッセージを随所にちりばめながら終始ポジティヴなエネルギーに包まれた、これからのエンターテイメントのあるべき道を指し示したようなパフォーマンス。