先日逝去したドクター・ジョンの「Whichever Way The Wind Blows」を挟んでトーキング・ヘッズの曲を2曲(「Houses In Motion」と「Born Under Punches (The Heat Goes On) 」)をかけるなど、開演前のBGMのセンスに1人ほくそ笑んでいたのだが、もうもうとスモークが立ち込める中、映画『2001年宇宙の旅』でもお馴染みのあの「ツァラトゥストラはかく語りき」(リヒャルト・シュトラウス作曲)が爆音で流れ出した瞬間、頭のネジが吹っ飛んでしまった。

今年、グラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされた新作『Dirty Computer』を携え、初来日を果たしたジャネール・モネイ。
2日前には東京・お台場ZEPP TOKYOにて単独公演を行ったばかりの彼女が、遂に苗場にも降臨したのだ。

フジロック現地レポ ジャネール・モネイ、高揚感と一体感に包まれた最高のステージ


ドラム、ベース、ギター、シンセサイザーというシンプルな編成のバンド・アンサンブルに支えられ、白で統一されたステージに満面の笑顔とダブルピースで登場したジャネール。続いて4人のダンサーが現れ、まずはアルバム『Dirty Computer』から「Crazy, Classic Life」でこの日のステージは幕を開けた。赤と黒を基調とする『リズム・ネイション 1814』期のジャネット・ジャクソンを思わせる衣装に身を包んだジャネールが、曲に合わせてポージングをするたび会場からは悲鳴にも似た歓声が湧き上がる。おどけた表情を作りながら、キャブ・キャロウェイよろしくステージを練り歩き、抜けるようなハイトーン・ヴォイスとドスの効いたラップを巧みに使い分け、あっという間にGREEN STAGEを掌握してしまった。

続いてギター・リフが印象的な「Screwed」。アルバムではゾーイ・クラヴィッツをフィーチャーしていたこの曲では、ステージ後方の巨大なスクリーンにデモの映像や、ブラックパンサー党をイメージさせる黒豹、アメリカ国旗などをコラージュ的に映し出す。さらに「IM DIRTY, IM PROUD」という、強烈なメッセージをバックに脚を大きく広げたジャネールのポージングでオーディエンスを圧倒。民族衣装的なケープを纏い、玉座に座りながらのラップは貫禄たっぷりで、ブラックパンサー党へのリスペクトを示唆した「Django Jane」のミュージック・ビデオを彷彿させもした。

フジロック現地レポ ジャネール・モネイ、高揚感と一体感に包まれた最高のステージ


「こんにちは!」

そう呼びかけ丁寧に二度お辞儀した後、ギターの硬質なアルペジオに導かれ、ピクシーズの「Where Is My Mind?」を引用した「PrimeTime」のコーラスと共にジャネールが話し出す。「ここに来られてとても嬉しい。日本に来るのは私の夢だったの! 今日は一緒に、忘れられないような思い出(unforgettable momory)を作りましょう」。
さらに、スマホのライトを照らすようオーディエンスに促し、ペンライトに見立てて全員でウェーブすると、GREEN STAGEはえも言われぬ高揚感と一体感に包まれた。曲の後半では、サポート・ギタリストがむせび泣くようなソロを延々と弾き続け、いつしかバックコーラスがプリンスの「Perple Rain」に。それに気づいたオーディエンスたちから歓喜の声が上がった。

終始ポジティヴなエネルギーに包まれたステージ

「We Love Prince!」と叫び、一旦ステージを後にしたジャネールが、「Pynk」のイントロとともにミュージック・ビデオで着用していたあの話題の衣装(山本寛斎がデザインしたデヴィッド・ボウイのコスチュームをも思い起こさせる、女性器を模した「ヴァギナパンツ」)で現れると、会場からはどよめきや拍手、笑い声などが、あちこちから湧き上がる。カナダの女性シンガー・ソングライター、グライムスをフィーチャーしたこの曲は、”ピンクはあなたの中にある””ピンクは隠しきれない真実””ピンクは私のお気に入りの部分”と歌う、女性のセクシャリティや女性の強さを称えたメッセージ・ソングだ。

さらにジャネールから「クィアたち」と紹介されたバック・バンドの、「人力トラップ」とでも言うべき鉄壁のアンサンブルに乗せて歌った「Yoga」、オールディーズ風のコーラスが印象的な「I Like That」と続き、「Make Me Feel」のイントロが流れ出すとひときわ大きな歓声が鳴り響く。バンドの演奏に合わせ、マイケル・ジャクソンも「かくや」とばかりのキレッキレのダンスを披露したかと思いきや、満を辞してギターを抱えるとプリンスばりのカッティングを披露した。

そして、アルバム『The ArchAndroid』に収録された「Cold War」をエレキギター1本の弾き語りにアレンジし、ソウルフルに歌い上げた後、「私たちは、世界中の女性の権利のために戦い続けなければならない。LGBTを始め、セクシャル・マイノリティの権利のため、アメリカ合衆国で暮らす黒人たちの権利のために。そして、ワーキングクラスの人たちや、移民たちのために戦い続けなければならない」と力強く呼びかけ、最後はトランプ大統領へのアンチもしっかりと表明。間髪入れずに「Tightrope」へとなだれ込み、エンディングでは終わりそうで終わらないJBSばりの演出を何度も繰り返して大円団を迎えた。

シリアスなメッセージを随所にちりばめながら終始ポジティヴなエネルギーに包まれた、これからのエンターテイメントのあるべき道を指し示したようなパフォーマンス。
「女性の団結」を呼びかける彼女のメッセージは、決して男性との「対立」を煽るものではなく、筆者を含め私たち男性がこれからどう生きていけばいいのかをも考えさせてくれた。この日のステージはまさに彼女の言う通り、「忘れられない思い出」となるだろう。
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