「俺たちが成功するとは誰も思っていなかったと思う」と、スキッド・ロウのフロントマンだったセバスチャン・バックは言う。

1989年の夏、ボン・ジョヴィはアルバム『ニュージャージー』のツアーに、地元の友人たちを前座として招いた。
それがニュージャージー州トムズ・リバー出身のハードロック・バンド、スキッド・ロウだった。

同年、彼らはデビューアルバム『スキッド・ロウ』を発表。「アイ・リメンバー・ユー」や「エイティーン・アンド・ライフ」といったドラマチックなバラード曲が、無名の前座バンドにプラチナを5枚もたらした。

そしてこの秋、同作の30周年を祝うツアーが2つ実施される。一つは現在のスキッド・ロウによるツアー。不動のメンバーであるデイヴ・スネイク・セイボ、レイチェル・ボラン、スコッティ・ヒルが自分たちの作った楽曲を演奏する。もう一つは、8月29日から始まる元メンバーらによるツアーで、ここではスキッド・ロウの楽曲を有名にしたオリジナル・ヴォーカリスト、セバスチャン・バックの歌声での演奏を楽しむことができる。ちなみに『スキッド・ロウ』は今年初めにデラックス・エディションとしてデジタル配信された。

今年6月、再結成を目論んだバックは、これが最後とSiriusXMの番組「Trunk Nation」でかつてのバンド仲間に直接呼びかけた。「俺と一緒にステージに立ってジャムりたいっていうのなら、いつでも歓迎するぜ」と。すでにバンドを脱退しているオリジナル・ドラマーのロブ・アフューソは別として、スキッド・ロウの現メンバーからの返事はまだない。

「期待しないほうがいいぜ」とローリングストーン誌に言うバック。
スキッド・ロウの公式サイトのバイオページには彼の名前すら載っていない。クビになって以来23年間、メンバーと一言も口を聞いていないと言う。これにセイボは反論する。「9年くらい前にダフ・マッケイガンのマネージャーをしていたときに彼に会った。ダフと彼のバンドがヴェイパールームでライブをやったときに、セバスチャンがガールフレンドと一緒に来ていた。短い時間だったけど、少なくとも友好的な雰囲気だった。特別だったとは言えないけど」と、ローリングストーン誌にメールでコメントを寄せてくれた。

再結成できなかった理由

再結成の話は以前も持ち上がっていた。「2年ほど前かな、再結成する直前まで行ったことがあった。1年とかそれくらい前かもしれない。でも、結局はポシャった。再結成できなかった事実を思い出すと苦々しく感じるよ。
だって、歌でもよく歌われているように、人生はどんどん短くなるからね」と、バックが説明する。

「俺は『直前まで』とは言わないよ」と、バックの再結成話に反応して、ボランがメールで返事をくれた。そこには「再結成の提案は受け入れた。スネイクと俺は金銭面に関してエージェントやプロモーターと話すところまで行った。でも、何度かメールを交わしてすぐに思い出したよ。俺たちがあのときヤツをクビにした理由をね。自分の幸福と心の平和が一番大事ってことだ」と書かれていた。

またセイボはメールに「その時点でかなりイヤな気分になっていたから、電話で話すことすらやめた」と書いていた。

1996年にバックがバンドを抜けて以来、彼はVH1のリアリティ番組『Gilmore Girls』とブロードウェイ界隈で活動していた。また回顧録を書くために4年を費やした。「バズ」という愛称で知られているこのシンガーは、スキッド・ロウ絶頂期の頃と変わらず陽気で話し好きだ。カナダ人のくせに今でもサーファーのような口調で、現在進行形のスキッド・ロウの冷戦の話題を持ち出しても大して気にしていないようだ。


「23年も会っていないと、俺は連中の良いところばかり見てしまう。俺たち、みんな死ぬんだぜ、だろ? 人生は一度きりなんだから」とバック。

今回、バックはローリングストーン誌にスキッド・ロウ時代に学んだこと、最初のスターダムについて、ドラマチックなヴォーカル・スタイルになった理由、最近夢中になっているスティーリー・ダン等について語ってくれた。

―今年のスキッド・ロウ再結成のために公開で呼びかけたことへの反応は?

ないね(笑)。「うん、絶対に楽しくなる! ニューヨークのソニー・シアターだぜ!(ソニー・ホールのこと)」って言うのがどれだけワクワクしたか……でも返事なし。

―メールすらなし? 怒りのメールもない?

ないね。ってか、俺たちはそんなことしない。コミュニケーションしないのさ。俺ら、グラムメタル界のクリーデンス・クリアウォーター(・リヴァイヴァル)みたいなもんだから。

―公開で呼びかけたことで、彼らは気を悪くしたのでは? スキッド・ロウ再結成の運命は裁判所に委ねるとか?

ないよ。これはエゴの問題だと思う。連中は俺が注目されるのが嫌いだし、連中は注目されないしね。
今までもずっとそうだった。連中が怒っている姿が見えるようだよ。だって俺のライブはソールドアウトになるけど、連中はそのライブには参加しないし……とかなんとか。

「デラックス・エディションにはまったく関与していない」

―なにはともあれ、30周年おめでとうございます。アルバム『スキッド・ロウ』のデラックス・エディションが配信開始されましたね。

ああ、どうしてそんなことになったのか、まったくわからないがね。俺、全然関係していないんだよ。サンプル盤すら送られてきてない。でも1989年のライブが収録されているってことは知っている。自分が何て言うか想像するだけで縮み上がるよ。だってあの頃の俺は全然息切れせずに連続で歌えていたから。

―確か、第一声は「マザーファッカーたち」です。


マジか? 将来、勇気が出たらチェックしてみるわ。

―収録されているライブは「コールド・ジン」で終わります。あなたはエース・フレーリーの大ファンなので、あのアルバムはあなたのアイデアかと思っていました。

この間リリースされたあのアルバムのデジタル盤とは、本当に何一つ、一切関係していない。俺が『スキッド・ロウ』発売30周年記念盤を作るなら、アナログ盤にするよ。180グラムのリマスター盤。オリジナルの音源を使ってね。それにいろんなバージョンのホームビデオを付録につけて完璧なものにする。ライブ・ビデオ『Oh Say Can You Scream(原題)』を作ったときのビデオが全部手元にあるんだ。これはプラチナを獲得したホームビデオ作品だったんだぜ。俺、シングルも、音源テープも全部持っている。ボン・ジョヴィのツアーで録音したライブ音源もあるし、エアロスミスのツアーのときのもね。
自宅で箱に入ってホコリまみれで冬眠中だ。

―保管中の音源を今後リリースするつもりはありますか?

そうだな、そうなると他の連中と話し合う必要が出てくる。自分でも手放さない理由がよくわからないんだよ。

ハードロックの栄枯盛衰を乗り越えた男が語りつくす、愛と憎しみの30年間

1989年のスキッド・ロウ。左から、スコット・ヒル、ロブ・アフューソ、セバスチャン・バック、デイヴ・スネーク・セイボ、レイチェル・ボラン

―メンバー間で話し合いが持たれなかったことに驚いています。最近、70~80年代のバンドによるデラックス版と称したフィジカル・リイシューが頻発しているじゃないですか。

困ったもんだよね。ほら、俺はラッシュの大ファンだろ。いわゆるデラックス版ってのを一つ購入したら、完全にニール・パートがメインで、当時の彼のインタビューだけだった。それにツアーバスの左側の輪止めが付録されていた。将来的に、俺たちもファンのためにそんなことができればいいと思うけど。

たださ、スキッド・ロウの1枚目のレコードのマスターテープが見当たらないんだよ。火事のバタバタでどこかに紛れてしまったのかもしれないけど、アルバム『40 Seasons – Best of Skid Row(原題)』を作ったときに、プロデューサーのマイケル・ワグナーがスキッド・ロウの最初のアルバムのテープが見つからないって俺に教えてくれた。リマスターとリミックスをしたい曲が数曲あったんだって。みんなで探したよ。でも誰も行方を知らなくてね。これはミステリーだよ。

バックがかつての仲間たちに伝えたいこと

―では、大局的に見て、オリジナル・メンバーによるスキッド・ロウの再結成に必要なものとは何でしょう? 彼らからどんな返事が聞きたいですか?

連中に気づいてほしいことは、俺には生涯のマネージャーがいるってこと。リック・セールズという名前のな。彼とは2006年から一緒にやっている。でも、連中はリックのような人間と交渉することを嫌うんだよ。連中がほしいのはマネージャーなんていなくて、週給700~800ドルで働くシンガーさ。俺には一緒に仕事するチームがあるし、そいつらは俺が騙されることを許さない。そんなチームは19のときにはいなかったから(ヴォーカリストのギャラについてのバックのコメントにサイボが「ファクトチェックはヤツの能力に入ってないようだ。(中略)俺たち5人はバンドとしてステージに立つし、ギャラも等分する。この点で結束しているし、エゴなんて一切ない」とメールで返答した)。

―つまり、当時のあなたは法的に自分を守る術を知らなかったと思うのですか?

すべてが終わったあと、俺は完全に一人ぼっちだった。そこからやり直さないといけなかったのさ。そういう状況は二度とゴメンだよ。あれをもう一度できるほど若くはないから。

―スキッド・ロウの1枚目であなたが共作した唯一の曲が「メイキン・ア・メス」です。

忘れてほしくないのは、あの頃、俺は18か19だったってこと。それにバンドも星の数ほどいた。その中で成功したのはほんの一握り。例えば、「エイティーン・アンド・ライフ」のメロディをリライトしていたとき、俺は何もわかっていなかった。自分が書いているものがその後どんな意味を持つかなんて、知りもしなかった。つまり、そういうことがわかったのは人生経験を積んでからってこと。あの頃は無知だったのさ、マジで……ガキだったもん、俺。バンドメンバーは全員、俺より4つ以上年上だけど、俺自身は自分が何に首を突っ込んでいるかすら気づいていなかった。それは当時の俺の言動を見れば明らかだよ。

俺たちはビジネス面でケンカが絶えなかった。皮肉なことに、あの時点で、俺は自分のバンドのメンバーとはビジネスの話を絶対にしないと決めた。でも連中は俺のマネージャーとすら交渉しない。俺はリックを手放すつもりはないから、俺に話がある人はリックを通さないとダメなわけだ。ちゃんと交渉の場に現れてビジネスの話をするなら、俺たちはいつでも受け入れるよ。でも、連中は俺が嫌いなのさ。

ガンズ・アンド・ローゼズの再結成から学んだこととは?

―それはどういう意味ですか? いい加減に十分な時間が経過したのでは? 回想録で彼らを中傷したとか、金銭面で彼らを除外したとかではないのに。

たぶん、連中は支配欲が強いんだと思う。気づいていると思うけど、新しいヴォーカルを入れたよね? 2~3年前だっけ? でも、このヴォーカルは一度もインタビューを受けていない。ほら、連中が俺を嫌いな理由がわかるよね。俺がいたらインタビューしちゃうからね。つまりだ、連中はすべての注目を集めるリード・ヴォーカルがいると不愉快だってこと。君の雑誌でも同じだよ。俺が表紙に載ると連中は不快に思うわけだ(上記のバックの発言を聞いたボランは現在のスキッド・ロウのヴォーカリスト、ZPサートについて「う~ん、ZPはインタビューをしているし、かなり注目を集めている。このバンドに参加したときのZPはすでに名声があったし、ファンベースもできていた。現在のバズへの注目はどれもスキッド・ロウ由来じゃない。そもそも彼のキャリアになんて関心がない」と反論している)。

―スキッド・ロウを常にチェックしているのですか? 自分が抜けてから彼らのライブを見たことはありますか?

一度だけYouTubeで見たよ。2人くらい前のリード・ヴォーカルのとき。「I Remember You」って書いてあったから、自分のバンドだと思ってクリックして見た。そしたら「これは一体?……うわっ、マジかよ」って。

―ほら、ガンズ・アンド・ローゼズの再結成なんて誰も実現しないと思っていたし、再結成がこれほど長く続くなんて予想外もいいところです。あなたはガンズと仲が良いんですよね。再結成に関して、彼らから何か学んだことはありますか?

あるよ。それはだな、誰に対しても公に中傷しちゃいけないってこと。特に今のようなネット社会だと、メディアは好きな言葉を勝手に取り上げて、それをヘッドラインにする。そのせいで、何もしなくても俺たちは常にトラブルに陥っちまう。ロックバンドに関していえば、今は対立がロック文化の主流のような気がするよ。俺がガキの頃に、例えば「デイヴ・リー・ロスがこいつの悪口を言った」みたいな記事は一度も呼んだことがない。つまり、そういうことと音楽がどう関係しているんだ?ってこと。無関係だろ。歳を取るにつれて「言わぬが花」と思うようになった。インターネットから出来る限り距離を置いているよ。だって俺はネットにはクール過ぎる存在だから……ポイズンやガンズ・アンド・ローゼズのようなバンドの再結成は大金が動くビジネスなのさ。

―スキッド・ロウの最初のアルバム2枚に影響を受けた人々がたくさんいますし、今でも色あせてない曲が収録されています。「アイ・リメンバー・ユー」、「ユース・ゴーン・ワイルド」、「エイティーン・アンド・ライフ」は、30年を経た現在でもラジオで流れてきます。それについてはどう思いますか?

いつもドキドキしてしまう。昔ローリングストーン誌が「人生の曲トップ5」とかいうタイトルの特集をやったのを覚えているよ。確か、ノラ・ジョーンズだったかな。とにかく、誰かが送ってくれたその記事で、ノラがスキッド・ロウの「アイ・リメンバー・ユー」を選んでた。彼女が11歳の頃らしくて、記事の中でそれについて語っていた。探してみてくれ。君のところの雑誌だからさ。とにかく「これを聴くと信じられないくらい強いノスタルジアの波に飲み込まれる……」とか言っているはずだよ。

また、ゾーイ・クラヴィッツが最初にカバーした曲が「アイ・リメンバー・ユー」だったらしい。それに関する大きな記事がローリングストーン誌に掲載されていた。彼女の父親がどうやって選曲を手伝ってくれたかとか。何年も前にレニーと一緒に時間を過ごしたとき、いつもあのアルバムがどれだけ気に入っているかを教えてくれた。あの曲にはあの曲なりの運命があるって多くの例が証明しているのさ。

あと、キャリー・アンダーウッド。興味があるなら、YouTubeで彼女が歌っているこの曲を見てくれ。本当に驚くから。アダム・レヴィーン。ヤツとは仲がいいんだけど、(NBCの音楽オーディション番組)「ザ・ヴォイス」で「アイ・リメンバー・ユー」を選んだ。俺の声を選んでくれてありがとな(笑)。ファイナルで歌う曲として選んだのさ。こんなふうに、いくらでも例をあげられる。あのシングル曲は独自の運命を持って時空を超えているよ。この曲と同じようなスタイルの曲が他にもあるけど、どういうわけか、この曲は何十年経っても人々の心に響くのさ。

シャイな少年がロックスターに変貌した理由

―1989年のもう一つの記念について質問します。あなたは初めてアリーナで演奏しました。あれはボン・ジョヴィのツアーで、ダラス公演でしたよね。

その通り。

―あなたがステージで緊張するとは到底思えないのですが、回想録に書いてある通り、本当に演奏中ずっと目をつぶっていたのですか?

ああ、本当につぶっていた。自分がアリーナで歌っている現実を実感すると、歌うことに集中できなかったからね。子どもの頃に思い描いていたロックスターになるという夢を実現している、という現実を受け入れる心の準備ができていなかったのさ。無理だった。だって(テレビドラマ「ゆかいなブレディー家」の)TV狂のシンディみたいに固まっていたから。本当にそんな感じ。「どうしよう」ってね。だからどう説明していいやらわからない。舞台に立って、それが録音・録画される人にはそれなりの理由がある。ステージで1時間とか、45分とか、2時間とか、歌い続けようとすると、心身ともにいろんな変化が起きてくる。頭の中でもあれこれ起きる。注意散漫とか、動揺とか、いろいろ。音も常に一定じゃない。ほんと、どう言ったらいいかわからないよ。とにかく、19のガキにとって、アリーナで初めて歌うっていうのは、ものすごいプレッシャーだったのさ。身に余るっていうか。

―そして、そのツアー中、最初は目を開けられなかった少年が、ニュージャージーのジョンズタウンのスタジアムでは堂々と立ち、ライブの前に市警を煽っていました。シャイな少年が、どんなふうにして、威張り散らすタイプのロックスターに急変したのですか?

テストステロンで満たされ、活力も旺盛なら、野獣になるってものさ。自分は不滅だとすら思ってしまう。そんなガキをステージに上げたらどうなるか。目の前には2万人の観客がいるんだぜ。どうしろっていうんだ? ほんと、ヤバい。あのときの俺は狂気ともいえるパワーに満ち溢れていたし、観客のものすごいパワーに飲み込まれていたんだよ。

どういうわけか、俺はロック・フェスティバルの参加を許されたことが一度もない。そこにはものすごい数の観客がいるわけだ。オペレーション・ロックも、ヘヴィ・モントリオールも、ロック・オン・ザ・レンジも、全部そう。フェスは1つか2つ出演したことはあるけど、フェスに出演するときは他のバンドに用心するんだ。いつもそうだった。だって俺がステージに上がって、観客に飲み込まれると、他のバンドのフロントマンとは異なるヴァイブやエネルギーを放出してしまうから。そして、観客を本当に文字通り興奮させることができる。ロックフェスの連中が俺を招いてくれたら、それがどういうことか、ステージの上できっちり見せてやるよ。

「アイ・リメンバー・ユー」誕生秘話

―ここでスキッド・ロウの1枚目を作った頃の話に戻りましょう。当時、あなたは恋人のマリアとトロントに住んでいて、彼女は妊娠していました。デイヴ・スネーク・セイボはあなたにデモテープを送り、気に入ったあなたは実家住まいのレイチェル・ボランがいたニュージャージー州トムズ・リバーに飛行機で移動しました。

うん、その記憶は鮮明に思い出せるよ。あれはレイチェルの車庫だった。

―そのデモからアルバムに収録されたのが「ユース・ゴーン・ワイルド」と「エイティーン・アンド・ライフ」です。これ以外の楽曲へのインプットは許されたのですか?

「ラトルスネイク・シェイク」もあのデモに入っていたと思う……確かじゃないけど。でも、基本的にレイチェルの車庫で全部作った。そこで初めて「アイ・リメンバー・ユー」を聴いたのさ。そのあとで「ピース・オブ・ミー」も。「メイキン・ア・メス」はレイチェルんちのテレビ室に集まって全員で作った。そうやって作った曲を何度も繰り返し練習して、デモ・スタジオで録音した。ニュージャージーにハウス・オブ・ミュージックというスタジオがあって、そこで30曲録音したぜ。

―「アイ・リメンバー・ユー」を気に入ったのはあなただけだったんですよね?

(モトリー・クルーのマネージャーの)ドック・マギーがリハーサルに一度やって来た。車庫でやっていたリハーサルにね。俺たちはセットを通しで練習していて、終わりの方で俺が「ドック、ドック、この曲を聴いてくれ! 他のヤツらはこの曲をレコードから外すって言うんだ。だから、この曲、聴いてもらいたい! 本当に最高なんだから。聴いてくれ!」って頼んだ。他の連中は「面倒くせーな」って態度でさ。アコギだけの曲だった。アコギが入った唯一の曲で、彼がアコギを弾き始めたから、俺は歌を歌った。歌い終わる少し前にドックを見たら、彼が笑っていたんだ。この曲を安っぽいとか、女々しいって感じたのかもしれないけど、ドックが「この曲を入れないと言うのか?」と言った。そしたら誰かが「ああ、他の曲と合わないから」と答えたんだ。するとドックが「それはおかしいな。もうレコードに入っている感じがする」と。

―それに対する反論はどんなものでしたか?

女々しすぎるとか、ジャージー出身のタフな若者というイメージに合わないとか。でも、この話が変に伝えられて、誤解からまたケンカになるのが嫌なんだ。だって最終的にあの曲は俺たち5人で作って、アルバムに収録したんだから。USAトゥデイ紙が、あの曲は1990年のプロム曲のナンバー1だったと報じた。それまではずっとトム・ペティの「フリー・フォーリン」だったって。

―ミレニアル世代の多くが受精時にこの曲をBGMで聴いていたんでしょうね。

(笑)ああ、お役に立ててうれしいね。

スキッド・ロウがバラードを作らなかった理由

―この曲以外にスキッド・ロウがバラードを一切作らなかった理由は何ですか?

そうだな、君が「エイティーン・アンド・ライフ」をバラードだと思うかわからないけど、「アイ・リメンバー・ユー」の前にこの曲がリリースされているし、トップ10シングルになった。4位だったと思う。ヘヴィな感じの曲だけど。でも「アイ・リメンバー・ユー」はアコギの音が入っている時点でバラード・カテゴリー入り確定だ。これに関しては疑問の余地はないよな。

―スキッド・ロウはヘヴィなバラード曲を作る才に恵まれていたと思います。

チャールズ・ミンガスが「音楽には2つの種類しかない。良い音楽と悪い音楽だ」と言っていたけど、俺は昔から「アイ・リメンバー・ユー」がいい曲だってわかっていた。根拠はないけど、そう思ってたのさ。俺の場合、気に入らない曲は歌えない。たとえ歌っても上手く歌えない。「アイ・リメンバー・ユー」は聴いた途端に、そして歌い出した途端に惚れ込んだ曲だ。とにかく大好きだったし、30年経った今でも大好きだね。

―あの曲を聴いたときも歌ったときも、マリアのことを考えていたと?

ああ、当時はそうだった。

―では曲の最後で激怒しているように聞こえる理由は?

あの部分でヴォーカルから聴こえてくる感情は、夢のために子どもを捨てる父親のそれで、「俺が手に入れたすべてのものをこれに与える」と言っているわけだ。俺がその歌詞を歌うとき、必死さが感じられるはずだ。ガキの頃に父親が俺を捨てて出ていったことが影響しているし、俺は絶対に父親のようなことはしないって神に誓った。でも、そんな俺が父親と同じことをしているんだよ。最後の叫び声はその思いさ。俺は常に歌詞の意味を歌でしっかり表現するタイプのヴォーカリストだし、ちゃんと表現できていれば、人々に歌を伝えられていると実感するんだ。ほんと、言葉を伝えることが大事。それを覚えたのがあのレコードだったね。そして、あの曲がそういう歌い方を覚えた曲だった。

―では「エイティーン・アンド・ライフ」はどのように自分のものにしましたか?

「これ、俺にできるの?」って思ったのさ(と言って歌う)。「Blew the child away……fingers on the bone……」って。いろんなタイプの高音のスクリームを加えてみたら、みんなそれを気に入ってくれたんだ。だから続けたってだけ。

ジョン・ボン・ジョヴィとの関係

―最近、ボン・ジョヴィのメンバーとの関係はどんな感じですか?

仲が良いよ。ベガスではリッチーに会った。チャリティーライブでディー・シュナイダーとリッチーと俺で1曲披露した。その前だと、2~3年くらい前にマンダリン・オリエンタル・ホテルで、ジョン、リッチー、俺の3人でワインを10本ほど空にしてやった(笑)。ジョンとはしばらく会っていないけど、前に会ったときは本当に楽しかったよ。

―ジョン・ボン・ジョヴィがスキッド・ロウのデビューアルバムの印税を得ている理由を教えて下さ。

それは彼が俺たちを見出したからだよ。ボン・ジョヴィのニュージャージー・ツアーに俺たちを参加させたのも彼だし、あのとき、スキッド・ロウは制作契約という契約書に署名した。この契約書は、俺たちが成功すれば利益の一部がジョンに渡るというものだった。でも俺たちが成功するなんて誰も思っていなかった。なのに、俺たち、かなりの成功を収めたわけだ。もちろん、一夜にしてってわけじゃなかったし、少なくとも2週間はかかったよ。ジョンと一緒にツアーを回っているうちにあっという間に人気者になった。

―ジョンが相変わらず利益を得ていることは気にならないようですね。

確かにジョンはもらい過ぎているっていう連中もいるけど、これまで何度か自分に与えられたチャンスについて考えてみて、あのツアーがなければ絶対に今の自分はいないって思うようになった。

―模範回答ですね。

ああ。でもボン・ジョヴィは俺たちに会計士もくれたんだよ。ブルース・コルグレッターという男。事の核心が知りたかったら彼に聞いてみるといい。でも会計士が一緒って……(笑)かなり便利だったよ。

―『スキッド・ロウ』の印税は今でも入ってきますか?

ああ。もちろんもらっている。パフォーマンス印税をね。

―「エイティーン・アンド・ライフ」のようにメロディを作っている曲があるのだから、出版印税をもらうべきなのでは?

俺よりもずーっと利口なビジネスマンからその言葉を何度も聞いたよ。もちろん、そうするべきだ。ただ、正直な話、そういう法廷闘争を始めると、それに吸い取られるエネルギーが膨大すぎる。年齢を重ねるに従って、能力が衰えないうちに、ファンのために出来るだけ多くの成果を残すことにエネルギーを使うことにした。これにはバックアップSEを使わないでやるツアーも含まれる。100%生演奏のオールドスクールなやり方で、最近では本当に珍しいよ。俺が次にやろうと思っているのがレコードだ。回想録『18 and Life on Skid Row(原題)』を書くのに4年かかったからなぁ。

それと同じ衝動を現大統領に感じている。ヤツはうつ状態に陥るくらい俺を混乱させるんだよ。それをTwitterで表現したいし、これまで何度もそういう投稿をしてきた。でも、そういうことを俺は本当に言いたいのかな?と思って。ネガティブなことばかり発信する連中はたくさんいるし、俺は惨めになりたくないし。

―その境地にはどうやって到達したのですか?

ほんと、自分の健康とエクササイズに集中しているだけだ。生まれて初めてまともな食生活を送っている。これは嘘みたいな本当の話だ。

ダフ・マッケイガンと一緒にホットヨガ

―本当ですか? どんな食生活ですか?

どんなふうにやっているかって? そうだな、奥さんがヴェジタリアン用のスパイシーブラッツを作ってくれる。肉は一切食わない。そうしたら、クローゼットで俺をあざ笑っていたチビTがまた入るようになってきた。何枚も持っているんだよ。俺は「もう一度これを着られるようになるぜ」って決めたのさ。かなり上手く行ってるから嬉しいよ。

―今でも7マイル(12キロ)走っていますか?

実は4マイル(6.5キロ)だ。でもミック・ジャガーは……あの男はどんな身体をしているんだ、一体?

―いや、ほんと、そう思います。

ミック・ジャガーは影響を受けた一人だけど、あれだけのエネルギーがあって、あれだけカッコよくて、あの年であんなふうにバンドを牽引しているなんて、本当に驚異的だよ。彼の健康法を検索すると、ツアーに出る準備をするときに、数週間前から毎日10マイル(16キロ)走るって書いてある。それが本当だとは信じがたいけどね。だってそれだけ走るってけっこう時間がかかるからさ。あと、仲良しのダフ・マッケイガンにも刺激を受けているんだけど、ダフは俺にホットヨガを紹介してくれたぜ。

―かなりハードな感じがします。

なかなか荒々しいぜ。俺が「なあ、どうしてその体型を保てるんだ?」とか聞いたら、ダフが「この住所に朝9時に来い」って。俺は「朝の9時だって?」って驚いたけど、とにかく行ってみて、ヤツと一緒にやってみた。それ以来ずっとやっているけど、これってかなり……トリップできる。

―最近ずっと聴いている音楽はなんですか?

きっと答えを聞いたら驚くと思うけどな。俺、ドナルド・フェイゲンを聴いている。ソロの方。『ナイトフライ』で度肝を抜かれて、全部レコードを揃えた。『カマキリアド』も、『モーフ・ザ・キャット』も。

―確かに。その答えは予想していなかったです。

だろ? 俺は大音量で意識を刺激するのが好きなんだが、それ以上に聴覚が大事なんだよ。2年ほど前に主治医に「セバスチャン、君の耳は両方とも健康だ。でも今から音量を下げないと、10年後には後悔することになるぞ」と言われてね。そこで音楽を聴くときの音量を下げたら、聴く音楽の種類まで変わった。自宅には膨大なアナログ盤のコレクションがあって、部屋ごとにクオリティーの異なるステレオを置いている。あっという間にスティーリー・ダンの音楽を聴く頻度が高くなったよ。

―私もスティーリー・ダン好きですが、フェイゲンのソロに関してはよく知らないんです。

それはもったいない。まずは『ナイトフライ』を聴いてみてくれ。あの類の音楽、つまりヨットロックが好きなら、絶対に気に入るから。フェイゲンのレコードは全部持っているよ。俺のようなオーディオマニアにとって、本当に聴いていて楽しい作品ばかりだ。かなり良い作品さ。

―では、最後にお聞きします。次の数カ月間、スキッド・ロウのオリジナルメンバー再結成の質問を何度も受けることになるでしょうが、それは苦痛ですか? 本当に再結成を望みますか?

自分の中で遮断しないとダメだろうな。最近のスキッド・ロウには好きなところが一つもない。でも、俺が他の人やその行動を変えられるわけもないよ。俺としては、23年間一度も同じ部屋で喋っていない連中を怒っても意味がないと思うだけさ。
編集部おすすめ