a flood of circleの中心人物であり、近年ではソロ活動も本格化させてきた佐々木亮介。彼がポツリとこぼした「仲間集めをしたい」という一言をきっかけに、連載を始めることとなった。
題して「LEOs Friend-hunt」(「レオ」は佐々木の愛称)。分野・職種問わずに彼が会いたい人に会いに行くという企画だ。果たして順調にフレンズ・ハントはできるのか? 早速今彼が会いたいというSpotifyのスタッフにアポを取りつつ(来月佐々木が突撃してきます!)、今回はその連載が始まるきっかけとなった対話をお届けします。

2019年の春先にRolling Stone Japanで連載をやらないかと話を持ちかけられた。わーお大変。だって連載って締切に追われるものっていうイメージでしょ。けど「やったことないことはやらなきゃわからないよね」といつも思っているから、そのいつも通りのシンプルな理屈でやってみることにした。

その後、担当編集のクロダくんから 「じゃあどんな連載をやるか会って話しましょうか」と連絡が来た。彼とは付き合いも長く、他の雑誌でよくインタビュアーとして接していたし、フランクな関係だ。実際に会って、連載で何をやるのかを会話の中で探りながら、その時思ってることなんかを取り留めもなく2人で話した。やっぱ人と話すと、思ってなかった形で自分の考えが言葉になって現れるのがインタビューの面白いとこだな。と改めて思って、「あ、これじゃん」と思った。


誰かと会って、話す。これじゃん。

連載をやるなら楽しいことがやりたいし、まだ知らないことを知りたい。だから、ただ自分のことを語るよりも誰かと会って、会話の中からまだ知らないものが立ち現れる連載にしよう。

そういうわけでこの「Friend-hunt」では毎回、会いたい人に会いに行くことにする。わーお大変。だって俺、そんなにたくさん友達いないし! けどまあ、家で文章を書くだけよりその方が楽しそう。楽しそうな方へ行ってみよう。

第1回は、佐々木とクロダの取り留めのない会話をそのままお届けしようと思う。ただ音楽が好きなだけの2人の会話が、俺にとってまずはRolling Stone Japanとの出会い、ということで。

LEOs Friend-hunt 1

クロダ:今日は連載の企画を練りに来ました。

佐々木:はい。
よろしくお願いします。

クロダ:と言いつつ、本音は音楽の話をしにきたところもあります。

佐々木:あははは。

クロダ:佐々木さんは、今のシーンをどう見てるのかなと(笑)。この前Momくんにインタビューしたら、「今の世界はチルとエモ」って言ってて、本当にそうだなと思ったんですよね。

佐々木:うん。エモもめっちゃ多いよね。

クロダ:佐々木さんは今のエモとチルって、つまりはなんだと思っていますか。

佐々木:俺的にはやっぱり、ロックから奪われたものですよね(笑)。個人的な感情とか弱みとかを出すっていうのはロックの美徳だと思っているんだけど、一方、たとえばラッパーはギャングスタラップのように自己顕示欲を示したり、ブランド名をガンガン出して資本主義に乗って、むしろ奪ってやるっていうような気合があるよね。だからこそ、女々しいこと言ってるなよっていうところで、女性蔑視みたいなものもあったと思うんだけど。

クロダ:うん、そうだと思います。


佐々木:そこでカニエ・ウェストがデカいと思うんですけど、カニエが『808s & Heartbreak』(2008)っていうまさにハートブレイクのアルバムを出して、そこで彼はエモもチルもやっている。それこそドレイクよりも前に歌とラップを混ぜちゃったのがそれかなと思っていて、たぶん当時はオルタナティヴだったと思うんですけど、あれが1位獲っちゃった後はみんなそこの影響下にある気がしています。ラップのセオリーで言ったらこれはありかなのか? っていうことだけど、ゴリゴリのラップをするよりも彼は繊細なことを歌って、それが繊細過ぎてエモくなってくるみたいなことが起こっていたんじゃないかなって。で、それって昔で言うロック的なものだと思うんですよね。

クロダ:なるほど。あと、今はやっぱりビリー・アイリッシュですよね。

佐々木:俺、あれにもロック持ってかれたなって思ってる(笑)。

クロダ:というのは?

佐々木:俺的にはビリー・アイリッシュって、マリリン・マンソンなんです。ヴィジュアルもそうだし、サウンドもシャッフルのブギーっぽいビートだったり、リフがブルースロックっぽいものをサブベースで鳴らしている感じがするし。だからキャラを突き詰めたなって思う。ニルヴァーナとかも含めたそれまでのエモい流れの中から、キャラを突き詰めることでマリリン・マンソンが出てきたと思うんだけど、彼女を見ているとそれと同じような感覚を覚えます。まあ、そうやって無理やりトレースするのはマジでおっさん臭いなって自分でも思うんですけど(笑)。


クロダ:(笑)。実際、本人もカテゴライズされることを嫌煙しているようですからね。

佐々木:でも、超突飛な存在っていうよりかは、ここまでのラップの流れとか、エモさの処理の仕方を凄く考えてキャラクタライズしているなって俺には感じる。そのキャラクタライズのひとつの答えがホラーっていうのも、めっちゃマリリン・マンソン的だなって。

クロダ:ホラー的なもので憂鬱にシェアしていくと。

佐々木:だからロックバンド、特にラウド系はホラーっぽい見せ方は多いと思うんですけど、そこすらも新しい人に奪われてるなと(笑)。あれやられたらラウドロック全部古く聴こえちゃうんじゃなかなって思ったし、それをあれだけスカスカな音でやっちゃってるっていうね。あと、彼女はお兄さんが曲を作っていたりしますよね。そういう近い人達だけでデッカイことをやろうとする人達がいるっていうところは、シカゴのシーンにも通ずるところがある気がしています。狭いコミュニティの中での問題が、実はみんな同じことを抱えているっていうことでリンクしていく。それって昔は、ロックバンドがパーソナルな歌詞を歌うことで、誰でも共感できるものになるっていう構図があったと思うんですけど。今はラップやポップミューッジックがそれをやってるような感じがして、悔しいんですよね。


クロダ:やっぱり、悔しいんですね?

佐々木:ロックバンド好きですからね、俺。だからa flood of circleをやっているし。あ、あと、デイヴィッド・ボウイってハイブランド着てたし、ファッション超派手だったじゃないですか。今はラッパーがハイブランド着て面白い恰好していて、ロックバンドの方が想像通りの恰好をしているところはあって。その辺も含めてラッパーのほうが面白いし、だから俺、ソロではなるべく訳わかんない服着たいなって思ってる(笑)。

クロダ:(笑)。それこそビリー・アイリッシュも、服装は斬新ですよね。

佐々木:そうだよね。トビ・ロウもルックスいいし、カニエも自分のブランドを持っているし。だからソロをやる上では、俺もアパレルラインっぽくやるっていうのは考えています。まあ作るのは任せるけど(笑)、ディレクションしたり、そこで好き放題やるのは面白そうだなって思う…… でも、それをやるには仲間がいるから。仲間を見つける連載でもやりたい(笑)。


クロダ:……それいいですね! 見つけましょうよ(笑)!!

佐々木:あ、じゃあ、それでいく?

クロダ:はい! でも、確かに海外のラッパーって、HPを見たらその人のブランドが出てくる人って少なくないですよね。

佐々木:そうそう。洋服屋のページになっちゃってるもん。マーチャンがメイン、HPを見たらマーチャンがいきなり来るとこもそうだし、そもそもマーチって呼ぶところから違うよね。「物販」とか「グッズ」って言わないで「マーチ」って呼ぶところからも、言葉やヴィジュアルが刷新されていくことで新しい動きが作れるんじゃないかって感じます。

クロダ:それは、絶対にあると思います。で、まだバンド界隈は全然そうなってない。

佐々木:「バンド」って言葉がそもそもそうなんだけど、言葉が全部古いんですよね。まだ「物販」って言ってるんだ? って。ウェブページの見せ方とか、アー写とかもそう。まだスタイリストに着せられた服をスタジオで4人で並んで着ているんだって感じだから。

クロダ:スポーツとかでも、新しい戦術が生まれる度に新しい言葉が出てくるのに。

佐々木:そうそうそう! 昔は「スウィーパー」って言ってたしね(笑)。井原正巳のことスウィーパーって言ってたから。もうそんな言葉誰も使わないし、そんな作戦通じないよって話。昔のサッカーのビデオ見て面白いのもわかるけど、今のサッカー見ようぜって感じですよね。プレイリストで聴く楽しさとかSpotifyで聴く楽しさは、CD売っている身としては身につまされるんだけど、そっちで聴く楽しさはあるよねって思う。

クロダ:佐々木さん自身、シカゴ縛りのプレイリストを作っていますよね。あの街のどこに魅力を感じてますか?

佐々木:シカゴの街の面白さで言うと、チャンス・ザ・ラッパーを輩出するまでの流れですね。俺の好きなカニエがいて、彼もかなりの革命児だと思うけど、それよももっと遡るとシカゴはバディ・ガイがいたブルースマンの街でもあって。俺は元々はそっちからシカゴのことを好きになったんですよ。

クロダ:あ、だからシカゴ縛りで作られたプレイリストにも入れているんですね。

佐々木:そうそう。「スウィート・ホーム・シカゴ」っていう名曲があるくらい、ブルースにとってもシカゴっていうのは外せない街で。それで二十歳くらいから憧れを持っていて、「シカゴ」っていう言葉に対しては思い入れがありました。もちろん今はラップの街になっているけど、シカゴの街にそれが根付いているってことは面白いなって思う。で、プレイリストですけど、これはまあ、佐々木DJですね(笑)。ポップ・ステイプルズの曲だけはシカゴ出身ではなくて、プロデーサーがウィルコだから入れていてるんだけど。バディ・ガイがシカゴのブルースマンで、B.B.キングがメンフィスのブルースマンなので、このふたりでシカゴ、メンフィスを見せといて、自分のソロを挟んどいたっていう感じです。

クロダ:なるほど。

佐々木:あ、あと、せっかくだから三船(雅也/ROTH BART BARON)くんの話もしたいかな。

クロダ:共同プロデュースという形で、一緒にやられましたよね。

佐々木:うん。三船くんはやっている音楽は全然ラップじゃないんだけど、彼は元々チャンスが好きで。今回俺がオファーしたエルトン(チャンス・ザ・ラッパーのミックスエンジニア)ってやつは、『HEX』でも2曲ミックスを手掛けていて。三船くんは自分で海外に出て行ったりするし、彼は「フォーク」っていう言葉を使っているけど、新しい形で面白い音楽を作れないかなって試行錯誤をしている人だから。エルトンとも仕事をしているっていう意味でも、三船くんとこのタイミングで出会えたら面白いかなと思ったんです。

クロダ:何かふたりの間に、共通する感覚やトピックみたいなものはありましたか?

佐々木:俺と三船くんは1個違いだから、2000年代のインディをどう捉えていたのかっていう話が面白くて。彼はどっぷりそっち側にいるというか、バンドもアーケイド・ファイアとかダーティ・プロジェクターズからめっちゃ影響を受けていると思し、横並びで聴けるくらいのものを作っていると思うんだけど。その文脈で三船くんと話していたら、シカゴにおけるもう1個のキーワードがあることに気づいて。USインディで一番ピンとくるのがウィルコだったんだけど、あれもシカゴのバンドなんですよ。

クロダ:つまり?

佐々木:プレイリストにポップス・ステイプルズの「フレンドシップ」を入れているんだけど、彼はソウルとかゴスペルの人ですよね。で、もう50年代の人で亡くなっているんですけど、その時のライブ音源が残っていて。それを娘のメイヴィス・ステイプルズがウィルコのジェフ・トゥイーディにアレンジしてくれって託しているんですよ。メイヴィス・ステイプルズはメンフィスの人だから、俺がメンフィスにレコーディングに行った時にまさに彼女もレコーディングをやっていて、それで俺の中でシカゴに繋がっていったんです。

クロダ:ああ、ウィルコを介して?

佐々木:そう。チャンスとかと同じ文脈にヴィック・メンサってラッパーがいるんだけど、彼は若い頃にバンドをやっていて、そのプロデュースもウィルコもやっている。だからブルースもウィルコに繋がっていき、チャンスにもウィルコが繋がっていって、ラップもウィルコに繋がっていく。三船くんもUSインディ的な意味で影響を受けているから、そういう意味でジェフ・トゥイーディっていうのは、奇跡的にみんなの間にいる人かもしれないって思った。それだけ器のデカい存在なんだなって。きっとこの地図はたぶんまだみんな描けてないよねって三船くんとも話しているから、これをひとつに繋げられたら凄く面白いよねって思っています。

クロダ:それ、絶対に未踏だと思います。

佐々木:うん。

クロダ:少し話は変わりますが、今ってコーラスのある音楽も増えていると思うんですけど。やっぱり潜在意識的に、祈りたいっていう感覚があるんですかね?

佐々木:祈りっていうのはめちゃくちゃあると思う。まあ、人によってはポップ・ミュージックのひとつのスタイルとしてやっているだけっていうのもいるとは思うんだけど。ただ、メンフィス行った時に教会に行かせてもらって。ゴスペルを見たら超ホットなんですよね。

クロダ:ホット?

佐々木:もう絶叫して祈るみたいな。それでもピッチが良くて歌上手いんですけど(笑)、そういうソウルフルなところがあるんですよね。逆に言うと、チャンスとかもヨーロッパではちょっと引かれているみたいですよ、歌詞が宗教的過ぎるって。あの「3」も三位一体の「3」だから、ちょっとこいついい子過ぎない? みたいな。日曜日真面目に教会行くことにケッって思っているヨーロッパの人も多いみたいだから、そういう人にはちょっと引かれているみたいですね。

クロダ:ああ、ただ、佐々木さんは本当に惚れてますよね?

佐々木:そうだね…… 本当に彼の凄いところはいっぱいある(笑)。まずヴォーカリストとして凄い。あの感じでラップしてもああはならないというか、あの人はめちゃくちゃ歌が上手いしゴスペルもできるし弾き語りもできちゃうから、音楽的なんですよね。そのレベルの高さに惚れているっていうのもあるし、あとリリース形態だったり、地元にどうやって還元するかっていうことを考えている器のデカさにもヒーロー的なものを見ちゃうというか。

クロダ:ヒーロー、なるほど。音楽っていうのは向こうではまだドリームとして機能しているとは思いますか?

佐々木:めちゃめちゃドリームだと思う。YouTuberみたいなもんで、「これがあればどうにかなるかもしれない」っていう希望を持っているというか。俺が好きな話があって、ジ・インターネットのスティーヴ・レイシーが、子供の時とにかく親にiPhone買ってくれって言ってたみたいで。ようやく買ってもらった時に、彼はガレージバンドを使って「これでグラミー獲れる」と思ったらしいんですけど。それでマジで獲るっていう(笑)。

クロダ:すげえ(笑)。

佐々木:昔不良でも貧乏でも質屋に行けばギター買えたっていうのと同じドリームなんですよ。マジでみんなこれに賭けてるし、だからラップのスキルもマジで上手いっていうところはあると思う。で、そこで時代が進化したなって思うのは、ビリー・アイリッシュ的なものがアリになっているところ。ゴスペルにしろラップにしろ、歴史があるし文脈もあるんだけど、「それを知らないでやるなよ」っていうのは結構ナンセンスで。音楽家のひとつの技術とかスキルとして完成されているものだったりして、みんながアクセスしてみんながやっていいものになっていることが豊かだなて思う。

クロダ:じゃあ、iPhoneもPCも学も最初っから持っている我々はどうするのかっていうところでもありますよね。

佐々木:そう、そうなんですよ。でも、結局スキルを積むっていうのは変わんない感じはしています。スーパー天才はもう埋もれないから、そうじゃない奴らはスキルを積んでいくしかない。その時に卑屈になってもしょうがないし、それに、今は歳も関係なくなってきていると思うから。自分も新しいものを発明したいっていうのは凄く思っているし、チャレンジ精神はずっと持っていたい。

クロダ:じゃあ、新しいものを発明するためにも、一先ず色んな人に会っていきましょうか?

佐々木:うん、とりあえず今は、Spotifyの人と話てみたい(笑)。

クロダ:連絡してみます……!

ということで、次回はSpotify Japanに行って、中の人と話しに行くつもり。
Spotifyというストリーミング・サービスがずいぶん普及してきたけど、どんな人がどんなつもりでやってるのか謎じゃないですか?

よろしくどうぞ。

佐々木亮介
a flood of circle(ア・フラッド・オブ・サークル)のフロントマン佐々木亮介。2016年にソウルの聖地メンフィスで現地のミュージシャンとセッションして作り上げた1stミニアルバム『LEO』をリリース。2017年、ライブ会場限定で発売された『大脱走E.P.』では逆にすべての楽器をすべて自分で担い、トラップビートなどを取り入れたR&B/ヒップホップシーンとの同時代性を意識した内容の作品を制作。

2019年2月にはシカゴのClassick Studiosで4曲を録音。ミックスエンジニアはChance The Rapperなどを手がけるElton Chueng(エルトン・チャン)が担当。さらに東京でも4曲を録音し、こちらは共同プロデューサーとしてROTH BART BARON(ロット・バルト・バロン)三船雅也が参加。何にもラベリングできないポップミュージックアルバム『RAINBOW PIZZA』を作り上げ8月21日にリリースする。

<リリース情報>

佐々木亮介 / Ryosuke Sasaki / LEO
『RAINBOW PIZZA』
発売日:2019年8月21日(水) 
初回限定盤:CD+DVD 3,000円+税
通常盤:CDのみ 2500円+税1. Fireworks feat.KAINA(Chicago Mix)
2. Meme Song(Chicago Mix)
3. Bi-Polar Tokyo/ 双極東京(Chicago Mix)
4. Just 1 Thing(Chicago Mix)
5. Sofa Party(Tokyo Mix)
6. Game Over(Tokyo Mix)
7. Snowy Snowy Day, YA(Tokyo Mix)
8. We Alright feat.三船雅也(Tokyo Mix)
【DVD】
「Behind The Scenes : RAINBOW PIZZA from CHICAGO」 
シカゴまでの道のり、レコーディング風景などを収めた5日間の旅のドキュメント映像と「Just 1 Thing」のスタジオでのチェック映像も収録
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