SUMMER SONIC 2019東京公演の初日・8月16日(金)、MARINE STAGEに登場したウィーザーのライブレポートが到着。執筆者は荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)。


5年前の2014年、『Everything Will Be Alright In The End』リリース時にインタビューした際、何より驚いたのはフロントマンのリヴァース・クオモが「今の僕達はライブバンドになった」と明言したことだった。「毎晩、ショウでファンからのエネルギーを受け取ることが、今も僕達がロックし続けることのインスパイア源」と言い切るリヴァースは、1996年(もう23年も前!)の初来日時にほぼ突っ立っているか体を左右に動かすぐらいしかせず、オーディエンスを楽しませることに対して後ろ向きだった内気な青年とはまるで別人。その取材で、リヴァースはメインストリームにギター・バンドの居場所がなくなり始めていることにも言及した。

「(最近のヒット曲には)ザクザク鳴るギターが入ってない。そういうギターがなくなってしまった状況で、キッズはどうやって生き延びてるんだろう?って、思わずにはいられないよ」

「音楽シーンは物凄く変化してる。さらに軽いものになっている感じだから、今はその中で、ウィーザーが凄く突出した存在になると思うんだ」

ソングライティングに外の血を積極的に入れ、プロダクションにおいてもサウンドのアップデートを試み続けてきたウィーザーだが、「ウィーザーの魅力とは何ぞや?」という部分でのこだわりは一貫している。メロディの可能性をとことん追求する一方、ラウドなギター・サウンドと、それが最高に活きるビートのあり方を頑固なまでに保ってきた。

サマソニ出演の直前、8月14日(水)に東京・豊洲PITで開催された単独公演は、途中にスコット&リバースのセットを挟み、計27曲も披露する大盤振る舞い。そのうち7曲が『ブルー・アルバム』の通称で知られる1stアルバム、5曲が2ndアルバム『ピンカートン』からという構成で、ファンを驚かせた。セールスが不調に終わった他国と違い、ヘヴィで私小説的な内容の『ピンカートン』がリリース時から熱狂的に支持されてきた日本のファンに対する、粋なサービスだ。

しかしこれがサマソニのメイン・ステージとなると、当然訳が違う。8月16日(金)、マリン・ステージのセットリストは一見さんを意識したのだろう、『ピンカートン』収録曲はゼロで、今も彼らの代表作である『ブルー・アルバム』から5曲、年始に緊急リリースされたカバー曲集『ティール・アルバム』から2曲、残りは人気曲をまんべんなく拾った鉄壁の12曲。
フェスの場に相応しい、ウィーザー流パワー・ポップの魅力をわかりやすく伝えるメニューを用意してきた。3月にリリースした最新のオリジナル・アルバム『ブラック・アルバム』から1曲も演奏しないという割り切りっぷりは大胆だが、前述した通り、「ウィーザー=ライブバンド」という意識が働いた結果と考えれば、これも不思議ではない。

サマソニ現地レポ ウィーザーが試行錯誤の末に到達した「ライブバンド」としての生き方

Photo by Kazushi Toyota

ライブは予定の16:40ちょうどにスタート。ただでさえ例年より人が多いスタジアムに、とめどなく観客が入り続けてきて、2階席のてっぺんまでみるみる満員になっていく。こんな大観衆の前でウィーザーが演奏して大丈夫なのか……と、やや不安な気分でいると、1曲目は堂々の「バディ・ホリー」! ちょうどタイミングよく昨日公開されたインタビューでリヴァースは選曲のポイントについて語っており、「みんなが知ってるエネルギッシュで楽しいポップソング」をラストまで温存せず、序盤でしっかり鷲掴みにする技を会得したようだ。リヴァースは「バディ・ホリー」について、「自分たちが何者で、どこから来て、どれだけウィーザーを愛しているかを思い出させてくれる」と素直にコメントしており、成熟を感じさせる。

ステージ上には、アイボリー・カラーのギブソンSGを抱え、同じ色のハットを目深にかぶったリヴァース。彼の左右には、リヴァースよりもずっとロックスターらしい衣装をまとうようになったブライアン・ベル(Gt)、スコット・シュライナー(Ba)が。そして後ろに目をやると、デビュー以来変わらない普段着仕様のパトリック・ウィルソン(Dr)が元気にビートを叩き出している。ツアーにサポート・メンバーを迎えた時期もあったが、やはりこの凸凹4ピースこそウィーザーの信条。バックドロップにWのシンボルマークを掲げている以外、演出らしい演出も一切なく、この後に登場したThe 1975の豪華絢爛な視覚効果と比較すると簡素すぎるほど簡素だ。シンプルに音のみでぶつかって行こうという気概のあらわれとも思える。


印象に残ったのは、リヴァースのコミュニケーション能力の高さ。「ちょっとジメジメですね……ハジメジメまして!」と渾身のオヤジギャグも繰り出しつつ、「パーフェクト・シチュエーション」や「アイランド・イン・ザ・サン」では客を盛んに煽って合唱を誘う。皆が僕たちの曲を知っている、という自信がなければ成立しない芸当だ。今の彼らは、それが可能な厚い信頼関係をオーディエンスとの間にしっかり確保している。

サマソニ現地レポ ウィーザーが試行錯誤の末に到達した「ライブバンド」としての生き方

Photo by Kazushi Toyota

しつこいようだが、初期のライブではリヴァースはただ突っ立って歌うばかりで、さっさとライブを終わらせてここから去りたい、という感じの苦悶の表情すら浮かべることもあったのだ。ステージでの道化役はもっぱらベーシストのマット・シャープの仕事で、熱狂する観客を無表情で見ながら歌うリヴァースにはロックスターらしい精気が欠けていた。そうした態度を、むしろクールであると受け止めていたファンも少なくなかったと思う。長い長い試行錯誤の末、ファンとの交歓を信じられるところまで来たリヴァースは、「ライブバンド」としての生き方を肯定できる境地に達したのだ。普通のバンドなら最初からそこがモチベーションになりそうなところだが、ウィーザーはそうではなかった。

サマソニ現地レポ ウィーザーが試行錯誤の末に到達した「ライブバンド」としての生き方

Photo by Kazushi Toyota

2曲のカバー・ソング、TOTOの「アフリカ」とa-haの「テイク・オン・ミー」は、まるで自分たちの曲のような顔をして淡々と歌う様子が痛快。誰もが知っている大ヒット曲をわざわざ取り上げたのも、「ライブバンド=ウィーザー」ならではのチョイスと言えるだろう。この2曲ではいにしえのシンセ、プロフェット5をブライアンが操る。
「テイク・オン・ミー」の間奏では、元メタル小僧のリヴァースが流麗なタッピングを披露する場面もあった。

ラストの「セイ・イット・エイント・ソー」でも、見せ場はリヴァースのエモーショナルなギター・ソロ。思えば『ブルー・アルバム』がリリースされた94年当時、ニルヴァーナ以降のオルタナ・バンドにとってメタル/ハード・ロック的な要素を前面に出すのは御法度だったが、ウィーザーは開けっぴろげにキッスやクワイエット・ライオットへの愛を表明し、「ホリデイ」でもブライアン・メイを思わせるフレーズを平然と鳴らしていた。メタル/ハード・ロックにどっぷり漬かっていた青年がピクシーズやニルヴァーナと出会ったことで、ウィーザーはあのような味わい深いパワー・ポップを編み出すことができたのだ。そうした”原点”を示す「セイ・イット・エイント・ソー」を、今も情感豊かに、たっぷりと熱を込めて表現できるウィーザーは、恐らく誰よりもウィーザーのファンなのだろう。この熱が失われない限り、彼らはまだまだ息の長い活動を続けられるはずだ。

〈セットリスト〉

1.Buddy Holly
2.My Name Is Jonas
3.Perfect Situation
4.Surf Wax America
5.Africa
6.Hash Pipe
7.Undone – The Sweater Song
8.Take On Me
9.Island In The Sun
10.Beverly Hills
11.Pork And Beans
12.Say It Aint So

サマソニ現地レポ ウィーザーが試行錯誤の末に到達した「ライブバンド」としての生き方

Photo by Kazushi Toyota
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