EDM/ダンス系アクトが大勢を占め、前二日以上にノリの良い観客で満員となったサマーソニック2019東京、最終日。ゼッドが「これぞEDM」というお手本のようなセットでスタジアムを熱狂の渦に包んだ後、いよいよ3日間の最後を飾るヘッドライナー、ザ・チェインスモーカーズの登場となった。


チェインスモーカーズはフォーブズ誌発表の「世界で最も稼ぐDJランキング2019」で、6年連続首位を守ってきたカルヴィン・ハリスから首位を奪った、名実ともに世界最高のEDMアクト。ただ、ライブを見る限り、彼らのことを単純に「DJ」と称するのは的を射ていないのでは、とも思う。全編でサポートにドラマーを迎え入れ、ドリュー・タガートがマイクを手にポップスター然としたパフォーマンスを見せる彼らのライブは、EDMの常識を覆すものだった。

アレックス・ポールの鳴らすシンセと激しいドラミングを受けて登場したアンドリューは、そのままDJ卓には向かわずにステージ前方にあるマイクスタンドへ。「Summersonic Tokyo, You Ready?」とオーディエンスを煽り、「1,2,3,4!」「Everybody Jump!」と一気にスタジアムを揺らしていく。その後、聴こえてきたのはメランコリックな女性の歌声。カナダ人シンガーのレノン・ステラが歌う最新シングル「Takeaway」だ。それまでの盛り上がりから一転して、会場はしっとりとしたムードとなり、ビートに体を揺らしつつもドリューの歌声に聴き入っていた。

サマソニ現地レポ ザ・チェインスモーカーズが花火と合唱で彩った20年目のフィナーレ


サマソニ現地レポ ザ・チェインスモーカーズが花火と合唱で彩った20年目のフィナーレ


キャリア初期のヒット曲「Roses」を披露した後、ドリューが「知っていたら皆で歌ってくれ」と話して歌い出した曲は、なんとレッド・ホット・チリ・ペッパーズの大名曲「Under The Bridge」。このカバーは今年のロラパルーザでも披露されていたため、サマソニだけの特別仕様ではなかったのだが、それでも前日のヘッドライナーを務めたレッチリの曲をチェインスモーカーズも歌うという流れには感慨深いものがある。

その後もドリューはマイクを手に歌ったかと思えば、DJ卓で演奏に参加し、時にドラムパッドを叩いたりアコースティックギターを弾いたりと、八面六臂のパフォーマンスでステージを駆け回る。バキバキのEDMから凄まじい低音が鳴り響くトラップ、ムーディなバラードと、音色とビートが目まぐるしく変化していく様は、まるでジェットコースターに乗っているかのようにスリリングだ。


サマソニ現地レポ ザ・チェインスモーカーズが花火と合唱で彩った20年目のフィナーレ


生のライブ感を重視した彼らのパフォーマンスは、有名曲を繋いでオーディエンスを煽り、とにかくフロアを盛り上げるというEDM系DJの定石とはかけ離れている。とは言え、DJとしても一流だからこその卓抜したマッシュアップセンスも健在。自身の楽曲をベースとしながら、曲間でアイズレー・ブラザーズ「Shout」、ケンドリック・ラマー「DNA」、ホワイト・ストライプス「Seven Nation Army」といったヒット曲のワンフレーズを次々に挿入していくのだ。そこには、ライブアクトとしての矜持とDJとしての矜持の両方が垣間見えた。

サマソニ現地レポ ザ・チェインスモーカーズが花火と合唱で彩った20年目のフィナーレ


終盤にはドリューがアコースティックギターを手にして「This Feeling」をオーディエンスと共に大合唱。その後、BPMが少しずつ加速して、ゾンビネイション「Kernkraft 400」のお馴染みのフレーズで会場を熱狂のダンスタイムへと誘い、ラストの「Something Just Like This」へ。最後のコーラスに合わせて特大の花火が何発も打ち上がり、夜空に大輪の花を咲かせた。その完璧なタイミングに、会場は長い間どよめきに包まれていた。

花火と大合唱に彩られたチェインスモーカーズの美しい歌は、夏の終わりを感じるにはうってつけのエピローグとなった。さらには20周年を祝したサマーソニック2019の締めくくりとしても、これ以上ないほどのエンディングだったと言えるだろう。世界標準のアーティストが揃う数少ない日本のフェスとして、サマーソニックは今年もその重要な役割を見事に全うしてくれた。
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