まずは「20周年のサマソニで、日本人初のヘッドライナーにBz」というブッキングに対する所感から書かせてもらいたい。ひとつ前に出演したTHE 1975の、音楽的には洗練されつつ、生々しい人間味も感じさせる素晴らしいパフォーマンスを観た直後は、正直彼らがヘッドライナーでも全然アリだったなと感じた。


サマソニはこれまでも海外の有望株をいち早く日本に紹介する役割を担い、かつてはアークティック・モンキーズが若くしてヘッドライナーに抜擢されたことを思えば、このタイミングでTHE 1975がその役を担うというのは、とてもサマソニらしいブッキングになったはず。「わざわざ日本人にしなくても……」と思う人の気持ちもわからなくはない。

ただ、Bzが特にキャリアの初期において、邦楽と洋楽を繋ぐ存在だったことは理解されるべきだ。まだ「J-POP」という言葉も一般的ではなかった1980年代後半、チャートの世界において邦楽と洋楽にはっきりとした壁があった中、Bzは「洋楽からの影響を受けた自分たちがいかに邦楽というマーケットに入っていけるか」をテーマに掲げ、それを短い期間で実際に達成してみせた。30代~40代のハードロックを通過しているリスナーの中で、「Bzが洋楽への入口だった」という人はきっと多いはず。その姿勢はサマソニの信念ともリンクしていると言えよう。


一昨年に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」と「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に出演し、いわゆる「邦ロック」の野外フェスを初めて経験したが、これまで複数回出演している野外フェスはサマソニだけというのも、Bzの出自をよく表している。同日のRAINBOW STAGEのヘッドライナーを務めたのは、Bzの先輩格に当たり、海外でも活動を展開するLOUDNESSで、大阪のMOUNTAIN STAGEのヘッドライナーを務めたのが、日本のHR/HM文化の結晶であり、やはり海外にも進出しているBABYMETAL(10月に発表されるニューアルバム『METAL GALAXY』には、松本孝弘の参加が発表されている)だというのも、文脈が読み取れる。

Bz自体はあくまで日本を拠点にキャリアを重ねてきたが、松本はラリー・カールトンとのコラボレーションでグラミー賞を受賞。もちろん、リンキン・パークや、「AEROSONIC」で共演したエアロスミスなど、サマソニと縁が深い海外アーティストとの交流も十分。以上を総合して考えた結果、僕の中で「20周年のサマソニで、日本人初のヘッドライナーにBz」は大いにアリ。さあ、御託を並べるのはこのくらいにして、ITS SHOWTIME!!

「王者の帰還」を示した一曲目の「RED」

日はすっかり暮れ、台風の影響で吹き荒れた強風も弱まり、アリーナ後方からスタンドまでびっしりオーディエンスで埋まった中、一曲目に演奏されたのは「RED」。
メジャーリーグから広島に復帰した黒田博樹投手の登場曲として書き下ろされた楽曲だけあって、ビッグなコーラスを含む文字通りのスタジアム・ロックであり、まさに「王者の帰還」という印象。ステージ上には両サイドにギターアンプがずらりと並び、音圧がものすごいし、そんな中を突きぬけていく稲葉浩志のシャウトもすごい。続く「声明」の〈この度私は変わります 真新しい朝にwake up wake up/限界もNGも無くします 少々痛いのも気にしません〉という歌詞は、20年目にして初の日本人ヘッドライナーというシチュエーションとも見事にリンクしていた。

この日のステージと2017年のフェス出演の大きな違いは、現在彼らはアルバムのリリースツアーである「LIVE-GYM」の真っ最中であり、なおかつ、今回のツアーからサポートメンバーが一新されたことが挙げられる。2017年のフェスでは、長年ステージをともにし、Bzの楽曲を知り尽くしたメンバーだったこともあって、90年代、00年代、2010年代の楽曲をバランスよく並べたセットリストだったが、今回はLIVE-GYMの濃縮版のようなセットリストで、5月に発表した最新作『NEW LOVE』の収録曲をはじめとした2010年代の楽曲が中心。デビューから30年以上経過したバンドが、往年のヒット曲を連発するのではなく、あくまで現在のモードでヘッドライナーを務めるというのも、フェスとの信頼関係が感じられる。


一新されたサポートメンバーの中で、ギタリストのYukihide”YT”Takiyamaとともに、その存在感が光っていたのは、紅一点のベーシストであるモヒニ・デイ。ジャコ・パストリアスのカバー動画が話題となるなど、若くして注目され、現在まだ20代半ばの彼女は、5弦ベースでバンドの重厚なグルーヴを支え、稲葉の遠吠えがチャーミングなファンクナンバー「WOLF」のような曲では特に生き生きしているように感じられた。ちなみに、キャリア初期のBzの音楽性は、松本がTM NETWORKのサポートを務めていたこともあり、「ハードなギターサウンドと打ち込みのダンスビート」が基本で、プリンスであり、「黒いレッド・ツェッペリン」とも呼ばれたリヴィング・カラーなどが参照点。つまり、ファンク色はBzの王道のひとつであり、その点でも今回のモヒニの起用は納得で、ときおり披露されるテクニカルなタッピングやスラップもいいアクセントになっていた。

サマソニ現地レポ B’zが「ホームグラウンド」の20周年を圧巻のライブで飾る

©VERMILLION

オーディエンスをフィーチャーしたり、ギターソロを弾く松本が雷に打たれたりと、スクリーンを使った演出も楽しい「トワニワカク」や「有頂天」に続いて、早くも「ultra soul」が披露されると、お馴染みの〈ウルトラソウル!ハイ!〉で、この日最初のピークを迎える。近年はライブ終盤で演奏されることが多かったが、昨年のベスト選曲ツアー「Pleasure」で1曲目に演奏されたのに続き、現在では中盤に置かれていることも、Bzが新たなモードに入ったことを伝えている。


「兵、走る」から浮かび上がるストーリー

2001年にシングルで発表された「ultra soul」は、当時当然のようにチャートの1位を獲得したものの、Bzのキャリアの中で見れば特別ビッグヒットを記録したというわけでもなかった。しかし、00年代から2010年代へと移り、「ライブ/フェスの時代」を迎える中で、あの「ウルトラソウル!ハイ!」があらためてフィーチャーされることで、Bzの新たな代名詞となっていったのである。メガヒット時代の申し子であったBzが、ライブ/フェスの時代をサヴァイブする上での最重要曲、それが「ultra soul」だったのだ。

中盤でミドルバラードの「マジェスティック」が演奏されると、スタンドから自然とスマホのライトが照らされ、幻想的な美しい光景がスタジアムに広がる。さらに、前半はアコースティックにアレンジされた「裸足の女神」が後半からバンド・サウンドに変わると、大合唱が巻き起こる。1993年のリリースと、この日披露された曲の中では最も古い曲だが、やはり愛されている曲だ。
キーボーディストのサム・ポマンティによるシンセベースソロから、ドラマ主題歌として若い世代の中でも知名度の高い「イチブトゼンブ」、そして、「ハードなギターサウンドと打ち込みのダンスビート」の最新型である「Still Alive」でこの日2度目のピークを迎える。

サマソニ現地レポ B’zが「ホームグラウンド」の20周年を圧巻のライブで飾る

©VERMILLION

ホワイト・スネイク、オジー・オズボーン、スラッシュらと共演してきた歴戦のドラマーであるブライアン・ティッシーが、スティックを放り投げながらの曲芸のようなドラムソロで沸かせると、衣装替えをした稲葉が「デウス」を歌い上げ、「兵、走る」では歌詞に出てくる〈花吹雪〉が大量に舞うなど、後半も華やかなステージを展開。フェスでBzを観るといつも思うのだが、彼らはとにかくステージの使い方が上手い。昔のように一心不乱に駆け回ることはなくなったが、ライブ中常に端から端へと動きながら歌い続ける稲葉のすごさを改めて思い知る。

バンド、スタッフ、オーディエンスの繋がりを歌ったBzのライブにおける最重要曲「RUN」はフェスではなかなか演奏されないが、「兵、走る」という曲が30周年を過ぎたこのタイミングで作られ、フェスで演奏されることからはストーリーが浮かび上がる。つまり、CDとライブでオーディエンスとの濃密な関係性を作り上げた「RUN」の時代を経て、「ultra soul」で獲得したより幅広いリスナーも連れて、その全員でこの先も走り続けることをもう一度宣言するのが「兵、走る」なのだ。
〈ゴールはここじゃない まだ終わりじゃない 止むことのない歓声/今日を生きるため 明日を迎えるため 誇り高きスピードでTRY〉という歌詞からも、「RUN」とのシンクロが感じられる。

サマソニがBzにとって唯一のホームグラウンドフェスである理由

終盤にさらなる熱狂を作り上げたロックナンバー「juice」では、クールなジャズファンク調の間奏でスタジアムを埋め尽くしたオーディエンスとコール&レスポンスをして、ラストは「さまよえる蒼い弾丸」での稲葉のロングシャウトでフィニッシュ。30年を越えるキャリアの凄味と、新しいメンバーとのフレッシュな演奏を楽しむロック少年の心が同居したような、実に清々しいステージだった。

ライブが終わってあらためて感じたのは、サマソニがBzにとって唯一のホームグラウンドフェスだということ。その理由は、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」のひたちなかや、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」の石狩に対して、マリンスタジアムは勝手知った会場だというのがひとつ。そして、それ以上に大きいのが、Bzとサマソニの歩みのリンクだ。最初にも書いたように、サマソニには海外の有望株をいち早く日本に紹介するという顔がある。しかし、その一方で、ノンジャンル化によってオーディエンスの間口を広げ、フジロックとはまた別のやり方で、日本におけるフェスの可能性を切り開いてきたのもサマソニである。

例えば、かつては「アイドル枠」的な見られ方もしていたPerfumeが、今年コーチェラに出演し、サマソニでも堂々MARINE STAGEに出演と、今ではロックファンからも一目置かれているのがわかりやすい。Bzもかつては「ハードロックがベースにありつつ、ミリオンを連発するJ-POPのトップランナーでもある」という立ち位置が孤高過ぎて、どの枠にも当てはまらない時期があったように思う。しかし、自らの信じる音楽を作り続けながら、少しずつ活動の幅を広げる中で、Bzとサマソニは交わることとなった。

Bzがサマソニに初出演した2007年は、まだ「Bz?」という懐疑的な目線が強かったかもしれない。しかし、今ではいろんな音楽をフラットに楽しむ幅広い世代のリスナーが、それを叶えてくれるサマソニという場所で、日本のトップランナーであるBzを純粋に楽しむという環境が整った。この日のライブはそれを確かに証明していたと言っていいだろう。やはり、サマソニはBzにとって唯一のホームグラウンドフェスなのだ。