大人に媚を売らない芯を持った性格で、BiSHではあまり言葉を多く発しなかった彼女が、別人かのように自分を発揮しバンドサウンドをかき鳴らす。まさにアユニ自身のオルタナティヴ・サイドを遺憾なく発揮しているPEDROとは何なのか? その根底をロングインタビューで探った。
─PEDROを始めるまで、アユニさんはバンドやロックに対してどういう思いを持っていたんでしょう?
アユニ:バンドを始めるまで、私は別に音楽がなくても生きていける側の人間だったんです。人生の中でバンドとかロックに踏み入れるきっかけもなくて、バンドのよさも知らなかった。よく、「音楽は酸素みたいなもの」って言う人がいるじゃないですか? 今はその意味が分かるようになって。家から出るときにイヤホンを忘れたら、その日1日は地獄だってなります。
─それは、聴く音楽が変わったからなのか、自分で楽器を弾くようになって聴き方が変わったからなのか、どっちなんでしょうね。
アユニ:どっちもですかね。私は興味が出たら深くまで調べてしまう性質があって。バンド好きな友達から80年代、90年代の海外音楽や映画を教わるうちに興味が深くなって、自分でも調べるようになっていったんです。
─その入口の1つとして、バンドメンバーである田渕ひさ子さんの存在も大きいんですよね。
アユニ:田渕さんがきっかけでNUMBER GIRLもbloodthirsty butchersの映像も観たし、田渕さんがギター・マガジンで連載していたコラムも読みました。
─音楽を掘っていく中で、自分にフィットする音楽はありましたか?
アユニ:USガレージロックの番長みたいに言われているタイ・セガールの音楽がめっちゃ好きです。PEDROのツアーSEにも使っていますし、私が作曲で携わった「EDGE OF NINETEEN」はタイ・セガールみたいな曲にしたくて松隈ケンタさんと話をして作り上げました。その曲だけ一発録りだったんですよ。
ー「EDGE OF NINETEEN」は、田渕さんのギターが1番映えている曲だなと思いました。
アユニ:NUMBER GIRLリスペクトも込めて、似たようなリフとかも入れたので、PEDROのこの13曲の中では田渕さんっぽいのかもしれないですね。
「自分が書いた歌詞を自分の口で歌えるというのは全然感覚が違う」
─アユニさんは、歌詞を書くにあたってどういうことを意識しているんでしょう? BiSHで書く歌詞とは違うなという印象があります。
アユニ:BiSHの歌詞は、自分のことしか書いていなかったんですよ。誰にも媚びを売らずに自分の思ったことを書いていた。
─漫画なり映画なりに、具体的にインスパイアされた曲はありますか?
アユニ:「Dickins」という曲は、『ローズ・イン・タイドランド』という映画に出てくる、あまり大人になれないディケンズという男の子を基に書きました。ドラッグ中毒で両親を亡くした10歳の少女ジェライザ・ローズが、誰もいない街で1人で暮らしていくみたいな結構ディープな映画で、結構エグかったので印象的だったんです。「STUPID HERO」はスナフキンみたいな自分の中で憧れている男の人を妄想で作って、その人のセリフとしてかぎかっこの中の歌詞は書きました。その他は松隈さんの仮歌に入っていた仮詞から広げたものもありますが、自分を基に書いた曲ですね。
─自分で書いた歌詞を、BiSHで歌うのと、PEDROで歌うのでは、感触は違ったりするものなんでしょうか。
アユニ:自分が書いた歌詞を自分の口で歌えるというのは全然感覚が違いますね。

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─以前別のインタビューで、いい意味で周りのことが気にならなくなったと言っていたじゃないですか? それも歌詞を妄想で書いたりするようになったのと、連動しているんでしょうか。
アユニ:そうですね。前までは周りを気にしすぎた結果、自分が嫌になってヘイトが溜まって、それを歌詞にして発散するみたいな感じだったんですけど、今はそういうことは全然なくなりましたね。
─BiSHの「本当本気」とかは、まさにそういう書き方だったのかなと。
アユニ:あれは完全に人が嫌で嫌で、自分が思っていることを書くぞ! って書いた歌詞でしたね。
─アユニさんは、同調圧力みたいなものに対してストレートに嫌だなと思うし、そこに媚びない。そこがいいところだと思います。もっと広く考えると、今の社会に対して、息苦しさとか感じたりしているのかなと思って。
アユニ:いや、今まで世の中生きづらいとか、自分が昭和とかもっと昔に産まれても生きづらいんだろうなと思って生きてきたんですけど、それって自分以外のことを考えているから生きづらいのかなと思って。いい意味で、自分を中心に世界が回っているんだと思い込むようにしたら、だいぶ楽になりました。
「中学生の頃は、歳を取るのが嫌すぎて泣いていたんですけど、今はそこに抵抗はない」
─実際、アユニさんはPEDROをはじめてから、別人かと思うくらいしゃべるようになりましたよね。
アユニ:もともと全然しゃべれなかったし、考え方も暗くて、自分が異常だと思っていたんですけど、最近はそれがなくなりました。今まで猫をかぶったり、枠にはまらなきゃいけないと思っていたんです。BiSHはメンバーが6人いるので、全員が同じ方向を向かなきゃいけないんじゃないかと難しく考えることが多かった。この間のBiSHの「LiFE is COMEDY TOUR」でモモカン(モモコグミカンパニー)が、「6人いたらそれぞれ向いている方向は別に違くてもいい、違うのが当たり前だ」ってMCで言っていて。それがすごく自分の中で響いたんです。私は団体行動も一致団結みたいなものもすごく苦手だったので、違う方向を見ているというのが当たり前なんだということに最近気づかされたんです。
─「本当本気」もそうですけど、アユニさんは年齢を歌詞に入れることが多いじゃないですか? 大人になることに対して、どういう気持ちでいるんでしょう?
アユニ:小さい頃は、大人になるときは、すべてが大人になると思っていたんですけど、心とか感覚はあまり変わらないまま歳を取るんだなってことに気がついて。所謂青春のゾンビというか、30代の人でも「20代の頃と中身は全然変わっていないよ」って言う人、よくいるじゃないですか。その感覚がわかってきた。中学生の頃は、歳を取るのが嫌すぎて泣いていたんですけど、今はそこに抵抗はないです。
─中学のときは歳を取るのが怖くて泣いていたんですか(笑)?
アユニ:ずっと15歳でいたかったんです。あと、白人の子どもに産まれたかった。
─同世代の子からすると、アユニさんに憧れている子も多いと思います。そういうことに対してはアユニさんはどう思いますか?
アユニ:自分ではそんなこと全然ないと思っていて。たぶんないものねだりだし、今の自分が1番自分に合っているんですけど、普通の女の子がうらやましいなと思うこともあります。花火をして遊んだり、好きなアーティストのライヴを観に遠征したり、そういうことがうらやましいなと思う部分もあります。
─アユニさんはかっこいい自分を見せていきたい? あまり見られ方は気にしていない? そのあたりはどういう気持ちなんでしょう。
アユニ:憧れる存在じゃないよって思います。PEDROを始めてから、「アユニに憧れてベースを始めました」って、若い子が特に言ってくださって。こんな私なんかに憧れて、ベースも始めてすごいなと思うし、頑張ってほしいし、楽しんでくれという気持ちはあります。私は特にかっこつけて生きてこなかったし、素のままで世間に出てきてしまったんですけど、それを好きって言ってくれる人がいるのは嬉しいですね。

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─1stアルバムのタイトル『THUMB SUCKER』は、どのような意味を込めてつけたんでしょう。
アユニ:日本語訳すると「親指しゃぶり」なんですけど、直感でつけました。『zoozoosea』は、自分のことしか考えないで媚びを売らず書いたミニ・アルバムで、読んだら嫌な気持ちになる人もいたかもしれないんですけど、今回はわりと人に甘えた精神で書いているので、サムサッカーというのは全体的なテーマに合っているのかなと。一時期、「いいね」という意味のサムズアップという英単語にハマっていて、何を言われてもサムズアップって答えていたんですよ。そのとき、友人がサムサッカーって言い返してきて、何それと思って調べたら、今まで自分が知らなかった単語で。覚えてたての日本語をいっぱい使う人みたいな感覚でつけた部分もあります(笑)。
PEDROとして成し遂げたいこととは?
─PEDROとして何か成し遂げたいとか目標はありますか?
アユニ:いつかは、アルバム全曲自分で作曲できたらいいなと思っています。あと、日比谷野外音楽堂でPEDROのライブをしたい。GO!GO!7188とか、NUMBER GIRLとか、日比谷野外音楽堂ってバンドにとって立つべきというか、特別な場所だと思うんです。BiSHで初めて野音でやったときは、私が本当にグループに入りたてで無知な状態で。あまり思い入れがなかったというか、何も分からない状態だったので。今の思い入れがある状況で立ってみたいです。
─先ほど、ヘイトを歌詞にしていたという話がありましたけど、アユニさんは音楽と出会う前、何に対してそこまで荒ぶっていたと思いますか?
アユニ:誰かがむかつくというよりは、自分自身にむかついていたんです。すごくピンポイントな部分で言うと、学校で先生に当てられて式の答えだけ答えただけでも顔が真っ赤になって汗だくになっちゃったり。人に話しかけられても答えられないとか、そういう自分にむかついていた感じですね。家ではなんでもできていたし、わがままだったりして。仲良い人にはそれがすごくできたのに、その世界から少し離れると、何もできない自分が嫌だった。だから、変わりたいという気持ちは一生あるのかもしれないですね。
─アユニさんなりの哲学やメッセージを人に届けるという意味で、歪んだギターやベースをかき鳴らすのが1番合っているのかもしれないですね。
アユニ:ガレージ・ロックと言われるジャンルの音楽が自分は好みなんです。1つの部屋とか車庫とかで、綺麗すぎない音と言うんですかね。たまにちょっとズレていたり、ベースも埋もれすぎず、ギターもドラムもうるさいような音が好き。そういう音楽にしたくてこのアルバムも作りました。オルタナティヴ・ロックって言われる人たちって、自分たちではオルタナティヴと思っていないけど、世間からオルタナティヴというジャンルにされるじゃないですか? 好きなバンドを調べるとジャンルがオルタナティヴ・ロックって出てくるので、そういう音楽が好きなのかもしれないです。
─アユニさんの媚びない部分というのは、今日の言葉からも姿勢からもすごく見えてきたんですけど、例えばめちゃくちゃアイスクリームが大好きだとか、ディズニーランドめっちゃ行くとか、そういう部分ってあるんですか?
アユニ:私…… めっちゃ部屋が白いんですよ(笑)。部屋が白くて、ベッドがフリフリ(笑)。えーそれくらいですかね。

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─あははは。BiSHとPEDROを両立させて活動していますけど、自分の中でそのへんは上手く棲み分けできているんですか?
アユニ:BiSHをやっているときも別に無理はしていないので姿勢は変わらないんですけど、BiSHにはメンバーが6人いるので、性格の役割みたいなのがあるんです。チッチだったらリーダーシップを持っている性格なのでメンバーをまとめてくれるし、発言とかもいっぱいしてくれる。逆に、PEDROは私が中心なので、自分の欲求とかやりたいこと、衝動に駆られたりしたことを全部やっています。そこは自然と分けてできているんじゃないかな。
─PEDROでは、アユニさん自身を出し切れているんですね。
アユニ:そうですね。今、人生が楽しいです。
<INFORMATION>
『THUMB SUCKER』
PEDRO
EMI Records
発売中
初回限定盤

映像付通常盤

通常盤

オフィシャルHP
https://www.pedro.tokyo/