香取慎吾が新曲「10%」を10月1日にサプライズリリースした。
消費税増税にモロにひっかけた曲名とリリースタイミングといい、そして言葉の響きをむちゃくちゃに暴走させたかのような一見ナンセンスな歌詞といい、いかにもなノヴェルティソングである。実際になにを歌っているのか(あるいは歌っていないのか)についてはひとまずおいておくとして、このノヴェルティ感はどうしても、改元の無根拠な祝祭ムードへ真正面から突入していったゴールデンボンバーの「令和」やキュウソネコカミ「ギリ昭和 ~完全版~」を彷彿とさせる(その並びにGLAYの「元号」を並べてももちろんよいのだけれど、「元号」のあまりに直球なプロテスト・ソングっぷりはさすがにノヴェルティと言うにはしのびない)。まさか消費税増税に便乗するノヴェルティソングがあるとは思いもしなかったが。
という状況を踏まえた上で、楽曲について、ちょっと深入りしていこう。
クレジットに記載の3人のうち権八成裕は、香取とSMAP時代から関わりが深く、「新しい地図」にも携わる広告プランナー。香取慎吾と共に、主に歌詞を担当したものと思われる。ソングライティングやサウンドを担ったのはHIROだろう。三代目 J Soul Brothes やDOBERMAN INFINITYといったユニットに楽曲提供し活躍するプロデューサーでありソングライターである。仕事歴を見てみると、アグレッシヴなダンスサウンドからチル寄りのハウスまでを主な守備範囲として、そこにR&Bのフレイヴァーを調合する。いまやひとつの王道と言える作風が窺える。
曲調はアップテンポなダンスナンバーで、ずっしりと響くキックがリスナーを急かすように打ち付けられ、奇妙な効果音がひっきりなしに鳴り響く。
息をつかせぬかなりタイトな構成で、登場するビートのバリエーションも多彩。しかしこうした手数の多さがJ-POPにありがちな詰め込み過多な印象にはつながらず、むしろにぎやかなダンス・ポップとして「いまっぽく」仕上がっている。テンポ感やうきうきするようなリズムは、アイドルポップスの定番のひとつである「恋はあせらず」歌謡の系譜を変奏したようにも思えるし、キックのパターンだけ取り出すと、マーチングバンドのドラムラインを抽象化&高速化したような印象もある。
という具合に、楽曲としては素晴らしいと思う。きちんとしたクオリティの楽曲をこのようにサプライズでリリースするだけの地力と胆力がこのチームにある、ということの証明でもあることだし。
さて、あきらかに消費税増税を意識したと思しきタイトルであるだけに、注目が集まるのは歌詞だ。前述したように、歌詞は言葉の響きをとにかく優先させ、ダブルミーニングや深読みを誘うフレーズを紛れ込ませながらも、全体としてはむしろ空っぽだ。この歌詞をもっともらしく「読解」するのはちょっと躊躇われる。
単に部分だけ取り出せば、炎上が頻発して疲弊するSNS社会とか、いわゆる「フィルターバブル」に没入する人びとの姿、あるいは増税によってのしかかってくる不安にさらっと言及しているようにも思える。しかしこの歌詞は「10%」を思いつくまま気の向くまま、さまざまな意味へ次々に拡散させていく。単純に数学的な定義、体脂肪率、消費税、好感度、視聴率……と、「10%といってもいろいろあるよね」といった感じ。
これをどう評価したものだろうか。
無節操な連想と音の快楽に導かれてつくられたこの言葉の羅列にある人は元気づけられ(そんなネット記事を見た)、またある人はクリティカルなメッセージの幻影をほのかに期待する(そんなネット記事も見た)。これを文学的な「解釈の余地」と言うべきか、思わせぶりなキーワードに頼った「玉虫色の解釈」と言うべきか、迷うところだ。
いったんその評価を保留し、さらに状況をちょっとだけ俯瞰して、香取慎吾が自分の表現をこのように世間に対して仕掛け、ヒットさせられる、ということ自体に目を向けると、これは頼もしい。なにかといえば慣習にがんじがらめになりがちな芸能・音楽業界にあく風穴であってほしい。しかし、もうちょっと高望みしたいところだ。最後にめちゃくちゃおこがましいことを言うけれど、「新しい地図」的な「質が安定して高く、ネット戦略が巧み」ということ以上の一歩を、香取慎吾に踏み出して欲しい。

香取慎吾
「10%」
配信中
ダウンロード・視聴:
https://lnk.to/Y38rk

『リズムから考えるJ-POP史』
imdkm
四六判・二百六十四頁
価格:1,800円+税
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imdkm(イミヂクモ)
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ティーンエイジャーのころからビートメイクやDIYな映像制作に親しみ、Maltine Recordsなどゼロ年代のネットレーベルカルチャーにいっちょかみする。