動画のデジタル加工の一種「ディープフェイク(動画の人物の顔を別の個人の顔とすげかえる技術)」といえば、特に2020年の大統領選を控えた今、この技術によりフェイクニュースが蔓延し、選挙に支障が出るかもしれない、という話題が大半だ。だが、ディープフェイクの検知や監視を行うサイバーセキュリティ会社Deeptrace Labs社の最新調査によると、ディープフェイクによる最大の脅威は政治とはほとんど関係がなく、むしろ世界中の女性たちが危機にさらされているという。


10月頭に発表された調査によると、インターネット上のディープフェイクの大多数――約96%――が同意のないポルノ映像で使用されているという。つまり、本人の同意なく、勝手にその被害女性によく似た人の画像がポルノに使われているのだ。さらに調査では、具体的にどんな人物がそうしたコンテンツにもっとも頻繁に取り上げられているかにも注目している。こうしたポルノ的ディープフェイクの被写体の大半(41%)はイギリスまたはアメリカの女優であるものの、標的にされた女性の1/4(25%)は韓国系で、調査では韓国のミュージシャンまたはK-POPシンガーに分類されている(調査では個人のプライバシーを考慮して、ディープフェイクポルノに頻繁に取り上げられている人物の名前はあえて公表していない)。

K-POPミュージシャンがこれほど多いということは、ディープフェイクがますます「世界的に」拡大していることを物語っている、とDeeptrace Labs社の調査分析主任、ヘンリー・アジュデル氏は言う。たしかに、Deeptrace Labs社のCEOジョルジオ・パトリーニ氏も7月にTwitterで、AIでもK-POPのディープフェイクは「初期の傾向」として長く現れており、ディープフェイクポルノだけとは限らないにしても、最も頻繁に使われているという。


K-POPスターが特に標的にされやすい理由は、K-POP全体が全世界で爆発的人気を博していることに起因する。推計によれば、BTSやBLACKPINKといったグループの台頭で、K-POPはいまや50億ドルを超える世界的産業に成長した。韓国ではポルノが法律で禁じられ、現在ではほぼ全てのポルノサイトが政府によりブロックされていることもおそらく関係があるだろう。

K-POPアイドルが標的にされる理由

アジュデル氏が言うには、興味深いことに、ネット上のフォーラムでディープフェイクを制作している大半は韓国ユーザーではなく、中国のユーザーであることがデータから判明した。中国は、世界最大のK-POP市場のひとつ。近年両国の外交関係にひびが入り、2016年以来、メジャーな韓国アーティストは中国本土で公演できなくなっているにも関わらずだ。


女性のK-POPミュージシャン特有の性的対象にされる過程――多くの場合、恋愛禁止だったり大っぴらに性生活を語ることはできないにも関わらず、男性よりも女性のスターのほうが性的対象として扱われがちであることが、少なくとも1つの調査で示されている――が原因で、彼女たちばかりがディープフェイクの餌食になっているのではないかと推測されている。「K-POPアイドルのディープフェイクを作るのは、アンチなファンではないかと思います」と言うのは、南カリフォルニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム学部の臨床助教授、ハエ・ジン・リー博士だ。彼女の研究対象には、K-POPと世界のカルチャーも含まれる。「K-POPではイメージが全てであることを考えると、アンチな(男性)ファンにとっては……K-POPアイドルの評判に泥を塗り、辱めること以上に満足できることはないでしょう」

一般的にディープフェイクの制作には、ある一定のプログラミング技能と高性能なコンピューター機器が必要なめ、今でもわりと困難だ、とアジュデル氏。だが、ディープフェイクに興味がある人々に向けたビジネスやサービス――ある人物の画像をアップロードすれば、ポルノ女優の顔と入れ替えて動画を作ってくれる――が出てきたことで、同意のないポルノの製作者がディープフェイク技術に「どんどんアクセスできるようになりました」

「ディープフェイクは、ディープフェイクポルノと同義語として最初は使われていました」と、アジュデル氏はローリングストーン誌に語った。「たしかに議論の内容は変化し、サイバー犯罪や、合成画像をつかったなりすまし詐欺やハッキングなど、さまざまな問題が含まれるようになりました。
議論が多様化するのも当然でしょうね……ですが、はっきり目に見える形で把握できる最も影響が大きく有害な分野は、やはりディープフェイクポルノです」

とどのつまり、Deeptrace Labs社の調査の主要なポイントもここにある。我々がこの驚異的な新技術に政治プロセスが脅かされるかもしれないと恐怖する中(そして連邦および州レベルで、こうした脅威に対抗する法律が導入されていく中)、ディープフェイクは他のどんな用途よりも女性を辱め、隷従させる手段として使われているという事実だ。

「(ディープフェイクが)政治的混乱を招き、政治プロセスを脅かす可能性が十分にあることは我々も認識しています」と言ってアジュデル氏は、Deeptrace Labs社の調査にはガボンやマレーシアなど、動画のデジタル処理をめぐって政治的対話が混乱に陥った国々の例が多数報告されていることを付け加えた。だが、データからはっきりわかることは「ディープフェイクはすでに数千人の女性に害を及ぼしています。人間を様々な方法で傷つけているのです」と、アジュデル氏は言った。