「最狂ライブバンド」の異名を持つ!!!(チック・チック・チック)が、通算8枚目のニューアルバム『Wallop』を携えて10月末よりジャパンツアーを行う。短パン姿のフロントマン、ニック・オファーに今回行った電話インタビューでは、バンドの近況に加えて彼の愛する”猫”にフォーカス。
同じく猫好きの音楽ライター、小野島大が聞き手を務めた。

シンセへの興味と細野晴臣

ー『Wallop』がいよいよリリースされました。反響はいかがですか?

ニック:すごくいいよ。レコードは数週間前にリリースされたばかりなのに、ライブではもうオーディエンスが歌詞を覚えて歌ってくれてたりするんだ。それはかなりエキサイティングだね。

ー意外なリアクションなんかはありましたか?

ニック:マスターピースを作ったわけではないし、人は皆一緒じゃないから意見は色々あるだろうけど、今のところは皆がレコードを気に入ってくれたことがすごく伝わってくる。だから満足しているよ。

ー今回のアルバムの手応え、満足度を10点満点で答えてください。

ニック:もちろん10点満点さ。レコードは毎回そういうつもりで作っているからね。

ー特に満足しているポイントは?

ニック:アルバムに収録されているすべての曲を違うサウンドにする、というのを意識していたんだけど、それを初めて達成できたのがこのレコードなんじゃないかなと思う。45分の中に色々詰まった、本当に旅のようなアルバム。
アルバムの最初から最後まで、さまざまなことが起こるんだ。

ー今回のアルバムは、今おっしゃったように非常に多様なサウンドと、多数の外部アーティストの参加(ライアーズのアンガス・アンドリュー、グラッサー名義で知られるキャメロン・メシロウなど)、そして多数のプロデューサーの参加が特徴です。!!!史上もっとバラエティに富んだアルバムという印象ですが、サウンド上の狙い、コンセプトなどについて教えてください

ニック:これといったものはなかったな。去年、アメリカで日本の80年代のポップスが流行っていたんだけど、細野晴臣とかのレコードはたくさん聴いていた。だから、今回はちょっとシンセに、より深く興味を持っていたというのはあるかもしれない。ラファエルが彼の友人のスタジオで作業を始めて、そこにあったシンセを使い方がわからないまま色々といじって、そこから曲を作っていったんだ。だから、シンセが最初にあったイメージかもしれないな。

ーほう。前作はUKガラージや、あるいはムーディマンのようなデトロイト・ハウスなどが参照点にあるようでしたが、今回の参照点は細野晴臣ということになるんでしょうか。

ニック:今回のレコードは、今までの中で一番参照したものがない、何かから強く影響を受けていないレコードだと思う。「Domino」なんて、本当に何も考えずにただ音を鳴らして作り始めたし。キーボードで音を出していただけ。
でも色々な音楽を聴いているし、それがサウンドに滲み出てくることはもちろんある。UKガラージも80年代の日本のポップスもそうだよ。

!!!を支えるダンス・ミュージックの哲学

ー歌詞のテーマはいかがですか?

ニック:政治的なレコードを作ることも考えたけど、それをやろうとすると大変だから、あまり意識はしなかった。でも今の時代、深く自分たちの毎日に政治が関わっているから、自然とちょっと政治的になったんだ。

ー確かに、政治的/社会的な内容に寄った作品になっています。トランプ以降に変質していったアメリカ社会への視線もあると思います。リリックのテーマについて考えたこと、またあなた方が伝えたかったことはなんでしょう。

ニック:伝えたいというよりは、この大変な時代をどう乗り切ろうか、という内容かな。今の政治の状態のせいで自分がどんな気持ちになるか、その感情が歌詞になっていると思う。普通のラブソングもあるし、政治以外のトピックももちろんテーマになっているけどね。俺たちは政治的なことに関して人を教育したいわけではないんだ。それは俺たちがすべきこと、したいことじゃない。
俺たちはそれよりも、自分たちの音楽を通して心のキズや悲劇をそのまま表現したいんだよね。

ー歌詞を書く時に心がけていることは?

ニック:マインドをそのまま書き出すことだね。心から出てくるがままに、まずは外に出す。いい歌詞が生まれる時っていうのは、大抵そのネタが多い時だね。何ページも言葉を書いて、その中から沢山削っていく。たまに、読み返していて「よくこんなの歌詞にできると思ったな」なんて思うこともあるくらいさ(笑)。でも、まず書いてみるのがいい。そこからいい歌詞を作り出していけばいいのさ。

「なぜ猫はこんなに可愛いのか?」最狂ライブバンド、!!!のニック・オファーが熱く語る

Photo by Kelsey Bennet

ーあなた方の音楽はダンス・ミュージックと言っていいと思います。ダンス・ミュージックの第一義は”踊れる”ことですが、同時にクリエイティブであることも必要になる。ダンス・ミュージックにとってクリエイティブであることとはどういうことだと考えますか。

ニック:ダンス・ミュージックは、自分が気に入ることが一番。
その曲が自分にビビっとこなきゃダメなんだ。そのうえで、フロアで機能しなきゃならない。それのみさ! アホっぽくても、バカっぽくても、それが機能するならいい。前向きなダンス・ミュージックもあれば、シリアスなダンス・ミュージックもある。俺たちはその両方が好きだ。ファンクに色々な実験的要素を混ぜて、新しいダンス・ミュージックを作っていきたい。自分たちの音楽には、現在存在するあらゆるダンス・ミュージックの要素をもたせたいんだ。

ーあなたは、ダンス・ミュージックのグルーヴをスタジオ内での作業で作り出だすわけです。しかもそれは実際のダンス・フロアで通用するものじゃなきゃいけない。そこで具体的にどんなことを心がけてますか?

ニック:音楽を作るなら誰だって最初はスタジオにいる。スタジオにいるのは楽しいし、何がダンス・フロアで機能するかはスタジオでだってわかってるものさ。パフォーマンスしたりDJしたりしてると、フロアにとって何がいいかわかってくるものなんだよ。


ースタジオ内で作ってバッチリだった曲がライヴでやったらイマイチだった、という経験はありますか。

ニック:ないな。スタジオには良いスピーカーがあるし。スタジオってどんなサウンドでも作れるからさ。チープなドラム・マシンでも、チープなシンセサイザーでも、クリエイティビティさえあればビッグなサウンドは作れる。でももちろん、ライブでやってオーディエンスの反応を見て、調整したりはするよ。ここはもうちょっと強くしたほうがいいな、とか。それはもう実際に経験してよりよくしていくしかないからね。

「俺にとって猫とは、友情が築けるかの挑戦」

ーなるほど。ところで『Wallop』というアルバム・タイトルを思いついた時の猫のエピソードは既に知られているところなんですが、私の好きなエピソードなので、改めて教えてもらえますか?

ニック:スタジオで俺が作業していると、猫が一緒に遊ぼうと”wallop(パンチ)”してくるんだよ(笑)。「おい、オレはお前の注目を浴びたいんだ! 今オレと遊んで欲しいんだよ! オレを構え!」ってね(笑)。一つの単語があるシチュエーションにすごくフィットするっていうのがすごく気に入ってさ。
その言葉を聞くと、スタジオと猫の表情が思い出されて1人で笑っちゃうんだ(笑)。”wallop”っていうのは、「おい!」みたいなイメージ。そのアイディアが好きで、アルバムタイトルにしたんだよ。

ーアルバム・ジャケットにも猫が使われてますね。

ニック:あれは俺の猫のパーシー。俺のお隣さんが引っ越していったんだけど、子猫だったあいつがその隣の部屋に入ってさ。あの瞬間は、彼にとってすごくエキサイティングな瞬間だったんだ。今まで俺の部屋が彼の世界の全てだったのが、隣の新しい部屋に初めて踏み入って、全く新しい世界を見たんだからね(笑)。その時携帯で撮った写真があのアルバム・ジャケット。自分が全く知らない世界が自分のすぐ横に存在しているというアイディアが好きだったんだ。何かがきっかけで、その世界の道が開かれるかもしれない。人生をそういう視点で見るって美しいと思うんだよね。

日本のファンと長年にわたって相思相愛の!!!。『Wallop』のリード曲「Serbia Drums」は日本語(カタカナ)字幕付きビデオも用意。

ー猫ちゃんは何歳なんですか?

ニック:今は1歳。でも、写真を撮った時は多分6~8カ月とかだったんじゃないかな。かわいい猫だよ。今空港から家に帰っているところで、猫をピックアップするところなんだ。俺と久しぶりに会うから興奮すると思う。

ーそもそもあなたは何匹の猫と同居してるんですか。また、いつごろから猫と住み始めたんですか。

ニック:一匹だけ。これまで三匹いたけど、一匹ずつ亡くなってしまって。だから去年新しい子猫を飼い始めたんだ。猫と暮らし始めたのは多分20年くらい前からだな。前のバンドにいた時、バンドメンバーたちと一緒に住んでいて、バンドの女子たちが猫を飼いたいって言い出してね。俺は反対したんだ。バンドなんだから(ツアー等で)家にはほとんどいないし、どうやって面倒見るんだってね。そしたら予想通り、女子たちは家におらず猫の面倒を全然見ないから、結局は俺が面倒見ることになって(笑)。でも猫はもともと好きだし、それでもっと猫好きになったから結果いいんだけど(笑)。

ー今の猫はどんな性格の子ですか?

ニック:何にでも興味津々。まだ子猫だけど、1歳半だからそろそろ落ち着いてくるんじゃないかな。どちらかというと、性格が犬みたいなんだ。注目されたがるし、一緒に遊びたがる。フレンドリーで、家に誰か来るとその人たちと遊びたがるんだ。人間が大好き。バンドメンバーにも懐いてるよ。曲作りをしている時に横にいるから、曲とセットみたいな感じがするんだ。

ー珍しいですね。うちの子なんて、お客さんが来ると隠れてしまうので、家族以外誰も姿を見てないですよ。あなたにとって猫とはどういう存在でしょう。

ニック:なんだろうね。あ、今タクシーから降りて猫に会いにいくところ。猫のことを話してるこのタイミングで(笑)。いつも俺の足音を聞いたら窓から顔を出すんだけど、今日はどうかな。来た来た! 元気~?(赤ちゃんに話すような声で猫に)俺にとって猫とは、動物と友情が築けるかの挑戦。だって、人間とは全然違う生き物だし、彼らを理解するというのは容易ではない。それができる時って、本当に素晴らしいと思うんだよね。(ドアを開けて猫がいる部屋に入る)ヘイ~元気かい? 良い子にしてた? 今1人なの? ハグしよう~。今俺の肩に乗って来た(笑)。いつもそうなんだ。

ー可愛いですね。なぜ犬ではなく猫なんです?

ニック:犬も好きだよ。昨日ちょうど犬と話してる俺の写真をインスタに投稿したばかりだし(笑)。でも犬(を飼うの)はもっと責任がある。あと、猫以上に愛情を注がないといけないからちょっとタフなんだよな。

ーわかります。私も猫と同居してますが、猫は犬のように感情表現が大げさでないぶん、人間など関係なくクールで超然としているように思われますが、実は豊かな感情を持ち愛情深いところもあると思います。

ニック:あるある。前に飼ってた猫はもっとクールだったけど、パーシーは犬みたいに懐いてくるしね。猫はネズミも殺すし、猫を怖いと思う人たちもいるよね。でも可愛いところもちゃんとある。

ー次の新曲ジャケになる猫の写真を募集するコンテストもやったそうですが、やってみていかがでした?

ニック:何千枚というかなり沢山の応募が来て、選ぶのが大変だったよ(笑)でも良いのを選んだと思う。とにかく見た目がいいものを選んだ(笑)。何と言ってもジャケ用だからね。その写真がクールと思ったんだ。

「なぜ猫はこんなに可愛いのか?」最狂ライブバンド、!!!のニック・オファーが熱く語る

『Wallop』からのシングル「Couldnt Have Known」のジャケットは、バンドの公式SNSで公募された猫の写真をベースに制作された。

ーこのあと来日公演も控えています。『Wallop』の楽曲を加えた今回のライブはどのようなものになりそうですか?

ニック:どうなるだろう。新曲も披露するし、ミア(・ペイス。アルバムにも参加している女性ボーカリスト)も一緒に来る。良いショーになると思う。これまでよりも深みのある、エキサイティングなショーになるよ。

ーありがとうございました! パーシーによろしく(笑)。

ニック:了解(笑)。こちらこそありがとう!

<来日公演情報>

「なぜ猫はこんなに可愛いのか?」最狂ライブバンド、!!!のニック・オファーが熱く語る


!!! - WALLOP JAPAN TOUR -

【京都公演】2019年10月30日(水) METRO
OPEN 19:00 / START 20:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可

【大阪公演】2019年10月31日(木) LIVE HOUSE ANIMA
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可

【東京公演】2019年11月1日(金) O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500(税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
主催:SHIBUYA TELEVISION

企画・制作:BEATINK / www.beatink.com

<リリース情報>

「なぜ猫はこんなに可愛いのか?」最狂ライブバンド、!!!のニック・オファーが熱く語る


!!!
『Wallop』
発売中
国内盤CD BRC-608 ¥2,200+tax
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

=収録曲=
01. Let It Change U
02. Couldnt Have Known
03. Off The Grid
04. In The Grid
05. Serbia Drums
06. My Fault
07. Slow Motion    08. Slo Mo
09. $50 Million
10. Domino
11. Rhythm Of The Gravity
12. UR Paranoid
13. This Is The Door
14. This Is The Dub
15. Do The Dial Tone (Bonus Track for Japan)
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