去年、結成20周年イヤーを迎えたTHE BACK HORN。21年目の今年、メジャー12枚目のアルバム『カルペ・ディエム』をリリースする。
20年という時を過ごしたからこそ出来たサウンドと、20年を超えても変わらないアティテュードが詰まっている。アルバムの話をフックにTHE BACK HORNの今に迫った。

―結成20周年を終えたタイミングなので、敢えて聞いてみたいのですが、THE BACK HORNは「KYO-MEI」という言葉をテーマに掲げていますね。このテーマはどこから出てきたのですか?

岡峰光舟(Ba/以下、岡峰):セルフタイトルのアルバム『THE BACK HORN』(2007年)を出す前だったから2006年ぐらいですね。そのアルバム出る前のシーズンくらいから自分達でちゃんとテーマを決めてみようってなったんです。THE BACK HORNっていうバンドを自分達でそこまで俯瞰したことがなくて、思っていることをそのままやっていた勢いだったんで。で、そのタイミンが自分達の音楽性や、歌いたいこと、伝えたいことを改めて話し合った時期だったんですよね。

山田将司(Vo/以下、山田):そうだね。何かを掲げてこれから活動していこうっていうなかで出てきた言葉が「KYO-MEI」でした。

岡峰:いろんな意味を持たせられる言葉でもあるんですよ。単純に響く共鳴もあるし、共に鳴らすっていう風に解釈もできたり。いろんな解釈ができるので。


山田:”響く命”だったり”叫び鳴く”で”叫鳴”とか。

―なるほど。以来、「KYO-MEI」というテーマがアルバムを作る時に基本的にあるんですか?

山田:ずっと掲げてきていることだから改めて「俺たちKYO-MEIだよな」みたいな確認はしてないです。THE BACK HORN対お客さんでもあるし、メンバー間でもあるし、自分が音楽活動をしていく根っこの部分のワードとなっていますね。

―「KYO-MEI」にはいくつか意味があるとのことですが、山田さんの中ではどれが一番強いんですか?

山田:どれがとかは考えたことないですね。ただ、どの意味だとしても、自分ひとりだけではワードとして意味を成さない言葉だと思っていて。他者がいることを意識して活動していく、音楽を作っていく、ライブをしていく、そこはずっと思い続けているというか、その気持ちを忘れないようにしています。

―その「KYO-MEI」と並行して、THE BACK HORNの世界観には”生きる””生きろ”というキーワードがあります。これはどこから出てくるものなのですか? 生き難い社会故なのか、それともメンバーが経験した絶望的な何かから来ているのか?

岡峰:逆にそれ以外あんまり歌うことがないんじゃないかな?くらいではあるんですよね。

―でも世の中のヒット曲って大概それ以外のことを歌っていますから。

山田:THE BACK HORNって昔はギターの(菅波)栄純が主に作詞作曲していて、人間のドロドロした闇の部分を歌ってきてたんですよ。それをバーンと曲にぶつけて、その傷口を自らエグることで誰かの傷口に寄り添えると思ってたし。
俺は自分が痛々しいほどに叫べば叫ぶほど、誰かの心に寄り添えると思ってたんです。なんでそう思っていたのかは、自分でもよくわからないですけど、もしかしたら自分の過去に何かあったのかもしれないですけどね。でもライブをやっていくうちに、目の前にいるお客さんを信じられるようになったり、メンバー間でもっと気持ちが通うようになってから、絶望を力にしてた自分らのバンドのエネルギーをもっと生に向かわせようってなったんです。それがさっきの「KYO-MEI」っていう言葉あたりからはじまったのかもしれないです。”生きる”って誰でも根底に流れてるからわざわざ言わなくてもいいんだけど、みんなラクして生きていけるわけでもないし、生きにくいと思っている人もたくさんいるから、そういう人達に向かって歌いたいし。もちろん自分自身に対しても、生きる力を奮い立たせる音楽をやっぱり作りたいなとは思います。

―なんか取り調べみたいになっちゃいましたね(笑)。

山田:結構ディープですね、この質問。なかなか近年されなかったなぁ(笑)。

―すみません。でも、メンバーが40歳になろうとしているバンドが”KYO-MEI”とか”生きる”とか”今を掴め”とか、暑苦しいことを言っているのが個人的には大好きなので、つい(笑)。

山田:でも、その姿勢はわざわざやっているかもしれないですね。
生きて行く姿勢としてはまっすぐで美しくありたいっていう気持ちがやっぱあるんですよ。それから、あきらめないで生きていきたいとか。で、メンバーもTHE BACK HORNをやりながら軌道修正されてきたとこも多分あると思うんですよね。少なくても俺はそういうところがあって。だから掲げ続けているんでしょうね。

―岡峰さんは?

岡峰:俺はそんなに深く考えてないかもなぁ……。実際”KYO-MEI”っていうものだけのために生きてるっていうよりも、そういう風に在りたいっていう自分らの目標だとは捉えてはいますね。

山田:”KYO-MEI”という言葉自体美しいところだけではないと思うし、俺たちは人間としてのいろんな感情を歌っていきたいと思っていて。”生きる”がテーマだと前向きな気持ちだけを歌うかもしれないけど、自分がすごくボロボロになっている時にただ励まされてもなにもグッとこないのと同じように、もっと違う寄り添い方もあるし、違う言葉の選び方もあると思うんです。そこも意識しながら曲は作ってます。だから出てくる言葉も決してポジティブな言葉ばかりではないし、ポジティブな言葉だけが勇気付けたり背中を押すものではないと思うし。根底に流れている気持ちは前を向いていますが、表現の仕方は別に一色だけだとは思わないんです。
人間のいろんなカラーをどす黒いところまで全部表現して、それで人間というものを表現して、そこから前に向かっていかないとダメだと思ってるんで。

この4年間で変化したこと

―取り調べはこのへんで終わりにして(笑)、ニューアルバム『カルペ・ディエム』のことを聞かせてください。今回は4年ぶりのオリジナルフルアルバムですが、この4年間でバンドはどう変化しましたか?

岡峰:前作からの4年間、実はいろいろやってたんですよ。プロデューサーに亀田(誠治)さんに入ってもらってバラードのシングルを作ってみたり、宇多田ヒカルさんと共同プロデュースで曲作ったり、それ以外にもTHE BACK HORNだけでもシングルも出したり。そうしたら自分達の20周年のタイミングも重なり、20周年のツアーをやったりベスト盤を出して。それからインディーズ時代の曲たちが廃盤になっていたんで、それを録り直して出したり……。この4年間は全然ブランク感はないですね。むしろ精力的に動いていた時期だったからこそいろいろなものも溜まってきたというか。曲に対する思いもバンドに対する思いもいろいろそこで培ってきた時間でしたね。

―アルバムの具体的な制作期間は?

岡峰:アルバムの制作は最近だったんです。今年2月の武道館までは20周年のツアーで周年イヤーに集中していた時期で。で、2月に20周年ツアーが終わって、2月いっぱいは各々リフレッシュして3月にメンバーで集まった時に、どういう活動をして行こうかっていう話になり、やっぱりアルバムをオリジナルで作りたいなと。
それで21年目に向かっている自分たちの想いを全部新曲で表すためにも、その前に出してたシングルは入れない方向でやってみよう、というところから始まりましたね。

―シングルを入れないのはかなり潔いですよね。

山田:いろんな意見もありましたけど、21年目としてすべて新しいカタチで出していこうという風にはなりましたね。

―20年で一区切りして、そこから先の第一歩がこのアルバムなんですね。

岡峰:そうですね。その上で、実際どうやって作っていこうか話していく中で、ギターの栄純が「こういう作り方おもしろいんじゃないか」っていう提案をしてきたんです。THE BACK HORNは俺と栄純と山田の3人が曲を作るんですよ。だからその3人が3曲ずつ作っていったら9曲になる。9曲あるとアルバムの全貌が見えるよねって。それで、栄純がTHE BACK HORNでどういう曲が聴きたいかをリストにしてみて、「こういうスタイルの曲で、こういう曲調で、テンポ感はこういう曲」みたいな感じのリクエストを俺と山田に言ってきて、そのテーマに沿って曲を書きました。で、ドラムの松田は歌詞を書くんで、3人が書いた曲の中から一曲ずつ詞を書いたら、バンドの4人全員がアルバムに向かえる、っていうところから楽曲作りが始まった感じですね。

―4人全員が物理的に公平にアルバム全体に向かうっていう、とても民主的な制作ですね。


岡峰:自分達にとっても初めての取り組みではありましたね。

―栄純さんからは、作曲に際して具体的にどういうテーマの指示が来たんですが?

岡峰:自分には、スラップで押すような16ビートの曲を作ってみてと。もう1曲はミドルテンポのちょっと哀愁があるようなバックホーンっぽいグランジっぽい曲、もう1曲がいい感じのメロディの曲を作れっていう(笑)。

山田:そこはザックリ(笑)。

―そのザックリオーダーのいい感じのメロディがM5の「ソーダ水の泡沫」ですか?

岡峰:そうですね。本当は『和風なメロディで』と言われたんですけど、和風な感じにならなかったという(笑)。

THE BACK HORNの曲にアジアな雰囲気がある理由

―ただ、THE BACK HORNはアジアな雰囲気がありますよね。それは何がルーツなんですか?

山田:何ルーツなんですかね? ちょっと洋楽っぽい曲を作ると、なんかしっくりこないというか(笑)。

岡峰:洋楽風に狙った曲も今までは全然あったけど、どうしても……。

山田:なんかバックホーンっぽくないし。それって別に違うバンドがやればよくないか?みたいな感じになるんですよ。やっぱり日本語で歌ってるから……。それは俺の歌い方や発音もあるだろうし、多分収まりとかあるんでしょうね。

岡峰:4人に共通する感情が”切ない”なんですよ。説明しづらいんですけど、「これ切なくない?」「うん、切ないね』っていう、4人だけの共通言語があって。

山田:「グッときた」とか「ギュっとなる感じ」とか、多分そういう感じなんですよ。

岡峰:昔は「これ切ないからいい曲」みたいなところがあったんで。でも、最近はそれほど”切ない”は言わなくなりましたね。

―M6の「ペトリコール」は”切ない”し、とても昭和的ですね。

山田:わかりました? ”切ない”。この「ペトリコール」はおどろおどろしさもありながら、暗くて童謡っぽい曲っていうオーダーがあり。「多分こういうのが出来るのは、バックホーンぐらいしか今いないと思うんだよね」って栄純が言ってて、「そういうのを将司ちょっと作ってみて」と言われて書いたのが「ペトリコール」です。それ以外に、栄純に「疾走感のあるバックホーンがライブでやったら必ず盛り上がるような曲」っていうすごい無謀なオーダーがきて(笑)書いた曲がM3の「鎖」です。

―M10の「果てなき冒険者」も山田さんの作曲ですよね?

山田:これはちょっとオーダーを完全に無視しちゃって(笑)。曲自体、2年前ぐらいに作ってパソコンの中にずっとネタとして入ってたんです。で、どのタイミングで出そうかなと思ってたんですけど、このアルバムのデモ作りで書いてきた曲を共有してた時に、みんないい曲書いてきてるからここで出さなきゃダメだと思って、出してみたやつです(笑)。

―栄純さんの大きな地図があるとは言え、みんながそれぞれ楽曲を作って、アルバム感が満載なのが凄いですよね。

山田:それがバックホーンなんですよね。

―”切ない”っていうバンドの共通言語以外に4人の共通項ってあるんですか? それとも20年一緒にやってきたことの結晶みたいな?

岡峰:実際そういう感覚に近いですよね。自分達では新機軸、「これは今までにないかな」って思っていた曲に実際に山田が歌入れしてみたら、普通にTHE BACK HORNとして成り立つという現象はよく起こるんで。

山田:いい意味でね(笑)。

岡峰:もちろん(笑)。だからあんまりバックホーンだからこういう曲を作ろうって凝り固まらない方が、ちょうどいいバランスでバックホーンらしさが出るんだと思います。

―それが20年という年月なんでしょうね。

山田:そうですね。だから、こうなるまでにここまでかかりましたね、他のバンド見ていても4人各々がこれだけ作詞作曲に関わって1枚のアルバムを作ってるバンドって、昨今あんまりいないなと思って。これはTHE BACK HORNの強みだと思うんですよね。個が完全に強いのがバンドの個性になっているし、このバンドはそれが強みだなと思います。

―まさにこの『カルペ・ディエム』というアルバムは曲同士の振り幅があるんだけど、どこかで全部が重なっているんですよ。このアルバム自体がTHE BACK HORNの写し鏡のような存在なのかもしれないですね。そして、そのキーになっているのが山田さんのヴォーカルです。昔でいうところの尾崎豊さんのような叫びがあるんですけど、歌自体に浮遊感があって、全てが自然なんですよね。唯一無二のヴォーカルだと思います。

山田:もともとなんで自分が歌を歌う道を選んだかっていったら、バラード系の歌が好きっていうところから始まっているんですよ。だから、叫ぶのもやっぱりバラードの延長で叫ぶんですよね、絶対に。叫んでいるのがカッコいいじゃなくて、こぼれたから叫んじゃったっていう。そこは絶対忘れないようにしてて。20年経って逆にフィジカル的なところと対面することがここ数年あったりして、引き算、力を抜くことも出来るようになりましたね。あと歌詞とメロディの絡み方も作る時にみんなにいろいろ相談したりしていますね。

―相当言葉を練って曲を作ってるんだろうなって思いました。

山田:言葉はすごいみんな大事にしてますね。

―とてもユニークだと思ったのがM8「太陽の花」。この歌今時珍しくは一個もカタカナ単語が出てこない。100%日本語だけで成り立ってる歌だなと。

山田:言われてみたら確かに。

―歌って気がつかなかったですか?

山田:全然気がつかなかったですね(笑)。この曲、松田の作詞なんですが、THE和メロのサビに引っ張られて出てきた歌詞も結構あるって言ってましたね。

―興味深いですね。

山田:やっぱり日本語はメロディとの相性って絶対ありますよね。洋楽のメロの言葉を日本語に置き換えた時の収まりの悪さみたいな。

日本語の深みがハマるメロディとは?

―さっきの”切ない”に戻るんですけど、日本語ってそういう言葉なのかもしれないですね。日本語がノリやすいメロディはどうしても切なさを要求してしまう。だから言葉を大事にすればするほど”切ない”歌に行かざるを得ない。

山田:確かにこの”切ない”っていう感情は日本語だからなんでしょうね。日本語の深みってやっぱりあって。一つの感情をどの言葉を選んで表現するかっていう時に、選択肢は無限大にあるんですけど、それこそメロとの収まりだったり、音との関係性で言葉の響き方が違ってくるんですよ。具体的にいうと、高い音にいったら、母音のAがきた方がいいんですよ。とか、それも全部含めてのメロディと言葉のフィット感が凄く大切なんです。

―言葉という点で話すと、M3の「鎖」は言葉のチョイスが面白いですね。<鎖でひとつになって繋ごう>っていう歌詞が衝撃的でした。ロックで鎖ときたら、鎖を切れとか……。

山田:解き放てとか?

―そうなんですよ。鎖で繋ごうっていうのが衝撃で。

山田:自分自身を閉じ込めてしまうという意味での縛り付けてしまう鎖と、自分と他者をつなぐ鎖。そのどっちもこの曲で表現したいなと思って。<絶対的な鎖でひとつになって>ってなんか”手を取り合って”みたいなイメージに一瞬なるけど、<絶対的な鎖でひとつになって繋ごう/もう二度と離れないよ>って自分の気持ちが強すぎて、ちょっとそれ危ないところまで行ってるよね?ってメンバーには言われたんですよ。でもそれが逆に熱くていいなと。

―何がこの曲を書かせたんですか?

山田:鎖って言葉はなんで出てきたんだろう? なんでだろうな? それこそ20年経って自分を俯瞰して見た時に変われない部分だったりとか、自分の意固地になってるところがあって。はたまたそれがあったからここまで来れたのもあるなとか。そういうことをいろいろ考えていた時に出てきた言葉なんですよね。

―そして、アルバムのタイトルが『カルペ・ディエム』。古代ローマの詩人・ホラティウスの詩に出てくる言葉だそうで、<その日を掴め/今を楽しめ>という意味ですが、それをTHE BACK HORN的には<今を掴め>と昇華させて、アルバムにタイトルにした、と資料にありました。

山田:そうですね。オリジナルの意味を俺らなりに昇華しました。さっき言った”生きる”っていうのが根底にバックホーンの世界観には流れているので。それこそ、ライブだったり、音楽を作ってリスナーと何を共有し合いたいのか?そういう気持ちも全部込めて”今”なんだなって。それは飛び出す度胸や、衝動を音楽で与えられたらいいなっていう気持ちもあります。そして、お客さんにも言いながら自分達にもそれは言い聞かせるための”今を掴め”ですね。

―それぞれ”今を掴む”のイメージはあるんですか?

岡峰:俺結構こういう考え方は好きなんですよ。武士道を説いた『葉隠』の精神に近いというか。1日1日毎日死を想像して腹を切る覚悟で生きろっていう考え方に憧れはあるんですけど、そういう部分にも通じるものがあるなと。先のことばっかり見続けて足元が見えてない状況も嫌だし、今ある瞬間を楽しむでもいいし、ちゃんと今を掴み取るのが一番重要なことなのかなとも思いますね、広く見すぎて見過ごすことも多い中で。あと”今を掴め”って自分達で捉え出してからより一層、それはライブっていう瞬間にはすごく近いなと思ったんですよね。その日の音だったり出会いだったりするわけなので。その感覚がTHE BACK HORNとライブとこの『カルペ・ディウム』の”今を掴め”に繋がるなと。21年目にして言える言葉だなと思いましたね。

山田:今ふと思ったんですけど、それこそ21年目の新しいスタートとして全部新曲で揃えたTHE BACK HORN自身が今を掴むために刻んだアルバムなんだなと思いましたね。

―なるほど。改めて、20年経ってこういうバンドになったってすごいですよね。

山田:多分俺達って歪(いびつ)なまんまですね。歪さのリアリティや美しさがあるなと思うんです。無理に整理していくよりも、個がぶつかり合ってグシャ!ドン!みたいな。この4人でやるんだったらそこを許し合って認め合っていこうっていうのはやっぱありますね。

<INFORMATION>

『カルペ・ディエム』
THE BACK  HORN
SPEEDSTAR RECORDS
10月23日発売

初回限定盤A
THE BACK HORNが大切にする「生きる力」と「日本語の深み」


初回限定盤B
THE BACK HORNが大切にする「生きる力」と「日本語の深み」


通常盤
THE BACK HORNが大切にする「生きる力」と「日本語の深み」
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