こぶしファクトリーが2ndアルバム『辛夷第二幕』を発表した。前作『辛夷其ノ壱』のリリース以降、メンバー3人が脱退するという困難に直面したが、高い歌唱力を生かしたアカペラに本格的に取り組むことで評価を高め、楽曲の方向性をシフトすることで、こぶしファクトリー像を更新し続けている。
今回、リーダー広瀬彩海と井上玲音に話を聞き、こぶしファクトリーの現在地とその先についての思いを告白してもらった。ハロー!プロジェクト内でも中堅グループへと成長を遂げた彼女たちが後輩への思いを語ったとき、グループの成熟とハロー!プロジェクトの伝統を痛感することになる。
―皆さんは現在、全国ツアーの真っ最中ですが、調子はいかがですか。
井上:これまでの私たちのライブは盛り上がることが一番のポイントだったんですけど、今回は盛り上げるだけじゃなくて、”魅せるこぶしファクトリー”を大事にしていて、新曲にもカッコいい曲、魅せる曲がたくさんあるので、とても楽しいです。
広瀬:今回は今までとセットリストの組み方が全然違くて。井上玲音ちゃんが言っていたように、今まではとにかく盛り上げる、お客さんに楽しんでもらうというのが最優先だったんですけど、今回は10月2日にアルバム『辛夷第二幕』を発売したことでアルバムからの新曲もセットリストに入っているので、そういう意味ではメリハリのあるライブになってると思います。
―ひと言で「魅せる」と言ってもなかなか難しいものがありますよね。
井上:曲調も考えつつなんですけど、いつもはお客さんと目を合わせて「一緒に歌ってね!」って感じで煽るんですけど、今回はいつスクリーンに抜かれてもベストショットが映るように、特に表情を意識してます。
広瀬:あと、今までのこぶしファクトリーは盛り上がる曲を中心にやらせていただいてきたので、お客さんに真似してもらいやすい振付がけっこう多かったんですけど、今回はがっつりダンスを踊っている曲もあるので、そういう部分では普段よりも丁寧に、みんなで呼吸をあわせて踊ることに気をつけています。
―これまでの、とにかく盛り上げるという意識に魅せるパフォーマンスが加わるとなかなか大変そうですね。
井上:そうですね。ライブの最初のほうはカッコよくできたりするんですけど、後半はライブの山を作っていくために盛り上がる曲が多くなってくるのもあって、魅せるというよりも自分自身が楽しんでずっと笑ってる状態になってることが多くて。
―「今、スクリーンに抜かれてる」ってわかるものなんですか?
広瀬:今、私たちが回ってるライブハウスにはスクリーンがないので、「いつ見られてもいいように」っていう意識なんですけど、先日、豊洲PITでやらせていただいたときはけっこう意識しましたね。リハーサルの映像を見て、「あ、ここは私が映ってるんだ」とか、ライブ中に「あ、赤いランプがついてるカメラがこっち向いてるな」とか、そういうのは気にして、そこでお客さんが「お!」って思うような表情をつくることはみんな意識してたと思います。
―でも、それって意識して急にできるものではないですよね。
広瀬:そうですね。デビュー当時は赤いランプがどうっていうこともまったくわからなくて、カメラがこっちに向いてるだけで、自分を抜いてるのか、引きでみんなを抜いてるのかっていうのもわからなかったですし、とにかくカメラを気にする余裕がありませんでした。なので、何年もパフォーマンスをしてきたことで生まれた心の余裕が大きいですね。
グルーヴ感をより意識しながら歌を乗せた(広瀬)
―今作『辛夷第二幕』ですが、各メンバーのメイン曲が収録されています。広瀬さんのメイン曲「Come with me」は、ジャジーで広瀬さんの声に合っているサウンドだと思いました。
広瀬:「あやぱん(広瀬)のメイン曲が一番好き!」って言ってくださる方もけっこういらっしゃるし、メンバーからもほめてもらえてすごくうれしいです。この曲はリズムが速くてものすごく難しいので、そういう部分でけっこう苦戦しています。歌い方に関しても、こぶしファクトリーは歌やハモリをすごく大事にしつつも、自分たちがアイドルであるということを忘れたくないと思いながら歌っているんですけど、この曲ではいい意味で自分がアイドルだという意識を捨て去って歌おうっていう気持ちが大きくて。ディレクターさんからも「椎名林檎さんみたいにムーディーな感じで歌ってほしい」っていうリクエストをいただいたので、今回こういうふうに歌えたのはすごくうれしいですし、サウンドも生演奏でグルーヴ感のあるものになっているので、ライブではカラオケですけど、そこにも注目していただきたいなと思ってます。
―生演奏だとやっぱり違うものですか?
広瀬:今回、ドラムのレコーディングを見学させていただいたんですよ。川口千里さんという世界的なドラマーの方に叩いていただいたんですけど、手が5本ぐらいあるんじゃないかっていうぐらい激しく動いていて、私も小さい頃に少しだけドラムをかじってたんですけど、それとは別物でした。打ち込みだとリズムぴったりに音が鳴るけど、ちょっとしたタメとかをレコーディングで実際に見させていただいたことで、そういうグルーヴ感をより意識しながら歌を乗せました。
―それはいい経験でしたね。
広瀬:最初は未知すぎて、「どういう感じなんだろう?」って思ってたんですけど、叩くたびに細かいアドリブが入ったりして、「このフレーズ、すごい好き!」っていうのをメンバー同士で話したりしたので、リズムの勉強にも音楽の勉強にもなりました。
―井上さんはレコーディングを見てどう感じましたか。
井上:私はドラムを叩いてるところを見るのも聴くのも好きで、アーティストさんのライブ映像でドラムの人がどういうふうに叩いてるのかよく見ているんですけど、生で見るのは初めてで、思ってた以上に大きな音だったし、生だとやっぱり違うんだなって思いました。あと、私はアカペラでボイスパーカッションをやらせていただいてるので、バスドラムがどれだけ低い音が出るかとか、そういうところを聴くことができてすごく楽しかったです。
―井上さんのメイン曲「好きかもしれない」は、歌詞を読むだけだと強がっている女の子の物語なんですけど、ボーカルが乗った途端に、好き”かも”しれないじゃなくて、モロに好きだという気持ちが強烈に伝わってくるという。
井上:そうなんです(笑)。私も最初は「これは自分に素直になれない女の子の歌だな」って思ったんですけど、ディレクターさんから「声を泣かせて」と言われて、「声が泣くってどういうこと⁉」ってかなりレコーディングで苦戦したんですけど、本当に上手くできなくて、「ああ~、泣きそう!」っていう状態で歌ったときに「あ、今のよかったよ」って言われて、「ああ、こういうことか!」って。
―メンバーのメイン曲以外にも『辛夷第二幕』には様々な曲が収録されていますが、聴く人の背中を押す曲が多いですよね。
広瀬:たしかに、タイトルからして応援ソングが多いかもしれないですね。『辛夷其ノ壱』を出させてもらったときは、背中を押すというより、「何言ってるんだろう?」ってぐらいコミカルな曲が多かったんですけど、メンバーが5人になって最初のシングルが「これからだ!」と「明日テンキになあれ」っていう、モロに「頑張れ!」っていう曲だったんですよ(笑)。そこから前向きな曲を歌わせていただくことが増えたので、それが今回のアルバムにもすごく出てると思います。
私たちも曲からパワーをもらっている(井上)
―ファンの背中を押すような曲が増えると、歌う上でもよりパワーが必要になってくるし、心構えも変わってくると思うんですがいかがでしょう。
井上:ファンの皆さんにパワーを届けるというのもあるんですけど、逆に私たちも曲からパワーをもらっている部分があるんです。だから、それぞれのパートで「ここ、いいな」って思う部分があったらメンバーに伝えることでその子も「もっと頑張ろう」っていう気持ちになるので、最近はそうやってほめ合うことが増えてます。
―みなさん、ほめられて伸びるタイプなんですか。
井上:注意するときはするし、決めごとはあるんですけど、それを守りつつもよかったところはほめ合うって感じです。
広瀬:私はほめられるのがあまり得意じゃなくて。うれしいはうれしいんですけど、どうしたらいいかわかんなくなっちゃうし、そもそも私はほめられて伸びるタイプではないんです。
―なるほど。
広瀬:私は4年半ぐらいリーダーをやらせてもらっていて、「ここはこうしないとダメだよ」とか「もっとこうしようね」って言うことが多かったんですけど、「そういう言い方じゃダメなんだな!」って気づいてから変えるようにしたんです。そうしたら、「え、うれしい! あやぱんもここがよかったよ」って言ってくれようになって、慣れないけどうれしいんですよ。なので、最初は意識しながらでしたけど、5人になってからはそういう空気が自然とできてきましたね。メンバーからほめてもらえることは、前向きな歌詞を歌う上で、「この子たちと一緒にもっと頑張りたい」って思える原動力になってるのかなって思います。
井上:私もほめられるのはうれしいんですけど、それに対してどう返したらいいかわからなくて。でも、最近はほめてもらったらほめ返すっていう形ができました。相手に注意すると少なからず変な雰囲気になるじゃないですか。私はその変な空気が本当に嫌いで。
広瀬:気まずい感じがね(笑)。
井上:そう。
―そういうことを繰り返しているとグループ内のムードも変わりそうですね。
井上:楽屋の雰囲気がとてもお子ちゃまになったというか、精神年齢が下がった感じがします(笑)。
広瀬:元々が険悪だったわけではないし、みんな年齢が近いこともあって和気あいあいとしてたんですけど、玲音ちゃんが言ったように、最近はピリッとすることが減りました。「こうしたらいいんじゃない?」って注意することがあっても、「あ、そうだね! オッケー!」みたいな感じで軽く受け入れられるようになったというか。わかってるからこそイラッとする部分ってあるじゃないですか。例えば、今から宿題やろうとしてたのに、お母さんから「宿題やりなさい!」って言われるとやりたくなくなっちゃうっていうのと同じように(笑)。
―わかります(笑)。
広瀬:でも、年齢的にちょっとずつ大人になってきたっていうのもあって、「ふん、何よ! わかってるわよ!」みたいな感じはなくなってきたと思います。
―ちょっとした心がけ次第で変わるものなんですね。
広瀬&井上:変わりますね。
アカペラからの影響
―作品の話に戻りますが、今回は2年10カ月ぶりのアルバムで、「亀になれ!」などライブで既に披露してきた曲を収録しています。
井上:全然違います! 振りが付いてるというのもあるんですけど、呼吸のタイミングが掴めてる曲はリズムの取り方も違ってきます。
広瀬:「亀になれ!」と「消せやしないキモチ」と「ドカンとBREAK!」はライブでやっていたものを音源化しているんですけど、「亀になれ!」と「消せやしないキモチ」は特にツアーで歌いこんだあとにレコーディングしたので、すごくイメージが湧きやすいんです。
―そうでしょうね。
広瀬:ライブで歌っていない曲をディレクターさんに「もっとこんな感じで歌って」って指示されて歌うと、みんなと合わさったときに自分の声が浮かないか気にしながらレコーディングすることになるんですけど、ライブで歌ってる曲はみんながどんな感じで歌うか把握した上で歌うのですごく安心感があるし、やりやすいですね。でも今回、「シャララ!やれるはずさ」っていう2年以上前にリリースしたシングルを5人バージョンで録り直したんですけど、この曲はライブの定番曲なのでものすごい回数を歌ってるんですね。そうなると逆に、「レコーディングでどう歌ったらいいんだろう……」ってなってしまって。自分の声がライブバージョンに慣れすぎてしまって、丁寧に歌えなかったりしてやりづらかったです。「亀になれ!」と「消せやしないキモチ」をライブで歌ってたのは半年ぐらいだったので、それぐらいがやりやすいなって感じましたね。
―事前にライブで歌い込んでいるほどいいってわけではないんですね。
広瀬:そういうわけでもないんだなって今回思いました。
―先ほどから話に出ているアカペラですが、今作には初回盤特典としてアカペラ集が付いてます。アカペラも初披露から2年が経ちましたね。
広瀬:「チョット愚直に!猪突猛進」の初披露から2年ですね。
―アカペラに取り組み始めたことは、皆さんの歌にどういう影響を与えていますか。
広瀬:自分の声のことってなんとなく自分ではわかってても、得意な音域がどこかっていうのを客観的に言われることってあまりないじゃないですか。だけど、ディレクターさんにパート分けをされたことによって自分の得意な音域を知れたので、自分がどこを強みにしていいたらいいのかわかるようになりました。それと同時に、アカペラ以外でも、普段の曲の歌割りで音域の棲み分けを感じるようになったし、ユニゾンでもしっかり周りの歌を聴いて合わせるようになれたと思います。
―ボイスパーカッションを担当する井上さんは特殊でしょうね。
井上:最初は、「チョット愚直に!猪突猛進」を1曲通すだけでも苦しくて、「息継ぎするとこないじゃん!」って思いながら練習してたんですけど、この前、久しぶりに「猪突猛進」をやったら先生が「え、余裕じゃん」って言ってくださって。今、自分でも成長を感じています。ビートパターンを増やすために誰のどんな曲でもいいからドラムの音をいっぱい聴くように言われてから、いろいろ音楽を聴くようになったんですけど、そうすることで自分たちの曲でもアクセントを取る場所が明確にわかってきたり、ダンスもほめられるようになってきたので、「ボイスパーカッションはダンスや歌にも生かせるんだな」って思いました。
―リズム面を強く意識するようになったと。
井上:そうですね。最初の頃は、みんなはちゃんと歌えてるのに私が足を引っ張っちゃってるって思うことが多かったし、速いテンポの曲を安定させるためにメトロノームを見たりしてたんですけど、最近は「もうちょっと早くして」って言われたらすぐに対応できるようになったし、テンポキープも前よりできるようになったので、リズムの練習を楽しくできてるなって思います。
BEYOOOOONDSは孫を見ているよう(広瀬)
―「ハロ!ステ」で初期の練習の様子を拝見したんですけど、最初は本当に大変だったんですね。
井上:そうですね(笑)。
広瀬:この前、「猪突猛進」のリハーサル映像を見たんですけど、すごく申し訳ないんですけど、玲音ちゃんのボイパも私たちのアカペラもびっくりするほど下手なんですよ。
井上:あはは!
広瀬:でも、そのときは「イケてるやん!」って思ってたんですよ。「ハーモニーもいいし、ボイパもカッコいいし、めっちゃいいんじゃない?」って。だけど今見ると、「いや、コーラスはバラバラだし、ボイパも全然聞こえないし、なにこれ?」って思ったぐらいで。でもそれは経験を積み重ねたことでボイパに対する耳だったり、和音に対する耳が成長したからこそ思うことなんだなって。
―ハーモニーに対する意識は相当成長しているでしょうね。それでは今、近々で目指していることは何かありますか?
広瀬:一番はこのアルバムをたくさんの方に聴いていただけるように頑張ることですけど、こぶしファクトリーは今年5月に単独のホールコンサートができたので、さらに大きなステージに立てるように……まだ予定はないんですけど、そうなりたいですね。あと、私たちはハロー!プロジェクトのなかでデビューした順番で言うと、真ん中よりも上のグループになるんですよ。先輩よりも後輩のほうが多くて。
―ああ、もうそんなになるんですね。
広瀬:なので、BEYOOOOONDSだとか、最近各グループに入った新メンバーにしっかり背中を見せられるような存在になっていくことを今、頑張らなきゃいけないなって思ってます。
―時の流れって早いですね!
井上:早いですね(笑)。
広瀬:こぶしファクトリーはもうすぐ結成から5年経つので、「わ、もう5年か……!」っていう気持ちが強いです。
―そうやってどんどん新陳代謝が起こっていくなかで、みなさんの気持ちはどう変わってきてますか?
広瀬:こぶしファクトリーができた3カ月後につばきファクトリーができて、そのあとも先輩グループに少しずつ新しいメンバーが入ってきたときは、正直、「私たちも負けてられない!」っていう気持ちが大きかったんですよ。つばきファクトリーに負けないように自分たちの強みを出していかなきゃ、みたいな。でも、BEYOOOOONDSぐらいになると、私はもう、孫を見てるような気持ちになるんですよね。
―孫⁉
広瀬:娘とか妹とも違くて。BEYOOOOONDSはハロプロ研修生上がりの子が多いので、ソロパートをもらって頼もしく歌ってるのを見ると、「え、あんなにちっちゃかったのに!」っていう気持ちになっちゃって。私たちがホールコンサートをすることができたり、レコード大賞で最優秀新人賞を取れたのはハロー!プロジェクトの先輩方が切り開いてくださった道を辿って頑張ってきたからということが大きいので、BEYOOOOONDSとか、モーニング娘。さんの15期メンバーとか、アンジュルムの橋迫鈴ちゃんぐらいの年の差になると、「負けてられない」っていう気持ちは少しで、「大きくなったねえ!」っていうほうが強くて。だから同じフィールドに立つんじゃなくて、BEYOOOOONDSとかがもっと羽ばたいていけるように、私たちが先を行って、道を切り開いていきたいですね。もう、みんなかわいくて仕方がないです(笑)。
井上:私は人見知りな部分があって後輩と話すことがあまりないし、パフォーマンスで見せていくしかないと思うので、私たちが先輩方の背中を見ていたように、自分たちの背中を見て憧れられるような人間でありたいなって思います。
広瀬:私たちが上とか、後輩だから下っていうことじゃなくて、ただ先を歩いてあげたいっていう。それはもちろん、自分たちのためでもあります。
Photo by Yoko Yamashita
<INFORMATION>
『辛夷第二幕』
こぶしファクトリー
zetima
発売中
初回生産限定盤A
初回生産限定盤B
通常盤
こぶしファクトリー ライブツアー 2019秋 ~Punching the air!~
10月26日(土)福岡・DRUM LOGOS
11月2日(土)鹿児島・CAPARVO HALL
11月3日(日)熊本・B.9V1
12月16日(月)東京・渋谷クラブクアトロ
http://www.helloproject.com/kobushifactory/
今回、リーダー広瀬彩海と井上玲音に話を聞き、こぶしファクトリーの現在地とその先についての思いを告白してもらった。ハロー!プロジェクト内でも中堅グループへと成長を遂げた彼女たちが後輩への思いを語ったとき、グループの成熟とハロー!プロジェクトの伝統を痛感することになる。
―皆さんは現在、全国ツアーの真っ最中ですが、調子はいかがですか。
井上:これまでの私たちのライブは盛り上がることが一番のポイントだったんですけど、今回は盛り上げるだけじゃなくて、”魅せるこぶしファクトリー”を大事にしていて、新曲にもカッコいい曲、魅せる曲がたくさんあるので、とても楽しいです。
広瀬:今回は今までとセットリストの組み方が全然違くて。井上玲音ちゃんが言っていたように、今まではとにかく盛り上げる、お客さんに楽しんでもらうというのが最優先だったんですけど、今回は10月2日にアルバム『辛夷第二幕』を発売したことでアルバムからの新曲もセットリストに入っているので、そういう意味ではメリハリのあるライブになってると思います。
―ひと言で「魅せる」と言ってもなかなか難しいものがありますよね。
井上:曲調も考えつつなんですけど、いつもはお客さんと目を合わせて「一緒に歌ってね!」って感じで煽るんですけど、今回はいつスクリーンに抜かれてもベストショットが映るように、特に表情を意識してます。
広瀬:あと、今までのこぶしファクトリーは盛り上がる曲を中心にやらせていただいてきたので、お客さんに真似してもらいやすい振付がけっこう多かったんですけど、今回はがっつりダンスを踊っている曲もあるので、そういう部分では普段よりも丁寧に、みんなで呼吸をあわせて踊ることに気をつけています。
―これまでの、とにかく盛り上げるという意識に魅せるパフォーマンスが加わるとなかなか大変そうですね。
井上:そうですね。ライブの最初のほうはカッコよくできたりするんですけど、後半はライブの山を作っていくために盛り上がる曲が多くなってくるのもあって、魅せるというよりも自分自身が楽しんでずっと笑ってる状態になってることが多くて。
―「今、スクリーンに抜かれてる」ってわかるものなんですか?
広瀬:今、私たちが回ってるライブハウスにはスクリーンがないので、「いつ見られてもいいように」っていう意識なんですけど、先日、豊洲PITでやらせていただいたときはけっこう意識しましたね。リハーサルの映像を見て、「あ、ここは私が映ってるんだ」とか、ライブ中に「あ、赤いランプがついてるカメラがこっち向いてるな」とか、そういうのは気にして、そこでお客さんが「お!」って思うような表情をつくることはみんな意識してたと思います。
―でも、それって意識して急にできるものではないですよね。
広瀬:そうですね。デビュー当時は赤いランプがどうっていうこともまったくわからなくて、カメラがこっちに向いてるだけで、自分を抜いてるのか、引きでみんなを抜いてるのかっていうのもわからなかったですし、とにかくカメラを気にする余裕がありませんでした。なので、何年もパフォーマンスをしてきたことで生まれた心の余裕が大きいですね。
グルーヴ感をより意識しながら歌を乗せた(広瀬)
―今作『辛夷第二幕』ですが、各メンバーのメイン曲が収録されています。広瀬さんのメイン曲「Come with me」は、ジャジーで広瀬さんの声に合っているサウンドだと思いました。
広瀬:「あやぱん(広瀬)のメイン曲が一番好き!」って言ってくださる方もけっこういらっしゃるし、メンバーからもほめてもらえてすごくうれしいです。この曲はリズムが速くてものすごく難しいので、そういう部分でけっこう苦戦しています。歌い方に関しても、こぶしファクトリーは歌やハモリをすごく大事にしつつも、自分たちがアイドルであるということを忘れたくないと思いながら歌っているんですけど、この曲ではいい意味で自分がアイドルだという意識を捨て去って歌おうっていう気持ちが大きくて。ディレクターさんからも「椎名林檎さんみたいにムーディーな感じで歌ってほしい」っていうリクエストをいただいたので、今回こういうふうに歌えたのはすごくうれしいですし、サウンドも生演奏でグルーヴ感のあるものになっているので、ライブではカラオケですけど、そこにも注目していただきたいなと思ってます。
―生演奏だとやっぱり違うものですか?
広瀬:今回、ドラムのレコーディングを見学させていただいたんですよ。川口千里さんという世界的なドラマーの方に叩いていただいたんですけど、手が5本ぐらいあるんじゃないかっていうぐらい激しく動いていて、私も小さい頃に少しだけドラムをかじってたんですけど、それとは別物でした。打ち込みだとリズムぴったりに音が鳴るけど、ちょっとしたタメとかをレコーディングで実際に見させていただいたことで、そういうグルーヴ感をより意識しながら歌を乗せました。
―それはいい経験でしたね。
広瀬:最初は未知すぎて、「どういう感じなんだろう?」って思ってたんですけど、叩くたびに細かいアドリブが入ったりして、「このフレーズ、すごい好き!」っていうのをメンバー同士で話したりしたので、リズムの勉強にも音楽の勉強にもなりました。
―井上さんはレコーディングを見てどう感じましたか。
井上:私はドラムを叩いてるところを見るのも聴くのも好きで、アーティストさんのライブ映像でドラムの人がどういうふうに叩いてるのかよく見ているんですけど、生で見るのは初めてで、思ってた以上に大きな音だったし、生だとやっぱり違うんだなって思いました。あと、私はアカペラでボイスパーカッションをやらせていただいてるので、バスドラムがどれだけ低い音が出るかとか、そういうところを聴くことができてすごく楽しかったです。
―井上さんのメイン曲「好きかもしれない」は、歌詞を読むだけだと強がっている女の子の物語なんですけど、ボーカルが乗った途端に、好き”かも”しれないじゃなくて、モロに好きだという気持ちが強烈に伝わってくるという。
井上:そうなんです(笑)。私も最初は「これは自分に素直になれない女の子の歌だな」って思ったんですけど、ディレクターさんから「声を泣かせて」と言われて、「声が泣くってどういうこと⁉」ってかなりレコーディングで苦戦したんですけど、本当に上手くできなくて、「ああ~、泣きそう!」っていう状態で歌ったときに「あ、今のよかったよ」って言われて、「ああ、こういうことか!」って。
―メンバーのメイン曲以外にも『辛夷第二幕』には様々な曲が収録されていますが、聴く人の背中を押す曲が多いですよね。
それに、1stアルバム以上にタイトルの圧がすごい。「亀になれ!」とか。
広瀬:たしかに、タイトルからして応援ソングが多いかもしれないですね。『辛夷其ノ壱』を出させてもらったときは、背中を押すというより、「何言ってるんだろう?」ってぐらいコミカルな曲が多かったんですけど、メンバーが5人になって最初のシングルが「これからだ!」と「明日テンキになあれ」っていう、モロに「頑張れ!」っていう曲だったんですよ(笑)。そこから前向きな曲を歌わせていただくことが増えたので、それが今回のアルバムにもすごく出てると思います。
私たちも曲からパワーをもらっている(井上)
―ファンの背中を押すような曲が増えると、歌う上でもよりパワーが必要になってくるし、心構えも変わってくると思うんですがいかがでしょう。
井上:ファンの皆さんにパワーを届けるというのもあるんですけど、逆に私たちも曲からパワーをもらっている部分があるんです。だから、それぞれのパートで「ここ、いいな」って思う部分があったらメンバーに伝えることでその子も「もっと頑張ろう」っていう気持ちになるので、最近はそうやってほめ合うことが増えてます。
―みなさん、ほめられて伸びるタイプなんですか。
井上:注意するときはするし、決めごとはあるんですけど、それを守りつつもよかったところはほめ合うって感じです。
広瀬:私はほめられるのがあまり得意じゃなくて。うれしいはうれしいんですけど、どうしたらいいかわかんなくなっちゃうし、そもそも私はほめられて伸びるタイプではないんです。
だけど、他のメンバーは割とそういう子たちなんだなっていうことを5年ぐらい一緒にいるなかですごく感じようになったので、メンバーの数が8人から5人になったときに私の中で意識して変えた部分が大きいです。
―なるほど。
広瀬:私は4年半ぐらいリーダーをやらせてもらっていて、「ここはこうしないとダメだよ」とか「もっとこうしようね」って言うことが多かったんですけど、「そういう言い方じゃダメなんだな!」って気づいてから変えるようにしたんです。そうしたら、「え、うれしい! あやぱんもここがよかったよ」って言ってくれようになって、慣れないけどうれしいんですよ。なので、最初は意識しながらでしたけど、5人になってからはそういう空気が自然とできてきましたね。メンバーからほめてもらえることは、前向きな歌詞を歌う上で、「この子たちと一緒にもっと頑張りたい」って思える原動力になってるのかなって思います。
井上:私もほめられるのはうれしいんですけど、それに対してどう返したらいいかわからなくて。でも、最近はほめてもらったらほめ返すっていう形ができました。相手に注意すると少なからず変な雰囲気になるじゃないですか。私はその変な空気が本当に嫌いで。
広瀬:気まずい感じがね(笑)。
井上:そう。
だから、できるだけ自分も相手も気持ちよくなるアドバイスとほめ方をしてます。
―そういうことを繰り返しているとグループ内のムードも変わりそうですね。
井上:楽屋の雰囲気がとてもお子ちゃまになったというか、精神年齢が下がった感じがします(笑)。
広瀬:元々が険悪だったわけではないし、みんな年齢が近いこともあって和気あいあいとしてたんですけど、玲音ちゃんが言ったように、最近はピリッとすることが減りました。「こうしたらいいんじゃない?」って注意することがあっても、「あ、そうだね! オッケー!」みたいな感じで軽く受け入れられるようになったというか。わかってるからこそイラッとする部分ってあるじゃないですか。例えば、今から宿題やろうとしてたのに、お母さんから「宿題やりなさい!」って言われるとやりたくなくなっちゃうっていうのと同じように(笑)。
―わかります(笑)。
広瀬:でも、年齢的にちょっとずつ大人になってきたっていうのもあって、「ふん、何よ! わかってるわよ!」みたいな感じはなくなってきたと思います。
―ちょっとした心がけ次第で変わるものなんですね。
広瀬&井上:変わりますね。
アカペラからの影響
―作品の話に戻りますが、今回は2年10カ月ぶりのアルバムで、「亀になれ!」などライブで既に披露してきた曲を収録しています。
現場で歌い重ねてきた曲を録るのはやっぱり違いますか。
井上:全然違います! 振りが付いてるというのもあるんですけど、呼吸のタイミングが掴めてる曲はリズムの取り方も違ってきます。
広瀬:「亀になれ!」と「消せやしないキモチ」と「ドカンとBREAK!」はライブでやっていたものを音源化しているんですけど、「亀になれ!」と「消せやしないキモチ」は特にツアーで歌いこんだあとにレコーディングしたので、すごくイメージが湧きやすいんです。
―そうでしょうね。
広瀬:ライブで歌っていない曲をディレクターさんに「もっとこんな感じで歌って」って指示されて歌うと、みんなと合わさったときに自分の声が浮かないか気にしながらレコーディングすることになるんですけど、ライブで歌ってる曲はみんながどんな感じで歌うか把握した上で歌うのですごく安心感があるし、やりやすいですね。でも今回、「シャララ!やれるはずさ」っていう2年以上前にリリースしたシングルを5人バージョンで録り直したんですけど、この曲はライブの定番曲なのでものすごい回数を歌ってるんですね。そうなると逆に、「レコーディングでどう歌ったらいいんだろう……」ってなってしまって。自分の声がライブバージョンに慣れすぎてしまって、丁寧に歌えなかったりしてやりづらかったです。「亀になれ!」と「消せやしないキモチ」をライブで歌ってたのは半年ぐらいだったので、それぐらいがやりやすいなって感じましたね。
―事前にライブで歌い込んでいるほどいいってわけではないんですね。
広瀬:そういうわけでもないんだなって今回思いました。
―先ほどから話に出ているアカペラですが、今作には初回盤特典としてアカペラ集が付いてます。アカペラも初披露から2年が経ちましたね。
広瀬:「チョット愚直に!猪突猛進」の初披露から2年ですね。
―アカペラに取り組み始めたことは、皆さんの歌にどういう影響を与えていますか。
広瀬:自分の声のことってなんとなく自分ではわかってても、得意な音域がどこかっていうのを客観的に言われることってあまりないじゃないですか。だけど、ディレクターさんにパート分けをされたことによって自分の得意な音域を知れたので、自分がどこを強みにしていいたらいいのかわかるようになりました。それと同時に、アカペラ以外でも、普段の曲の歌割りで音域の棲み分けを感じるようになったし、ユニゾンでもしっかり周りの歌を聴いて合わせるようになれたと思います。
―ボイスパーカッションを担当する井上さんは特殊でしょうね。
井上:最初は、「チョット愚直に!猪突猛進」を1曲通すだけでも苦しくて、「息継ぎするとこないじゃん!」って思いながら練習してたんですけど、この前、久しぶりに「猪突猛進」をやったら先生が「え、余裕じゃん」って言ってくださって。今、自分でも成長を感じています。ビートパターンを増やすために誰のどんな曲でもいいからドラムの音をいっぱい聴くように言われてから、いろいろ音楽を聴くようになったんですけど、そうすることで自分たちの曲でもアクセントを取る場所が明確にわかってきたり、ダンスもほめられるようになってきたので、「ボイスパーカッションはダンスや歌にも生かせるんだな」って思いました。
―リズム面を強く意識するようになったと。
井上:そうですね。最初の頃は、みんなはちゃんと歌えてるのに私が足を引っ張っちゃってるって思うことが多かったし、速いテンポの曲を安定させるためにメトロノームを見たりしてたんですけど、最近は「もうちょっと早くして」って言われたらすぐに対応できるようになったし、テンポキープも前よりできるようになったので、リズムの練習を楽しくできてるなって思います。
BEYOOOOONDSは孫を見ているよう(広瀬)
―「ハロ!ステ」で初期の練習の様子を拝見したんですけど、最初は本当に大変だったんですね。
井上:そうですね(笑)。
広瀬:この前、「猪突猛進」のリハーサル映像を見たんですけど、すごく申し訳ないんですけど、玲音ちゃんのボイパも私たちのアカペラもびっくりするほど下手なんですよ。
井上:あはは!
広瀬:でも、そのときは「イケてるやん!」って思ってたんですよ。「ハーモニーもいいし、ボイパもカッコいいし、めっちゃいいんじゃない?」って。だけど今見ると、「いや、コーラスはバラバラだし、ボイパも全然聞こえないし、なにこれ?」って思ったぐらいで。でもそれは経験を積み重ねたことでボイパに対する耳だったり、和音に対する耳が成長したからこそ思うことなんだなって。
―ハーモニーに対する意識は相当成長しているでしょうね。それでは今、近々で目指していることは何かありますか?
広瀬:一番はこのアルバムをたくさんの方に聴いていただけるように頑張ることですけど、こぶしファクトリーは今年5月に単独のホールコンサートができたので、さらに大きなステージに立てるように……まだ予定はないんですけど、そうなりたいですね。あと、私たちはハロー!プロジェクトのなかでデビューした順番で言うと、真ん中よりも上のグループになるんですよ。先輩よりも後輩のほうが多くて。
―ああ、もうそんなになるんですね。
広瀬:なので、BEYOOOOONDSだとか、最近各グループに入った新メンバーにしっかり背中を見せられるような存在になっていくことを今、頑張らなきゃいけないなって思ってます。
―時の流れって早いですね!
井上:早いですね(笑)。
広瀬:こぶしファクトリーはもうすぐ結成から5年経つので、「わ、もう5年か……!」っていう気持ちが強いです。
―そうやってどんどん新陳代謝が起こっていくなかで、みなさんの気持ちはどう変わってきてますか?
広瀬:こぶしファクトリーができた3カ月後につばきファクトリーができて、そのあとも先輩グループに少しずつ新しいメンバーが入ってきたときは、正直、「私たちも負けてられない!」っていう気持ちが大きかったんですよ。つばきファクトリーに負けないように自分たちの強みを出していかなきゃ、みたいな。でも、BEYOOOOONDSぐらいになると、私はもう、孫を見てるような気持ちになるんですよね。
―孫⁉
広瀬:娘とか妹とも違くて。BEYOOOOONDSはハロプロ研修生上がりの子が多いので、ソロパートをもらって頼もしく歌ってるのを見ると、「え、あんなにちっちゃかったのに!」っていう気持ちになっちゃって。私たちがホールコンサートをすることができたり、レコード大賞で最優秀新人賞を取れたのはハロー!プロジェクトの先輩方が切り開いてくださった道を辿って頑張ってきたからということが大きいので、BEYOOOOONDSとか、モーニング娘。さんの15期メンバーとか、アンジュルムの橋迫鈴ちゃんぐらいの年の差になると、「負けてられない」っていう気持ちは少しで、「大きくなったねえ!」っていうほうが強くて。だから同じフィールドに立つんじゃなくて、BEYOOOOONDSとかがもっと羽ばたいていけるように、私たちが先を行って、道を切り開いていきたいですね。もう、みんなかわいくて仕方がないです(笑)。
井上:私は人見知りな部分があって後輩と話すことがあまりないし、パフォーマンスで見せていくしかないと思うので、私たちが先輩方の背中を見ていたように、自分たちの背中を見て憧れられるような人間でありたいなって思います。
広瀬:私たちが上とか、後輩だから下っていうことじゃなくて、ただ先を歩いてあげたいっていう。それはもちろん、自分たちのためでもあります。
Photo by Yoko Yamashita
<INFORMATION>
『辛夷第二幕』
こぶしファクトリー
zetima
発売中
初回生産限定盤A
初回生産限定盤B
通常盤
こぶしファクトリー ライブツアー 2019秋 ~Punching the air!~
10月26日(土)福岡・DRUM LOGOS
11月2日(土)鹿児島・CAPARVO HALL
11月3日(日)熊本・B.9V1
12月16日(月)東京・渋谷クラブクアトロ
http://www.helloproject.com/kobushifactory/
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