クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムが率いるデザート・セッションズとは? 最新作『Vols. 11 & 12』にはビリー・F・ギボンズ(ZZトップ)やジェイク・シアーズ(シザー・シスターズ)、ウォーペイントやロイヤル・ブラッドのメンバー、俳優/コメディアンまで参加。同作の日本盤ライナーノーツを執筆した鈴木喜之が、アルバム全曲解説を通じて個性派プロジェクトの魅力に迫る。


2017年には、マーク・ロンソンをプロデューサーに起用した意欲作『Villains』をリリースし、同年のフジロック・フェスティバル、翌年はサマーソニックにも出演して、現役ロック・バンドではトップレベルの強力なライヴ・パフォーマンスを見せつけてくれたクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(以下QOTSA)。その中心メンバーであるジョシュ・オムが、デザート・セッションズによる作品を16年ぶりに発表した。

QOTSAジョシュ・オムが新領域を開拓、デザート・セッションズの個性的すぎる音世界

ジョシュ・オム

デザート・セッションズとは、カリフォルニア州ジョシュア・トゥリーの砂漠に建てられたスタジオ=ランチョ・デ・ラ・ルナ(フー・ファイターズのドキュメンタリー・シリーズ『ソニック・ハイウェイズ』第5話や、イギー・ポップのドキュメンタリー映画『アメリカン・ヴァルハラ』の舞台となったことで知っている人も多いだろう)にて、様々なミュージシャンが数日間に渡ってセッションするプロジェクトだ。1997年から行なわれ、そこで生み出された音源は、当初は10インチのアナログ盤EPで、その後『Vol.1&2』/『Vol.3&4』という具合に2つずつワンセットのCDで発売されてきた。前作に当たる『9&10』は2003年にマイク・パットンのレーベル=イピキャックからのリリースとなり、当時は国内盤も出ている。

そもそも、活動開始からしばらくの間、メンバーが流動的な体制をとっていたQOTSA自体、デザート・セッションズの発展形と言ってもいいような形態のバンドだった。しかし、やがてQOTSAがラインナップの固定した「バンド」として活動を本格化させていくのと時期を同じくして、長らくデザート・セッションズは実施されなくなっていく。

この度ひさびさに復活したセッションは、基本的なスタイルこそ不変なものの、ほんの少し趣を変えた空気も漂わせている。もともとは、QOTSAや、それ以前にジョシュが在籍していたカイアスの関連ミュージシャンーー例えばアラン・ヨハネスやナターシャ・シュナイダー、ニック・オリヴェリ、ブラント・ビョーク、アルフレッド・ヘルナンデスといった面々が多く参加し、仲間内でつるんでいる印象もなくはなかったが、『9&10』あたりになると、女性ソロ・アーティストとして最高峰の1人であるPJハーヴェイや、つい最近スティングの来日公演でもバックを務めていたスーパー・セッション・ドラマーのジョッシュ・フリーズといった、ちょっと雰囲気の違う人たちが混ざってきた。そして今回、最新のセッションズでは、以下の原稿で紹介していく通り、ジョシュが人選の段階から考え抜いた様子のうかがえる、過去最高に多彩な顔ぶれが揃っている。おそらく、気晴らし的な側面以上に、ミュージシャン同士の化学反応を引き出し、それぞれが刺激的な体験を共有しながら、新しい音楽的領域を開拓するための手がかりを得ようとする方に、より重点を置いている気がするのだ。

実際、そういった変化を反映してか、全体にラフな感触を残してきた以前のセッション音源(もちろん、そこが魅力でもあったのだが)に比べ、この『Vols.11&12』は、アルバムとして最もまとまった仕上がりになっている。
全8曲30分ちょっとしかないので、物足りなく思うくらいだが、それでも、これがデザート・セッションズのちょうどいいサイズということなのだろう。

参加者の多くが、外界から隔離された砂漠のスタジオで体験する数日間のセッションについて「スピリチュアルな体験だった」と語っているそうで、各自の今後の活動に有益なものとなったのは間違いない。そして、作詞・作曲・演奏はもちろん、アルバム全体のプロデュースから、ミキシングに到るまでみっちりと関わり、最も大きなものを得たであろうジョシュ・オムは、QOTSAはもちろん、これからの音楽活動全般において、さらにその才能を輝かせていくことになるはずだ。

1.「Move Together」(lead vocal: Billy F. Gibbons)

サングラスと長い顎髭でおなじみ、ZZトップのビリー・F・ギボンズが書いた曲で、アルバムは幕を開ける。シンプルなエレクトロニック・サウンドをバックに、ファルセットで歌われる最初のパートは、いつもの渋いビリーらしさがまったく感じられない意表を突く出だし。もっともZZトップは、80年代にシンセサイザーを導入したサウンドでメガ・ヒットを飛ばしたりもしているので、そういう柔軟性を見せたということか。中盤以降は、ステラ・モズガワ(ウォーペイント)とカーラ・アザール(オートラックス/ジャック・ホワイト・バンド他)という、現オルタナ・シーン最強クラスのツイン・ドラムが炸裂し、大きな展開を見せていく。今回のセッションが余興レベルにとどまらない成果をもたらしたことがすぐにわかる、いきなりクライマックスなオープニング・ナンバーだ。

2.「Noses in Roses, Forever」 (lead vocal: Joshua Homme)

過去に行なわれてきたデザート・セッションズの中でも、ひときわ多彩なミュージシャンたちが集められた今回の『Vols.11&12』において、「影の功労者」的な立ち位置からジョシュを的確にサポートした気配を感じさせるのが、シャヴェズ(Chavez)のマット・スウィーニーだろう。かつてはズワンに参加したこともあり、ジョシュが深く関わったイギー・ポップのアルバム『Post Pop Depression』をフォローするツアーでもサポート・メンバーを務めていたマットは、全6曲に参加。5曲でソングライティングにもクレジットされており、名サイドマンぶりを発揮している。まんまQOTSAのアルバムに入っていてもおかしくなさそうな2曲目では、マットはステレオの右側で鳴るギターと最初のリード・パート、一方のジョシュは左側のギターと2番目のリード、そしてビリーは3番目の……などと面白くクレジットされているので、その辺りも注意して聴いてみたい。


3.「Far East For the Trees」

今回の参加ミュージシャン中、とりわけ意外な登用という印象を受けたのは、プライマスの怪人ベーシスト=レス・クレイプールかもしれない。レスは、自らの農園で作られたワインを山ほどランチョ・デ・ラ・ルナまで持参したそうで、本作のアーティスト写真でも、ワイングラスを持った姿で写っていたりする。本家プライマスでは、ベキベキブイブイした異様なベースを弾き倒しているが、これこそセッションの妙ということなのか、パッと聴きは抑え目なプレイなのが逆に面白い。このインストゥルメンタル・ナンバーでも、全体のメキシカンな乾いた風味を乱すことなく、要所でクセのあるフレーズを添えている。

4.「If You Run」(lead vocal: Libby Grace)

リビー・グレイス・ハックフォードなる女性シンガーがリード・ヴォーカルを担当するナンバー。資料では、ニューカマーと紹介されているリビーについては、ジョシュの古い友人らしいということ以外、詳細はよくわかっていない。この曲は彼女が書いたカントリー・ナンバーに手を加えたもののようだ。リビーの歌はとてもいいので、今後ジョシュの後ろ盾で本格的に表舞台に出てくるのではないだろうか。引き続き注目しておきたい。なお、この曲に関して、国内盤CDのライナーノーツでは、マタドールの用意した資料に則って「ジョシュは演奏には参加していない模様」と書いてしまったが、どうやらちゃんと参加していて、ギターやらシンセやらたくさんプレイしているようなので、この場を借りて訂正します。

5.「Crucifire」 (lead vocal: Mike Kerr)

マット・スウィーニーとジョシュが作曲した、アップテンポの小気味良いロック・ナンバー。ここでリード・ヴォーカルを任されているのは、ベース/ドラムスのデュオ編成ながらド迫力のロック・サウンドをブチかますUKロック界の俊英=ロイヤル・ブラッドのマイク・カー。
そこに、シザー・シスターズで艶やかな歌声を聴かせていたジェイク・シアーズが、クレジットでは「スーパー・ハイ・ノート」と形容される高音のコーラス・パートをかぶせている。なお、この曲はアルバム発売と同時に、バイクに変形可能な女の子が登場するアニメーションのビデオクリップも公開された。

6.「Chic Tweetz」(vocals: Töôrnst Hülpft, Matt Berry)

『プーと大人になった僕』や『スポンジ・ボブ 海のみんなが世界を救Woo!』といった映画にも出演しているイギリス人俳優/コメディアンのマット・ベリーがフィーチャーされた、今回のセッションで最もユーモラスなナンバー。読み方すらよくわからない正体不明の人物Töôrnst Hülpft(※ご丁寧にTwitterアカウントまで開設されており、なんだか意味不明のことを呟いたりしている)が、途中でレゲエ調に変わったりする軽快な楽曲に乗せて、愉快な歌を聴かせる。明らかにピッチを変調した声であることから考えても、おそらくは誰かの変名なのだろう。前作『Vol.9&10』にも、ジェフ・ザ・タフ・ジェントルマンなんていう謎めいたクレジットがあったし、ジョシュが持つ独特のユーモア・センスを感じられる。

7.「Something You Cant See」 (lead vocal: Jake Shears)

おふざけ面白ナンバーを挟んで、今度はジェイク・シアーズがリード・ヴォーカルを担当。特に中盤の滑らせるように歌う部分などは一時期のデヴィッド・ボウイっぽくもあり、イギー・ポップとの仕事を通じてジョシュが得たものを反映させたようにもに思える。ご存知の通り、シザー・シスターズは2012年から無期限休止に入ってしまったが、ジェイクは昨年になってようやく1stソロ・アルバムを発表。ひとつ前の曲では「彼が言うなら何だって100%バックアップするわっていうスタイルのバックアップ・ヴォーカル」なんて表記されているジェイクには、今回のデザート・セッションズでの体験を経て、個人活動にも弾みをつけていってもらいたい。

8.「Easier Said Than Done」(lead vocal: Joshua Homme)

アルバムのラスト・ナンバーは、ジョシュがしっとりした声を聴かせる美しいバラード。共作したのはカーラで、ジェイクとマイクがハーモニー・ヴォーカル。
単なる偶然だろうけれども、なんとなくジェイクとマイク、ステラとカーラに関して、ジョシュは名前の韻を踏んだうえで対比をつけるように使っている気がしてくる。また、主要メンバーには入れられていないが、ランチョ・デ・ラ・ルナの共同経営者として、過去のデザート・セッションズにも深く関わってきたデイヴ・キャッチング(イーグルス・オブ・デス・メタル)が「最後にちょっとだけシンセ」みたいな感じでクレジットされている。

<リリース情報>

QOTSAジョシュ・オムが新領域を開拓、デザート・セッションズの個性的すぎる音世界


QOTSAジョシュ・オムが新領域を開拓、デザート・セッションズの個性的すぎる音世界


Desert Sessions
『Vols. 11 & 12』
BEAT RECORDS / MATADOR
発売日:2019年10月25日(金)
レーベル:BEAT RECORDS / MATADOR
国内盤特典:オリジナルステッカー封入 / 解説書・歌詞対訳封入
OLE1488CDJP ¥2,200+税

=収録曲=
01. Move Together
02. Noses in Roses, Forever
03. Far East For the Trees
04. If You Run
05. Crucifire
06. Chic Tweetz
07. Something You Cant See
08. Easier Said Than Done
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