秋が深まり、18時を回る頃には陽は暮れは鈴虫が鳴いてるのに、街は夏の時間が止まったかのようだった。 『海に行ってきます』とドアにプラスチック製のマグネットが貼り付けられたアパートや木造の一軒家には外には打ち捨てられた自転車には植物が蔦を絡めていた。”聖蹟桜ヶ丘”駅から徒歩で10分ばかしのところにある川沿いに向けて僕らは歩いていた。どうやらこのあたりがbetcover!!の首謀者・ヤナセジロウの馴染みの場所らしい。
撮影場所は『STUDY』長畑宏明君とフォトグラファーの岩渕一輝君が選んだ場所にも関わらず、そこはbetcover!!にもゆかりのある場所だった。「ちょうどこの辺りで『セブンティーン』のミュージックビデオを撮影したんです」と、どこかはにかみながら思い出話を口にする。
高校中退直後に制作した1st EP『high school !! ep.』を2017年の暮れにリリース。それからややあって、現在のスタイルの原型とも言うべき2nd EP『サンダーボルトチェーンソー』を発表。「セブンティーン」は後者のラストトラックにあたる。そして今年7月には、20歳にしてavexから初のフルアルバムとなる『中学生』をリリース。自身2回目となるワンマンを成功させたばかりのタイミングでインタビューを申し込んだ。
僕がヤナセのインタビューするのは、今回で3回目。
ーなんだか調子良さそうに見えますね。
ヤナセジロウ(以下、ヤナセ):はい。最近は穏やかです。
ー今年8月のワンマンライブ「中二魂」の具合はどうでしたか?
ヤナセ:楽しかったですね。ロクロー(NITRODAYの岩方ロクロー:Dr)と吉田さん(Ba)と本格的に3人編成でやったはじめてのライブなんですけど。以前は夏椰さん(濱野夏椰、Gateballers/GODのギタリスト)がいたけど、今は3人なので俺は歌メイン。ギターもソロと歌をはっきり分けて、自由にずっと歌いっぱなしで、後は2人に任せてみたいなので。
ーやりやすかった?
ヤナセ:やりやすかったです。
ー音がサイケデリックで、音圧も高くて。轟音でギター鳴らしてる時と歌に集中している時の差とが凄まじくて。あれは誰もまだやってないことだなと思ってて。あそこまでうるさくしつつ、ちゃんと歌メロを立たせる若手はまだいないし、びっくりした人いっぱいいたんだろうなと思って。
ヤナセ:結構”歌”を立たせることに意識しましたね。スリーピースで轟音というと、音の隙間を単に埋め合わせたものに感じられてしまうというか。音圧が足りないから「とりあえずファズ」と思われたくないからどうしようと思って。だから絶対に歌と並行していかなきゃいけないな、と。だからそう思って頂いてて良かったです。
ーしかし、ライブで聴くのとアルバムで聴くのとでは随分違う音楽になってますよね。
ヤナセ:ライブって音源とはまったく別ものですから。ライブ聴いてから音源を聴くと……「おぉ、ショボい」って(笑)。その「ショボさ」こそがグッとくるかっこいいポイントなんですけど。ZAZEN BOYSの音源とかの格好よさっていうか。
ー最近聴いていて気に入ってる音楽はどんなものですか?
ヤナセ:最近だとブレッド&バターも聴けるようになりました。前は「クソが!」って思ってたけど(笑)。今は「あぁ、良いメロディーだな」と思って。あとはサーファー・ブラッドの新譜も超良かった。メロディーが「夏。思い出」って感じで。それ以外だと、もう活動してないけど中国のYOURSとかハードなんですけど、どれもすごくメロディが良いですね。
ー歌に意識が強くいってるのも、そのあたりの影響があるんですかね。
ヤナセ:きれいなメロディを作りたいっていうモチベーションはずっとありますね。後はメッセージと情景があるものが好きですね。ライブは音源とは別の生き物だから、その時のテンションを全体でどう見せたいかが、影響してくる。全体の流れを考えるのが好きですかね。
ー以前、舞台が好きって話もしてましたし、たまに音楽以外のフォーマットでの表現方法もやれそうだなって気も勝手に思っていたんですよ。それこそ小説とか?
ヤナセ:ああ、でも音楽以外はめっきり駄目ですね。小学校の時に書いていましたけど、「ダメだ、向いてない」って。先日、町田康さんと対談させていただく機会があって(CINRA.NETに掲載)、町田さんがおしゃってたのは「音楽は言葉とかそういうイメージを広げていく、音に乗せていく。文章は狭めて固めていくもの。その表現だからまったく別物。音楽と歌詞と文章は相反する。
ーでもある種、自分自身でも言葉にできてない部分というか言葉になる未満みたいなものを、こんな感じ?みたいな音でも伝えられるのって相当表現として良いフォーマットですよね。
ヤナセ:楽しい表現ですね。文字って文面以上を伝えるのは、難しいですね。それを広げる……みたいな考えじゃないですもんね。ストーリーでもここの一節がないと、この大半の意味はなくなるじゃないですか。そんなの無理だと思って、もっとフワフワしてたい。音楽は誰にでも当てはまるような部分を残したり、逆に意味が分からないけど個人的に大事なものを残した色んな人の耳に留まるまったりするんですよ。詩人でもカットアップって技法を使っても、流れやリズムがあって、それはそれで不思議ですよね。
ー確かにbetcover!!の音楽ってめちゃめちゃ個人的だけど、勝手に分かっちゃう気がする部分がある、みたいな。
ヤナセ:そうですね。それは結構意識してはいますね。
「皆が夏休みの時に自分だけいなくなったもんだから、未だに夏休みの気分が抜けらんないんです。高校を退学せずに、卒業した周囲も自分も10代から成長して大人になったけど、僕は平行世界に立ってるような孤独感はある」(Quick Japan vol.143 筆者によるインタビューより抜粋)
ーそれにしてもジロウ君、なんだか最近開けてきて。どういう心境の変化があったんですかね?
ヤナセ:確かに周りからも「ジロウ君成長したね」ってよく言われます(笑)。最初は人とあんまり目を合わせないような感じだったんですけど。人付き合いも徐々にできるようになって。自分から頑張って人と会うようになって。……そういえば、この間自分から初めて誘ってお茶にいきました。 Yogee New Wavesの角舘(健悟)さんと。
ーあ、インスタのストーリーズで見ました。
ヤナセ:そうなんです。人と喋ろうと思って。
ー以前は「シティポップ」に括られることに腹を立ててたのに、意外だなんて意地悪に思っちゃいました。
ヤナセ:ああ、いっしょくたにbetcover!!もジャンルで括られて語れるのが嫌だったけど、最近は正直どう括られてもよくなっていきましたね。
ー話してみてどうしたか?
ヤナセ:楽しかったです。やっぱり角舘さんは社交的だなと思って。見習いましたね。それは勉強したいです。会おうと思ったのも、知ってる中で一番社交的な、ポジティブな人に会いたいと思って……本当に周りは変な人、暗黒な人しかいないから(笑)。
ー(笑)。
ヤナセ:だからもっとポップな人に会いたくなったんです。やっぱりバイブスを感じました。グッドバイブス(笑)。
ー人に会いたいとか、”穏やか”とか以前では考えられなかったんですけど、自分のモードが変わった理由はなんなんですかね? アルバムが出たからなのか、作りたいものが変わったのか。
ヤナセ:いや、なんでなんだろう? 色々普通に音楽関係なく、生活で変化があったからですかね。落ち着きました。
ーその無軌道だった魂が?
ヤナセ:(身振りを交えて)シューってなりました。今すごく穏やかでハッピーですね。超ポジティブシンキング。
ー明確な理由は分からないけれど。
ヤナセ:うーん。でもアルバム制作が終わって、GW前後に新潟に曽祖父の家があってそこでのんびりしていたタイミングかもしれないですね。日本海って太平洋と違くて海が厳しくて。浜辺でその海を見ているうちに、ふと一気にモードが変わりました。
ー多摩出身だからなのか、自然のある場所にルーツがありそうですよね。
ヤナセ:そうですね。光の陰影が都会と田舎では違うじゃないですか、都会は一気に晒されている感じが嫌ですね。だからこの沿線ではじめて一人暮らしを始めるんです。ただ木造でボロい築50年のところだから、あまり音が出せなさそうで……どうしようかな。隣の家の人の犬がめっちゃ吠えるらしいんですよ。だから大丈夫なのかな?
ーやばいですね。でもなんとなく良さそう。
ヤナセ:良いです。隣が林で窓開けたら木が沢山あって、角部屋だし。
ーそうしたモードチェンジや環境の変化を経て、次のアルバムはどんな風になると思いますか。
ヤナセ:もう曲は8、9曲位できていて。その歌詞を全部1回消して、書き直す作業を引っ越す予定の家に籠もってやろうかなと。前作の延長線上にあるものになるかもしれないですけど。当時とマインドが違うから違うものになるでしょうね。『中学生』は若干卑屈さがあったけど、今は卑屈さはほとんどない。「いえーい。人それぞれだよ」っていう。人のことを気にするのは疲れるし。どうでもいいなって。好きなようにやろうよっていう感じですね。転機にしたいと思ってたので、変わっていくのかも知れません。
<ライブ情報>

「Scramble Fes 2019 supported by Rolling Stone Japan」
2019年11月2日(土)東京・渋谷TSUTAYA O-EAST
時間:OPEN 14:30 / START 15:30 / CLOSE 21:30 ※予定
出演:iri・eill・TENDRE・クボタカイ・VIDEOTAPEMUSIC・betcover!!
※2ステージ制
チケット前売り:3800円(税込・別途ドリンク代)
各プレイガイド
イープラス:https://eplus.jp/scramblefes2019/
LINEチケット:https://ticket.line.me/events/3960/
ローソン:https://l-tike.com/scramblefes2019/
ぴあ:https://w.pia.jp/t/scramblefes2019/
イベント公式ホームページ:http://tsutaya.jp/scramblefes2019/
〈ツアー情報〉
NITRODAY×betcover!!
ダブルレコ発スプリットツアー"エノシマックスツアー"
2019年11月1日(金)横浜BB STREET
出演:エルモア・スコッティーズ / betcover!! / NITRODAY
2019年11月16日(土)大阪Pangea
出演:betcover!! / NITRODAY
2019年11月17日(日)名古屋CLUB ROCKNROLL
出演:betcover!! / NITRODAY
2019年11月21日(木)渋谷WWW
出演:betcover!! / NITRODAY
チケット:¥3,000
〈リリース情報〉

『中学生』
cutting edge
発売中
betcover!!公式サイト:
https://artist.aremond.net/betcover/