モデルの菅野結以がキュレートする音楽イベント『LIVE DRAGON -NEXT- Vol.2』が10月17日、東京・渋谷WWWで開催され、THE NOVEMBERS、君島大空、Dos Monosという、現在シーンを賑わせている気鋭のアーティスト3組が熱いパフォーマンスを披露した。

『LIVE DRAGON -NEXT-』は、菅野がパーソナリティを務める深夜のラジオ音楽番組『RADIO DRAGON -NEXT-』のスピンオフ企画としてスタートしたイベントである。
今年1月18日の初回に引き続きvol.2となる今回は、菅野曰く「2019年の上半期に最も重要なアルバムをリリースしたアーティスト」をセレクト。それぞれカテゴライズされる場所は違えど、彼女ならではのセンスがほとばしるユニークなラインナップとなった。イベント当日も、君島と小林祐介(THE NOVEMBERS)の特別セッションがあったり、THE NOVEMBERSに荘子it(Dos Monos)がラップで参加したりと、この日だけのスペシャルな演奏が繰り広げられ、会場に集まったオーディエンスを大いに魅了していた。

今回RSJは、そんなイベント当日の楽屋へと潜入。小林祐介、君島大空、荘子it、そして菅野結以の4人による座談会を行った。すでに何度か顔を合わせたことのある4人だけあって、終始リラックスした雰囲気の中、お互いの活動・人柄に対する思いや自身の近況、さらには話題の映画『ジョーカー』論から「政治と音楽」まで、様々なトピックについて開演時間ギリギリまで熱く、そしてざっくばらんに語り合ってくれた。

共通点は「前世の大罪」

─そもそも菅野さんは、なぜこの3組をキュレートしようと思ったのですか?

菅野:このイベントをやると決まったのが、ちょうど上半期の終わりくらいだったんです。で、それまでの半年間を振り返ってみたときに、 THE NOVEMBERSとDos Monosと君島大空くんが「2019年上半期最も重要な作品をリリースした3組(わたし調べ)」だな、と思って(笑)。バンド、ヒップホップ・グループ、シンガー・ソングライターというふうに、スタイルやカテゴライズされる場所はそれぞれ違うのだけど、根底に流れているものは似ているんじゃないかなと思って。集まったら何かが起こりそうだと思ったし、何より私が単純に「観たい」という気持ちでお呼びしました。

─小林さんも、Dos Monosと君島大空さんといつかイベントやりたいって思っていたらしいですね。

小林:そうなんですよ。
結以ちゃんから企画書が来たときにビックリしました。「あれ、結以ちゃんにこの話したっけ?」みたいな。思わずメールしちゃいましたね。「素晴らしいセンス!ありがとう!」って(笑)。

THE NOVEMBERS×Dos Monos×君島大空、「激動の2019年」を菅野結以と語る

菅野結以:10代の頃から人気雑誌「Popteen」 のモデルとして活躍し、カリスマモデルと称される。現在はファッション誌「LARME」メインモデルをつとめる傍ら、自身のアパレルブランド「Crayme,」、コスメブランド「baby+A」のプロデュースも手掛け、独自の世界観と美意識が絶大な支持を集めている。また音楽や文芸にも造詣が深く、ラジオパーソナリティ、DJ、各種オーディション審査員を務めるなど "文化系モデル"として活動は多岐に渡る。これまで出版された著書は7冊、SNSの総フォロワー数は約100万人。

─菅野さんが言った「根底に流れているものは似ている」というのは、皆さんも感じます?

小林:この3組の共通点に関しては、荘子itがTwitterで端的に言語化してくれてたよね?

荘子it:「前世で大罪を犯した人たち」ですね(笑)。Twitterに書いたのを君島くんが見つけて、結以ちゃんのラジオで紹介してくれた。

君島:「それだ!」って思いました(笑)。

荘子it:俺たち3組というか、結以ちゃんも入れて4組だね(笑)。
もともとこれは、結以ちゃんが自分の前世を「武士」と言ってたのを聞いて浮かんだんですよ。「じゃあ、前世ではめっちゃ人を斬ってるんだな」って。

菅野:そこからだったんだ。(笑)

THE NOVEMBERS×Dos Monos×君島大空、「激動の2019年」を菅野結以と語る

THE NOVEMBERS:2005年結成のオルタナティブロックバンド。メンバーは小林祐介(Vo,Gt)、ケンゴマツモト(Gt)、高松浩史(Ba)、吉木諒祐(Dr)の4人。2007年にUK PROJECTより1st EP「THE NOVEMBERS」でデビュー。2013年10月に自主レーベル「MERZ」を設立。2019年3月、7thアルバム『ANGELS』をリリース。

─もともと、プライベートでも交流はあったのですか?

小林:僕が荘子itに最初に会ったのは、フジロックのフードコートでした。DATSのMONJOEくんと一緒にいるところを見かけて、それで少し話したんです。その時は「かっこいい人だな」って。

荘子it:なんすかそれ(笑)。
勘弁してくださいよ先輩。

小林:(笑)。君島くんもそうなんですけど、自分が個人的に好きで聴いている人たちに直接会うと、未だに「あ、本物だ」って思っちゃうんですよね。それで何度か会って話していくうちに、すごくクレバーな人だなと思うようになりました。

君島くんは最初、下北沢440でライブをやっているというのを知って挨拶しに行ったんですよ。その時は別件があってライブは観られなかったんだけど、終演後にちょっとでも会えたらいいなと思って。

君島:ライブが終わって打ち上げで飲んでいたら、「今日観たかったんだよ!」って言いながら来てくれて。それが初対面でした。

小林:君島くんがちゃんと会話をしてくれる人なのか、最初は分からなくてさ。

君島:僕もそうです。もっと恐ろしい人なのかと思ってました。

荘子it:ほんとだよね。
てか、みんなネット上で恐ろしすぎるよ(笑)。中でも小林くんが一番怖いと思ってた。

菅野:でも、実はこの中で一番穏和な人。

君島:そうなんですよ。「え、これがあのTHE NOVEMBERSの小林さん?」って。確か、THE NOVEMBERSのアルバム『ANGELS』と、僕のEP『午後の反射光』のリリース日がかぶっていて。小林さんが「僕らもいいけど君島くんもいいよ」ってTwitterで呟いてくださってて。

荘子it:そんな先輩やばすぎでしょ(笑)。とにかく、俺の周りには小林くんみたいな優しい先輩っていなかったから嬉しいっす(笑)。

君島:お互い、気になったまま終わっていたかも知れない縁を、このイベントで繋いでもらったというか。

荘子it:そうだね。そういう意味でも結以ちゃんには感謝。


ラジオへの恩返し、3人から見た菅野結以

─そもそも、菅野さんがラジオを始めたきっかけを教えてもらえますか?

菅野:当時、モデルとしての活動は始めていたんですけど、なるべく人と関わらない生き方をずっとしていたんですよね。24歳でラジオのパーソナリティを始めるまでは友達いなくて、むしろ「要らない」とすら思っていて。ずっと一人で好きなものを掘っては、一人で楽しんで、一人でライブを観ては、その感想を誰に向けるでもなく日記に書く、みたいな(笑)。それで良かったというか「この世界に自分と好みが合う人なんて存在しない」と思ってたんです。特に、その頃はギャル雑誌に出ていたので、周りの子たちとは全く聴く音楽も違えば、読む本も違うし。

でも、この『RADIO DRAGON』という番組が20時台にやっていた頃、私はリスナーとして聴いていて。友達がいないと、ひとりの時間が多いのでラジオを聴くじゃないですか(笑)。「人との会話がラジオ」みたいになっていて、そこで音楽と出会い、救われることがめちゃくちゃ多かったんです。そのことに対していつか恩返ししたい、ラジオに関するお仕事をしたいと漠然と思っていたら、ほかでもない『RADIO DRAGON』が、たまたまパーソナリティを探しているという話を聞いたんですよ。すでにオーディションを締め切った後だったのですが、「これをやるのは私しかいない!」という並々ならぬ思いでお願いして、それで人生初のオーディションを受けに行きました。

─オーディション自体が初めてだったんですね。

菅野:それまでは、「落ちたら一生立ち直れないから」と保守的に生きていて。
でも思い切ってオーディションを受けて、ディレクターと話をしたときに「この世界に、こんなに言葉が通じる人がいるんだ!」って感激して。「どんな音楽が好きなの?」と訊かれ、「一番好きなのはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインです」って言ったら「じゃあ、この辺も好きかもね」って。その中には知らないアーティストもあったりして。「こんな話が出来るなんてメチャクチャ楽しい! なにこれ!」って(笑)。人と共有できる楽しみみたいなものも、ラジオの世界で初めて知ったんです。

─皆さんは、菅野さんにどんな印象を持っていますか?

君島:今年、デビューEP『午後の反射光』をリリースしたときに、初めて呼んでいただいたラジオ番組が『RADIO DRAGON』だったんですよ。そのときに、作品について「これだけは言おう」と決めていたことを紙に書いて持っていったんです。光というのは常に美しいものとは限らなくて、光に照らされることで暴かれてしまう醜い部分があったり、その光が遮ってしまう別の光があったり。そういうことについて、僕は考えながら作品を作っていたのだなということを結以さんに話したら、それをすごく理解してくれて。この人は本当にちゃんと作品を受け止めてくれている人なんだなって。

菅野:嬉しいです。その話を聞かせてもらったとき、私が作った最新の写真集『Halation』のテーマとすごく似ていたというか、すごく近いところにあるなと思ってすぐ『Halation』を君島くんに送りました。

THE NOVEMBERS×Dos Monos×君島大空、「激動の2019年」を菅野結以と語る

君島大空:1995年生まれ 日本の音楽家。高井息吹と眠る星座のギタリスト。2014年からギタリストとして活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞/作曲/編曲/演奏/歌唱をし、多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月にデビューEP『午後の反射光』をリリース。ギタリストとして数々のアーティストのライブや録音に参加する一方、短編映画の劇伴、の楽曲提供など様々な分野で活動中。

荘子it:結以ちゃんはね、「ギャル」「闇」「ピュア」みたいな感じ、弁証法的にいうと。「ギャル」と「闇」が戦った末に、ギリギリ「ピュア」な性格が勝ったというか。

菅野:あはははは。

荘子it:だからギャルも続けているわけじゃない? 闇落ちしてギャル界のダースベイダーにはならず、ギャル界の底力を提示して見せているところがすごい尊敬する。

菅野:あざす。「ギャル魂」は大事にしてるんで(笑)。

荘子it:俺は割と簡単に闇落ちしてしまうというか。「分かるやつだけ分かればいい。100年後に評価されればいい」みたいな逃げ道に簡単に行ってしまうタイプなので、こういう人は尊敬しますね。今年、Dos Monosで『Dos City』というアルバムを出したときは、「世間に顰蹙を買ってやろう」くらいの勢いだったし、評価を求めていたわけじゃないんだけど、でもそれを「いい」と思ってもらえてこうやってイベントに呼んでもらえたことは、意外だったし有り難かったですね。俺の音楽が、ピュアネスにも届き得る強度があったんだなって。

THE NOVEMBERS×Dos Monos×君島大空、「激動の2019年」を菅野結以と語る

Dos Monos:荘子it(MC/トラックメーカー)、TAITAN MAN(MC)、没 a.k.a NGS(MC/DJ)からなる、3人組ヒップホップユニット。フリージャズやプログレ等からインスパイアされたビートの数々と、3MCのズレを強調したグルーヴが特徴。デビューアルバム『Dos City』を今年3月にリリース。荘子itは向井太一やDATS、yahyel等にも楽曲を提供するなど新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。

─この中では小林さんが一番、菅野さんと付き合いが長いですよね?

小林:そうですね。僕が覚えているのは、THE NOVEMBERSの「いこうよ」という、後半がノイズだらけになる長尺の楽曲を番組でかけてくれたとき。フル尺で流すとなると、結構分数も割くし「放送事故なんじゃないか?」というような箇所もあるんですよ。普通、こういう時ってラジオの場合はフェードアウトして曲紹介になることが多いのだけど、結以ちゃんはその曲を最後まで流し切るんです、わざわざ自分で選んで(笑)。で、曲が終わったときに「ずっと(このノイズを)聴いてられる」ってボソッと呟いたんですよね。

僕はこの曲を作りながら「このノイズがずっと続くといいのにな」と思ってたんです。だから、さっき君島くんが言ったように「この人は、ちゃんと聴いてくれているんだな」と思った。このノイズを僕と同じように、「美しい」と感じてくれる感性を持っている人なんだなと思ってすごく嬉しかったんですよね。

それぞれにとっての2019年

─さて、ここで皆さんに、ちょっと早いですが2019年を振り返っていただきたくて。

小林:バンドとしては、『ANGELS』という素晴らしいアルバムを作れたことは本当に良かったです。活動していく上で、様々な困難が押し寄せてきても、それを乗り越えていくためのパワーになってくれると思いますね。それと、いつもアルバムを作る時は「前作を乗り越えよう」「更新しよう」という気持ちが大きかったんですけど、どちらかというと今作からは個人的に「原点回帰」が始まったなというか。それこそ、バンドを始める以前の自分まで回帰してるくらい。いろんなしがらみがなくなっていったことで、自分の原風景みたいなものに対して素直になれている実感があります。

「なんで俺は、今までこれを我慢していたんだろう」とか、「『これをやってはいけない』と思ってしまう習慣は、いつの間に身についてしまったのだろう」とか。そいうものを、無理なく取り外していけるようになってきた気がします。ただ、それって「なんでもありだぜ」という感覚とも全然違う。「心が赴くままにやってもいいんだ」みたいな感じ。そうしたら、子供の頃の自分と繋がった感じがして、最近はすごく楽しくなってきましたね。

荘子it:俺は今年、作品を初めて世に出して。「こいつは作品を作るやつなんだ」と認知され、趣味でやってるんじゃないことがバレてしまった(笑)。来年はソロも出すつもりだし、長い「勉強」の時代は終わったなと思っています。

小林:「この才能、見つかっちゃった」感はあるよね、2人には。

君島:僕も今年初めて作品を出して、ライブをやったりラジオに呼んでもらったり、今まで体験してこなかったようなことが、生活の中で大きな部分を占めてきて。すごく激動だったんだなって思いますね。それこそ勉強していられる時間は終わったのかなって。今は、それらを徹底的に遮断しているところですね。できれば山に篭りたいくらい。

(全員笑)

君島:さっき小林さんがおっしゃっていたことに近いんですけど、「これを『いい』と感じていた自分の感情を、あの時は殺していたな」とか、「本当はこういうものが好きだったよな」「これ、やりたかったことだ」みたいな感情と、もう一度向き合いながら制作を始めているところです。

菅野:私は「一人でやれることは全て終わった」ゾーンに入ってます(笑)。それに、今はどれだけ遊びながら(仕事を)やれるか?というところに重きを置いている。野山を駆け回り、そこで転んだ血を見て、ハッとなって詩が生まれて(笑)、そこからものを作るみたいな。

─随分ワイルドですね!

菅野:今までは「これを作りたいから、そのためにこれを吸収しよう」とか、自分の興味あることに重きを置いていたんですけど、これまで全然興味がなかったものに今は飛び込みまくり、そこで見たもの、思ったこと……結果「つまんなかった!」でもいいんですけど、そういうところからモノ作りをしていますね。自分自身にとって予想外のことや、やったことのないことをいっぱいしたくて、無人島に行って日に焼けまくったり、海に潜ったりしています。そうすると、自分と全然関係ない世界だと思っていたことが実はつながっていたりして。やっぱり地球って丸いんだなって思っていますね(笑)。

深刻な社会情勢、映画『ジョーカー』への見解

─音楽以外でもいろんなことがあった年ですよね。社会情勢なども含めて。

荘子it:最近は、とにかく左派が無力になってしまったと思いますね。アートって本来もっと社会や政治に直結しているものだと思っていたけど、21世紀は別の形を取らないといけないのかなって。「音楽に政治を持ち込むな」とか最近よく言われているけど、ここ最近のアートは、政治との結びつきなんてマジでなくなってきてる。中には政治的なアティチュードを示す音楽家もいるけど、やることといえばデモに参加したり署名をしたり、音楽作品とはまた別の手段でしかやることができていない。

例えば今って、あまりにも国のやっていることが不条理すぎて。署名が回ってきたらするしかないんだけど、でも芸術家が、複雑な作品を作りながら、終わっている政権に対して超真っ当な主張を「署名」で伝えるしかできなんて、マジで「無力感」しかない。「お前、いつもあんな難解な作品作ってるのに、政治に対してできることって署名だけかよ?」って。

君島:死ぬほどわかる。

荘子it:署名とかデモとかより他に作品ですることだろ?って。表現の自由は当然守られるべきなんだけど、そんな当たり前のことを、芸術家が言わなきゃいけない状況そのものに俺は一番怒ってますね(笑)。

小林:「活動的なバカが一番怖い」って誰かが言っていたんですけど、「バカ」だと言葉が悪いから「野蛮な力」と言い換えるとして、そういうものが「知」の領域にまで浸透している空気は感じます。本当のこと、本質的なことを言っても、それが多くの人にちゃんと伝わらない状況が、もはや止められないくらい進んでいますよね。「声がでかい方が勝つ」というのは、ロックの文脈では美徳とされていた時期もあったし、ある意味本当のことだけど、今は、「野蛮さ」それ自体が声のデカさに繋がってしまうような空気が、社会を覆っていることが厄介だなと思います。

─例えば?

小林:例えば、アーティストが政治的な思想・スタンスと直結した作品を作ったとして、それをリスナーが膨大な作品の中から選び取り、そこで何かを感じて実際の行動に移していく……という一連の行為が、「デモへ行く」「署名する」というスピードに勝てないっていうことなんだと思う。

「こんな作品を作りました」と言っても、誰にも気づいてもらえないことが現実としてありますよね。しかも、それが政治的なメッセージを持っているかどうか、馬鹿でもわかるようにしておかなければ機能しない。表現の機微なんて、あっけなく透明な背景になってしまう。あからさまに「原発反対」とかそういう明確なメッセージを掲げないと、「社会や政治にコミットしている」とすら認識されないというか。作り手側も、同調圧力へのリアクションとして簡単に何かを発して「社会的・政治的な表現をした気になる」みたいなところに陥らないよう気をつけなきゃいけないなと思います。より良く生きる、より良く「社会する」ってことはとても大変なことですが、とにかく、知ること、学ぶことが改めて重要だと思う。

荘子it:そうなんだよね。「アーティストたるもの、投票くらいしろ」みたいな空気も、ある意味「同調圧力」だからね。投票なんてしたって何の意味もないんだから!……いや、投票はすべきなんだけどさ。「投票なんかしても意味がない」という厳然たる事実と、「投票はみんながすべき」という当たり前のことに引き裂かれ、耐えられなくなっている人がメチャメチャ多い気がする。だからこそSNSなどで、「投票しましょう」と呼びかけることでその重圧から逃れようとしているというか。

小林:政治的な発言をすることで、自分が慰められているという部分はあるのかもね。

荘子it:そうそう。俺もそうだよ。投票も署名もしてるけどさ。それは粛々とやっていかなきゃいけないんだけど。「とりあえず祭りに乗っかっておけ」では、それこそ『ジョーカー』と同じ世界だと思う。

小林:ゴッサム・シティが燃えている様子に、群衆はカタルシスを覚えてしまうわけだよね。僕が『ジョーカー』を観て思ったのは、ああやって悲しい過去を持つ「悪人」をヒロイックに描くことによって、自分の中の「負」の要素を、昇華するでもなく「負」のままで巻き散らかし、街が腐敗しきったとしても自分には「悲しい過去、辛い現在」というアリバイがあるから関係ないっていう態度を取る。そういう主人公の行動原理について強く批判している人もいたけど、映画ではそこを批判的に描いているんだと俺は思いたかった。だから自分は観られたのだと思う。ちゃぶ台ひっくり返したいのはわかる、でもこれはダメだと思わないと、ってとこまでの映画だと。「ゴッサム・シティが燃えていることにカタルシスを得ていいのか?」と。

菅野:『ジョーカー』、荘子itくんはどうだったの?

荘子it:俺はノレなかった。「わかる!」っていう気持ちと、今の空虚さを反映しているなあっていう気持ち。特に「空虚」については、俺ならどう乗り越えるかが最近のテーマです。

君島:「負」の要素といえば、最近はSNSを観ていても「負」の感情が渦巻いている状態ですよね。僕は敏感な方なので、そういうのを眺めていると自律神経がやられそうになる。今はTwitterがメディアとして最も力を持っているし、無視するわけにもいかないのだけど、TLに流れてくるツイートの中から正しい情報と間違った情報を見極め、選び取っていくというのがすごく徒労に感じて。

菅野:うんうん。私も疲れちゃうから、今は「どれだけ自分で正気を失えるか?」を考えていますね。

荘子it:はははは。ひょっとして結以ちゃんがジョーカーなのかも(笑)。だって結以ちゃんが好きな『哀しみのベラドンナ』とか『ジョーカー』と同じ話じゃない?

菅野:確かに(笑)。でも『哀しみのベラドンナ』が圧倒的に素晴らしいのは、映画の中で私の気持ちを昇華してくれるからなんだよね。だって、正気で生きていたらどうしようもないことだらけじゃないですか。何かに夢中になっている瞬間だけ正気を失って違うところへ行ける。そんな瞬間をどれだけ作れるのか、自分の活動の中でどれだけそれを表現していけるか? をいつも考えています。何か直接的に世界を変えられるわけじゃなくても、個人の世界はその瞬間に大きく変えられるから。そこを大事にしたいなと。

君島:僕も、一人の時間の純度の高さをもっと突き詰めたい。一人でハイになっている状態をどれだけ作れるかというのは、夏頃からずっと考えているし、きっと来年も考えていると思います。

荘子it:じゃあ俺は、この中で唯一「ハイにならなくてもいいんだよ?」って言う人になりたい(笑)。「幸せなんて追求しなくても、いい人生を送れる可能性があるんだぞ人間は」と。「理性を追求しすぎて、バカを見て狂気に走ってもいいんだよ?」っていう。それはジョーカーの「狂気」とは違うんですよ。何故ならあれは、人に強要される狂気だから。そうじゃなくて、一人で狂気に落ちるってある意味、めちゃめちゃ理性的で研ぎ澄まされたものだし、

─そろそろ時間が来てしまいました(笑)。今回でVol2を迎えた『LIVE DRAGON』ですが、この先も続けてほしいイベントです。

菅野:そうですよね。今回がVol2なんですけど、Vol100を目指して頑張りたいですね。

荘子it:今日のイベントで頑張ったら、次も出られる可能性ある? 来年の出場権をかけて、この3組で戦おうよ!

(全員笑)

LIVE DRAGON-NEXT- vol.2 完 。

2019年上半期、
超重要な作品をリリースした3組(わたし調べ)の共演
今みたいな、と企画したのが半年ほど前のこと… https://t.co/iYh8D4TvSn pic.twitter.com/IcpMqjjjPv— 菅野結以 (@Yuikanno) October 18, 2019

TOKYO-FM「RADIO DRAGON -NEXT-」
TOKYO FM 毎週金曜27:00~29:00
パーソナリティ:菅野結以
Twitter :@RADIO_DRAGON
ハッシュタグ:#radiodragon
http://www.tfm.co.jp/dragon/

【THE NOVEMBERS】

「NEO TOKYO 20191111」
2019年11月11日(月)渋谷TSUTAYA O-EAST

「TOUR -天使たちのピクニック-」
2019年11月21日(木)京都MUSE
2019年11月22日(金)静岡UMBER
2019年11月24日(日)金沢vanvan V4

BAROQUE x THE NOVEMBERS「BRILLIANCE」
2019年12月1日(日)伏見 JAMMIN
2019年12月21日(土)江坂MUSE
2019年12月25日(水)渋谷STREAM HALL

その他のライブスケジュール:
https://the-novembers.com/live/

【Dos Monos】
THE NOVEMBERS×Dos Monos×君島大空、「激動の2019年」を菅野結以と語る


2019年10月発売のコンピレーション『SHIBUYAMELTDOWN』に新曲「Dos City Meltdown」で参加。
https://linkco.re/ZtFdVryn

【君島大空】

君島大空合奏形態 夜会ツアー「叙景#1」
2019年11月17日(日)京都 CLUB METRO
2019年11月18日(月)名古屋 今池 得三
2019年11月19日(火)渋谷WWW ワンマン
※全公演ソールドアウト

その他のライブスケジュール:
https://ohzorafeedback.wixsite.com/hainosokomade/live
編集部おすすめ