アンコールに応え、鳴り止まぬ拍手の中で感極まったあ~ちゃんがそう言うと、会場からは大きな笑いが起きた。およそ1時間、本編中はMC一切無し、完全着席スタイルという、通常のPerfumeのライブとは全く違う雰囲気の中、圧倒的な体験を味わっていた私たちは、ここでようやくいつもの彼女たちの表情に触れ、少なからず安堵を覚えたのかもしれない。
「渋公」の名で長らく親しまれてきた渋谷公会堂が10月13日、およそ4年の月日を経て「LINE CUBE SHIBUYA」という新たな名称で再スタート。その「こけら落とし公演」として16日から27日までの間、Perfumeの『Reframe 2019』が計8公演開催された。
同イベントは、2017年12月21日にNHK総合で放送された番組『Perfume × TECHNOLOGY 2017』と関連して、翌年3月20日、21日にNHKホールで開催された、スペシャルライブ『This is NIPPON プレミアムシアター「Perfume×TECHNOLOGY」presents "Reframe"』の最新バージョンである。ライブの振り付けと演出はMIKIKO先生、インタラクション・デザインは真鍋大度、齋藤精一率いるRhizomatiks(通称”ライゾマ”)。チームPerfumeの中核を担うお馴染みのメンツだが、発端となった番組名が『Perfume × TECHNOLOGY』と銘打っていたように、この『Reframe』はライゾマの持つテクノロジーの粋を集めた特別のパフォーマンスを見せる場なのである。
ファンの間ではよく知られていることだが、Perfumeとライゾマが初めてタッグを組んだのは今から9年前。彼女たちの結成10周年記念として行われた、2010年の東京ドーム公演である。巨大な風船が楽曲に合わせて点滅したり、メンバーが遠くの風船をレーザーで撃ち抜いたり、3Dカメラで撮影した3人と実際の3人がステージで共演したり、当時としてはかなり画期的な演出に度肝を抜かれたのを覚えている。以降、Perfumeのライブ演出に欠かせない存在となったライゾマは、毎回こちらの予想を軽く超えるステージを作り上げ、我々を驚かせ続けてきた。
記憶に新しいところでは、やはり今年4月に米国最大のフェス『コーチェラ2019』に出演した際のパフォーマンス。高さ2メートルほどの半透明パネルをステージに複数持ち込み、そこに映像を投影するなどの演出がYouTubeで生配信されたときのことだろう。その際、昨年末のNHK紅白歌合戦の時と同様、ディープラーニングを導入したその画期的な映像が世界中で大きな話題となった。
もちろん、Perfumeのライブは「生身の3人」だけでも十分に魅力的で、それは野外フェスのようなシンプルにせざるを得ないステージであっても、そこにいるオーディエンス全てを魅了する愛すべきキャラクター、卓抜した身体能力と技術に裏打ちされたダンスによって証明済みだ。が、そんな彼女たちが自らの「ポップな要素」を封印し、とことんストイックで実験的なステージをライゾマ、MIKIKO先生と共に作り上げたらどうなるのか。それを実行に移してみせたのが、他ならぬ『Reframe』なのである。
「歴史」をアーカイヴしていくような演出
筆者が訪れたのは、10月23日の公演。「1人につき1枚まで」という、PTA(Perfumeファンクラブ)の厳正なる先行抽選で何とか手に入れた席だ。同じ立場の人が多いのか、新しい建物の匂いがする会場内には、1人で観に来たと思しき観客が目立った。
ステージにはスクリーンが張られ、定刻になるとそこに幾つもの幾何学模様が投影される。地響きのようなキックとベース音に合わせ、それらがリズミカルに動き出したかと思うと今日の日付「2019/10/23」が突然表示され、物凄い速さでカウンターが回り始めた。そして、Perfumeのメジャー・デビュー日である「2005/09/21」まで巻き戻ると、そのデビュー曲である「リニアモーターガール」ほか、これまでのミュージック・ビデオが細かくカットアップされ、過去のインタビューやライブの映像と共に、まるで走馬灯のように次々と映し出されていった。ちなみにここは、過去の振り付けから機械学習で似た姿勢の推定を行い、似ている振り付けのシーンを並べるという、新しいシステムを導入したという。
「この『Reframe』は、私たちのこれまでのデータや歴史を”再構築=Reframe”して、自分たちの未来へとつなげる作品です」と、あ~ちゃんがアンコールで言っていたように、まるで自分たちの「歴史」をアーカイヴしていくような演出が、随所で見られた。例えばライブの前半、3人の生声を解析しビートを生成、照明や映像にその場で反映させるという場面があった。

Photo by 上山陽介
またライブの中盤、「チョコレイト・ディスコ」「ポリリズム」「love the world」「レーザービーム」「GLITTER」など、これまで彼女たちがリリースしてきた楽曲の名前が次々と(彼女たちの声で)読み上げられ、そのたびに、その曲の最も印象的な「決め」のポーズが本人たちによって数秒ずつ再現されていく「Pose – Perspective」という演出も(ここでは「Photogrammetry」と呼ばれる3D復元技術を用いてポーズを3Dデータ化、様々な角度からポーズをレンダリングしていた)。ほんの数秒のポーズだけで、その曲をありありと思い出せてしまう、これも彼女たちの「歴史」をアーカイヴする演出の一つだ。
さらにReframe2019に繋がるこれまでライブ会場や歴史をデータ・ビジュアリゼーション、楽曲、ダンスで振り返る「Kiseki – Visualization」という演出も。2004年の『BEE-HIVE New Year Live 04 ~Perfume day~』から始まり、今年開催された『Perfume WORLD TOUR 4th 「FUTURE POP」』まで、ワールドツアーや先述のSXSW、コーチェラなどを含めた膨大なツアーの思い出がタイトルと共に一瞬で蘇り、その一つ一つのに胸が熱くなる。

Photo by 上山陽介
「私たちのポップな一面からは想像もできないような、ストイックなステージですが、このテクノロジーの中にも、本当にいろんな人が積み重ねた手が入っていて。愛がこもった公演です」と、アンコールであ~ちゃんが話していたが、最新テクノロジーを使いながらも、人間らしい温かみのあるステージを作り上げていくことを目指す、彼女たちらしい演出の数々だ。
「誰も想像していなかった未来を今、歩いています」
もちろん、Perfumeの高精度なダンスと中田ヤスタカによる先鋭的な音楽、そしてライゾマ&MIKIKOの舞台演出が高次元で融合した圧巻のパフォーマンスも。例えば「Fusion」では、モーションキャプチャを用いて自動コントロールされた複数のムービングトラックLEDが、曲に合わせて様々なフォーメーション作り、そこに伸びたり縮んだりする3人の影(仮装光源を用いて仮装の影を生成する「バーチャルシャドウ」)を投影して、ダンスと完全にシンクロさせていた。また「edge」では、先述の「Photogrammetry」を用いて3人の踊る姿を3Dデータ化。それをムービングトラックLEDとダイナミックVRディスプレイに投影しながら、彼女たちのダンスを「拡張」してみせた。
昨年3月に開催された『Perfume×TECHNOLOGY」presents "Reframe"』では、事前にファンから募った「大切な写真」を画像解析し、ミュージック・ビデオの一部に組み込んでいくという「ファンと3人の絆」を演出した一幕があったが、今回は会場の一角に「Pose analysis」なるブースを設置し、そこでファンを撮影。事前にキャプチャしたモーションデータに類似した画像解析データを元に、ファンが公演に「参加」できるという試みがなされていた。これもまた、「テクノロジーに人間の温もりを」というチームPerfumeのコンセプトの一環といえよう。
ステージ後半は、15台のレーザーを制御しメンバーの手の動きと完璧にシンクロさせた「無限未来」、天井から垂らした薄い布に光をあて、まるでオーロラの中にいるような神秘的な空間を作り出した「Dream Land」を披露し本編は終了。アンコールでは、先日リリースされた彼女たちにとって初のベスト・アルバム『Perfume The Best "P Cubed"』の1曲目に収録されている新曲「Challenger」を、まるで初期の頃のような元気いっぱいの振り付けで踊ってみせた。

Photo by 上山陽介
「デビューした時は、まさかこんなに長く続けられるとは思っていませんでした。自分たちも信じられなかったし、スタッフの皆さんも誰も想像していなかった未来を今、歩いています。この、信じられないような瞬間を長く続けていくにはどういうふうにしたらいいかなって考えた時、やっぱり自分たちがドキドキワクワクするような、『楽しいな!』って思えるようなこと、自分たちが一番興奮すること、そういうことをやっていくことが大事だなと思っています。どうか私たちの可能性や、私たちの夢を応援してもらえたら嬉しいです」
最後にそう挨拶したあ~ちゃん。Perfumeの中で、最もストイックかつ実験的な要素を全開にしたステージで、自分たちの「データ」や「歴史」を再構築してみせた3人は、これからどんな未来へと進んでいくのだろうか。目下のところ、ベスト・アルバムを携えての全国ドームツアーが来年明けにあるが、今や日本のポップカルチャー、メディアアートの最先端にいる彼女たちが、東京五輪や大阪万博を控える日本から、世界に向けてどんな「景色」を発信してくれるのか。今から楽しみでならない。