「Sweetness」「The Middle」などの代表曲で知られる米アリゾナ州出身のジミー・イート・ワールドが、先日発表されたニュー・アルバム『Surviving』(日本盤は10月27日リリース)を引っ提げ、2020年3月29日にDOWNLOAD JAPAN 2020へ出演する。彼らの歩みと新たなチャレンジを、音楽ライターの山口智男に解説してもらった。


ジミー・イート・ワールド(以下JEW)に何やら追い風が吹き始めた。

いや、1993年にアリゾナ州メサでジム・アドキンス(Vo,Gt)、ザック・リンド(Dr)、トム・リントン(Gt,Vo)らが結成してから26年、そしてリック・バーチ(Ba)が加わり、不動のラインナップが揃ってからすでに24年。94年にセルフタイトルの1stアルバムをリリースしてからこれまで2、3年おきにアルバムをリリースしながら、四半世紀もの間、ロック・シーンの第一線で活躍しつづけてきた彼らに今さら、追い風も何もないだろうと言うのなら、多くの人の目を今一度、JEWに向けさせる状況がこの数年、いくつか生まれてきたと言い換えてもいい。

その1つがアルジャーノン・キャドワラダー、イントゥ・イット・オーヴァー・イットといったバンドが火をつけ、アメリカン・フットボール、ミネラルといったオリジネイターたちのリユニオンにつながったエモ・リバイバル・ブームだ。その中で、「エモって何だ?」「じゃあ代表バンドは?」と辿っていった結果、JEWを再発見した若いリスナーは少なくなかったと思う。また、8年ぶりにアルバム(『Problems』)をリリースしたゲット・アップ・キッズがこの10月、来日したことも、日本におけるエモ熱を再燃させ、彼らととともに2000年前後のエモ・シーンをリードしたJEWの存在を多くの人が思い出すきっかけにもなったと思う。

エモ・リバイバルのバンドをまとめたプレイリスト

そして、2017年に実現したMAN WITH A MISSIONとのカップリング・ツアーの影響力は、日本におけるJEWの知名度を一気に上げるという意味で、計り知れないものがあったと思うのだが、JEWが11月27日にリリースする最新10thアルバム『Surviving』は前作『Integrity Blues』から一転、再びストレートなロック路線に回帰した、そんなタイミングにドンピシャの作品なのだから、ここでさらにもうひと盛り上がりと期待せずにいられないではないか。

――と、ここまで書いてきて、正直、筆者はジレンマに襲われている。なぜなら、JEWが90~00年代のエモ・シーンを代表するどころか、エモというジャンルをメジャーなものにした立役者だと思いながら、エモの一言で語ることができるバンドではないとも思っているからだ。

JEWがエモ・バンドだったと言えるのは、アルバムで言うと、実は99年の『Clarity』と2001年の『Bleed American』のわずか2枚。ともにハードコア由来の激情と悲壮感を多分に孕んだ美しい――それこそエモいメロディがダイナミックに交差するJEW流のエモ・サウンドが鳴り響き、当時は、そこに同じパンクをバックグラウドに持ちながら、メロコアとは明らかに違う潮流を感じて、新しい時代が始まったと思ったものだ。

ちなみに『Clarity』収録の「Lucky Denver Mint」が映画『25年目のキス』に使われ、スマッシュ・ヒットしたにもかかわらず、アルバムのセールスが芳しくなかったため、当時、所属していたメジャー・レーベルから満足できるサポートを得られなかったバンドはレーベルと決別。
同時にマネージャーとのトラブルを抱えていたことから、手元に残った金を4人で分けて、解散するか、それともその金で起死回生を賭け、アルバムを作るか、2つに1つというところまで追い込まれてしまい、ギャラは出世払いでいいというプロデューサー、マーク・トロンビーノと背水の陣で作り上げたのが『Bleed American』だった。

そんなエピソードも含め、『Clarity』と『Bleed American』は、ともにエモを代表するアルバムだと思うのだが、米ローリング・ストーン誌による「40 Greatest Emo Albums of All Time」でも、それぞれに13位と8位にランクイン。

ポップな魅力が大歓迎され、ヒット・シングルになった「The Middle」、何年経っても、聴くたび鳥肌が立つJEWのNo.1エモ・アンセム「Sweetness」、そして、聴く者の胸を焦がす「If You Dont, Dont」といった、いまだに人気の高い3曲を収録した『Bleed American』はエモを語る上でも、JEWを語る上でも外すことができない代表作中の代表作。もうちょっと順位は上でもいいと思うのだが、ともあれ、その『Bleed American』で、不動の人気を確かなものにすると、JEWはそこからオルタナ以降のロックのスタンダードになりえる普遍のロック・サウンドを追求しながら、『Futures』(2004年)、『Chase This Light』(2007年)とアルバムのリリースを重ねていった。

そして、『Invented』(2010年)、『Damage』(2013年)と新たなアンサンブルを試しながら叙情派のギター・ロック・バンドとして円熟をアピールしたところで、メンバーたちが大きな変化を求めたということなのだと思うが、2016年の『Integrity Blues』では、大胆にシンセ・サウンドを導入しつつ、ポストロック的とも、ポスト・パンク/ニューウェーブ的とも言える――以前のJEWの作品で耳にすることがなかったサウンドにもアプローチして、ファンを驚かせた。中には「Blues」という言葉を使ったタイトルからしてJEWらしくないと感じたリスナーもいたかもしれない。しかし、22年のキャリアを持つベテランが、自ら追求した円熟を拒否するように、そこまで大胆になれることが頼もしかった。

「ほとんどのアルバムに通じることだと思うけど、俺たちがいつも自分たちに課しているチャレンジとして、シンセサイザーやキーボードみたいにいつもとは違う楽器を取り入れてみることなんかもそうなんだけど、ソングライティングの中で、あまりに居心地が良すぎる場合と言うか、あまりに馴染みがある場合は、そこから離れてちょっと遠くから見てみて、意図的に新しいアプローチを取り入れるようにしている」

これは『Surviving』におけるバンドの挑戦を尋ねられたリックの回答だが、なるほど、エモからの脱却をはじめ、JEWがアルバムを作るたびごとに僕らリスナーに見せてきた変化は、そういうきっかけで起きるわけだ。リックの発言をもうちょっと聞いてみよう。

「それはアレンジだったり、楽器編成だったり、メロディの作り方だったりするんだけど、自分たちにチャレンジを課して、ミュージシャンとして、そしてソングライターとして成長しつづけたい。過去の成功に頼りたくはないんだ。もちろん成功は成功だし、俺たちはそれを道具箱に入れて抱えて生きていく。
でも、完全には頼りたくないんだよね。新しい環境を探索して、あまり居心地の良くないところにも行ってみる。アイディアが見つかってそれをまとめる中で、あまり確信が持てない時、たとえば、”うーん、俺たちらしいかよくわからないけど、何かしっくりくるんだよな”みたいな時は、結局、それが正しい道なんだって思う」

前述したとおり、『Integrity Blues』から一転、ファン待望のストレートなロックに回帰したと評判になっている今回の『Surviving』だが、実は『Integrity Blues』と同じくらいファンを驚かせるかもしれない。なぜなら、ストレートなロックはロックでもこれまでとは明らかに違う音像になっているからだ。その意味では、単純に回帰とは言えない、それこそリックが言う「ミュージシャンとして、そしてソングライターとして成長しつづけたい」という意思や「俺たちらしいかよくわからない、けど何かしっくりくる」感覚がストレートなロック・サウンドの中で際立つ作品と言ってもいい。

ストレートなロックはロックでも、これまでと何が違うのか? 「Diamond」のようなJEW節と言えるロック・ナンバーがある一方で、たとえば、ギター・リフとボーカルがハード・ロックっぽい「Criminal Energy」や80年代のアリーナ・ロックを連想させるミッドテンポの「One Mill」やオプチミスティックなロックンロールの「All The Way (Stay)」を聴けば、彼らが新たな挑戦に取り組んでいることがわかってもらえるだろう。「All The Way (Stay)」の終盤に加えられたサックス・ソロとレイチェル・ヘイデンによる力強いコーラスなんて、まるでブルース・スプリングスティーンみたいだ⁉

「さっきの話になるけど」とリックは、「All The Way (Stay)」のサックス・ソロについて、こんなふうに語っている。

「最初はこれでいいのか確信が持てなかった。俺たちがこれまで取り入れた音じゃないしね。”うーん…どうだろう?”みたいな感じだった。でも、演奏を聴き返してみたら、もうあれなしでは曲が想像できないくらいの気持ちになったよ。”これだ!”と思ったね。
とにかく楽しかった。ああいうものができて本当にハッピーだね」

アルバムを通して、乾いたギターの音色も印象的だが、前作の名残とも言えるエレポップの「555」やリック曰く「音楽的な旅というコンセプトがあった」という6分超えのポスト・パンク・ナンバー「Congratulations」、日本盤にはさらにアンドリューW.K.の「Party hard」のカバーも収録され、『Surviving』は当然のごとくストレートなロック・サウンドに回帰なんて一言では語ることができない充実の1枚となっている。

きっとエモ・リバイバルの中で、JEWや、彼らの代表作と言える『Clarity』や『Bleed American』に出会ったリスナーが、『Surviving』を聴いたら、相当びっくりすると思うが、いや、これまでJEWを聴きつづけてきた昔からのファンだって、そこは同じだと思うが、新しいことに挑戦する以上、そこに大きな驚きがなければ、挑戦した意味はない。

『Surviving』を好きか嫌いかは、リスナーそれぞれに感じ方があると思うが、それはさておき、デビュー25周年を迎えるタイミングで、これだけチャレンジングなアルバムを作ってしまったところが重要だ。JEWはまだまだ進化していける。バンドに吹き始めた追い風は追い風として、彼らは自ら状況を変えていける可能性を持っていることを証明して見せたのだ。長年、彼らの作品を聴きつづけてきたリスナーとして、これほどうれしいことがあるだろうか。

来年3月29日に幕張メッセで開催されるDOWNLOAD JAPAN 2020に出演することも決定している。新たな挑戦に取り組んだ『Surviving』の曲セットリストの中で、これまでの人気曲と並んだとき、どんなふうに聴こえるのかが楽しみだ。いまだ進化を続けるJEWの雄姿を、ぜひ多くの人に目撃してほしいと思う。

マンウィズも愛するエモの王者、ジミー・イート・ワールドの四半世紀と新たな挑戦

ジミー・イート・ワールド
『Surviving』
2019年11月27日(水)発売
国内盤ボーナス・トラック:
「パーティー・ハード(アンドリューW.K.のカバー」収録
2,200円+税 / SICP-6232 / 歌詞・対訳・解説付

配信曲試聴リンク:
https://SonyMusicJapan.lnk.to/JimmyEatWorldSurviving
日本公式ページ:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/jimmyeatworld/

マンウィズも愛するエモの王者、ジミー・イート・ワールドの四半世紀と新たな挑戦

「ジミー・ドリンク・ワールド!~JEWデビュー25周年記念&『サヴァイヴィング』リリース・パーティ~」
2019年11月27日(水)
COREDO室町テラス1F CRAFTROCK BREWPUB&LIVE
OPEN/START 19:30~
入場無料(※未成年者は入場不可)
詳細: https://craftrock.jp/brewpub/

マンウィズも愛するエモの王者、ジミー・イート・ワールドの四半世紀と新たな挑戦

DOWNLOAD JAPAN 2020
2020年3月29日(日)幕張メッセ9~11号館
出演:マイ・ケミカル・ロマンス、オフスプリング、エヴァネッセンス、
ジミー・イート・ワールド、イン・フレイムス、アット・ザ・ゲイツ 他
時間:OPEN 9:30 / START 10:30
料金:スタンディング:16500 円(別途 1 ドリンク代)
VIP:30000 円(入場チケット+VIP 特典)
オフィシャルサイト: https://www.downloadfestivaljapan.com/ja
編集部おすすめ