これまでタバコを辞めようと思ったことはあるのか。その問いに彼はこう答えてくれた。
「タバコに失礼ですね」と満面の笑みを浮かべるのは山嵐の武史だ。

同業のミュージシャンからも一目置かれる重低音を鳴らし、今年で結成23年目を迎えるミクスチャーロック・バンドを支える轟音ベーシスト。ライブでは軽快にステップを踏んでベースをつま弾く姿は、同性の男目線で見ても惚れ惚れするほどカッコイイ。では、どんな時にもっともタバコを吸うのか。

「ライブ前ですかね。緊張しているのかな?(笑)。山嵐のメンバーはほぼ全員吸いますから。楽屋、機材車の中とかやばいっす、煙くて。最近観た映画『ジョーカー』もそうだったんですけど、めっちゃ吸ってるじゃないですか。ああいうシーンを観ると、吸いたくなるんですよね。俺は映画も好きでよく観るんですけど、カッコイイ吸い方とかしていると、参考になりますね」

1980~90年代の映画や音楽を多感な時期に浴びた武史にとっては「音楽とタバコってライフスタイルじゃないですか」という結論に自然と辿り着く。山嵐の方に話を移すと、現在はツアー真っただ中にいる。
今年はバンド活動の中でも大きな転機となった。15年にKAI_SHiNE(Machine)加入し、7人体制で初になる11thアルバム『RED ROCK』を2016年に発表。それを経て、今年7月にリレコーディング・ベスト『極上音楽集』を完成。そのベスト盤を通して過去曲をあらためて見返すことにより、当時のグルーヴを再び体内に取り入れ、山嵐本来の爆発力を獲得することに成功。具体例を出せば、99年に出た2ndアルバム表題曲「未体験ゾーン」(99年発表)はここ数年ライブでやることはなかった。昔と今ではノリが違う、とメンバー自身は考えていた。しかし、そこから逃げずに真剣に向き合うことで、初期の勢いを凌駕するパンチ力を再録曲に封じ込めることができた。そのベスト盤のレコ発ツアーも既に大きな手応えを感じているようだ。

「いや、最高っすね! 自分たちもリスタートだと思ってるし、ライブのお客さんのノリ方や雰囲気も昔に近いなって。で、自分たちのグルーヴも最初の頃に戻ってるんで、いいキャッチボールがやれてるなと。こういうことをずっとやりたかったんでしょうね。俺らも楽しんでいるけど、お客さんも楽しませられてるし、千葉LOOKもそうだったと思うんですよ」

「いろんなバンドから刺激を受けるし、俺らも負けてられない」

90年代からの盟友・マイナーリーグを対バンに迎えたツアー初日の千葉LOOK公演。
僕も足を運んだが、観客のノリや騒ぎっぷり、タガの外れた熱狂度は『未体験ゾーン』の頃に近いものを感じた。

「これこれ!って、自分たちもすげえ嬉しかった。1本目にあれを感じられたから、その気持ちを忘れずにやればもっといいライブができるのかなと。気づいたら20年以上やってて、バンドをやっていることが当たり前になってるけど、当たり前じゃなくなる時期が来るかもしれない。いままで本気でやってなかったわけじゃないけど、すべてを賭けて、もっと本気でやらなきゃダメだなと。いろんなバンドから刺激を受けるし、俺らも負けてられねぇ!と思うから」

90年代から活動してきた山嵐は先輩バンドの背中を見るように、ライブ前も普通にお酒を飲んでいた。それがごく当たり前の景色だった。打ち上げの席でもお酒を一滴も飲まない若いバンドマンからすると、信じられない話だろう。しかしここ数年、山嵐はライブ前にお酒を飲むのを控えている。これはバンドにとって大きな変化だ。

「だいぶでかいっすね(笑)。以前はひどかったですから。
まあ、先輩からも飲んでやるものなんだって教えられてきたし、時代なんですかね。飲むから間違ってるとか、そういうのはないし、人それぞれですけど、俺らは飲まずにやろうと。そうすると、ライブ中に息切れもしないし、リズムも狂ってないから、ちゃんとしてます。長かったなあ、早く教えてくださいよ(笑)」

そう言われても困るが。そして武史と言えば、秋田県男鹿市で毎年開催されている人気フェス「OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL」を立ち上げた張本人でもある。07年に始まり、海辺を望む野外フェスとして今年で10回目を迎え、初の3デイズ開催も大成功に収めた。

山嵐・武史 ミクスチャーロックの重鎮、結成23年目の挑戦

Photo by Mitsuru Nishimura

「山嵐でLAツアー(99年)に行ったときに通訳してくれた人が男鹿出身で、その人が実行委員の人なんですよ。男鹿に遊びに行ってみたら、ここでライブやりたいよねっていう話になり……当時はこんなにでかくなるとは思ってなかったです。それで『来年もやる?』の繰り返しで、野外で10回目を迎えられたという。地元の実行委員会の人を含めて、みんなで作り上げてきたフェスだなと。気付いたら、風物詩的なフェスになりました。辺鄙な土地でやっているので足を運んでくれる人には感謝ですね。
エピソードと言うと、高橋優がステージで初めてのフリースタイルを即興でやったんですよ。彼は秋田出身なんですけど、パンチラインのある言葉を超投げてきて、すげえな!と思いました。あと、打ち上げがとてもすごいんですよ(笑)」

それは多くのバンドマンから聞いたことがある。「OGA~」の打ち上げは凄いと。

「宴会場を用意するんで。会場からホテルの途中にあるから、バスで強制的に連れて行くんですよ。みんなひどいです……まあ、これ以上はちょっと言えない(笑)」

「自分たちの音楽でどこまで行けるのか、それを考えるようになりました」

 武史は山嵐以外にもストリートブランド「ALL&DIA」、アクセサリーブランド「DRESSMARIANO」のディレクションを務めている。

「”ALL&DIA”は自由に出したいときに出してます。もうひとつ”DRESSMARIANO”というアクセサリーのブランドもやってて、それも出したいときに出す感じですね。アパレルってある程度動きを見せなきゃいけないけど、それも疲れちゃうし、自分が作りたいものができたときに出すようにしてます。僕はファッションも好きだし、古着も好きなんで、それも表現の一つというか、結局音楽と繋がっちゃうんですけどね。こだわりは自分が付けられるもの。
特にアクセサリーは自分が付けたいものを作ってますね。それを人が付けたり、似合ったりしていると、すげえ嬉しいし。自分が付けられるものは人が付けても似合うんじゃねえかって、勝手な決めつけですどね(笑)」

山嵐・武史 ミクスチャーロックの重鎮、結成23年目の挑戦

Photo by Mitsuru Nishimura

山嵐・武史 ミクスチャーロックの重鎮、結成23年目の挑戦

Photo by Mitsuru Nishimura

では、ここで音楽以外の趣味について尋ねてみた。

「キャンプとかも好きですよ、山に登ったりとか。スピリチュアル系とか、似合わないかもしれないけど(苦笑)。人がいないところというか、結構大自然に行くんで、気流の流れとかもわかるんですよ。寒気と暖気がぶつかって、天の川みたいになったりして。そういう感じで自然とたわむれてます。ボケッとしながら、何も考えないっすね、自然と一体になります。メシのことぐらいしか考えてない。そういう時間も大切にしてますね。1年に何回か、自分でそういう時間を作るから」

また、以前に料理を作るのも好きだと小耳に挟んだこともあり、それについても聞いてみた。


「うまいものを食いたいんで、ただそれだけなんですけどね。こだわりですか?野菜かな。なるべくオーガニックなものがいいですね。ただ、何でも食いますけどね、マックも普通に好きだし。でも調味料もいいものを選ぶようにしてます。ちょっとロックぽくないですよね、はははは。料理も音作りと一緒で、楽しんでやってるから。似てるところはあるっすね」

ところで、今はどんな音楽を聴いているのだろうか。すると、ジャンルにこだわらず、ヒップホップ系ではInjury Reserve、舐達磨、ゆるふわギャング、ロック系ではKORNの『THE NOTHING』、blink-182の『NINE』、BABYMETALの『METAL GALAXY』と最新作も既にチェック済みで、特にKORNのアルバムはベタ褒めしていた。また、映画『イエスタデイ』の影響でビートルズをあらためて聴き返しているという。そんな武史は音楽とライフスタイルの関係性についてはどう考えているのだろう。

「ずっと地元(湘南)にいて、音楽と日常は一緒なんですよね。音楽と共に生きているし、それはいままでもやってきたんですけど、自分たちの音楽でどこまで行けるのか、それを考えるようになりました。まあ、山嵐は家族を持ってるメンバーがほとんどなので、そういう人たちもハッピーにして、自分たちの夢も叶えたいなと。今はとことん音楽と本気で向き合っている状態ですね。いろんなものをちゃんと背負ってやりたい。まだベテラン感を出すのは早いし、最近は超ルーキーだと思ってやってるんで(笑)。ここからまた行くぞ!という気持ちですからね。音楽のおかげで夢を追えているから、それは感謝っすね」

ここ最近はキャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク」に楽曲提供、イベント・ライブに出演したりと、また新たなリスナーを開拓している山嵐。武史の発言からもわかる通り、ミクスチャーロックの重鎮は今なお最前線で闘い続けているのだ。

ロケ地協力:桜丘カフェ

山嵐・武史 ミクスチャーロックの重鎮、結成23年目の挑戦

『極上音楽集』
山嵐
CAFFEINE BOMBE RECORDS
発売中

山嵐・武史 ミクスチャーロックの重鎮、結成23年目の挑戦


山嵐
1996年結成、湘南エリアを中心に活動を始める。オリジナル・メンバーは、YOSHI AKIISHII(Dr)、武史(Ba)、KAZI(Gt)、KOJIMA(Vo)、SATOSHI(Vo)。1997年6月、メガフォースより1stアルバム『山嵐』をリリース。1999年には2ndアルバム『未体験ゾーン』をリリース。本作品ではラッパ我リヤとのフィーチャリングを果たし、後のコラボレーションアルバムリリースへのきっかけを作る。2000年10月、麻波25のYUYA OGAWA(Guitar)が加入、現在の布陣となる。2002年4月、メガフォースから独立、レーベル「豪直球」を設立。同年6月、シングル「山嶺」を皮切りにドリーミュージックからのリリースを開始。2003年10月には、ラッパ我リヤや湘南乃風ケツメイシの大蔵、MONGOL800のキヨサク、Leyona、MOOMINなど、彼らを支持する様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションアルバム『COLORSWATERMUSIC』をリリース。2003年11月20日大阪ベイサイドジェニー、12月3日川崎クラブチッタで行われた、この作品に参加したアーティストが一堂に会したライブ映像に加え、ライブを迎えるまでのドキュメンタリーで綴った映像作品DVD『6 COLORS』もリリース。2005年5月、主宰の人気野外イベントの布石となる「湘南音祭 Vol.0」を開催。結成10年目となる2006年には初めてのプロデューサーとして亀田誠治氏を迎え新境地を切り開いたアルバム『湘南未来絵図』をリリースした。2006年7月には「湘南音祭 Vol.0.9」を開催。横浜八景島シーパラダイスでの初野外開催となり、今や恒例の人気野外フェスと成長した。2007年6月の「湘南音祭 Vol.1」は、かねてからの目標だった江の島の特設野外ステージで開催。翌週には横浜でも開催され、本イベント初となる2DAY開催となった。2008年6月には、完全自主制作で自身のレーベル「豪直球」から、2年振りとなるアルバム『狼煙-NOROSHI-』をリリースする。2010年2月にはポニーキャニオン内の先鋭レーベルKnifeEdgeより、9作目となるアルバム『PRIDE』をリリース。2011年8月にはレーベルを徳間ジャパンに移し、通算10作目となるアルバム『YAMABIKO』をリリース。2011年11月には、結成15年目を記念し、この年開催が見送られた「湘南音祭」の番外編と題した東名阪でのライブイベントを展開。また、東日本大震災以降、江の島での開催が厳しくなった「湘南音祭」に替わり、武史が立ち上げ・運営に携わるOGA NAMAHAGE ROCK FESTIVALを秋田県男鹿市で開催。毎回大トリを務めている。2015年7月には、7人目のメンバーとして元THC!!のKAI_SHiNEの加入が決定したことを発表。2019年4月20日、CAFFEINE BOMB ORGANICS所属が決定。7月にはリレコーディング・ベスト『極上音楽集』をリリースした。
http://www.yamaarashi.asia

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