2010年代の日本の音楽シーンを振り返ったときに、2015年は間違いなくエポックメイキングな一年だった。

星野源が『YELLOW DANCER』を、ceroが『Obscure Ride』を、Suchmosが『THE BAY』を発表したのがこの年であり、それはファンクやネオソウルの再評価、ジャズとヒップホップの交配などとともに起こった、海外におけるジャンルの融解と足並みを揃えるものであった。
そして、同じ年にリリースされていたのが、ペトロールズの結成10年目にして初となるオリジナルアルバム『Renaissance』だ。

白人文化であるカントリーをプレイヤーとしての背景に持ちつつ、ブラックミュージックへと接近し、椎名林檎に続いて、星野源の右腕にもなったヴォーカル/ギターの長岡亮介、バークリーへの留学を経て、ヒップホップバンドLOOP JANKTIONで活動し、現在ではKID FRESINOのサポートで石若駿とリズム隊を組むベースの三浦淳悟(先日行われた星野源のニューヨーク公演にも参加)、そして、長岡とは高校時代からの友人である河村俊秀という3人は、マイペースな10年の活動を経て、時代感的に「ここしかない」というタイミングでアルバムを発表したと言っていい。

2017年にアルバムとEPで発表されたトリビュート盤に、メジャーへと進んだSuchmos、Yogee New Waves、never young beachが揃って参加し、さらには中村佳穂、KANDYTOWNの呂布、踊Foot Worksといった次代の主役たちが名を連ねていたのは、ペトロールズの存在の大きさをわかりやすく伝えるものだった。2015年という年は、まさに日本の音楽シーンにとっての再生/復興期であり、『Renaissance』がそれを象徴していたと言っても過言ではないだろう。

そんなペトロールズの4年ぶりとなる2ndアルバム『GGKKNRSSSTW』。1stまで10年かかったことを考えれば、彼らとしては短いスパンでのリリースで、近年のシーンの充実ぶりに後押しされたようにも思えるが、それでも彼らの活動スタンスに変わりはない。本作はライブ会場先行で販売され、10月23日から一般流通が開始されたが、そのパッケージは紙ジャケにCDと曲タイトルが書かれた紙が一枚封入されているのみで、歌詞はおろか、メンバーのクレジットすらないブートレグのような仕様。前作に続いて、現時点では配信もナシ。結果的に、時代の寵児のようなポジションに位置することになった3人だが、彼らが時代に合わせることはなく、あくまで自分たちのやり方を貫いている。

4年ぶりとなる2ndアルバムの内容

暗号のようなタイトルは、曲タイトルの頭文字をそのまま並べたもので、アルバムとしてのコンセプトは特になく、「今聴いてほしい曲を並べた」ということかと思うが、作品のクオリティは今回も申し分ない。洒脱なコードワーク、音数を絞ったタイトなアンサンブル、流麗な多声コーラス、朴訥としていながらも色気のある歌声に、少しのユーモアももちろん健在。各楽器の多彩な音色も楽しく、コーラスのかかった艶やかなクリーントーンのギターを軸に、歪みは極力抑えつつ、曲によってはフィルター系のどぎつい音をギターとベースがともに鳴らす。
また、ドラムもエアーを含んだ生々しい音と、ゲートリヴァーブをかけた打ち込みのトラックのような質感が同居し、音圧戦争からいち早く抜け出していた彼らのサウンドデザインにはやはり一日の長がある。前作と比べるとやや落ち着いたテンション感も含め、今ならスティーヴ・レイシーやトム・ミッシュとも並べて聴ける。

一方、歪みと空間系のエフェクトを併用したギターに、ローの強く出たベースを組み合わせた本作随一のサイケナンバー「GO AHEAD」は、ブレインフィーダー周辺とのリンクも感じられるような仕上がり。ただ、「クラブミュージックをバンドで再現する」というのとはニュアンスがやや違うように思うし、もちろん、星野源が『POP VIRUS』でSTUTSを迎えてビートミュージックに接近した発想とも異なる。やはり、ペトロールズはあくまで3ピースバンドであり、ある種の制約の中でこそ生まれるクリエイティヴを楽しんでいる雰囲気がある。クールでスムースだが、どこかしら歪でドープなのは、それがゆえだろう。

そんな彼らの探求心を最もよく表しているのが、アルバムのラストナンバー「WAON」。〈決めたよ この場所なら このコンビネーションだよね/いつでも 悩みながら 選びに選ぶこの和音〉と、曲作りの工程をそのまま歌詞にし、〈容易じゃないな/いつまでも愛してほしい〉と綴った後で、最適解が見つかったときの甘美な瞬間を、文字通りの美しい和音のみで表現する、何とも感動的な一曲だ。ペトロールズが起こしたルネサンスとは、「意味を付与する説明的な言葉をはぎ取り、音楽の可能性を解放する」ということだったと、この「WAON」という曲は、『GGKKNRSSSTW』というアルバムは、雄弁に物語っている。よって、ツラツラと書き連ねてきたこの原稿を締め括る言葉は、結局「とにかくいいから聴いてよ」なのだ。

<INFORMATION>

ペトロールズの2ndアルバムは「音楽の可能性」を解き放った傑作

『GGKKNRSSSTW』
ペトロールズ
発売中

01. GIRL
02. GO AHEAD
03. KAMONE
04. KOMEKAMI
05. NIGERO
06. REVERB
07. SEKKINSEN
08. SHAPE
09. SMOOTH ME
10. TANOC
11. WAON

https://www.petrolz.jp/
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