『フォースの覚醒』でレイが何者なのか、どこから来たのか、ということが問題になって、『最後のジェダイ』ではある意味否定的な回答が出される。『スカイウォーカーの夜明け』ではこの2つを合わせて、第3の答えが提示できるだろうね。ーークリス・テリオ
J・J・エイブラムス監督が、のちに『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』となる映画の共同脚本家を探していた時、それまで組んだことのない人物が頭に浮かんだ。それが『アルゴ』でアカデミー賞脚本賞を受賞したクリス・テリオだった(彼はその後『バットマンvsスーパーマン/ジャスティスの誕生』『ジャスティス・リーグ』も手掛けるが、それはまた別の話)。エイブラムス監督は『アルゴ』をとても気に入っていて、最近テリオが書いた未製作の新作政治スリラーも高く評価していた。「骨太で、無駄のない、知性あふれる脚本」と、監督はローリングストーン誌に語っている。「ひとつ質問を投げると、1ページ分の脚本が返ってくる。こちらの希望をちゃんと押さえてあるんだ。彼の文体にはウィットや洗練さがあった。すぐにピンときたよ」 弊誌のデジタル版限定スター・ウォーズ特集で(他にアダム・ドライバー、エイブラムス監督、Lucasfilmのキャスリーン・ケネディ社長、ビリー・ディー・ウィリアムスのインタビューを掲載)、テリオは12月20日日米同時公開『スター・ウォーズ エピソード9/スカイウォーカーの夜明け』の制作行程を詳しく語ってくれた。
ーJ・J監督から聞いたのですが、あなたが『スター・ウォーズ』映画以外の本やアニメ、コミックブックにも精通していることに驚いていました。そうした知識が、今作の実際の作業にどう役立ちましたか?
一種の多変数関数だね。
だけど同時に、映画シリーズがもつフラッシュゴードン的な冒険シリーズの要素も残したい。ちょっと脱線して銀河系の重箱の隅を掘り起こしつつ、ジョージ・ルーカスの原案にも忠実でありたい。ストーリーがロケットから飛び出して、そのまま展開し、登場人物が必ずピンチに直面し、最初から最後までハラハラどきどきさせなくちゃならない。拡大する宇宙の出来事をすべてDNAに焼き付けて、かつ躍動的で手に汗握る斬新な冒険を盛り込むという目の前の作業から逸れない、というのが理想だ。
ーあなたにオファーする前に、監督は今作のあらすじをどこまで固めていたんでしょう?
彼とラリー・カスダンは(『フォースの覚醒』製作中に)ある程度のアイデアをまとめていた。キャラクターの展開の仕方といった大まかな方向性をね。僕はプロットにはタッチしないようにしているんだけど、J・Jは常に観客にどんな風に感じてほしいか、明確な考えを持っている。僕ら脚本家の仕事は、そうした感情を引き起こすストーリーを作ること。今回も最初はノーアイデアからスタートした。”ボード”という名前のWordドキュメントがあってね。もともとはホワイトボードにアイデアを書いていたんだけど、そのうちWordを使うようになったので、そのまま”ボード”って呼んでいる。このファイルにアイデアをどんどん書き込んでいって、最終的にはびっちり121ページのファイルになった。そこから面白そうな筋書や世界観、登場人物が行きそうな場所、登場人物同士の組み合わせを何パターンも考える。ダンスの振り付けのような感じかな。
例えば、登場人物たちはどこで出会うだろう? 出会ったら、どんな会話になるだろう?フォースとジェダイについて、すでに判明していることも未知のことも含めて、銀河系を舞台に政治的、歴史的、精神的にどんな新展開が作れるだろう? 生み出せるだろう? そうやってまっさらな状態から始めた。まるで2人の子供が毎日集まって、話し合ってるみたいな感じだったよ。
ー最初に監督と『フォースの覚醒』についてインタビューした時、監督はラリー・カスダンがそばにいたおかげで大いに助けられたと言っていました。ファンフィクションを書いている気持ちにならずに済んだ、というのが理由のひとつですが、長年スター・ウォーズの大ファンだったあなたご自身はいかがでしたか? 自分が本当にスター・ウォーズの脚本を書いているんだ、と実感することはできましたか?
いまも自分に言い聞かせている最中だよ。僕らは銀河系で実際に起きた出来事を書き留め、銀河系の系譜をまとめるような形で進めていかなくてはならなかった。なにかひとつストーリーを決めたら、それが先々規範になることは十分分かっていたからね。本当にこの決断で正しいだろうか?登場人物的には正しいだろうか?テーマ的にはどうだろう? エピソード4のジョージの原案に合致しているだろうか? 前日譚や後日譚で語られた内容とかみ合っているだろうか? そんな風にして全部決めていった。もちろん自分の勘を信じなきゃいけないときもあるよ。「うん、これは正しい気がする。
それから先は、正しい方向へ導けるよう、自分のDNAにスター・ウォーズのエッセンスが十分流れていることを祈る。ストーリーは僕たちの人生全体に深く浸透しているから、どれが正しい決断でどれがそうでないかを判断する物差しができているんだ。時には間違うこともあるから、その時は調整しないとね。僕もJ・Jと意見が合わなくて、言い合いになることもあるけど、最終的には2人で最善の解決策にたどりつく。この方向性はありだけどこれは絶対なし、という風にね。まったくもって非科学的、統制の取れたカオス状態さ。それに、頭の片隅にはラリー・カスダンやジョージといった人々の意見があった。ラリー・カスダンは僕にとってヒーローだね。ラリー・カスダンのような素晴らしい会話や人物描写が書ける人はいないよ。時々ヒントを求めて、彼が昔書いた脚本を――ボツになったのも含めて――見直すんだ。
ー今作で監督がジョージ・ルーカスに会いに行ったとき、あなたもご一緒でしたか?
ああ。特定のストーリーについて話し合う、というんじゃなく、むしろジョージの話を聞きにいったという感じだった。なんとなく哲学的な会話だったな、ジェダイの資質とかフォースの特性とか、彼が第1作を書いたときの意図とかね。偉大な師匠と向き合って、彼の英知を授かるという感じだった。ジョージがどの程度知っているか分からないけど、僕らは彼の言葉を書き留めて、協議を重ねて、彼の真意を理解しようとした。特定のストーリーに関して、ジョージが賛成してくれるかどうかは分からない。でも概念として、僕らが彼の真意をくみ取ったことを感じ取ってくれるんじゃないかな。
ーオリジナル三部作でルーカスがボツにした箇所もご覧になりましたか?
(笑)それは答えられないな。手元に来たものは全部目を通すようにはしているよ。インターネットには、オリジナル三部作の脚本のいろんなバージョンの草稿を掲載しているサイトがあるよね。僕も(そういうサイトのひとつを)読み漁った。カリフォルニア州サンタモニカの某所で、僕があのサイトを閲覧した回数を見たら、きっと冷や汗ものだね。とにかく僕は、ジョージがどんなふうに考えていたのか、ヒントが欲しかったんだ。あるいは『帝国の逆襲』のリイ・ブラケットの考え方をね。あの経験は僕にはものすごくためになったよ。
『帝国の逆襲』の奇妙奇天烈な感じは、彼女の第1稿からすでに存在していた。彼女が危険を恐れずに冒険したことを知って、すごく嬉しかったよ。もちろん『スター・ウォーズ』自体少々変わっているよね――銀河の遥か彼方の物語なんだから。でもリイ・ブラケットは以前にも多くのSFものを手がけていたから、様々な危険を冒した。今回こうして彼女の脚本を読めるだけ読むまで、僕自身リイ・ブラケットのことはよく知らなかった。『スター・ウォーズ』の脚本家が女性だったってことを知らない人も多い――すぐに女性だとは気づかない名前だからね。そこへラリー(・カスダン)が加わって、今日我々が知る『帝国の逆襲』のセリフが完成した。ラリーは持ち前のヒューマニスト精神を発揮して、独自のリズム感と会話感、ウィットを盛り込んだ。たくさんのシーンが、草稿の段階ですでに存在していたんだ。
ー今作ではレイの過去が描かれることはすでに公表されています。『最後のジェダイ』でライアン・ジョンソン監督が成し遂げた興味深いことのひとつに、フォースは全員の中に眠っている、という点が明らかにされたことがあります。ラストシーンでも、子供がフォースで箒を持ち上げていました。今回はどうやって、前作の核となったメッセージから逸れることなくレイの過去に新事実を加えたのでしょう?
ライアンが非常に面白いことをしてくれた、という点では僕も同意見だ。『スター・ウォーズ』の民主化さ。自分が何者かを決めるのは家柄や血筋ではない、自分の未来を決めるのは過去ではない、ってことだよ。でも今作ではこの衝撃的事実に向き合って、願わくばもっと広げていきたいと思ったんだ。白か黒、卑しい身分か王家の出、という風に二分できる問題じゃないと思うからね。両極の間にもたくさんのものが存在するんだ。(カイロ・)レンの言葉のチョイスだって……「お前は何者でもない」っていうセリフ――そもそも、あれはどんな意味なのか? レイが自分をそう思っているということなのだろうか? そもそもレイ自身、そういう問いを自分に投げかけたことはあるのだろうか? うっかりネタバレしないように必死だよ! 口にチャックしないとね。とにかく、ライアンが推し進めたアイデアはすごく貯めになるものだった。でも三部作についてはとくに言えることだけど、シリーズものは会話がすべて――さっきも言ったように、僕もJ・Jとテーマや裏テーマ、全体的なテーマについてよく話をした。『フォースの覚醒』でレイが何者なのか、どこから来たのか、ということが問題になって、『最後のジェダイ』ではある意味否定的な回答が出される。『スカイウォーカーの夜明け』ではこの2つを合わせて、第3の答えが提示できるだろうね。
ーあなたが監督と話し合ったとき、彼の中でレイ問題に対する回答はどの程度固まっていたんでしょう?
うーん、この質問にはノーコメントだな……かいつまんで言えば、そこがキモだってことさ。
ーあなたは『バットマンvsスーパーマン/ジャスティスの誕生』と『ジャスティス・リーグ』を経て今作の製作に関わったわけですが、この2作の経験は、この映画の実際の作業にどのぐらい役立ちましたか?
またシリーズものをやることになるとは思ってもいなかったんだ。事実、J・Jが僕を起用したのも、政治スリラーが書けると思ったからなんだ。政治ものをまたやるようになっていたし、そもそも脚本家としての原点もそこにある。そこへ『スター・ウォーズ』がやってきた。超超超大変な作業だったよ。究極のコラボレーションだった。プロデューサー陣のおかげだと思うよ、全員が同じ方向に向かっていたからね。これだけ大規模な映画を作る場合、並大抵なことじゃない。スタジオ側はこういう映画にしたい、プロデューサーは違う作品にしたい、監督はこうしたい、脚本家はこうしたい、と意見がバラバラになることもあるんだ。今作では、『アルゴ』の時とまったく同じだった。つまり、全員が同じ方向性で映画を作っていたんだ。途中で意見が分かれることもあったけど、それもまた楽しかったよ。
今回びっくりしたのは、登場人物の描写の仕方がいろんな意味で、小規模な映画と同じだったことだ。まさかと思うかもしれないけど、実際のところ、クリエイティヴな作業に関わった人間はごくわずかなんだ。まるでインディーズ映画を作ってるような感覚だったよ。今作のような世界規模の超大作をこんな風に言うなんて、ばかげてるように聞こえるだろうけど。リック・カーターとケヴィン・ジェンキンスがデザイン面を担当して、(視覚効果の監修に)ILMのロジャー・ガイエットがいて、(プロデューサーに)ミシェル・レジャンとキャシー(・ケネディ)、(衣装デザインに)マイケル・カプラン、キャラクターデザインににニール・スカンロン。それぐらいなんだよ。本当に少人数で共同作業して、互いに切磋琢磨し、時に意見を戦わせる。順風満帆な時もあれば、どん底の日もある。創作活動では当たり前だけどね。それが僕には励みになった。超大作の製作は楽じゃないってことは知ってるからね。J・Jやキャシーぐらいのレベルの人々が、こんな風に仕事をするんだ、というのがわかって、すごく勉強になったよ。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
12月20日(金)日米同時公開