ジェイソン・イズベルが妻のアマンダ・シャイアズと共に、2020年1月13日にビルボード東京で初来日公演を行う。2度のグラミー賞に輝き、2013年作『Southeastern』が米ローリングストーン誌の2010年代ベストアルバム100に選出されたアメリカン・ルーツ・ロックの第一人者。
そのキャリアを振り返るとともに、12月18日に来日記念リリースされた日本盤5タイトルのガイドもお届けする。

ジェイソン・イズベルの歩み、広く愛される理由

”Lucky me… Im goin to sing with Jason and Amanda” と、最近ツイートしたのはデヴィッド・クロスビーだ。Jasonとは、本稿の主人公ジェイソン・イズベル。そしてAmandaは、ジェイソンの妻アマンダ・シャイアズ。二人は、公私を共にするアメリカン・ロック界のおしどり夫婦だ。

ご存知シェリル・クロウに始まり、アメリカーナのスーパー・ウーマン・ユニットThe Highwoman、ベテラン・シンガーソングライターのジョシュ・リッターやトッド・スナイダーに新世代ジャム・バンドとして人気を誇るノース・ミシシッピ・オールスターズなど、2019年だけでも、レコーディングやライブの場で数多のミュージシャンとコラボレーションを行なったジェイソン。今、アメリカン・ロック/アメリカーナのシーンにおいて、最も愛され求められているミュージシャンと言っても過言ではないだろう。

ジェイソンが参加した、シェリル・クロウの最新作『Threads』収録曲「Everything Is Broken」

1979年2月1日アラバマ州グリーン・ヒル生まれ。幼い頃から祖父や叔父にギターやマンドリンなど様々な楽器を習い、ブルース、ゴスペル、ブルーグラスにカントリーといった音楽に親しんだジェイソン。14歳でカントリーのカバー・バンドを結成、16歳でグランド・オール・オプリに初出演とかなり早熟なミュージシャン・キャリアを積んでいる。アラバマ州フローレンス周辺のレストランやバーで演奏しているデヴィッド・フッドを観に行っているうちに、デヴィッドの息子で、後にドライヴ・バイ・トラッカーズ(以下DBT)を結成するパターソン・フッドに出会ったのもこの頃らしい。

アメリカーナの今を象徴する実力派、ジェイソン・イズベルを知るための5枚

ザ・400・ユニットを従えたジェイソン・イズベル(Photo by Danny Clinch)

21歳でマッスル・ショールズのフェイム・スタジオと作曲家契約を交わし、2001年にDBTに加入、曲作り、歌、ギター演奏のすべてで貢献するも、2007年、断ち切れないアルコール及びドラッグ癖を理由に解雇されてしまう。
ソロに転向したジェイソンは、2007年に初作『Sirens of the Ditch』、2009年にバック・バンドThe 400 Unitとの『Jason Isbell and The 400 Unit』、2011年に『Here We Rest』と作品こそ順調にリリースし評価を得ていったが、悪癖は続いていた。そんなジェイソンを立ち直らせたのがアマンダだった。クリーンになって発表した『Southeastern』(2013年)が完成したのは、ふたりの結婚式の2日前だった。続く通算5作目の『Something More Than Free』(2015年)は、遂にグラミー賞最優秀アメリカーナ・アルバムと最優秀アメリカン・ルーツ・ソングの2冠を獲得。現時点での最新作は2017年発表の『The Nashville Sound』で、同作もまたグラミー賞最優秀アメリカーナ・アルバム賞と最優秀アメリカン・ルーツ・ソング(「If We Were Vampires」)を受賞した。

2018年には、映画『アリー/ スター誕生』の劇中、ブラッドリー・クーパー演じるジャクソンが歌う「Maybe Its Time」を書いて提供した。2019年は何と言っても、10月にナッシュビルのライマン・オーディトリアムで7夜にわたって行なわれたレジデンシー公演だろう(過去に何度もこのホールのステージに立っているとはいえ)。そこではいくつかの新曲も披露され、12月にはスタジオに入り新曲に着手することが観客に伝えられた。

例えばジェイソンを、スタージル・シンプソンやラストン・ケリー(ケイシー・マスグレイヴスの夫)といった新世代アウトロー・カントリーの系譜に乗せることはできるだろう。ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ブルース・スプリングスティーンといった先達は言うに及ばず、ライアン・アダムスやジョン・メイヤーといった同世代のシンガー・ソングライターたちと並べるのは当然として、古巣DBTやノース・ミシシッピ・オール・スターズら南部勢ともフィットすれば、ニュー・ポートで共演したロビン・ペックノールド(フリート・フォクシーズ)やジェームス・マーサー(ザ・シンズ)、ジェイソンがファンだというブレイク・ミルズらとも共鳴するものを感じないではいられない。幼い頃から彼が培ってきた音楽的な素養の豊潤さに加え、今という時代に対する厳しい目や認識と、それでもポジティブな思考を失わない強さを持ち合わせている懐の深いソングライターであり、シンガーでありギタリスト、それが私の中のジェイソン・イズベルなのだ。

「よい音楽には、それがクリエイティブなものであるか、消費されるものであるかにかかわらず、誰かをよりよい人間にするようなアートがあると思う」。
さらに、よい音楽とは「自分との違いではなく、類似点を発見させるもの」という彼の考え方が、私は好きだ。

そしてまた、彼の人柄はSNSをフォローしているとよくわかる。ミュージシャン仲間と交わされる他愛のない会話から、政治的なメッセージに至るまで、真摯でありながらユーモアのセンスにも長け、存在を身近に感じられる親密さにあふれている。こんなところにも愛される理由があるのかな、と思う次第。愛娘を連れてツアーに出るとき、自分の母親を子守役で同行させるそうだが、「10年前、ツアー・バスに母親が乗っているなんて信じられなかったけど、これもなかなかいいものだ」と話す彼の、決して順風満帆ではなかった過去を思うとき、人は変わり成長していくという当たり前のことが、とても尊く感じられるのである。

ジェイソン・イズベルを知るための5枚

1. Jason Isbell and The 400 Unit『Jason Isbell and The 400 Unit』(2009年)
アメリカーナの今を象徴する実力派、ジェイソン・イズベルを知るための5枚


ソロ転向後2作目、ザ・400・ユニットを従えては初の作品。ジェイソンの切々とした歌声で歌われるカントリー・ソウル・ワルツ「Sunstroke」のやるせなさが、たまらない。アップテンポ「Good」や「Soldiers Get Strange」がウォールフラワーズやトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを彷彿とさせるのは、ギターや鍵盤の鳴り方もさることながら、ジェイソンのしゃがれ声のせいもあろうか。そうかと思えば「When My Babys Beside Me」のようなロックンロールもあり。洗練されないむき出しのバンド・サウンドがいい。

◎オススメ曲:Sunstroke, Cigarettes And Wine

2. Jason Isbell and The 400 Unit『Here We Rest』(2011年)
アメリカーナの今を象徴する実力派、ジェイソン・イズベルを知るための5枚


ジェイソン・イズベル&ザ・400・ユニットとしては2作目となるソロ3作目。前作に比べると格段に作品としてのまとまりが出てきた感あり。
大不況に襲われたアラバマの故郷の町を思い、悪戦苦闘しながら南部で生きる庶民の姿を描いた歌詞も興味深い。フィドルの音色が印象的に配された「Codeine」の軽やかさ、ギターの繊細なアルペジオが映える「Daisy Mae」など、曲ごとの個性をつぶさに表現できている。冒頭を飾る「Alabama Pines」はアメリカーナ・ミュージック・アウォードでソング・オブ・ジ・イヤーを受賞。

◎オススメ曲:Alabama Pines、Save It For Sunday

3. Jason Isbell『Southeastern』(2013年)
アメリカーナの今を象徴する実力派、ジェイソン・イズベルを知るための5枚


ソロ名義でリリースした4作目。アコースティックを主体としたフォーキーなサウンドと、生々しくエモーショナルな歌声。美しく儚げなメロディにのせて語られる歌詞は、自身の過酷な体験を振り返り献身や贖罪をテーマに綴られているものが多い。なぜ歌うのか、その答えは聞かずともこれを聴けばわかるはず。キム・リッチーとのデュエット「Stockholm」もいいが、アマンダとの「Travelling Alone」も格別。かのブルース・スプリングスティーンも絶賛したという本作、アメリカーナ・ミュージック・アウォードでは3冠を獲得。

◎オススメ曲:Cover Me Up, Travelling Alone, Different Days

4. Jason Isbell『Something More Than Free』(2015年)
アメリカーナの今を象徴する実力派、ジェイソン・イズベルを知るための5枚


前作同様ソロ名義で発表した5作目。グラミー賞では最優秀アメリカーナ・アルバムと最優秀アメリカン・ルーツ・ソングの2冠を獲得。サウンド的にも前作の延長線上。
自身の体験にまつわる歌もあれば、南部の日常生活を切り取った歌もあり、必ずしも明るい題材ばかりではないが、ほのかな明るさに包まれている感じがいい。「Children Of Children」は10代で父母になった自分の両親のことを書いた曲。あざとさのないポップネスには磨きがかかり、多彩なギター・ワークは冴えわたる。DBTへの想いを綴った「To A Band That I Loved」が泣ける。

◎オススメ曲:24 Frames, How To Forgot

5. Jason Isbell and The 400 Unit『The Nashville Sound』(2017年)
アメリカーナの今を象徴する実力派、ジェイソン・イズベルを知るための5枚


現時点での最新作は、久々に、ジェイソン・イズベル&ザ・400・ユニット名義でリリースされた6作目。レトロなタッチのジャケットもかっこいいが、音も裏切らない。疾走感といい、力強さといい、正しくロック・バンド然とした「Cumberland Gap」などは、生で聴いてみたいと切に願う。と同時に、愛と死の根源に穏やかに迫る「If We Were Vampires」に涙する自分もいる。全米チャート最高4位、カントリー、フォーク、ロックのジャンル別では全て1位を獲得。グラミー賞でも前作に続き2冠を達成した。

◎オススメ曲:Cumberland Gap, If We Were Vampires, Something To Love

アメリカーナの今を象徴する実力派、ジェイソン・イズベルを知るための5枚


初来日公演の展望

さて、ジェイソン・イズベルの初来日公演に、何を期待するか?と聞かれたら、「全部!!」と答えるしかない。今から15年前、ジェイソン在籍時のDBTはアメリカのフェスで観ているが、ソロになってからの彼を観るのは初めてだ。
まさかこのタイミングで長年の願いが叶うとは思わなかった。

「幼い頃から彼が培ってきた音楽的な素養の豊潤さに加え、今という時代に対する厳しい目や認識と、それでもポジティヴな思考を失わない強さを持ち合わせている懐の深いソングライターであり、シンガーでありギタリスト、それが私の中のジェイソン・イズベルだ」と書いたからには、そのすべてを堪能し尽くしたい。中でも一つと言われたら、「歌」だ。少しくぐもりがちでビター・スウィートな声が、詩情あふれる言葉を旋律にのせて丁寧に細やかに、時には大胆に歌い上げる。そんなジェイソンの歌や息遣いをダイレクトに感じたい。古いマーティンを抱えて「If We Were Vampires」なんか歌われちゃったら号泣だな、きっと。

もちろん、アマンダが同行しステージを共にすることにも万々歳だ。彼女が奏でるフィドルの音、ジェイソンの歌に寄り添う彼女の歌、それはジェイソンに安心を与え、心の奥から正直で純粋な思いをするりと引き出す潤滑油のような役割を果たしているように思う。これぞまさに比翼連理。

まずは、ジェイソンとアマンダと過ごす夜に足を運んでいただきたいと思う。2020年の年明けにふさわしい夜になることを信じて。そして、欲張りな私たちは、次にザ・400・ユニットとの共演が日本で実現することを期待するに違いない。


ジェイソン・イズベル来日公演
2020年1月13日(月・祝) ビルボードライブ東京
1st ステージ 開場 15:30 開演 16:30 / 2nd ステージ 開場 18:30 開演 19:30
サービスエリア¥9,500- カジュアルエリア¥8,500- (1ドリンク付き)
※ご飲食代は別途ご精算となります。

出演:
ジェイソン・イズベル(Vo,Gt)
アマンダ・シャイアズ(Vo,Fiddle)

詳細:
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11749&shop=1
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