ブリング・ミー・ザ・ホライズン(BMTH)のヴォーカル、オリヴァー・サイクスが手がけるブランド、DROP DEADが2019年11月に日本で初のポップアップショップを、原宿のCommon Galleryで開催した。

そこで発表した新たなコレクションは、UKのエクストリーム・メタル・バンド、Cradle Of Filthとのコラボレーション。
オリヴァーとへッド・オブ・デザイナーのハリー・カーターに話を聞いた。

ーDROP DEADの始まりの話から聞かせてください。オリー(オリヴァー)は2004年にハイスクールを卒業して、ブリング・ミー・ザ・ホライズンを始めた頃に立ち上げたんですよね。

オリヴァー そうなんだ。カレッジをドロップアウトして、バンドを始めることになった時に、バンドに専念できるように、定職に就かなくてもお金が入る方法を考えたんだ。そしたら母がスモールビジネスでもやれば?ってアドバイスをくれてね。
それで僕が「洋服の会社を作りたい」って言ったもんだから、母は驚いてたね。当時、アメリカではブリンク 182のメンバーがAtticusとFamous Stars And Strapsを手がけてたんだけど、イギリスにはそういうブランドがまだ存在しなくてね。でもそのムーブメントはすでに来てたから、自分でもやりたいってなったんだ。母はバンドとブランドなんてどっちも上手くいかないと思ってたはずさ。でも母は僕に資金として500ポンドを提供してくれて、ローカルビジネスのコースを取るように言ってくれたんだけど、最初のTシャツを作ってMySpaceにアップしたら、初日にTシャツに5枚売れたんだよね。僕はまだ無名だったんだけど、MySpaceではけっこう人気があってね。
初日で利益が出たから、もうビジネスのコースなんて必要なくなったんだ。それに企業でやってたら、ロゴはこうあるべきだとか、テーマを決めなきゃいけないとか、そういうお約束ごとが永遠に続くわけだよね。でも僕がやったのはその正反対だった。ゾンビの絵を描いたり、猫の脳みそが飛び出てるのを描いたりとかしてただけさ。その時ピンと来たものをTシャツにしてただけなんだよ。だって、テディベアを永遠に作るようなことだけはやりたくなかったからね。
それは自分がやってる音楽も同じことで、何故一つの音楽ジャンルにずっとしばられなきゃいけないんだ?って思ってしまうんだ。

ハリー 服作りにおいて一つのことにしばられるのは良くないよね。クリエイティヴィティってどこかセラピーみたいなところがあるんだ。変化を起こすようなことをやってるわけだから。DROP DEADにはいろいろなヴァージョンがあるしね。僕が若い頃、DROP DEADを着ると素晴らしい気分になれたんだ。
だから今こうしてオリーといろいろ共有できるのはうれしいよ。ブランドが次のステージとしてどこに行くのかはわからない。でもだからこそエキサイティングなんだけどね。完璧なビジネスプランがあったとしてもつまらない。結局のところ、クリエイティヴィティとは、まずは自分たちが楽しむことのはずだから。

オリヴァー 人生で楽しまなかったら時間の無駄だよ。
もちろんお金のことは心配になるだろうけど、お金で経験は買えないからね。

ー11月に東京で初のポップアップショップをやることになったいきさつは?

オリヴァー ずっとやりたかったことなんだよ。日本は世界の中でも特に大好きなところだから、しっかりとつながっていたいんだ。DROP DEADというブランドも常に日本のファッションとカルチャーに影響を受けてるしね。今まではなかなか時間が作れなかったんだけど、ハリーが1年前にDROP DEADで働くようになって、クリエイティヴの面でもずいぶんいろいろとできるようになったし、ビジョンも広がった。ちょうど新しいコレクションの発表もあったから、良い機会が訪れたと思ったんだ。


BMTHのオリーがブランド「DROP DEAD」を始めた理由

Common Galleryにて11月に3日間限定で行われたポップアップ・ショップ(Photo by Jesse Kojima)

BMTHのオリーがブランド「DROP DEAD」を始めた理由

Common Galleryにて11月に3日間限定で行われたポップアップ・ショップ(Photo by Jesse Kojima)

ーハリーがDROP DEADで働くことになったいきさつは?

ハリー 服に対する関心がオリーと同じだったからなんだ。いろいろな面において好きなものが似てるしね。今後DROP DEADがどのような方向に行くべきか、ネクストレベルに行くために何が必要なのか、そういうビジョンも共有できてるんだ。

BMTHのオリーがブランド「DROP DEAD」を始めた理由

左から2人目が、へッド・オブ・デザイナーのハリー・カーター(Photo by Jesse Kojima)

オリヴァー DROP DEADのクルーは年が近いヤツらで一緒にやってきたんだけど、僕も33歳になったし、新しい才能が欲しいなと思ってたとこだった。僕は今でもファッションが大好きなんだけど、自分の興味あることと今の時代で起こってることの間で上手くバランスを取らないといけない。だから今の時代の空気をそのまま吸ってるような新しい人材が必要だったんだよ。ハリーが入ってくれたおかげで、さらにDROP DEADでいろいろやりたくなってきてるところなんだ。

「DROP DEADは常にヴィーガンのブランドでもある」

ー例えば10年前と比較してみて、今の時代は何が一番違いますか?

オリヴァー 服を作っていても、今の方がもっと意味のあることをやりたいと思うようになったね。ちゃんとした目的だって持ってるし。それに、西洋社会ではファッションというものの捉え方が随分変わってきたんだ。10年前はみんな何だって買ってたよ。でも今はみんなが何にお金を使うのかにもっと注意を払ってる。かつてのDROP DEADは、ノンストップでとにかくモノ作りをしてた感じさ。でも今では小さなコレクションを作って、どのコレクションも完璧なものにしたいと思ってるから、ディテールにもこだわってる。それに、DROP DEADは常にヴィーガンのブランドでもあるから、動物性の素材は使わないんだ。今はそこからさらに推し進めて、地球に優しいモノ作りをしたいから、環境に配慮した素材を使うようにしてるんだ。

BMTHのオリーがブランド「DROP DEAD」を始めた理由

Photo by Yulia Shur

ーオリヴァーは以前、ロックがエッジを失ってしまったこと、今の時代はヒップホップが音楽もファッションも席巻していることを話していましたよね。今の若いロック・キッズのファッションはどうなっているんでしょう? 逆にヒップホップの子たちがパンクやメタルのようなファッションを楽しんでいますよね。

オリヴァー ファッションにおける境界線がなくなったのはある意味クールだと思うんだ。ヒップホップの子がロックスターみたいな格好をしてるのもいい。異なる世界の人が異なるファッションをしてみたいというのは面白いことだよ。今のDROP DEADのファンベースがどういうものかはひと言では言えないね。

ハリー 僕たちはある特定のグループの人たちに向けて服作りをしてないんだ。「こうあるべきだ」って押しつけるのも嫌だしね。一つのコレクションを発表する時は、これを心地良いと思ってくれる人に届けばいいと思ってる。特にCradle Of Filthとのコレクションはそうだね。Cradle Of Filthの大ファンならもちろん喜んでもらえるだろうし、そうじゃなくても、今は境界線なんてないんだから、ラッパーがCradle Of FilthのTシャツを着たってかまわないんだよ。そこを受け入れないとしたら、古いやり方でしかないね。だから、異なるジャンルであろうと当然ウェルカムだし、DROP DEADのことやCradle Of Filthのことをよく知らない人にとっては良い入り口になると思うんだ。だから、気に入ってくれたら最高って感じさ。

オリヴァー エリート主義なんて要らないからね。一度も聴いたことのないバンドのTシャツを着てる人のことをポーザーって言ったりするよね。でもそれで何かいいことがあるのかな。アートにしても同じで、好きになったアートの背景をすべて知ってる必要なんてあるのかなって思う。服なんて、感じ取るものがあればそれでいいんだよ。だって、たかだか服だよ。誰が気にするっていうんだ?(笑)

BMTHのオリーがブランド「DROP DEAD」を始めた理由

Photo by Jesse Kojima