さる1月9日に恵比寿LIQUIDROOMで初の単独来日公演を行った、ルイス・キャパルディにインタビュー。2019年のUKで最も売れたシングルとなった「サムワン・ユー・ラヴド」は第62回グラミー賞「年間最優秀楽曲」にノミネートされ、デビュー・アルバム『ディヴァインリー・アンインスパイアード・トゥ・ア・ヘリッシュ・エクステント』も大ヒットを記録。
圧倒的な美声で知られるスコットランド出身のシンガー・ソングライターが、ユーモアたっぷりに語ってくれた。

―グラミー賞の「年間最優秀楽曲」ノミネーションおめでとうございます!

ルイス:ありがとう! 素晴らしいよね。

―2017年のデビューから今まで、様々なことが変わったと思います。この2年間であなたにとって一番変化したことというと?

ルイス:そうだなあ……前よりずっと忙しくなったよ。これまで一度も、忙しかったことなんてなかったからね。今じゃ、毎日何かやってるよ。ミュージシャンって、絶対に朝は早く起きないってみんな思ってるだろ? でも、それは嘘だね。僕は毎日6時ごろには起きるよ、なんてこった! ひどいよね。仕事は大好きなんだけど、夜の12時に寝ても、6時に起きるんだよ! 毎日毎日! 僕は疲れてるんだー(笑)! 前はいつも、ずーっと、下着姿でプレイステーションをやってた。ずーっとね。でも、今はそういうわけにはいかない。いつも忙しいってこと以外だと、体重が増えたね。
太ったよ。ミュージシャン全てに当てはまるかはわからないけど、いつだってどこにでも、お菓子が置いてあるんだよ。わかるよね? 僕は今よりもスリムで……いや、僕は一度だってスリムだったことはないかな、つまり、前はぽっちゃりだったけど、今は太った。そういう地点に到達してしまったよ。大きな男だよ、いつも口に何か入れてるからね。それから……今は世界中で音楽をやり続けてる。だから、太った、疲れている、それと同時にとてもラッキーなんだ。

―インタビューやトークもスコットランド人らしい大らかさやユーモアに満ちていますが、では、あなたは自分の音楽のどの部分にスコットランド人らしさを感じますか?

ルイス:もしかしたら僕が歌っているときに、スコットランド人だということを僕の声から感じる人もいるかもしれないね。人によっては、僕のアクセントがあまり歌に出てないと思っているかもしれない。でも、そういう人たちは、間違いなんだ(笑)。自分でも思うに、母音とかそういうものが明らかにスコットランド訛りだからね。自分のアクセントだからうまく説明できないんだけど。
あと、曲はどれもインスパイアされてるよね。例えば「フォーエヴァー」は僕の曲の中でもっともスコットランド人らしいかも。この曲ではエジンバラにある99 Hanover Streetというバーに触れているんだ。トニック・ワインというお酒のことも歌ってるけど、これはスコットランドではBuckfastとも呼ばれてて(筆者注:英デヴォン州のバックファスト修道院で作られている強化ワイン)、一番スコットランドらしいお酒だと思うよ。イギリス製なんだけどね、でもスコットランドで有名なワインなんだ。カフェインたっぷりでさ。だから酔っ払って、月までロケットでひとっ飛びだよ。で、このお酒を飲むとひどい二日酔いにも見舞われる。翌朝は間違いなく胃の調子が悪くなるね。そう、だから僕の音楽のそういった歌詞の部分や、僕の歌うアクセントに、スコットランド人らしさが出てると思うな。

―エモーショナルで胸に直接届くかのような「ビフォア・ユー・ゴー」、本当にいい曲ですね。

ルイス:ありがとう。


―この曲があなたにとって、最もパーソナルな曲だと聞きましたが、どういうところが?

ルイス:そう、これは僕の叔母についての曲なんだ。彼女は自殺で亡くなった。何が起こったのかを理解するには、僕はまだその時すごく小さかったんだけどね。この曲はむしろ……悲しみと向き合っていた僕の母についての曲とも言える。母と叔母は姉妹だったからね。どうやって人は、自殺で亡くなった人の死とその後向き合っていくのか。最初は亡くなった人を責めて、それから自分を責めて……かなりパーソナルな曲だね。この曲が最初に、いや、最近の数曲はそういう書き方をしているかな。つまり、こういうこと……例えば人の死についてとか、そういったものについて、僕は若い時にはあまり考えなかった。でも「サムワン・ユー・ラヴド」とか「ビフォア・ユー・ゴー」などは、人が亡くなることについて歌っていて……死というのはかなり憂鬱でとても悲しいものだよね。だけど同時に、それを書くことに興味があったんだ。なぜならそれについて、充分に語られていないと思うから。
でも、とても重要だよね」

―そうだったんですね。悲しい体験を共有してくれて、ありがとうございます。

ルイス:や、ごめんごめん、あまり悲しく受け止め過ぎないでね。まだ朝早いからね(笑)。

―あなたは実体験を曲にするそうですが、自分の体験を曲にする際に何か特に心がけていることはありますか?

ルイス:僕の場合、どうして自分の人生から曲を書くほうが好きかというと、それ以外のこと、例えば物語とかだとなんだか上手く機能しないんだよね。大事なのは……そもそも僕の好きな曲はどれも、人生について書かれているんだよね。だから、自分の音楽でもそうするのが重要だと思ってる。自分自身の人生について書かないと、むしろ変な気分になるんだよ。とはいえ、あまりそれについては考えすぎないようにしてきたんだ。ただ書いてからわかる、みたいな。でも、そう、僕は自分の人生について書いているね。

―あなたの音楽的背景について聞かせてください。
あなたはクイーンやジョー・コッカーの曲を歌って練習してきたそうですが、クイーンだとどの曲が歌っていて一番楽しいですか?

ルイス:僕にとってベストなクイーンの曲!? オー・ゴッド! 「ブレイク・フリー(自由への旅立ち)」だな。この曲が一番好きだよ。時々、人って自由になりたいよね(笑)。時々…… 「神よ、神よ、僕は自由になりたい!」(筆者注:”God Knows, God Knows, I want to break free!” はこの歌詞のフレーズ)。時にはね……Its strange but its true. I cant get over the way. But I have to be sure. When I walk out that door……この部分って、僕のアクセントだと韻が踏めないんだよな。I want to be free. イェーイ(笑)。Oh, how I want to be free. ウー! ……や、もうやめとく(笑)。とにかく、この曲が一番好きだな。といっても、一番好きな曲はいつも変わるんだけど。

あと、「ONE VISION -ひとつだけの世界-」も好きだね。なにしろ、この曲は最後にフライドチキンのことを歌ってるだろ? 全く意味がないけど、好きなんだよね。「フライドチキンをくれよ (Gimme Fried Chicken)」なんて、ちょっとバカらしくて。
太めの男として、僕もよく「フライドチキンをください」って言ってるからね。僕、いつもフライドチキンを食べてるから。もしかしたら、それが理由で僕はこの曲が好きなのかもしれないな(笑)。ああ、フライドチキンを食べていいんだな、って思えるから。や、フライドチキン大好きなんだよ。だから、「ONE VISION」も好きなんだ。フライドチキンを食べて、むくんで、僕のお腹がベルトの下で悲鳴をあげるんだ。それで、僕のお腹がベルトの下で「ブレイク・フリー! 自由になりたい!」って歌うのさ(笑)。

―(笑)ありがとうございます。

ルイス:ね、こうやって僕は自分の人生を歌うんだ(笑)。

―スコットランドのバスゲイトであなたは育ちましたが、一番近い音楽都市というとグラスゴーですよね。グラスゴーといえばバンドやアンダーグラウンドのダンス・ミュージックで有名ですが、どうしてあなたはソロ・シンガーというスタイルに魅力を感じたんですか?

ルイス:かなり長い間バンドにいたんだよ。でも、僕はあまりそっちでは上手くいかなくて。それほどいいバンドでもなかったかな。で、ある日思ったんだ、自分でやると結構いいかもって……実際のところ、最初からソロでスタートしたわけじゃないんだ。なぜなら、僕はそのとき新しいバンドを探してもいたから。前のバンドが解散して、「OK、それでも僕はギグが演りたいんだよな」と思ってた。そこで、ソロで歌いはじめたというわけ。それからソロとして演りつつもバンドを探していたんだけど、(ソロでの)物事が僕にとっては結構上手く行き始めて。だから、もしそれがなかったら僕はきっと、ずっと新しいバンドを探していたね。そうしたら、今のような状況には全くなっていなかったと思う。まあ、(バンドだと)収入が4方向に行っちゃうけど、今、僕はそれが全部来てるから。その分、フライドチキンがたくさん買える(笑)。分けなくていいからさ(笑)。僕の言う意味わかるよね。

―じゃあ、バンドに居た時は、どんな音楽をやっていたの?

ルイス:たくさんのバンドにいたわけじゃないけどね。そうだな、インディ・ロック・ミュージックだな。僕はバンドに夢中だったから、たとえばアークティック・モンキーズ、ザ・キラーズ、それから英国バンドのマカビーズみたいな……そんな感じだね。でもやっぱり、僕は上手じゃなかったから、バンドが解散してよかったのかな。でも、そう、何年もバンドはやってたね。

―そうすると、あなたが音楽を作る時ってギターで作るんですか? それともピアノなど別のもので作る?

ルイス:前はギターで作っていたね。アルバムの曲を書くとなった時に、僕はギターが弾けたから、まあうまいわけじゃないけど、でもとにかく、ギターだといい曲が書けなかったんだ。なにしろ僕が弾けるのは慣れた同じコードだけだし、それだと最終的には同じような曲しか生まれてこなくて。で、僕はピアノがちゃんと弾けるわけでもないけど、アルバム用の曲は下手なピアノで書き始めたんだよね。実際どう弾けばいいかわかんないんだけど、でも全ての曲がずっと面白いものになった。なにしろ、何もわからないから「このサウンドも前と違う」「これも前と違う」みたいな感じになる。そうやって、このアルバムの曲はピアノで書いたんだ。だけど、最近はまたギターで書いてるね。それもまた、面白く感じてるんだ。だから、時と場合によって、ってことになるかな。もし曲を書いている間に飽きたり、立ち止まったりするときは、違う楽器に変えてみるといいんだ。

―最近でも曲を書いてるんですね。次の新しい道に向かって、どんな曲が生まれて来ていますか?

ルイス:まだ一曲一曲が完成しているわけじゃないんだけどね。半分だけアイデアを形にしたりしてる。そうだな……前よりもっと悲しい音楽が増えてる。うん、悲しい曲、それは間違いない。で、いくつかハッピーな曲もあるよ。けっこうエキサイティングだよね。で、どうなるかはお楽しみってところかな。つまり、1枚目のアルバムはかなり上手く行っただろ? 僕は嬉しい。ハッピーな男だよ。そして、2枚目のアルバム……これは、おそらく、そんなに、それほど、上手くは、行かない。なぜなら僕はすごくラッキーで、でも稲光は同じ場所には二度と当たらない。僕が言っている意味わかる? だから、僕はあまり過剰に期待せずに2枚目のアルバムに向かってるよ。僕はもう頂点に行ったと思うな、僕のキャリアはもう頂点に行った。で、残されているのはただ、下っていくことさ。まあ様子を見よう。でも、ベストを尽くすよ。僕らはこのアルバムでいい結果が出て、で、2枚目のアルバムはまあ、なんども言うけど、何も起こらないだろうな(笑)。

―(笑)ただ、オアシスは素晴らしい2ndアルバムを作りましたし、多くのブリティッシュ・ミュージシャンが前よりいい2ndアルバムを作っていますよね。

ルイス:そうだな、僕はその中の一員にはならないだろうな(笑)。最初のやつが最高だ。僕を信じてよ。僕を、信じて。最初のやつが、最高。これに尽きるね(笑)。

2019年UKで最も売れたルイス・キャパルディ、音楽的ルーツとクイーンの好きな曲を語る


2019年UKで最も売れたルイス・キャパルディ、音楽的ルーツとクイーンの好きな曲を語る

Photo by Sotaro Goto

―では将来の話を。シンガー・ソングライターとしてあなたの最大の夢、ゴールというと?

ルイス:シンガー・ソングライターとしてか……うーん、わかんないな。僕はかなり怠け者で、それって良くないよね。ゴールってあったかなあ……僕が音楽をやり始めた頃のゴールは、キング・タッツ(・ワー・ワー・ハット)でライブをやること。300人のキャパの、グラスゴーの小さなライブハウスだよ。それが僕の最終的なゴールだった。でもけっこうクレイジーなことになって、上手くいって、今じゃもうそれをはるかに超えちゃったから、実は今の僕にはゴールが無いんだよね。ただ、何が起こるかを自分でも楽しみにしている感じ。だから僕のゴールは、ただ曲を、自分の好きな曲を書き続けることかな。言ってる意味わかる? それが大切なことだと思う。たくさんの人が、曲を書くのをどこかのタイミングで止めるよね。僕は自分自身のために音楽を書いているからさ。みんなが僕の曲を好きだと言ってくれるのにはびっくりしてるんだ、だけどは自分が書いていて楽しい曲を作っていて、歌うのも楽しんでる。だからそれが、僕のゴールだな。ただ曲を書き続けて、自分の好きじゃない曲は書かずに、自分の好きじゃない曲はリリースせずに。体重を減らすのも好きじゃない、だから……まあ、それは別の話か」

―ありがとうございました。最後に、日本のファンはあなたの来日や日本盤を心待ちにしてきました。カメラに向かって、日本のファンにメッセージをお願いします。

ルイス:ハロー、みんな元気? ルイスだよ! 会えて嬉しいよ。いろいろとありがとう、チケットを買ってくれてありがとう、CDを買ってくれてありがとう。この後のライブで、君たちをがっかりさせないことを祈るよ。ベストを尽くすからね。いろいろとありがとう。みんな愛してる。ビッグハグを送るよ、ありがとうね。それから言っとくけど、もし2ndアルバムが出て、あまり好きじゃなかったら、買っちゃダメだよ。1枚目を買うといいよ。もし1枚目の作品が好きだとしたら嬉しい。でも僕の音楽が悪くなってたら、買わなくてもいいからね。でもとにかく、いろいろとありがとう。またすぐ会おうね!

2019年UKで最も売れたルイス・キャパルディ、音楽的ルーツとクイーンの好きな曲を語る

ルイス・キャパルディ
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