2016年の武道館以来となる、クイーン+アダム・ランバートの来日公演が1月25日よりスタート。先頃発売されたクイーン・オフィシャル・ブック『QUEEN in JAPAN』の編集も手掛けた、元MUSIC LIFEの赤尾美香によるツアー2日目の1月26日・さいたまスーパーアリーナ公演のレポートをお届けする(※ライヴ写真は初日のもの)。


「みなさんはフレディのファンでしょ? 僕もフレディのファン。ファン同士、今日は一緒に、フレディとクイーンを祝福しましょう!!」── アダム・ランバートがライヴ序盤に発したこの言葉が、いつまでもあたたかく胸の奥に居座り続けた。そんなライヴだった。

まさに老若男女入り混じった観客。私の隣は若いお嬢さん2人組だし、通路を挟んだ先には、私が初めてクイーンを聴いた年頃(小学校高学年)と思しき少女がお母さんと笑顔で開演を待っている。かと思えば、かなり年季の入ったクイーンTシャツを着た年配男性もいるし、もちろん、かつて黄色い声で彼らを熱狂的に応援した元少女もたくさん。
クイーン+アダム・ランバートとしては3年4カ月ぶり3度目、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の爆発的ヒット後初となる来日公演は、かくも幅広いファンを集めて開催された。

客電が消えたのは定刻の17時を10分過ぎた頃、そしてそこから軽く2時間を超えて私は彼らのパフォーマンスを大いに楽しんだ。バンドは、ブライアン・メイ(Gt)、ロジャー・テイラー(Dr)、アダム・ランバート(Vo)に、お馴染みスパイク・エドニー(Key)、ニール・フェアクロー(Ba)、タイラー・ウォーレン(Per,Dr)という編成。

クイーン+アダム・ランバート来日公演 あらゆる世代のファンを魅了した「伝説の続き」

Photo by Teppei Kishida

SEの「イニュエンドウ」に導かれるようにして聞こえてきたのは、「ナウ・アイム・ヒア」だ。ステージ中央の高い所に一人立ったアダムの姿を認めると場内が大きく沸いた。「輝ける七つの海」、「炎のロックン・ロール」と初期の曲が続き、ここでもう70年代からのファンの心は鷲掴みにされたはず。
続く「ハマー・トゥ・フォール」では、あのライヴ・エイドのシーンを思い浮かべた人もいただろう。「キラー・クイーン」では、アダムが赤い扇子を片手に艶っぽい歌唱を聴かせる。一転、曲調に合わせてスクリーンに動きのある映像が映し出されスピード感を演出した「ドント・ストップ・ミー・ナウ」の後には、「サムバディ・トゥ・ラヴ」での大合唱が会場をひとつにまとめ上げる。次々に繰り出される”よく知った曲”に場内の興奮は上がりっぱなし。

とにかくブライアンもロジャーも元気だ。ロジャーは自作曲「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」を披露したが、独特の高音ヴォーカルは健在、ドラミングにはほどよい重量感があってタイト。
サングラスを外して女性ファンの「キャーッ!」を楽しむ余裕を見せるあたりが、なんともご愛嬌。ブライアンは、中盤にアコースティック・パートと、終盤にコズミック・パート(壮大な宇宙をイメージしたようなセットや照明、演奏)とでも呼びたくなるソロ演奏コーナーで観客を魅了。個人的には「イラッシャイマセ~!!」で始まったMCからのアコースティック・パートにかなりグッときた。自分が若い頃には好きになれなかった「手をとりあって」(洋楽に日本語歌詞が入っているのが嫌だった)で、一緒に歌える喜びを素直に感じられたのが我ながら驚きだった。「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」では、前回の武道館公演同様、フレディ・マーキュリーの映像とのコラボもあり、私の後ろの席の方も感極まっていたご様子。しかもその次に演奏されたのが「39」ときた! ブライアンはこの曲を「スペースマンの曲」と紹介したけれど、そんな一言で簡単に語れる曲じゃないことはファンのみなさん周知の通り。
地球と宇宙、時空を超えて存在する愛し合う者同士は、さしずめこの世にいるブライアンと、この世にはいないフレディ!?ともとれそうだ(深読みしすぎか!?)。

ロジャーがデヴィッド・ボウイ、アダムがフレディのパートをそれぞれ受け持つ「アンダー・プレッシャー」では、ふたりが掛け合いを楽しんでいる様子がなんとも微笑ましい。メンバー紹介を挟んで「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」、「ブレイク・フリー(自由への旅立ち)」と続き、大空に雲が流れるような照明の演出が場内を包み込んだ。色とりどりの光線が駆け巡った「リヴ・フォーエヴァー」のスペクタクル感溢れるレーザー・ショウも圧巻だった。

クイーン+アダム・ランバート来日公演 あらゆる世代のファンを魅了した「伝説の続き」


クイーン+アダム・ランバート来日公演 あらゆる世代のファンを魅了した「伝説の続き」

Photo by Teppei Kishida

前述したブライアン博士のコズミック・パートが終わると「タイ・ユア・マザー・ダウン」、「ショウ・マスト・ゴー・オン」、「RADIO GAGA」、そして本編ラストの「ボヘミアン・ラプソディ」に突入。「ボヘミアン・ラプソディ」の壮麗なコーラスワーク部分では同曲のPVを同期させた演出が効果的だ。


アンコールの最初には、フレディ(映像)との「イェーオ!!」のコール&レスポンスも実現し、最後は「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、「伝説のチャンピオン」で大団円。「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」をBGMに観客に向けて挨拶を繰り返すメンバーを遠くに見ながら、改めてブライアンとロジャーのパワフルなパフォーマンスは見事であったとしみじみ思っていた。そしてそのパフォーマンスを引き出しているのは、他でもないアダム・ランバートなのだということも考えずにはいられなかった。

ゴージャスな衣装を次々に着こなし、艶やかなパフォーマンスを繰り広げるアダム(来日中の1月29日に38歳の誕生日を迎える)は、完璧だった。唯一無二のフレディに敬意を表し、ゆえにモノ真似はせず、と言って自己流ばかりを貫き通すこともしない。以前に比べて歌詞の乗せ方や、メロディ・ラインのアレンジなどにアダム流が増えてはいるが、それとてクイーンの名曲を壊すようなものでは決してない。
フレディとは違う、というだけだ。「ショウ・マスト・ゴー・オン」もアダムの解釈で歌われるとフレディが込めたものとはまた違う思いが覗く。そんな非常にクレバーな彼の立ち位置は、本文の冒頭に書いた通り、客席にいるファンの側なのである。アダム本人がそれを望み、実行している、その事実は、特に往年のクイーン・ファン、フレディ・ファンにとっては大きく、聖域を侵された感がない。

と同時に彼は、ブライアンとロジャーに認められたシンガーでもあり、ステージの構成や演出に関しては意見を挟む余地を与えられているという。アダムにとっては、コラボレーションのおもしろさがここにはある、というわけだ。ロジャーは、「今の状態はサプライズだ。バンドが継続するなんて不可能だと思っていた。でもそれを可能にしたのがアダムだ」と話し、ブライアンはアダムのことを”天からの贈り物”だと言う。もはや、ここにいなくてはならない存在となったアダムが、御大ふたりのモチベーションにも貢献していることは明らかだ。

クイーン+アダム・ランバート来日公演 あらゆる世代のファンを魅了した「伝説の続き」


クイーン+アダム・ランバート来日公演 あらゆる世代のファンを魅了した「伝説の続き」


クイーン+アダム・ランバート来日公演 あらゆる世代のファンを魅了した「伝説の続き」

Photo by Teppei Kishida

名曲があり、ツボを心得た演奏があり、華やかなライティングやヴィジュアル体験もあり、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、アダム・ランバートの3人が、これまで以上にその個性や持ち味が発揮した今回のショウは、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を経て、新旧オール世代のファンが、それぞれの中にあるクイーンへの思いを炸裂させるのには最高の機会だったはず。けれど、これは終わりではない。ならば彼らがこの先どこへ向かうのか、私たちは見届けなければならない。そんな決意も新たにさせるショウだった。

客電がつく頃、場内に流れたのはデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」だった。これがまたなんとも沁みた。最初から最後まで音が小さく、オープニングなどでダイナミックな興奮が得られなかったこと、たくさん演奏してくれようとするせいか、フルコーラスで聴きたい曲もメドレー・アレンジになりがちなことだけは、残念だったが。

クイーン+アダム・ランバート来日公演 あらゆる世代のファンを魅了した「伝説の続き」

Photo by Teppei Kishida

クイーン+アダム・ランバート日本公演
1月26日(日)さいたまスーパーアリーナ セットリスト

1. ナウ・アイム・ヒア  Now Im Here
2. 輝ける7つの海 Seven Seas of Rhye
3. 炎のロックン・ロール Keep Yourself Alive
4. ハマー・トゥ・フォール Hammer to Fall
5. キラー・クイーン Killer Queen
6. ドント・ストップ・ミー・ナウ Dont Stop Me Now
7. 愛にすべてを Somebody to Love
8. 神々の業(わざ)(リヴィジテッド) In the Lap of the Gods… Revisited
9.アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー Im in Love With My Car
10.バイシクル・レース Bicycle Race
11. 地獄へ道づれ Another One Bites the Dust
12. アイ・ウォント・イット・オール I Want It All
13. 手をとりあって Teo Torriatte (Let Us Clinghether)
14. ラヴ・オブ・マイ・ライフ Love of My Life
15. 39
16.ドゥーイング・オール・ライト Doing All Right
17. 愛という名の欲望 Crazy Little Thing Called Love
18. アンダー・プレッシャー Under Pressure
19. ドラゴン・アタック Dragon Attack
20. ブレイク・フリー(自由への旅立ち)I Want to Break Free
21. リヴ・フォーエヴァー Who Wants to Live Forever
22. ギター・ソロ Guitar Solo
23. タイ・ユア・マザー・ダウン Tie Your Mother Down
24. ショウ・マスト・ゴー・オン The Show Must Go On
25. ボーン・トゥ・ラヴ・ユー I was Born To Love You
26. RADIO GA GA
27. ボヘミアン・ラプソディ Bohemian Rhapsody
アンコール: Ay‐Oh *Freddie on screen
28. ウィ・ウィル・ロック・ユー We Will Rock You
29. 伝説のチャンピオン We Are the Champions

QUEEN + ADAM LAMBERT THE RHAPSODY TOUR
2020年1月25日(土)東京 さいたまスーパーアリーナ SOLD OUT
2020年1月26日(日)東京 さいたまスーパーアリーナ SOLD OUT
2020年1月28日(火)大阪 京セラドーム大阪 SOLD OUT
2020年1月30日(木)名古屋 ナゴヤドーム SOLD OUT
https://www.creativeman.co.jp/artist/2020/01queen/