「ミュージシャンにとって、2020年は前から大変だったのに」と、シンセポップのシンガーソングライター、キャロライン・ローズ。そこへやってきて、コロナウイルスのパンデミックだ。当面ライブミュージックやツアーはすべて中止され、音楽を生業とする大多数のミュージシャンは主たる収入源を失いつつある。ツアーで生計を立てている大勢のツアーアーティストにとって、この先数カ月は相当厳しくなりそうだ。
平たく言えば、ミュージシャンには助けが必要だ。今月リリースしたニューアルバムに伴う2カ月のスプリングツアーを中止せざるを得なくなったローズのように、アーティストにとっての目下の懸念は、バンドメンバーがせめて今月の家賃を払えるようにすること。「これからはお互いに助け合っていかなくちゃ」と彼女は言う。「でないと、この業界の経済はきっと破綻するわ」
ローリングストーン誌は大勢のアーティストや業界関係者に接触し、この危機のさなかファンはどうすればインディーズミュージシャンを元気づけられるのか、有益なヒントを教えてもらった。
1. ためらわず募金する
当然といえば当然だが、自分たちが何も提供していないのに直接お金をせがんでもよいものか、ミュージシャンの間でも意見が割れている。
2. 物販は(いまだ)強し
「基本的には、グッズを買ってもらうのがアーティストには一番助かる」とローズ。「ストリーミングは何の足しにもならない……私の場合、収入のほとんどは物販なの」 CDやアナログレコードを買うのもいいが、アーティストを直接サポートする一番いい方法は、webサイトにアクセスしてお気に入りのTシャツやパーカーやポスターを購入することだ。「本当に大助かりだ。ほとんどの場合、バンドの手元にすぐお金が入るしね」と、Savoir Adoireのボーカル、ポール・ハマーも言う。「(収入が手元に入るまで)数カ月、場合によってはそれ以上かかるストリーミングとは大違いだ」
3. 駆け出しアーティストこそ、助けが必要
お金の払い先を意識しよう。まだ音楽一本では食べていけない、駆け出しの若手アーティストたちは飲食業で働いているため、ダブルパンチを食らっている。全米の多くの都市ではレストランやバーが営業停止しているため、アルバイトを掛け持ちしているミュージシャンは安定した食い扶持を失ってしまった。まだ無名のアーティストを支援する際におすすめなのがBandcampというサイトだ。
「お気に入りのアーティストだけでなく、駆け出しの新人アーティストも支援してください。彼らのほうが困っているんです」と言うのは、LVL-UPの元ギタリスト、マイク・カリディ氏。現在はDouble Double Whammyというレーベルを運営し、Glow名義で音楽活動もしている。「無名のバンドはツアーがキャンセルになってしまっています。音楽ファンの助けがもっと必要です。Bandcampで、アルバムに提示された額よりも余分にお金を払ってください。すでに1枚買ったという人も、ストリーミングするか、または友人用にもう1枚買ってあげてください」
4. ミュージシャンを直接支援するチャリティに寄付する
広い意味でミュージシャンを支えたいけれど、どこにお金を出せばいいか分からない。そんなときは、名のあるいくつかのミュージシャン救済チャリティから始めよう。Sweet Relief Musicians Fundは1993年から、ミュージシャンの厳しい経済状況に直接資金援助を行っている。「ファンの皆さんが寄付したお金は、つまらない費用に消えていくことはないのでご安心ください」と、Sweet Reliefのアリック・スタインバーグ氏は言う。Sweet ReliefはCOVID-19緊急基金も立ち上げ、ファンから寄付を募り、アーティストから支援申請を受け付けている。
※編注:日本ではPayNOAHが、新型コロナウイルスによってイベントのキャンセルをするアーティストを無償サポート(審査あり)。CAMPFIREも経営に大幅な支障をきたした事業者を対象に、クラウドファンディングを通じたサポートプログラムを実施している。
5. 延期になったコンサートのチケットを取っておく
些細ではあるが、ツアーアーティストを救ううえで一番大事なことは、購入したコンサートのチケットを、たとえ振替公演に行けなくても手元に残しておくことだ。「払い戻しはしないでください」と言うのはジェイソン・イズベルやジョン・モアランドのマネージャー、トレイシー・トーマス氏だ。「振替公演で使うか、あるいは友達に譲ってください」。
もし年内のライブ日程をすでに発表しているアーティストがいたら、今のうちにチケットを購入しよう。さもなくば、ひとたび状況が落ち着いた後、ふだんより頻繁に出かけてライブミュージック三昧できるようにしておこう。「ファンが僕らのためにできる一番の方法は、健康でいてもらうことだよ」と、主にツアーで生計を立てているテキサスのシンガーソングライター、ジェームズ・マクマートリーも言う。「ひとたびこの状態が収まったら、外に出て、僕らに会いに戻ってきてほしい」
6. この先数週間はバーチャルコンサートのチケットを購入する
この数日間、全米のミュージシャンはライブミュージックがない代わりに、自分たちの才能をお金に換えるクリエイティブな方法をヒネリだした。自宅のリビングからライブストリーミングでコンサートをしたり、American AquariumのBJバーラムのように、ファンのために毎回アルバムを1枚フルで演奏するというアーティストもいる。
「いまはみんな自宅待機中で、とにかく気分転換が必要」とローズ。「なんらかの息抜きになるような音楽を発表するには、完璧なタイミングね」。以前にもまして、アーティストたちは様々な形で音楽をベースにしたコンテンツをリリースしている。財布のひもを緩めよう。
7. 大好きなバンドやミュージシャンを声高に宣伝する
今は自由に使えるお金があまりない、という人でも、大好きなアーティストを支える方法はある。「私たちの名前を広めてください」と、シンガーソングライターのホイットニー・ローズは言う。「私たちの楽曲をラジオ局にリクエストしてください。ソーシャルメディアで私たちを応援してください」。クラウドファンディングの場合と同じように、ソーシャルメディアでの露出は効果てきめんだ。
8. 地元のライブハウスやそこの従業員の現状を探ってみる
最終的に全国のライブハウスが営業を再開した暁には、ツアーミュージシャンたちの頼みの綱となるのは全米中のインディ系ライブハウスやクラブだ。「自分のことよりも、サービス業の人たちが心配だ」と言うのは、シンガーソングライターのジェームズ・マクマートリー。「僕らは資本主義でも構わないさ。でも、サービス業の人たちは自宅では仕事ができない……彼らに必要なのは社会主義。これに尽きる」。インディーズレーベルPacific RecordsのCEO、ブライアン・ウィトキン氏は最近発表した声明の中で、アーティストのグッズに加えて「地元のお気に入りのライブハウスでも」グッズを買ってほしい、と音楽ファンに呼びかけた。芸能関係へ寄付を考えているなら、ライブハウスやそのスタッフに直接寄付することも検討してみよう。
シカゴでは、スペンサー・トゥィーディー氏がChicago Service Reliefというサイトを立ち上げ、支援を必要とする数十軒のライブハウス、バー、レストランのリンクを紹介している。そのうちのひとつ、30年近く営業しているシカゴのロッククラブEmpty Bottleは、営業停止期間中のスタッフ支援としてGoFundMeのページを立ち上げた。もしくは、全米バーテンダー組合のCOVID-19救済キャンペーンに寄付するのはどうだろう。バーテンダーやサービス業スタッフが支援を申請できる、緊急支援プログラムを展開している。
9. 全てのアーティストが手当を受けられるよう、投票で構造改革を支持する
11月に大統領選挙が迫る中、現在の公衆衛生危機をきっかけに、ミュージシャンの生活を左右する社会構造について見直そうではないか、とファンに訴えるミュージシャンもいる。平均的なアメリカ国民と比較すると、健康保険に加入しているアーティストはずっと少ない。「僕らに共感してグッズを買おうと思ってくれる人が、国民皆保険や家賃統制、医学部や大学の学費ローン免除を支持するバーニー(・サンダース)のような候補者に投票してくれたら、心から感謝するよ」と、バーミンガムのロックバンドLee Bains and the Glory Firesのリードボーカル兼ソングライターのリー・ベインズは言う。「今回の危機で、セーフティネット政策がどれほど重要かが浮き彫りになった。僕らの中には、保険に加入する余裕がなく、借金を背負っている人が大勢いる。病欠手当もないし、失業保険も受け取れない。僕らは今、自分自身や1人1人の物質的要求をどう尊重するかという、もっとも重大な決断に直面しているんじゃないかと思うんだ」