NBCニュースの元幹部、マーク・ルカシェヴィツ氏もその1人。そして、ネットワークやケーブルテレビ各局が未だトランプ大統領の記者会見をそのまま放映し続けている理由を尋ねるにも適任の人物だ。
ルカシェヴィツ氏は放送ジャーナリスト歴40年の大ベテラン。2000年から2017年までNBCニュースの幹部として、生中継や緊急速報――選挙や大統領候補討論会、大統領就任式など――のオンエアを担当した。マイケル・ジャクソンの訃報からウサマ・ビンラディンの暗殺まで、普段の番組編成のどこに重大速報を生で差し込むかなど、あらゆる重要な決定に関わってきた。2016年の大統領選挙の際は、ドナルド・トランプ候補の選挙活動を生放送でどこまで取り上げるべきか、NBCニュースのスタッフと共に現場で頭を悩ませたことも多々あった。このときトランプ陣営はタダで50億ドル分以上の放映時間を得たとも言われている。
ルカシェヴィツ氏は2018年にNBCを退社し、ホフストラ大学ローレンスハーバート・情報通信大学院の院長に就任した。今はジャーナリズムの教育者として、また1人の視聴者として目を光らせている。
トランプ大統領の新型コロナ会見の生中継を見ているうちに、ルカシェヴィツ氏は我慢の限界に達した。彼はコロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌(CJR)に記事を寄稿し、報道番組に関わる元同僚らにささやかな要望を出した。「真実を語っている、ということを生放送の大前提にしようではないか」とルカシェヴィツ氏。
ルカシェヴィツ氏はローリングストーン誌の取材に応じ、CJRへの寄稿記事や報道番組の現場にいた頃について語ってくれた。トランプ大統領の新型コロナ関連の記者会見は今日の報道番組について何を物語っているのか? なぜTVネットワークは未だにケリーアン・コンウェイ氏(アメリカ合衆国大統領顧問)やスティーヴン・ミラー氏(アメリカ合衆国大統領上級顧問)のようなペテン師を出演させているのか? 事実の追及が仕事の報道番組は自らのルーツに立ち戻ることはできるのか? 同氏に伺った。
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嘘つきがTVに出られる理由
ーコロナウイルスの会見中継が我慢の限界を超えたのはなぜですか?
今ほど家庭のテレビに流れて来る情報が重要で、必要不可欠なときはなかったと思います。その情報源が汚され、悪用されているのを目にするのは、特に我慢がならなかったのです。
嘘をつくとわかっている人間を生放送に出演させるのは、私に言わせれば報道の業務上過失です。「昔ながらの」――他にいい言葉が見つからないのですが――ジャーナリストなら、こんなことはないでしょう。パソコンの前に座って「うーむ、生物医学の専門家が必要だな。あの男に連絡してみようか。今まで10回嘘をつかれたが、今度は何と言うつもりか見てみよう」とはならないはずです。絶対に電話などかけませんよ。
それでも、クリス・クオモ氏(CNNのキャスター)やジョージ・ステファノプロス氏(ABCのキャスター)、チャック・トッド氏(NBCのキャスター)に平気で嘘をつく人々がいる。しかもそういう人たちが、何度も何度もTVに出演している。
ーではなぜ、パッと思いついたところで言うなら、ケリーアン・コンウェイ氏は何度も何度もテレビに出演しているのでしょう?
ケリーアン・コンウェイ氏やスティーヴン・ミラー氏は、ドナルド・トランプ大統領と極めて親しい人物として知られています。彼らは大統領執務室に影響力を持っている。政策を左右する力があります。今まで繰り返し行使されてきました。なので、ジャーナリストは自然とそのような人々に話を聞きたがるのです。大統領が何を考えているのか、どんな決定を下したのか、そうした決定を下したのはなぜか、詳しく知りたいからです。チャンスがあるのにそうした人々と言葉を交わさずにいるのは、どんなジャーナリストにとっても非常に難しいでしょう。
言うまでもないことですが、ホワイトハウスでは今でも報道管理が行われていて、どの話題について誰が報道陣の前で話すかを記者が指名することはできません。そのため、ケリーアン・コンウェイ氏がホワイトハウスの前で会見するとなれば、耳を傾けるなと言うのは難しいものがあります。ついさっきまで執務室にいて、大統領や補佐官と話をした人物なんですから、当然話を聞きたいです 。
私の論点は、その後どうなるのかもろくに考えず、反射的に生出演させているのではないか?ということです。
ウソつきがTVに出られる理由
ーコロナウイルスの会見中継が我慢の限界を超えたのはなぜですか?
今ほど家庭のテレビに流れて来る情報が重要で、必要不可欠なときはなかったと思います。その情報源が汚され、悪用されているのを目にするのは、特に我慢がならなかったのです。
嘘をつくとわかっている人間を生放送に出演させるのは、私に言わせれば報道の業務上過失です。「昔ながらの」――他にいい言葉が見つからないのですが――ジャーナリストなら、こんなことはないでしょう。パソコンの前に座って「うーむ、生物医学の専門家が必要だな。あの男に連絡してみようか。今まで10回嘘をつかれたが、今度は何と言うつもりか見てみよう」とはならないはずです。絶対に電話などかけませんよ。
それでも、クリス・クオモ氏(CNNのキャスター)やジョージ・ステファノプロス氏(ABCのキャスター)、チャック・トッド氏(NBCのキャスター)に平気で嘘をつく人々がいる。
ーではなぜ、パッと思いついたところで言うなら、ケリーアン・コンウェイ氏(アメリカ合衆国大統領顧問)は何度も何度もテレビに出演しているのでしょう?
ケリーアン・コンウェイ氏やスティーヴン・ミラー氏(アメリカ合衆国大統領上級顧問)は、ドナルド・トランプ大統領と極めて親しい人物として知られています。彼らは大統領執務室に影響力を持っている。政策を左右する力があります。今まで繰り返し行使されてきました。なので、ジャーナリストは自然とそのような人々に話を聞きたがるのです。大統領が何を考えているのか、どんな決定を下したのか、そうした決定を下したのはなぜか、詳しく知りたいからです。チャンスがあるのにそうした人々と言葉を交わさずにいるのは、どんなジャーナリストにとっても非常に難しいでしょう。
言うまでもないことですが、ホワイトハウスでは今でも報道管理が行われていて、どの話題について誰が報道陣の前で話すかを記者が指名することはできません。そのため、ケリーアン・コンウェイ氏がホワイトハウスの前で会見するとなれば、耳を傾けるなと言うのは難しいものがあります。ついさっきまで執務室にいて、大統領や補佐官と話をした人物なんですから、当然話を聞きたいです 。
私の論点は、その後どうなるのかもろくに考えず、反射的に生出演させているのではないか?ということです。 特に今我々が直面している状況では、情報が生死を左右します。10分多く考えたところで損があるとは思えません。その10分で、より正確な情報、より優れたコンテンツやニュースを視聴者に届けられるでしょうし、結局はそれが我々の使命なのです。
ウソの津波に太刀打ちできない真実
ーCNNのダニエル・デイル氏(をはじめとする常勤の事実確認担当者)の仕事には――うらやましいとは思いませんが――尊敬と称賛を贈ります。ただ時々、彼は巨大な津波をティースプーンで押し返そうとしているような気がするんです。誤報や偽情報に立ち向かうには別の方法を考える必要があります。事実確認をして「この情報は間違っています、理由はこうです」と言うだけでは勝てないように思うのですが。
私が見た限り、実際に事実確認が何らかの影響やポジティブな影響を与えることを示す証拠はひとつもありません。よく言われることですが、ソーシャルメディアが実験的にやっているように、何かが嘘であるという投稿すると、アクセスが増えるんです。野次馬みたいなものですね。「へぇフェイクニュースなんだ? ちょっと読んでみよう」という具合に、知りたくなるものなのです。
弾劾裁判が行われていた頃のある週末、日曜のあらゆる政治ニュース番組での生放送インタビューを調べたことがあります。FOXニュースのゴールデンタイムについては様々な意見があると思いますが、クリス・ウォレス氏は非常に腕の立つインタビュアーです。その日のゲストはスティーヴン・ミラー氏でした。ミラー氏はそのコーナーの間ほとんどしゃべり通しで、自らの主張を1度や2度ならず、6回、7回、8回と繰り返していました。司会者が「ですが、それは事実と反します」と言うのもお構いなしに、オンエアされていたのです。
もうひとつ、事実確認について非常に重要なことは、報道メディアは(今)、大統領やその仲間から4年間も信頼性を容赦なく、徹底的に攻撃されながら活動している、ということです。メディアは誠意がないと言われ、大衆の敵と呼ばれ、売国奴扱いされた。相当な数のアメリカ国民が、報道機関の行う事実確認を即座に却下します。なぜなら多くの機関、とりわけ報道メディアを貶め、不信感を植え付けようとする試みが行われてきたからです。

ホワイトハウスのコロナウイルス対策チームのメンバーと共に、記者会見に臨むドナルド・トランプ大統領 2020年4月4日、ワシントンD.C.にて。(Photo by Sarah Silbiger/Getty Images)
生放送・速報の基準
ーTVネットワークほどの大規模なメディアが緊急速報の差し込みを決定するのは重大な決断だろうと思います。特派員に取材させて、編集して、夜のニュース番組で放送するのではなく、そうした決断に至った理由は何でしょう?
原則としてTVネットワークの場合、ゴールデンタイムに緊急速報を入れるのは、他の時間帯よりもずっと大きな決断です。全国的な関心事か? 本当に緊急か? 国民が知るべき事柄か?などが基準になります。どこかで大規模なテロ事件が起きたとか、重要人物――マイケル・ジャクソンとか――の突然の訃報などがそうですね。公人や政治家に対する暴力事件も対象になります。
それからワシントンやホワイトハウスのニュース。これは政権に報道官や広報部長がいて、ホワイトハウス記者団との関係もスムーズだった、議会が言うところの「平常時」についてしか言えませんが。
私は2017年の春に退職しているので、トランプ政権下でこのような基準について考えなければならなかった機会はごくわずかです。ですが私の印象では、以前のような記者とホワイトハウスの関係は、もはや存在していないように見えます。新型コロナウイルスの定例会見が行われる以前、大統領のお気に入りの会見場所はヘリコプターの発着所でした。それも、専用ヘリに乗り込むためにホワイトハウスの南庭に出てきたとき、大統領の気が向いた間しか行われないのです。
ー”ヘリコプター会見”ですね。
大統領には最高の形式です。自分は質問を聞き取れませんが、回答は常に聞き届けられますからね。いつ会見を始めていつ終えるか、どの質問に答えてどの質問には答えないか、完璧にコントロールできる。大統領はこの形式を気に入っていて、専用ヘリに向かうときはほぼ毎回会見をしています。
ー特にホワイトハウスが今非現実的で、以前とは全く違う別物になってしまったことを気づかされる事例のひとつですね。
ごく一部のアメリカ国民は、大統領がテレビに出たいと言ったら出演を認められるべきだ、特に今のような危機的状況では、ネットワークは放送枠を大統領に割くべきだ、と信じている人もいるようです。私はそうは思いません。ひと昔前と比べれば、今日の大統領には大衆に呼びかける能力も手段もあります。大統領にはTwitterがありますし、ホワイトハウスには動画チームやメディアチームがいて、配信するプラットフォームもあります。ジョン・F・ケネディ大統領の時代とは違うのです。あの当時、アメリカ合衆国大統領がキューバ危機について国民に語るには、ラジオやテレビの公共の電波を徴用するしかありませんでした。それが唯一の伝達手段だったんです。
今は明らかに状況が大きく違います。たしか2週間前でしたでしょうか、執務室からの演説を中継するよう大統領がネットワーク局に要請した際、全てのネットワークが放送枠を空けました。ちなみに言うと、演説から1時間も経たないうちにホワイトハウスは大統領の発言を訂正する声明を出しました。それも1度や2度ではなく、3度もです。
常識が通用しないトランプ大統領
ートランプ大統領の大統領選挙活動をどう取り上げるかという判断にどこまで関わっていましたか? どんな議論が繰り広げられたのか、あらゆる意味で常識破りの候補者をどう取り上げたのか、多くの人が知りたがっていると思います。
かなり関わっていましたよ。様々な議論の場にもいました。もちろん私が決定権を握っていたわけではありませんし、トランプ陣営の取り上げ方に関して影響力があったわけでもありません。他にも大勢の人間が関わっていました。
ひとつ、私たちが勘違いしていたがあります。それは、ドナルド・トランプ氏が嘘をついていると言っていいものか?というものでした。トランプ陣営の選挙活動が進むに連れ、今ならはっきり嘘だと言い切れるようなことが次から次へと出て来たとき、こうした議論を延々と繰り返したものです。「口を滑らせたと言うべきか? 言葉足らず? 不正確?」。 嘘という言葉は、目の前の状況が悪だという印象を与えているように思えました。根拠もありません。それでは決めつけているだけです。視聴者の前に出して、視聴者に決めてもらうべきだと判断しました。今改めて考えると、「奇行」呼ぶのが一番しっくり来るように思います。
あれらは嘘です。メディアもだんだんわかって来て、それを指摘出来るようになってきています。ですが、一方がしていることをもう一方がしていない、という状態を受け入れることも容易ではありませんでした。偽りのバランス、というような言葉を聞いたことがあるでしょう? 「こっちはこんな嘘をついてこんなことをした。もう一方も同じようなことをしているだろうから、調べて証拠を探さなくては」という風に、公正な記事を書くことです。
そこへ全く違うルールで、というよりルールは一切無視して、挑む候補者と選挙陣営が現れた。我々メディアはその状況が飲み込めず、どう対応して良いかさっぱりわかりませんでした。3年が経過した今でも答えは見つかっていないのではないでしょうか。大統領の発言を生放送していることがその最たる例です。
報道番組の相反する2つの性質
ー「生中継」や「緊急速報」という画面表示は今や頻繁に使われています。あなたも「これらはさらに頻繁に使われるようになっただけでなく、ただの目を引く見出しになり下がってしまっている。これは、報道番組におけるジャーナリズムとその価値観が実質的に白旗を揚げたことを意味している」と書かれています。なぜこうした事態になってしまったと思いますか?
報道番組は常にメディアの2つの性質、情報と娯楽に悩まされて来ました。TVには視覚的な側面があります。それにライブ感というのもあります。同じものを録画で見るよりも、生で見る方が本質的に魅力的で、興味もそそられ、より見たいという気持ちになります。結局のところ、ケーブルテレビの報道番組は特に、視聴者の獲得が全てなのです。ライブ感が重要な理由として、今では情報が様々な手段で得られるという点も挙げられます。重要人物とのインタビューを録画し、一度どこかの番組で放送して、6時間後にまた別の番組で流そうと思っても、その頃にはもう意味がない。なぜなら、最初に放送した時点でもうそこら中に広まっているからです。そうでしょう?
インタビューの方が一から取材し、特集を組むよりも制作が楽だというのも事実です。NBCの『Nightly News』や『60 Minutes』の1分間は、クリス・クオモ氏やブライアン・ステルター氏、ニコール・ウォレス氏が誰かにインタビューする1分間よりも、はるかに制作費が嵩みます。だからといって、報道としてインタビューは価値が低いと言っているわけではありません。インタビューにも貴重で価値の高いものもあります。
ですが、ここで真実を語るという私の基準を振り返ってみましょう。30分間の生放送で相手の目的が嘘をつくこと、あるいは質問とは何の関係もない政治的目的を果たすことだとしたら――それは時間の無駄遣いです。
生中継にこだわる理由
ー今おっしゃった葛藤――大衆への情報伝達と、娯楽や視覚的価値――は永遠の課題ですね。トランプ時代(とでも言いましょうか)では特にそう感じますが、コロナウイルスの定例会見についてはさらにひしひしと痛感させられます。というのも、視聴率という観点で言うと、あれらの会見は視聴率がものすごく高いんです。どうバランスを取れば良いのでしょう?
バランスを取るのは非常に困難です。ですから私もネットワーク局に、会見を生中継しないよう要請したのです。ですが現実問題、ひとつのネットワークが単独で断行するのは極めて勇気のいる決断でしょう。大多数の視聴者は、自分の見たいものを見るためにチャンネルを変えるだけですから。
視聴率に関してはひとつ反論させてください。ジャーナリズムに関わる人間は誰もが、視聴者の獲得に一生懸命です。この点に関しては悪いとは思っていません。ローリングストーン誌の記者をしているあなただって、読者に自分の書いた記事をクリックして欲しいでしょう。雑誌を買って欲しい、自分の記事を読んで欲しい。誰かに影響を与えたいと思っているはずです。
報道番組でこれまで一緒に働いてきた経営陣の中で、ひたすら金儲けを目的としていた人間は誰もいないと思います。もちろん頭の片隅にはいつもあります。我々も予算は限られていますし、番組の人気も上げたい。ですが、それが一番の目的ではありません。
もうひとつ覚えておいていただきたいのは、今の時代、ホワイトハウスの記者会見のようなことがあると、実はネットワークにとっては金銭的に損していることになるのです。なぜなら、その(記者会見)を中継している間、局はCMも挟まずに何時間もオンエアすることになるからです。TV局やケーブルテレビがお金を稼ぐ時間が、こうした事情で消えてしまう。視聴率のために記者会見を中継しているというのは――会見の視聴率からお金は入って来ないんです。ゆくゆくは累積効果も期待できるかもしれませんが、その瞬間に収入は発生していないんです。
報道の意味
ー「ひとつのネットワークが単独で断行するのは極めて勇気のいる決断でしょう。大多数の視聴者は、自分の見たいものを見るためにチャンネルを変えるだけですから」とおっしゃいましたね。ではどうすれば良いのでしょう? 視聴者のためにならないものなら放送しないとネットワークが同意するでしょうか? 業界に40年いらっしゃった中で、今までにこのようなことはありましたか?
ありませんね。それに正直、あまり望ましくないと思います。何を放送すべきで、何を放送しないべきか、あるいは視聴者に何を見せるべきかという判断を、ネットワークが示し合わせて決めるのはどうかと思います。こうした判断は各地のジャーナリストが主導して、それぞれの報道室が個々に決めるのが望ましいと思います。主要ネットワークが示し合わせて報道上の決断を下せ、と言っているわけではありません。
私が言いたいのは、つい先日ウォール・ストリート・ジャーナル紙が社説でしたように、報道室の人々に自分たちの仕事の意義を再確認して欲しいのです。一部の報道ネットワークでも、大勢のキャスターたちが上層部に「なぜこれを取り上げるのか?」と問いかけています。非常に健全な対話だと思います。そうすることで、放送内容もずっと健全になっていくと思います。
ライブ感は大事ですが、情報の正確性の方がずっと大事です。かつてはスピードと正確性の間で葛藤がありました――今は正確性が非常に重要です。一旦手を止めて、真実を報道するよう報道室が自分たちに言い聞かせることができれば、視聴者にも奉仕できるでしょう。
扱うなと言っているのではありません。私自身、東ヨーロッパの共産主義国を取材したことがあります。壇上から真実はひとつも語られませんでしたが、だからといって、取材しなかったわけではありません。取材には行きましたが、そのまま好きなように主張だけさせるようなことはしませんでした。政治的発言の伝達役にはなり下がらなかった。それは我々の使命ではありません。先ほどの話に戻りますが、過去の政権下ではホワイトハウスの会見室でこのようなジレンマを感じることはありませんでした。ええ、情報操作はありましたよ。答えをはぐらかされることもありました。でも、今のような状況はありませんでした。
ーもしニュース番組の神になったとして、真実を伝えるという報道使命を歪ませている問題に明日から取りかかるとしたら、何をしますか? 「真実を語ることを生放送の大前提にしよう」というのは、出発点としては良いと思いますが、出発点でしかありません。具体的にどんなことをしますか?
今の状況を解決する万能薬はありませんね。というのも、もし私がニュースの神だったら、とおっしゃいましたが、我々が暮らす国にはニュースの神などいないのです。山のように媒体がありますし、ひとつの媒体がやらないと決めたことも、別の媒体が喜んで飛びついてやるでしょう。
ただ、我々は一歩引いて、自分たちの使命を思い出すべきだと思います。そもそもこの業界に踏み入れたのはなぜか。この業界に入ったのは事実を暴き出し、責任を追及し、権威に真実を突きつけるため。そして最終的には世の中を変え、大衆に奉仕するためです。そうしたフィルターを生放送にも適用するのです。カメラを向けた先で、視聴者のためにならないことが行われていたら、恐らくその映像は生放送にされるべきではないのです。