―今年で音楽制作を開始して10年ということですが、振り返ってどんな思いを持っていますか。
今はインターネットの発達により一曲がバズを起こして若いアーティストがチャートに入るというパターンも珍しくないと思いますが、僕は意外にコツコツと活動のフィールドを広げて来たような感じがして、それはとても良かったなと思っています。
―もともと音楽に目覚め、制作を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
元々はビートマニアや太鼓の達人といったゲームセンターの音楽ゲームです。特にビートマニアシリーズは楽曲にジャンルが表示されているので、ゲームの曲からそのジャンル自体に興味を持つという体験は僕の音楽体験の基礎となっています。
―多感な中学生の頃に、言葉の力に頼らないクラブミュージックに惹かれたのは何故だったと思いますか。
サンプリングとシンセサイザーにより限界まで制限や既存の枠を無視できつつ、「踊れる」という条件の元作り上げなければならないというゲーム性に惹かれたのだと思います。
―アルバム『DECADE4ALL』聴かせていただきました。音楽に没入することで現在の憂鬱な状況から気持ちがエスケープできるような気がしました。単曲のリリースではなくアルバムとして作品を発表する上で、どんなことを考えましたか。
今まで自分はEPでしか作品を出してこなかったので、アーティスト・アルバムというものに対しての憧れはずっと持っていました。なので、アルバムらしくイントロから始まり起承転結があります。またサウンド面でも限界まで振り幅を持たせ、自分の名刺がわりになるようなアルバムを作り上げたつもりです。
―様々なアーティストとのコラボについて教えてください。まず、「Backdown feat. Fellsius」について。トラックメーカーFellsiusとはどのように曲作りしたのでしょうか。
Fellsiusは普段からよく飲みに行くような友人でもあるのでコラボはスムーズに進みました。ベースハウス系のサウンドが得意なのはよく知っていたので軸となるベースサウンドを彼に作ってもらい、声ネタや展開など僕が加えました。
―ラッパーのMerry Deloとコラボ曲「I Dont Care feat. Merry Delo」は2019年11月にリリースされていますが、ラップとライザーサウンドのマッチングが異色に聴こえてインパクトのある曲でした。Merry Deloを起用した理由を教えてください。また、こうしたリリックになるのは想定してトラックを作られたのでしょうか。
元々彼のヒット曲「Scooter (Remix)」が好きで、一方的に知っていました。
―gummyboyとの「Seeya feat. gummyboy」について。gummyboyの気怠いラップのリフレインが、歯車のように機械的なトラックに巻き込まれて行く様が儚い感じでとても好きです。この曲についての思いを訊かせてください。
gummyboyとのコラボは非常に相性が良くスムーズに進んだように思います、彼のラップももちろんですがビート選びのセンスがとても好きで、他にもビートは色々送ったのですがこのトランシーなビートを選んでくれた彼は流石だなと思います。
―こうした世代が近いアーティストとのコラボには、特別な思いがありますか?
ラッパーは音楽プロデューサーとはまた違ったスタンスを持っていると思いますが同世代だと同じテンションで作業できることも多いので、こうした繋がりは大切にしたいです。
―「Friday feat. TYOSiN」をリードトラックにしたポイントはどこにありましたか。
この曲は世代もジャンルも違うTYOSiN氏と「トランス」というキーワードで繋がり、奇跡的なバランスで完成させる事ができた一曲だと思います。僕が大切にしている「ジャンルの横断」というものを一曲の中で表現できた曲だと思うので、リードトラックとしました。
―ラストの「Alcohol feat. Relect」はひと際激しい楽曲ですが、どんなコンセプトで作った曲ですか。
RelectもFellsiusと同じく音楽活動以外でも遊ぶことのある友人です。
―人気アーケードゲーム『beatmania IIDX 27 HEROIC VERSE』に収録された「NEWALONE 」のExtended Mixについて。ゲームとご自分の音楽との関係をどのように考えていますか。
ダンスミュージックにおいてその関係性は非常に重要だと思っています。元々ゲームミュージックは繰り返しの多い電子音楽だと思うので、ヒップホップのプロデューサーへの影響も非常に強いです。
―アルバム1枚を通して聴くことによる、リスナーの「疑似クラブ体験」のようなことは考えていたのでしょうか。
ダンスミュージックに限らず、アルバムを通して聴くことはクラブというより擬似コンサートに近いと思っています。僕の場合はアルバムを出し、それらの曲をDJでプレイすることで初めて「クラブ体験」になると思っています。中々シミュレーションとしてクラブ体験を提供することは難しいと、この回答を書いているコロナウイルスによる自宅待機期間中に思いました。
―Official髭男dismとの共同プロデュース曲「可能性 (prod.Masayoshi Iimori)」、YouTuberアバンティーズへの提供曲「アバみ」、シンガーソングライターReolへの提供曲「insider」を聴くと、それぞれの個性に寄り添いつつIimoriさんご自身の存在もしっかり残していると思います。歌がメインのアーティストへの楽曲提供、プロデュースではどんなことを大事にしていますか。
僕はあまり器用ではないので「このアーティストだからこういうサウンドが一番マッチするだろう」というようなことはあまり考えていません。その分、自分のサウンドを全力で出して、かつ相手の意見をほぼ全て取り入れることを大切にしています。
―この状況下でどのような日々を過ごしていらっしゃるのかツイッターを拝見したところ、めちゃくちゃ美味しそうな料理の写真が多数アップされていてお腹が減ってしまいました。とても趣向を凝らしているように見えますが、料理は以前から得意なんですか?
料理というよりは凝りがいのあるものが好きです。そういう点では、例えば限られた環境の中で工夫したりすることなど、料理も音楽も全く変わらず共通していることばかりだと思います。
―世界中の人々が先が見えず不安を抱えている今、このタイミングで『DECADE4ALL』がリリースされたことについて、音楽家としてどのような思いを抱いていますか。Iimoriさんが現状に感じていること、希望、不安を率直に訊かせてください。
一連の状況が回復しても元の日常には戻らないと思っていますが、皮肉にもこの状況が新たな表現の場を模索する機会を生み出しているようにも感じます。幸いにも活動できないほどの影響はないので、可能な限り様々な形で自分の作品を発信していきたいです。
―最後に改めて『DECADE4ALL』についてと、今後の活動についてひと言お願いします。
このアルバムはダンスミュージックのアルバムであり、僕が皆さんの前でこれらの曲をプレイすることによってこのアルバムも真に完成すると思っています。世界が落ち着いた後、必ず全てのファンの皆さんの元に向かいたいと思っているので、それまでこのアルバムを楽しんでいただけたら嬉しいです。
<リリース情報>

『DECADE4ALL』
Masayoshi Iimori
発売中
価格:2000円(税別)
=収録曲=
1. D4A (Intro)
2. Euphoria (Reprise)
3. Punching Down
4. Backdown feat. Fellsius
5. NEWALONE (Extended Mix)
6. I Dont Care feat. Merry Delo / 作詞 : Merry Delo
7. Tell You
8. Runesword
9. Seeya feat. gummyboy / 作詞 : gummyboy
10. Friday feat. TYOSiN / 作詞 : TYOSiN ※リード・トラック
11. Hopez
12. Alcohol feat. Relect