表題曲は、NHK E テレ『メジャーセカンド』第2シリーズ オープニングテーマとして書き下ろされたものだが、そこには25歳の節目を迎えた家入自身の心境が率直に綴られている。
・「Answer」のミュージックビデオ(動画)
10代でデビューし、ひたすら走り続けてきた彼女が20代に入って経験した「クオーターライフ・クライシス」、そこから掴み取った新たな価値観など、本作にも影響を及ぼしたエピソードについて真摯に語ってくれた。インタビューの最後には、新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延する中、どのような思いで日々を過ごしているかについても聞いた。
─表題曲「Answer」は、前作「未完成」で歌っていたことの「一つの到達点」だと思いました。”はじまる気がする あたらしい僕が”という歌い出しにも、25歳の節目に覚醒した自分自身を高らかに宣言しているような、ある種の「覚悟」のようなものを感じます。
家入:ありがとうございます。おっしゃっていただいた通り、「未完成」で一つ自分の中で「区切り」がついて、新しい扉に向かう中で「Answer」という曲が作れたんじゃないかなと思っています。「クオーターライフ・クライシス」という言葉があるんですけど。20代後半から30代前半にかけて「自分の価値」を問い直してしまう現象を、程度の差はあれ多くの人が経験すると言われていて。私は社会に出るのが少し早かったので、それがちょっと早く来てしまったんですよね。
デビューして最初の3年間は、時間の流れがとても速い場所に身を置いていて。次から次へと「壁」が迫ってくるんですけど、そこにはちゃんと「扉」があったので「キツいけど面白い」状況でもあったんですよね、ひたすらガムシャラに走っていたというか。でも、ある時から壁に扉が見当たらない……壁をノックしてみても、ペンキで色を塗ってみても、材質を変えようとしても、全然ドアにならない感覚に陥ってしまって。
─それが、家入さんにとっての「クオーターライフ・クライシス」だったのですね。
家入:そうなんです。で、自分の中に閉じこもっていても答えは見つからないと思って外に出かけてみても、自分が自分とちゃんと向き合えていないから、その時の私は出会うものや人を大切に扱えなかった。知り合っていく人数、出会いの「分母」だけは大きくなっていくのに、心から大事と思えるものがどんどんすり減っている気がして。「これじゃダメだ、どうしよう」と思った時に、私は私に一人になる時間をプレゼントすることが必要なんじゃないかと思い至ったんです。その思いを「Answer」に込めました。
─”さよならは怖くないよ ひとりじゃない やっと 気づけたんだ”、”ひとりぼっちになる 強さを贈るよ”という部分に、その思いが集約されていると思いました。
家入:誰かと本当の意味で「つながる」ことは、その人に会っている時の嬉しさを得るのと同時に、会えない「寂しさ」も得ること。「寂しい」と思えるのは、その人を大切に思えている証しだと私は思うんですよね。
寂しかったり不安だったりしたとき、それを紛らわすために人と会っても、それって一人ではないけど繋がれているのかな?って。「一人になること」は、遠回りしているようで実は「つながる」ための近道なのかもしれない。そういう実感から生まれた歌詞ですね。
「本気でこの人のために伝えたい」と思ってくれた言葉って、ちゃんと胸に刻まれる
─”今になって分かった あの日の愛が”というフレーズは、さっきおっしゃっていた「出会うものや人を大切に扱えなかった」ことへの後悔も含まれていますか?
家入:そう思います。それに私、10代の頃にも「この人の言っている言葉はすごく大事なことだ。でも今の私には理解できないから、せめて覚えておこう」と思って取っておいている「言葉のタイムカプセル」が何個かあって(笑)、それがふとした瞬間に開くんですよ。「あの時、あの人が伝えたかったのって、こういうことだったんだ」って。
──「言葉のタイムカプセル」って、とても素敵な表現ですね。
家入:「本気でこの人のために伝えたい」と思ってくれた言葉って、ちゃんと胸に刻まれるんですよね。場合によっては、その時は「拒絶」の形で示したこともあるかもしれない。感情が絡むと「なんでこんなこと言われなきゃいけないの?」みたいになってしまうこともある。でも、伝えたい気持ちがその人にちゃんとあれば、「伝わらない思い」なんて私はないと思うんです。それが明日になるかも知れないし、5年後、10年後になるかも知れない。いつ相手に伝わるか分からないけど、ちゃんと相手に伝えたいと思うことが本当の愛だと思いますね。
ただ、その愛をくださった人が、今もそばにいてくれたら「ありがとう」の気持ちも伝えられるのだけど、もう今はそばにいない人もいるので、後悔もある。そこからこの歌詞が生まれました。過去から学ぶことってたくさんあると思いますね。
─”どうして信じれないの? 変わろうとしてる 僕がねぇ いるのに”というフレーズには、「信じること」の難しさや大切さが込められていると思いました。
家入:「信じる」気持ちが相手次第で揺らいでしまうのは、「信じる」じゃなくて「信じたい」気持ちだと思うんです。ちょっとそこには計算を感じてしまって好きじゃない。
─「あなたが裏切らないなら信じる」みたいな条件付きではなく、たとえ相手が裏切ろうが「信じる」と決める。「信じる」とは、こちらの覚悟の問題なのかなと僕も思います。
家入:本当にそうですよね。私、幼なじみと1カ月海外旅行へ行ってきたんですよ。その子は去年、幕張メッセで行われたツアーファイナルに来てくれて、私が関係者の方たちにご挨拶している姿も見ていたんですけど、後日会ったときに「ライブ良かったし、とても感動した。でもライブが終わって、みんなに挨拶しているあなたの姿を見た時に胸が痛かったよ」と言われたんです。「あなたがあなたへの目を気にしないところで、思いっきり笑ったり泣いたり、怒ったりしたほうがいいと思ったから、今回の旅行に誘ったんだよね」って。それを聞いたとき、「ああ、この人は私のことを信じ抜くって決めているんだな」と思ったんですよね。それで私は「変わろう!」と決意したんです。
おっしゃるように私も「信じる」って覚悟の問題だと思うから、安易に人を信じたりしないし、逆に一度突き放されたくらいで「わかった、じゃあもう信じるのやめる」みたいなことは言わない。裏切られようが愛されようが、「この人と共に行く」と決めた人にしか「信じる」という言葉は使わないようにしていますね。
─家入さんのお友達が言っていたように、誰の目も気にせず、思いっきり笑ったり泣いたり、怒ったりするにはどうしたらいいと思いますか?
家入:うーん……「自分を知ること」じゃないかな。
まずは自分とお喋りをする時間を作ること。「自分らしく」というと、なんだか「自分を解放する」みたいなイメージですけど、それよりも「内面に潜り込む」イメージ……。以前、自分が何を幸せと感じるのか書き出してみたことがあるんですよ。そうしたら、私って本当に些細なことでも満たされることがわかって安心したんです。「期間限定のハーゲンダッツが食べられた」「お勧めされた映画が面白かった」「オアシスの1stアルバムの曲を全て完コピした」とか(笑)。人の幸せって、本当に人それぞれだと思いますね。
雰囲気や空間を表現できるシンガーになりたい
─ただ、この曲ってタイトルが「Answer」なのに、”答えはいらない”と最後にちゃぶ台をひっくり返すじゃないですか(笑)。
家入:ふふふふ(笑)。以前、初めてインタビューさせてもらったライターの方に「過去のインタビューを全て読んできました」と言われて。「とても真摯な方だな」と思うと同時に、自分はもう過去に何を言ったか正直覚えていなかったりするんですよね。それは無責任にではなく、その時その時を真剣に生きているつもりだからなんですけど。過去に「これが答えだ」と思ったことですら変わり続けていくというか。
”笑って また泣いて 繰り返してゆく そうして 生きていく”という歌詞には、同じことを繰り返しながらも人はきっと変わっていくのだな、同じようでいて全く同じなんてことは絶対にないんだよな、という思いを込めたかったんです。一度出した答えも変わり続けていく事、それ自体が今の私が出した「Answer」だと言いたかったんですよね。
─ちなみに前作「未完成」を作っている時は、映画『ジョーカー』や平野啓一郎の『私とはなにか「個人」から「分人」へ』、千早茜『男ともだち』などにインスパイアされたとおっしゃっていましたが、今回はそういう作品ってありましたか?
家入:ロンドンへ行った時に、美術館でウィリアム・ターナーの絵画を観たんです。その瞬間「私、こういう歌を歌いたい」って思ったんですよ。「未完成」では自分を有り得ないくらい赤裸々に表現したから、人によってはそれが重すぎて(笑)、聴かず嫌いにさせてしまったのかも知れないという気持ちが我に返った時あったんです。そんなときにターナーの絵を観て、この柔らかいタッチ、完成しているのか未完成なのか分からない感じ……これってかえって観た人の心の扉を開けてしまえるんじゃないかって。
─未完成だからこそ、こちらの気持ちを投影しやすいというか。
家入:そうなんです。ターナーは、色や光、その場の雰囲気を表現しようとした作家らしく、それってまさに自分がこれからやりたいことに近いというか。「愛」や「希望」をストレートに歌うのではなく、聴いた時「あれ? これは希望について歌っているのかな?」と想像する余地があるような、雰囲気や空間を表現できるシンガーになりたいんです。それと、彼はロマン主義の画家で、生前に何度もスタイルを変えていて、そこも自分と似ている(笑)。惹かれるには、それだけの理由がちゃんとあるんだなと思いました。
─今回、5曲のカバーを収録した経緯についても教えてもらえますか?
家入:いつかカバー・アルバムを出したいと思っていて、その先駆けというか。今回はリクエストを募り、その中から自分なりに選ばせていただきました。皆さんが自分に何を求めているのかが、カヴァーの方が分かりやすいなと思いましたね(笑)。10000通以上のご応募をいただいたことにも胸が熱くなったんですけど、「ああ、こういう歌を聴きたがっているんだ」みたいな新鮮な驚きもありました。
─「秋桜」(山口百恵)のアレンジがとても驚きましたし、新鮮でした。
家入:山口百恵さんは以前から大好きで、自伝や写真集も持っていたのですが、せっかくカバーさせていただけるのなら「畏怖」の気持ちのまま終わらせるのはもったいないと思い、リスペクトを持ちつつ新しい聴き方を提案できたらいいなと。思い切ってああいうアレンジにさせてもらいました。憧れだったソイルさん(SOIL&"PIMP"SESSIONS )とご一緒することが出来たのも感無量ですね。
─カバーするのに苦労した曲、特に思い入れのある曲は、どれになります?
家入:どの曲も楽しかったんですけど、「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」(YEN TOWN BAND) は、原曲のBPMで歌うとどうしてもCHARAさんそのままになってしまうと思ったので(笑)、テンポ速くして、アレンジもストリングスとピアノ主体にしてみました。それから「悲しみの果て」(エレファントカシマシ)は、自分で言うのもなんですけど、めちゃめちゃいい仕上がりで(笑)。今回、新しくご一緒させていただくアレンジャーさんがほとんどだったのですが、この曲はいつものバンド・メンバーと一発録りしました。ホームに戻ってきた気持ちでレコーディングができましたね。
もっと作品を通して人と関わりたい
─ところで今、世界中がコロナの影響で大変なことになっていますが、家入さんはどんな気持ちで過ごしていますか?
家入:立場によって何が「正しい」のかは変わってくるので、自分の立場だけでは気持ちを述べ辛い状況になっていますよね。もう起こってしまっていることなので、それを「どう捉えていくか?」ということしかできないと思っています。
今後、経済がもっと傾いていくだろうし、何かしらの「メッセージ」として捉えるしかない側面もあるというか。これだけみんな日々身を粉にして働いてきたけど、「これでいいの?」って。私も自分に問いかけてます。今回、お子さんを持っている方は親子で過ごす時間が増えたり、会社に行く時間が遅くなったことで、朝の時間を充実させたり。もちろん「そんな悠長なことを言っている場合なのか?」という声もあるかも知れませんが、そうやって整理して次に進んでいかないと悲しみで終わってしまう。なので、私は大事なものを見つめ直す機会だと捉えるようにしていますね。
─では、最後に今後の展望についてもお聞かせいただけますか?
家入:とにかく、自分の音楽を鳴らしていくことに尽きます。もっと自分を知るためにも曲を作り続けたい。8年やってきて新しいところに行かなくちゃと考えているところですね。もっと作品を通して人と関わりたい……もっと仲間が欲しいです!
<INFORMATION>
『Answer』
家入レオ
ビクターエンタテインメント
5月13日発売
初回限定盤

通常盤

配信

https://jvcmusic.lnk.to/Answer_EP