PassCodeの音源やライブに初めて触れた人が最初に驚愕するのが、今田夢菜による全力のシャウトである。

「背が一番低いからインパクトあるやろ」というレベルの理由でステージ上で絶叫する使命を任された彼女は、あるときを境に才能を開花。
国内屈指の咆哮でラウド界隈でも話題を呼ぶまでになっている。

そんな彼女は数年前にとある病気を発症し、数カ月の間PassCodeの活動から離脱。復帰後も、時にはステージに立つことすらままならない日もあった。今年1月に新木場Studio Coastで行われた「PassCode CLARITY Plus Tour 19-20」ファイナル公演2デイズの1日目は、まさにそういう日だった。あの日、彼女は何を思っていたのか、そして今、自分自身とどう向き合っているのか――言葉は少ないながらも真摯に語ってくれた。

【動画】チャート首位を獲得したPassCode「STARRY SKY」ミュージックビデオ

―この自粛期間は何をして過ごしてますか。

天井を見つめてます。

―あはは! 実際は?

Huluで動画観たりしてます。最近めっちゃ流行ってる韓国のガールズユニットのNizi Projectを観てたり。

―ちゆなさん(今田の愛称)もK-POPはチェックしてるんですね。

YouTubeでニジプ(Nizi Project)のダンス動画が出てきたのを見て「めっちゃかわいい!」って思って。あと、「スッキリ!」でも流れてたのを観て、そこから気になって観始めた感じです。


―ダンス動画は幅広くチェックしているんですか。

んー、でもヒップホップ系が多いです。

―この自粛期間で身体が鈍ってきません?

家の中でもわりと身体は動かしてるけど、次にライブしたら死にそうです(笑)。

―ダンスの練習はしてるんですか。

ダンスはそんなに。夜、走ってます。あと、毎日筋トレしたり。

―なんだ、ちゃんとやってるじゃないですか(笑)。

うーん、でも天井見つめてる(笑)。

―天井を見つめながら、自分のことやPassCodeのことについて考えるんじゃないですか。

自分のことについて……自分の今後について考えてます。どんな人生になっていくんやろって。


―自分でも予測つかないんですね。この期間ってリフレッシュになってますか? それとも焦ってますか?

焦るっていうのはないです。

―さて、去年から今年にかけて行われた「PassCode CLARITY Plus Tour 19-20」についてお聞きしたいんですけど、これはちゆなさんにとってどういうツアーでしたか。

なんとか終わりました。でも、いい感じにできたんじゃないかなって思います。その日によって……って言うと、”その日”に来た人は嫌な気持ちになってしまうかもしれないけど、「ああ、今日は最後までやりきれた~」っていう日と、「申し訳ないステージなってしまった~」っていう日があるなかで、最後まで(ステージに)立ててた回数は増えたかなって思います。

―パフォーマンスについてはどうですか。

どうなんですかね……。もっといい感じになったらいいなとは思います。

―シャウトに凄みが増したような気がするんですけど。

えー、そうですかね。前よりは声が出るようにはなったかなとは思うんですけど、ツアーの最初らへんでPAの佐々木さんとお話したときに、前の元気やった頃のほうがよかったって言われて、そこで「あれ? できてないんかな?」って思って、それについては一瞬、悩んだ時期はありました。
自分のなかでは前も今も変わらずできてるつもりやったから、「どうしたらできるんやろ?」って。

シャウトの練習はしない

―ちゆなさんって、ライブのパフォーマンスについてスタッフと細かく話し合うことってあるんですか。

自分の状態的にやっとそういうことを話せるようになったって感じです。たぶん、言ってくれる側の人たちに対して、言いたいのに言っちゃいけないんじゃないかって気を使わせてたのかもしれない。今はちょっとずつ言ってもらえるようになってきたから、言われたところは「じゃあ、どうしたらよくなるんだろう」っていうふうに考えられるようになりました。

―具体的にはどんなアドバイスがあったんですか。

歌とシャウトですね。自分ではよくわからないんですけど、声量がないのか、マイクにあんま乗らへん声質だからか、レコーディングのときに求められてる歌はそれでもいいかもしれへんけど、ライブでその歌い方だとマイクに声が乗らへんから、もっと野太い感じで歌ってもいいんじゃないかって言ってもらいました。でも、そういう声の出し方がまだわからんくて、自分は「これはこう」って思ったらそういう歌い方しかできないタイプだから、そこが難しいです。

―ちゆなさんの場合、技術というよりも、本能のままに叫ぶっていうスタイルですよね。そのせいでその場その場で微妙な違いが生まれるんだけど、なんでそういう変化が起こるのか自分では把握できてない。

そうなんです。
「もっとガツンと歌ってもいいよ」って言われて、おうちでやってみたりもするけどしっくりこんというか。自分はお腹から出してるつもりだったから、「どうしたらええんやろ?」ってさまよってます。

―でも、相変わらずシャウトの練習はしないんですよね?

しないんです……なんか自宅だと難しくて(笑)

―シャウトの練習ってやりづらいものなんですか。

新曲はレコーディングの場所で初めて叫ぶので、そこで叫んでみて、「ああ、ちゃんと叫べるんや」って認識してます。

―そうか、平地さん(PassCodeのサウンドプロデューサー)からデモをもらってもシャウトのパートは練習しないで、レコーディングで初めてやるんですね。

うん、リズムと歌詞だけ覚えといて、スタジオで初めて叫ぶ感じです。

―すごい。そのやり方でレコーディングして、何回ぐらいでOKが出るものなんですか。

えー、それはその日によるし、自分でやり直したいって言うときもあります。シャウトにしにくい歌詞は苦戦するし、最近はリズムが難しい曲が多いので、そういう曲も苦戦しますね。そういうときは平地さんから教えてもらいながら録ります。

―たしかに、最近のPassCodeはリズムが特徴的な曲が増えてきましたよね。


うん、変わったリズムに急になったりするのが難しくて、たまに混乱してます。

―やりやすいシャウトってどういうものなんですか。

ひとつの単語をわーっと叫ぶのが一番やりやすいけど、フレーズになると”息が続くか続かないか”問題が出てきて、途中で普通の声に戻っちゃったりすることがあります。

―そうか、息が続くか続かないかも現場でフルパワーで声を出さないとわからないのか。

そうですね。でも、「これは続かんやろ」っていうのはだいたいわかるし、レコーディングでは区切って録ることが多いです。でも、ライブでできてるってことはレコーディングでもできるんだと思います。

―さっき、自分で納得いかないときに録り直すって話してましたけど。

そういうことはけっこうあります。録ったのを聴いてみて、もっと低い声のほうがよさそうとか、高いほうが合いそうとか、声に全然勢いとかエグさが足りひんとか、そんな感じです。平地さんもけっこう言ってくれるけど、「これで本当に大丈夫かなあ?」って思うことが多いです。今回だとカップリング曲(「Seize Approaching BRAND NEW ERA」)がそうなりました。
めっちゃ難しかったからけっこう不安になりました。

―特にどの部分が?

最初、平地さんから「今回、けっこう難しいで」って言われてからデモを聴いて、「シャウトは多いけど、そんなに難しいパートはなさそう」と思ってたけど、いざレコーディングしてみたら息は全然続かんし、どのパートも難しいって思いました。思ってたのとリズムが違ってたり。

―この曲ってリズムが肝ですよね。

うん。でも、もう大丈夫。

―ここからライブ用のシャウトに仕上げていくことになると思うんですけど、リハを重ねることで自分のものにしていくんですか。

いつもはレコーディングやって、振り入れて、今回はないけどいつもだったらリリイベがあるから、そのためのリハで「え、めっちゃムズい~」ってなって、そこからライブを重ねていくって感じです。

―アルバムの曲だとリリイベでもやらなかったりするわけですよね。

あー、たしかに。そういう曲はライブのリハで「むずかし~」ってなって、本番で重ねていくって感じです。

―けっこうスリリングですね。

そうですね(笑)。本番でもリズムがズレてたりする場合はバンドメンバーが教えてくれたりします。音を流して口ずさむ分にはズレてないからちゃんとわかってるつもりなのに、実際のライブだとバンドの音とズレてたりするんですよね。

暴力的な感じは自分の中では減った

―ライブではいつもどの音をイヤモニに返してるんですか。

イヤモニの音はめっちゃちっちゃくて、ほとんど外の音を聴いてる状態なんですよ。できれば中音を聴きたいんですけど、音が大きく感じちゃうので下げちゃうんです。中音をちゃんと聴けたらしっくりくるはずなんでけど。外音に合わせると、さっき話したみたいにズレちゃったりするから。

―ああ、それは大変ですね。ところで、「Taking you out」の歌詞がライブだとちょっと変わってますよね。

ああ、変えました。”Rise up, up! Fxckin Push! Boost!”だったかな? 

―変えた理由は?

もともと「パッパッパッ(Push! Push! Push!)」っていう高い声のパートがあって、そこの音が出てるは出てるんですけど、マイクにあまり乗ってなかったみたいなんですよ。それで去年のツアーの福岡から変えてみたらやりやすくなりました。今はこっちのほうがうまくハマってます。

―急に変えて怖くなかったですか。

怖かったですよ! そのことで頭いっぱいでした。

―シャウトって歌詞に怒りを乗せたり、「Ray」では切なさを意識したりしていたと思うんですけど、「STARRY SKY」ではどんな思いを乗せてるんですか。

「STARRY SKY」はメロディが明るめじゃないですか。だから、前みたいに「地獄に落ちろ~!」って感じではやってなくて、ただ単に気持ちを込めて叫んだと思います。「思いをシャウトに乗せたい」みたいな。

―以前、シャウトがだんだん低くなってきていて、もっと高いシャウトにしたいのにどうやって出してたか覚えてないって話してましたけど、今はどうですか。

前みたいなキンキンした声はやっぱり出ないですね。

―思ったんですけど、喉が鍛えられて技術も身についた結果として今みたいな声になってるのかなって。より暴力的になってるというか。

本当ですか? 逆に、暴力的な感じは自分の中では減ったと思いますね。今のシャウトは「普通やな」って感じです。可もなく不可もなくっていう。

―へぇ~! それじゃあ、自分でも物足りなさを感じてると。

感じてますね。聴いてる人にとっては今のほうが聴きやすいのかもしれへんけど、自分の中では今は「普通のシャウトが出るな~」って感じで、「Seize Approaching~」のレコーディングでは特にそう感じてました。「STARRY SKY」も「もっとグワッとしたシャウトが出せるよねぇ?」って思ってました。歌パートに関しては、その日の声が通ってるか通ってないかとか、気分がよければいい感じで歌えたりするんですけど、シャウトに関しては「やるぞ!」っていう気持ちで臨んでも「あれ? 今日、なんか違うな……」って。

―そこのブレをなくすのが今後の課題になってくるんですね。歌に関しては、その曲の最も印象的なパートがちゆなさんに任される傾向がはっきりしてきてますよね。

自分でも声が出しやすいパートが多いからありがたいです。

「まだ自分はここで止まってるのか」みたいな

―ていうか、「CLARITY Plus Tour」の話をしてたのに、いつの間にか話題が逸れちゃいましたね。話を戻すと……ファイナルの新木場Studio Coast2デイズはどうでしたか。

1日目がダメやったから、次の日はすごいプレッシャーでいっぱいでした。だって、新木場で2日間やるって当たり前じゃなさすぎるし、1日目でああなってしまって、自分でも「こんなことになるはずじゃなかった」っていう気持ちやったから、みんなの真剣な気持ちを考えたこともあって、ライブが終わった直後にけっこう落ちてしまってたんですけど、「明日は絶対にやり切らないといけない!」みたいな感じで気持ちを切り替えて挑むことができたと思います。

―「絶対にやり切らないと!」っていうプレッシャーをかけると余計な力が入ってしまいそうな気もしますけど。

前までは一度落ちたら次の日は不安でいっぱいだったんですけど、あの日は悪い意味の不安やプレッシャーというよりも、しっかりした気持ちがあったので、悪いものではなかったと思います。

―実際、2日目をああやっていいパフォーマンスで完走できたのは大きな意味がありますね。

それよりも、「ただただよかった」っていう気持ちです。

―完走しただけじゃなくて、パフォーマンスとしてもいい内容だったと思うんですけど。

それはいつもどおり覚えてないです(笑)。

―でも、あの日のライブは映像作品にもなってるわけだし、それを観ていいライブだったとは思わないんですか。

うーん……なんか、ほかの3人と進んでるペースが違いすぎて、そればっか気になっちゃいますね。「まだ自分はここで止まってるのか」みたいな。

―前に話を聞いたとき、「普通に戻れるかどうかは自分次第」と話してましたけど、その後はどうですか。

ちょっとずつって感じですね。

―焦らずに一歩ずつ。

いや、焦ってはいます(笑)。

―そうか(笑)。ちゆなさんから見て、今のPassCodeってどんな感じだと思いますか。

「みんな、すごい!」って感じ(笑)。自分の中では傍から見てる感があります。ライブ中にパッとほかの子を見たり、バンドメンバーを見たり、DVDを観ると「みんな、こんな成長してるのに」って羨ましくなっちゃいます。

―それはもどかしいところですね。今、こうやって自粛期間が続いていて、改めてPassCodeというものが自分にとってどういうものなのか考えていると思うんですけど、いかがですか。

どうなんやろ……わかんない(笑)。

―(笑)じゃあ、今の自粛期間が終わってライブができるようなったとき、現実的かどうかは置いといて、一番最初に立ちたいステージはどこですか。

すごい質問(笑)。えー、どこやろ……。うーん、広いとこ……(笑)。

―それはまたなぜ?

なんて言うんやろ……難しい。みんなが楽しめるから? うん。

<INFORMATION>

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初回限定盤
PassCode今田夢菜が語る、貪欲に上を目指す「絶叫」スタイル


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