警官の暴行によるジョージ・フロイドさんの死を機に抗議デモが全米に広がるなか、公衆衛生の専門家たちはこうした大々的な集会が別の問題を拡大させることに懸念を抱いている。その拡大とは、まさに新型コロナウイルスの感染拡大だ。こうした抗議活動は、フロイドさんが殺された米ミネソタ州ミネアポリスから現地時間5月26日にはじまり、はやくも30日にはニューヨーク・シティ、シカゴ、デトロイト、コロンバス、ダラス、ロサンゼルスをはじめとする30以上もの都市へと広がった——こうした都市の一部は、感染のアウトブレイクが発生した場所とも重なる。
極めて感染力の強いウイルスの拡散を抑え込むため、都市がロックダウンされ、不要不急の移動の自粛が叫ばれてから3カ月近くが経つ。有効なワクチンも治療薬もないなか、私たちが戦略的にウイルス拡散を阻止するには、主にソーシャル・ディスタンシングや公共の場所でのマスク着用といった公衆衛生上の措置に頼らざるを得ない。一部の州は経済活動再開に向けて動き出したものの、とりわけ自覚症状のないウイルス感染者数を踏まえると、その多くはデモのような活動が潜在的な危険をはらんでいるレベルであることに変わりはない。
「自覚症状のない人々によって構成される大きな集団が存在する可能性を考えると、抗議デモのような「活動」の性質上、ソーシャル・ディスタンシングが難しい場合は当然、新型コロナウイルス感染の懸念があります」とニューヨーク州のコロンビア大学公衆衛生大学院で疫学の助教を務めるバルン・マシーマ医師はローリングストーン誌に述べた。「言うまでもなく、法的措置をめぐって人々が対決している場合はなおさら危険で、これは憂慮すべき事態です」。
感染症の専門家であり、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターでシニア・スカラーを務めるアメッシュ・A・アダルジャ医師は、公衆衛生の観点から大々的な集会にはSARS-CoV-2(新型コロナウイルスのウイルス名)のようなウイルスの感染拡大の懸念がつきまとうと語る。「ウイルスは、人間同士のあらゆる交流を利用します。それが抗議デモであれ、ロックバンドのライブであれ、容易に感染が拡大するのです」と医師は本誌に語った。
アダルジャ医師は、怒鳴ったり叫んだりといった抗議活動中の行為に対してとくに警鐘を鳴らす。
パンデミック下の抗議デモには、さらなる課題がある。オハイオ州クリーブランドのユニバーシティ・ホスピタルズの感染症の専門家であり、同じくクリーブランドのケース・ウエスタン・リザーブ大学で薬学の助教を務めるエリー・サーデ医師は、マスクを着けている人が催涙ガスを浴びた場合、マスクに付着したガスによって肌荒れを起こすおそれがあると述べた。
今年の4月には、ウィスコンシン州、ケンタッキー州、ノースカロライナ州、オハイオ州などでロックダウンに反対するデモが各地で発生した。
デモに参加したにせよしていないにせよ、こうした人々が新型コロナウイルス検査で陽性になったかどうかを知るのは不可能だとマシーマ医師は述べた。
個人防護具(PPE)を着用したり、ソーシャル・ディスタンスを保ったりする人がロックダウン反対デモに何人いたかを特定するデータは警察暴力に反対する最近のデモと比べて乏しいものの、マシーマ医師は先週末の抗議者のほうがしっかりマスクを着用していると語った。「抗議者と主催者の多くは、新型コロナウイルスの感染拡大に警戒していました。だから、コミュニティの主催者はきちんと対策をとったと思います」医師はさらに続ける。
抗議活動が全米に広がるに加え、サーデ医師は以前からあった健康格差が事態をもっと悪い方向へと導きかねないと語る。「残念ながら、今回の抗議活動に参加している多くは、パンデミックによって大きな被害を受けたアフリカン・アメリカンなんです」と医師は言う。「これはまた別の懸念事項です」。
それでもデモに参加する予定の人は、マスクを着用し、状況が許す限り社会的距離を保つようにと3人の医師は口を揃えた。マスクなどで顔を覆うことでウイルスの感染拡大を阻止できるだけでなく、大勢が集まる環境でマスクは自分自身を守るのにも有効だとサーデ医師は言う。「心配なのは、他人に近づきすぎること、唾などの相手の飛沫を浴びてしまうことなんです」と医師は解説。「マスクを着けていれば、飛沫感染のリスクがぐっと下がるでしょう」。
先月末、毎日恒例となったプレス向けのブリーフィング・セッションでニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、抗議デモの参加者にマスクの着用を呼びかけた。「あなたたちには、抗議する権利があります。あなたたちはその権利を有しているのです。神よ、アメリカに祝福を」知事は続けた。「しかし、他人を感染させる権利はありません。公衆衛生を脅かす権利もないのです……だから、マスクを着けて抗議してください。マスクを着けることと着けないことの差はなんですか? 私にはわかりません」。
実際、催涙ガスまみれのマスクは肌荒れを引き起こしかねないとマシーマ医師は語る一方、別のPPEが催涙ガスとウイルスの両方から守ってくれる場合もあると指摘する。「目を守るためにゴーグルを着けるのは、いいアイデアですね」と医師は言う。「もちろん、催涙ガスのせいで肌が荒れたり息苦しくなったりするでしょう。ですから、ゴーグルとマスクを着けていても、催涙ガスがまかれた場合の最善策は、その場から離れることです」それに加え、マシーマ医師は耐熱&防水手袋をはめ、なるべくグループから離れて孤立しないようデモに参加することを勧めた。
サーデ医師は最後に次のように締めくくった。パンデミック下であれ、平常時であれ、抗議やデモに参加するにはかならず身体的なリスクがともなう。こうしたリスクと参加することのメリットを天秤にかけて判断するのは、結局のところ、その人次第なのだ。「新型コロナウイルスだってリスクです」と医師は言う。「だからといって、抗議してはいけないわけではありません——ただ、もっと徹底した予防措置をとるべきなのです」。
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