世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう中、音楽家はどのように生活をし、なにを考え、行動を起こしているのか。これまで佐野元春SKY-HI野田洋次郎toe・山㟢廣和らに話を聞いてきた本企画にて、平成生まれの意見、かつ女性の意見を聞き出し発信すべく、AAAMYYY(Tempalay)とermhoi(Black Boboi / millennium parade)に取材を敢行した。


両者は、バンド・ソロ・サポートといった形態で音楽活動を活発的にやりながら、社会問題から目を背けることなく、自ら勉強を止めることもなく、SNSなどでも提言や発信を積極的に行っている。「ミュージシャンが政治を語るのはタブー」といった議論も起きる中、なぜ二人はそういった行動をあえて取るのか? ここで語ってくれたその理由は、至ってシンプルだ。

コロナ禍で露わになったあらゆる社会の歪みが、多感で勤勉な二人のアーティストの目にはどう映っているのか。そして、よりよい未来を作るために、どのような価値観を持って我々は生きていけばいいのか。二人に語ってもらった。

ーお二人が対談するのは初めてですよね。思想の部分で、互いに親近感を感じることはありますか?

AAAMYYY:あります。

ermhoi:うんうん。

AAAMYYY:政治とかの話を直接することはなかったですけど、SNSで発信しているものを見て、かなり近い考えなのかなとは思っていました。

ermhoi:そうそう。私は昔からTwitterという宇宙にポーンと一人で投げているつもりで書いてたんですけど、AAAMYYYが強い言葉で想いを語っている姿を見るようになって、「あ、同士ができたかも」っていう(笑)。勝手に励まされたりしてました。


AAAMYYY
長野出身のシンガーソングライター/トラックメイカー。キャビンアテンダントをめざしてカナダへ留学、帰国後の22歳より音楽を制作しはじめ、2017年よりAAAMYYYとして活動を開始。2018年6月からTempalayに正式加入。2019年2月、ソロとしての1stアルバム『BODY』をリリース。他にもRyohuのゲストボーカルやTENDREのサポートシンセ、楽曲提供やCMソングの歌唱、モデル、ラジオMCなど多方面に携わる。

ermhoi
日本とアイルランド双方にルーツを持ち、独自のセンスで様々な世界を表現する、トラックメーカー、シンガー。2015年1stアルバム『Junior Refugee』をSalvaged Tapes Recordsよりリリース。以降イラストレーターやファッションブランド、演劇、映像作品やTVCMへの楽曲提供、ボーカルやコーラスとしてのサポートなど、ジャンルやスタイルに縛られない、幅広い活動を続けている。2018年に小林うてなとJulia Shortreedと共にBlack Boboi結成。2019年よりmillennium paradeに参加。

―このコロナ禍で、社会におけるミュージシャンの立ち位置や世の中での音楽・芸術の扱われ方に対して、どういう考えを巡らせましたか?

ermhoi:まず、「後回しにされるんだなあ」ということを思いましたね。芸術関係者への補償が予算案に盛り込まれるというニュースがやっと出たのが5月末で。
元々私は、音楽が世界で一番重要だって思っちゃってる人間で、すごく偏っているんですけど、その事実を改めて思い知らされたというか。音楽は、一部の人にとっては大事だけど、医療従事者の方とかと比較するとなにもできないっていう、無力感も感じました。

AAAMYYY:たしかに。

「ミュージシャン=別世界の人」ではない

―AAAMYYYさんも音楽の無力感を抱えました?

AAAMYYY:そうですね。でも、1人でも感動してくれる人がいるんだったらやりたい。……というふうに、全員じゃなくても、どこかで聴いてる人の心の安らぎになることが、音楽の目的かなと私はこの機会に考えたりもしました。だから、自宅から配信ライブをやりましたけど、届いてる人が1人でもいるんだったらすごく意義はあるんじゃないかなと思ってやってましたね。

「BLOCK.FESTIVAL」の生配信を拝見しましたけど、確実に私に届いてました。

AAAMYYY:本当ですか、嬉しいです(笑)。私が感じたことで言うと、「ミュージシャン=芸能人」というような大枠で見られているなってことで。芸能人=お金持ちで、有名で、憧れの的で、ちょっと妬まれ対象にもなってしまうような職種として見られているんだな、ということが浮き彫りになったなと思いました。

ermhoi:それはすごく感じます。
表現にも色々な形があるのに、「芸能」っていうひとつの括りにされてしまうというか。

AAAMYYY:そうそう、そうなんです。「芸術関係者に最大150万円を給付」というニュースも、記事のタイトルだけを見てすごく過激なことを言う人もいたりして。

AAAMYYYはニューシングル「HOME」を5月にリリース

E & Amphitrite by ermhoi
ermhoiは新曲「E」「Amphitrite」をが6月にリリース

―「ミュージシャン=芸能人=華やか」みたいなイメージが、日本では根強くありますよね。「一般人とは別世界の人」という一面的な見られ方があるから、今回のコロナ禍や「#検察庁法改正案に抗議します」の際に、「ミュージシャンは歌だけ歌ってろ」といった意見で叩くケースが多々発生したのかなと思います。

AAAMYYY:ミュージシャンや芸能関係者が政治的発言をするのは、コロナより前からずっとやってる人はいたわけですけど、コロナが起きたからこそ物議を醸した部分もきっとあるなと思っていて。みんながオンライン上の世の中で自由に物事を述べる中で、一線を超えてしまうことが当たり前になって、過激な論争が起きてしまうのが普通になってしまった。そこで使われる言語がすごく攻撃的であったり圧力的だったりするのを見て、なぜそうなってしまうのだろう? ということを前から考えていたんですよね。Fikaでのコラム連載でもそういう考えを書かせてもらっているのですが(記事はこちら)、自分の中の既成概念とか、育つ中で教えられてきたことをソーシャルメディアで言うのが正義というか、「この考えであることが正しい」という正義の押し付け合いが起きてるなって思いますね。

ermhoi:SNSを自分の溜まった負のエネルギーを発散する場所として利用している人がいますよね。承認欲求はみんなあるものだけど、それを埋めるために求める方向性がそれぞれ違ってて。たとえば強い言葉を投げかけることで、それに反応してもらえるだろう、目立つだろうと思って過激なことを書く人がいて、戦場のような事態になる。
私は相変わらず発信し続けると思うんですけど、それに対して理不尽なことを言われようとめげずに、私は私なりに勉強して、私が正しいと思う情報を多角的に見て、発信していきますというふうに自分を鼓舞しています。特に今リアルなコミュニケーションが薄らいでいるから、この画面の中でリアルなコミュニケーションを投影してしまってるのかなとも思いますね。

AAAMYYY:スマホをずっと眺めてる人が格段に増えた今の時代において、画面の中の世界が自分のリアルな世界であるという感覚は、実は自分にもあるなって思います。

ermhoi:そうそう。

AAAMYYY:「このミュージシャンはこういう政治的発言をするから、この人の音楽は聴かない」みたいな意見は全然あっていいと思うんですけど、「ミュージシャンは音楽だけをやってろ」というのはちょっと論点が違うし、それは一線を越えてしまってることだって、みんなが認知したんじゃないかと思ってます。たとえば、きゃりーぱみゅぱみゅさんが「#検察庁法改正案に抗議します」のツイートをしたときも、それにリプライしているみなさんの動向などを見ると、「ミュージシャンはバカだ」みたいにマウントを取って、「そういう人は音楽だけやっていればいい」ってベクトルが違う反論をしている。その一線を超えたやりとりをTwitterをやってる人たちみんなが見ることができたわけで、その中には本質をちゃんと見抜いた発言もあったのがすごくよかったと思ったんですよね。そういう一連の意見をみんなが知れたことで、これから色々いい傾向に変わっていくんじゃないかと。

次の世代は、社会の「分断」とどう向き合っていくべき?

―お二人がこうやって政治や社会のことを色々と調べたり考えたりしながら発言をされているのって、「表に立って扇動する表現者・アーティストとしての役目」という意識か、それとも「ひとりの国民としての行動」という意識か、どちらが強いですか?

ermhoi:私は完全に「国民として」です。私が音楽をやってるのは、感覚として、普段の生活とはちょっと離れたところに行きたいからなんですよね。異次元だったり、空とか海とかに行きたくて、音楽やってるところがあって。そういう音楽をやってる私が、なぜ生活に根差した政治の話をしたいかっていうと……本当はあんまりしたくない。
でも一方で、「税金を払ってるのに正しいと思える方法では使われてないな。なんでだろう?」という疑問が常にある。それは、日々を生きる一人の人間として言いたいですよね。その上で、「この問題について考えてみませんか?」って投げかけたいところもちょっとあります。

Tempalayの最新シングル「大東京万博」のMV

AAAMYYY:同じ意見です。「音楽は音楽」って分けられたらいいですけど、私が作ってる音楽や歌詞は現実に根付いたものであることが多いので、どうしても切っても切り離せない関係になってしまう。個人を表現することが音楽につながっていくし、違和感というものを音や歌詞に落とし込むことを、私はずっとやってきているので。

ermhoi:結局、与えられることを待つのは無責任だと思うんですよね。だから無責任であった自分をやめる。頭の中で「いい暮らししたいな」「こういう人に優しい世界に住みたいな」とか理想を求めていながら、それをただ黙っていたら与えられるものと思ってるだけではダメだし、与えられないことに対して不満やクレームを言うだけというのもいい態度ではないなと思うんです。「自分はこういう世界が理想です、この問題については反対です」って発言していくことも、理想を叶える道のひとつだっていうふうに考えているんですよね。

AAAMYYY:声を上げると届くということは、コロナの給付金や保証の実現もあって「あ、実際にちゃんと届くんだな」と認識できたのではないかと思いますね。
周りの人に対しても、お互いが声を上げなくてはどう考えてるのかも伝わらないし、理解も深まらないし、やはりコミュニケーションなくして意思疎通はないように、社会に対しても声を上げなくては意味がないなと思いました。

ermhoiも出演、millennium parade「Fly with me」のライブ映像

―Tempalay、Black Boboi、millennium paradeのメンバーなど、二人と世代が近い周りのミュージシャンたちは、声を上げたり、社会に対して中指立てなきゃいけないところは立てたりということを積極的にやっていて頼もしいなと思います。

ermhoi:そう言ってもらえると嬉しいです。

―一世代前よりもミュージシャンの社会的行動・発言が増えているのは、社会全体の空気や危機感が切迫していることももちろん影響してるであろう一方で、資本が大きいレコード会社や事務所に頼らずともミュージシャンたちが個の力で音楽を広く届けられるようになった時代の変化とも関係があるように思います。

AAAMYYY:あえて政治の話とかを表明しなかった人たちもいるんだとは思いますね。大きな会社になると会社の方針があったりして、言えなかったんじゃないかなって。でも、内田裕也さんとか、昔から言ってた人は超かっこいいもんね。

ermhoi:(忌野)清志郎さんとかね。

AAAMYYY:うん、今でもかっこいいなって思いますね。私の周りのミュージシャンの中にも、ホイちゃんはじめ、政治的発言をいとわない人が増えてきたなって思います。コロナよりもずいぶん前から、yahyelの(篠田)ミルくんがレジスタンス的な意思表明をしていて、彼の発言は非常に理に適ってるし面白いなと思って見ていたんですよね。そうしたらコロナをきっかけに「Save Our Space」を発起して、署名を集めて提出する、という行動を始めたことにすごく感動して。そういうアクティビスト的な活動は、私たちの世代のミュージシャンでは恐らく誰もやってないんじゃないかと思うくらい、なんかタブー化されちゃってたというか。その風潮が破られた雰囲気がありましたね。

ermhoi:ありましたね、だから嬉しいよね。

AAAMYYY:そう、嬉しかった。「Save Our Space」では文化芸術従事者に対する助成金を求めますという署名活動から始まって、実際に改善された部分があるじゃないですか。やっぱり声を上げなくては法案とか政策を変えられないし、どんな仕事をしていようと、有権者であるわたしたち国民が声を上げることが、今の政権の中では少しでも力になるのではと感じますね。誰でも声を上げられるんだよっていう状況ができたと思います。

ermhoi:今まで資本主義で上手く回ってきて、「みんな死なないように頑張って仕事をしてお金を増やして経済を回そう」みたいな感じだったのが、貧富の差がめちゃくちゃ広がってしまっているということにみんな気づいてきて。アメリカの若者たちの間では、北欧の例を見て、増税する代わりに公共サービスを手厚くした方がみんなハッピーじゃないか、という思想が広がっているんらしいんですよね。日本も若者のあいだでも、その理想を持つ人たちが今回の件で増えるんじゃないかなって思ってます。リアルに国って支えてくれないんだなということを今回目の当たりにしてしまったけど、私が期待したいのは、どちらかというとソーシャルデモクラシー寄りで。でも同時に、すでにお金がある人たちはこの先もまったく困らないだろうから、「今まで通りに行こうぜ」とはなっちゃいますよね。

AAAMYYY:中田敦彦さんのYouTube大学で、現政権ではなぜソーシャルデモクラシー的な政策がないのかわかりやすく説明しているのですが、政権が志す制作方針や構造を知れば、「こういう社会になって欲しい」という国民の意思をきちんと反映してもらうために、我々がどうしたらいいか考えられると思います。ホイちゃんの言う分断に対しても、もはや国民が手を取り合っていくしかないんじゃないかと思いますね、今は。だから声を上げやすい環境をみんなが作るとか、お隣さんをお隣さんが支える、みたいな。コロナの影響で政府の色々な部分が露呈したので、きっと、政治に興味を持つ人も増えたでしょうし。選挙行こうって思った人もたくさんいると思います。

ermhoi:でも期待はしない。前回の参議院議員選挙のときも、SNSでは芸能人が「選挙行きましょう」って投稿したり、「#投票完了」ってタグが広がったりしたけど、投票率が40%台だったから。

AAAMYYY:低かった。めちゃ絶望したね、あのとき。

コロナで見えた「ネクストレベル」の可能性

―お二人の中には、「下の世代のために」という意識もありますか?

ermhoi:そういう部分もあるんですけど……もうちょっとエゴが強い気がします。たとえば、今リアルに生活困ってる友達とかがいたりするので。未来に希望があるかっていうと……あるって言いたいんですけどね。とりあえず今身近な未来からよくしたいなって気持ちが強いですね。

ーまだまだ自分たち自身が、時代の当事者としてこの先何十年も生きていかなきゃいけないわけですしね。

AAAMYYY:私もそう思います。でも特に政治って、尾を引くものじゃないですか。たとえば水道民営化の問題も、今に始まったことじゃないですし。そのときの国民はしっかりと理解して行動したのかどうかを、下の世代から責められるものでもありますよね。というのも、私がまだ選挙権がなかった頃の小泉政権のときに、今に尾を引く当時の政策もたくさんあって、当時の有権者だった上の世代を責めたくなっちゃいますしね。未来の世代には、今よりも良くなっているところで過ごしてほしいので、下の世代のためにというエゴはあります。でも色々な問題が現状どんどん露呈してきてるから、今、目の前のことをやれるだけやるのがベストなのではないかなって、話しながら思いました。

―コロナ禍で起きたことや考えたことが、今後のお二人の楽曲制作にはどういった影響が生まれてきそうですか?

ermhoi:この時期、やっぱり、ひとつの作品に対してかける時間が増えました。時間をかけて作った2曲が、あと少しで完成します。すごく内省的になった時期が曲に表れているなって思いますね。過去とか、今は見られない世界に想いを馳せているのが、曲に表れているんじゃないかなって。あと、やたらと空間が広い音楽になった気がします。狭い部屋にずっといたから、外への欲望が出てる気がしますね。

AAAMYYY:ホイちゃんと一緒で内省的というか、脳内宇宙的というか。自分の時間がある中で、家で没頭して作っているので、すごく内なる世界に入った作品になるのではと思っています。ライブもできず外出もできず、政治的発言をすればものすごい勢いで叩かれというタームを経ているので、そのなかで思うことが作品に昇華されるのは間違いないです。ソロに関しては、去年の暮れ頃から、打ち込みもしつつバンドメンバーを入れるスタイルに挑戦していて、実はコロナのぎりぎりまでレコーディングをしていたんですよね。自分的には、ネクストレベルというか、いい感じだなと思っています。コロナに入ってからは、Tempalayではひたすら曲を作ってる状況なんですけど、ツアーもリリースの予定もすべて後ろ倒しになっちゃって。スタジオ練習も避けているのでメンバーには会ってないんですけど、オンラインでやり取りしつつ、初めてのやり方で曲作りをしてます。

ermhoi:私も、Black Boboiでは遠隔で制作してます。みんな同じマイクを買って、それぞれがパソコンで作って、たまにZoom会議しながら、データをやりとりして着実に進んでます。

AAAMYYY:かっこいいですね。みんなDTM女子だもんね、最高です。あと、前までのライブや制作の日々も充実していたけど、コロナの影響で家にいるようになって、家で過ごす時間ってめちゃくちゃ大事なんだなと思うようになりました。

ermhoi:私も。生活が改善されたのもあって、すごくポジティブになった。

AAAMYYY:改善できる点がすごく見えたなあとか思ったりして。それはみなさんそうだと思うんですよね。よりネクストレベルな働き方や人間生活が見えてきたと思うので、みんなすごくポジティブになってるんじゃないかなって思います。

ermhoi:それはすごく感じる。みんなの音が楽しみだよね。

〈配信イベント情報〉

「ミュージシャンは政治を語るな」に物申す AAAMYYY × ermhoi対談

AAAMYYY x Black Boboi
2020年6月28日(日)
OPEN 18:50 / START 19:00
料金:1500円
詳細:https://wallwall.zaiko.io/_item/327067

〈リリース情報〉

「ミュージシャンは政治を語るな」に物申す AAAMYYY × ermhoi対談

AAAMYYY
「HOME」
配信中
https://ssm.lnk.to/home_AAAMYYY

「ミュージシャンは政治を語るな」に物申す AAAMYYY × ermhoi対談

ermhoi
『E & Amphitrite』
配信中
https://ermhoi.bandcamp.com/album/e-amphitrite-2
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