オルタナティブな音像をしなやかに美しく鳴らす3ピース・バンド、羊文学の塩塚モエカと、多重録音を駆使した儚いサウンドで注目を集めるシンガーソングライター/ギタリストの君島大空。次世代のシーンを牽引する両者は10代の頃に知り合い、深いところで共鳴しながら交流を育んできた。
しかし、音楽家として歩んできた道のりは対照的。表現手段として無数の選択肢があるなか、彼らはなぜギターを選んだのか。鋭い感性をもつ2人の対話を通じて、この楽器を奏でる意味に迫った。

※この記事は2020年3月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.010』の特集企画「いまこそ『楽器』を」に掲載されたインタビューに加筆したものです。

知り合ったきっかけとシンパシー
二人で歌った「サーカスナイト」

ー塩塚さんが96年、君島くんが95年生まれ。お二人は高校生の頃から接点があったそうですね。

君島:羊文学がPlanet K(吉祥寺のライブハウス)に出たとき観に行ったんですよ。

塩塚:高校生のバンドが何組か出るようなイベントで、君島さんはそのイベント主催者の友だちだったんだよね。(羊文学の)最初のCDを持ってるんでしょ?

君島:うん。手売りしてたCDを買って。(自宅の)棚の手に届くところに厳選されたCDコーナーがあるんだけど、そこに置いてある。

塩塚:怖すぎる、やめてほしい!(笑)……で、いつ最初にしゃべったんだっけ?

君島:覚えてないんだよな……対バンしたとき?

塩塚:私が企画した下北沢 BASEMENTBARのイベントで、高井息吹と眠る星座を呼んだんだ。


君島:そうだそうだ。僕はそのバンドでギターを弾いていて、それが初めての対バンだった気がする。

塩塚:でも、その前から(君島の曲は)SoundCloudで聴いてた!

君島:それを知ったときはすごくうれしかったな。僕はその頃まだソロでは全然やってなくて、誰かのライブでギターを弾いてばっかりだったので。

塩塚:そこから気になってたので、ようやく会えるって思いました。その日は君島大空って人がいるらしいから、ちょっと話しかけてみようって。

君島:モエカちゃんの第一印象は……「白い」(笑)。

塩塚:あはは。高校生のときは、照明が映えると思って(バンド全員で)いつも白い衣装を着てたんです。そう考えると、最初にちゃんとしゃべったのは5~6年くらい前か。

君島:そうだね。その前から話してみたいなと思ってたけど、うまく話しかけられなくて。
でも、知り合ってからのモエカちゃんはいろいろ話してくれるんですよ。

塩塚:「人生がつらい」とかね(笑)。不思議な関係です。

君島:あとは、いろんな形で一緒にライブをやる機会があって。以前、高井息吹とのデュオで出演したとき、モエカちゃんは弾き語りで出てて。モエカちゃんのソロもすごく好きなんですよ。それで一緒にやったり、僕も弾き語りで対バンしたりとか。

塩塚:一緒に歌ったこともあるよね、uamiさんと3人で。

君島:そうそう、アンコールで七尾旅人さんの「サーカスナイト」のカバーをやったんです。モエカちゃんが前に、弾き語りのときに「サーカスナイト」をやってたのを覚えてて。すっごい静かに歌ってて、めっちゃいいなと思ったんです。それからイベントで一緒になったとき、アンコールで何か一緒にしようとなってその場で決めたんです。


塩塚:あのときは楽しかったな。

6月24日、「サーカスナイト」のカバーが配信リリース。音源はファイルの交換によって制作されて、君島が演奏したガットギターのファイルを受け取った塩塚モエカが歌を乗せ、そこに君島の声とギターの音色が折り重ねられた。

ーその後は?

塩塚:私が映画『放課後ソーダ日和』の劇伴を手掛けたときに、君島さんがミックスをやってくれて。

君島:(劇伴に使われた)羊文学の曲「天気予報」のソロギターアレンジみたいなことをしました。どんな感じだっけ?(手元のギターをジャラーンと弾く)

塩塚:(一緒に曲を口ずさむ)そんな感じ! あとは去年の秋、NEWTOWN(CINRA主催のイベント)で「何か一緒にやろうよ」って話になって、そこで「ヤマビコ」というユニットを仮で結成したんです。バレンタインが過ぎたら活動しようと約束してたんだけど……まだやってないね。

君島:何か一緒にやりたいなとは常々思っていて。

塩塚:じゃあ、今日からやろう!(笑)

お互いの作る音楽に思うこと
「綺麗だと思うものが近い」

ーお互いの音楽活動に対する印象は?

塩塚:絶対に真似できない! 昔から弾き語りしてるところを見ながら「この人どうなってるんだろう?」と思ってたけど、最近はバンドセットでもやるようになって(ドラマーの石若駿、King Gnuのベーシスト新井和輝、中村佳穂BANDなどに参加するギタリストの西田修大を交えた4人編成)、ますます意味がわからなくなってきて……いい意味で。羊文学は結構ストレートでパンクっぽい精神があると思うんですけど、君島さんのバンドは(音が)何層にも重なり合っていて、誰にもできないことをやってるなって。

2020年2月19日、渋谷WWWXにて行われた君島大空合奏形態『夜会ツアー”叙景#1”』追加公演の映像。上述の4人編成に加えて、タグチハナがコーラスで参加。


君島:今でこそバンドでやったりしてますけど、それは自分の中でかなり実験的なことで、そもそも僕は歌いたいって気持ちがないんですよ。モエカちゃんと出会った頃も、(サポートギタリストとして)エレキギターを弾きながら、どうやって自分を殺して歌を映えさせるかばかり考えていました。でも一方で、フロントマンとして歌う人への憧れもあるんですよね。だから、僕が(人前で)ギターを弾いて歌い始めた頃からよく聴いてました。言葉を借りるようだけど、僕も絶対に真似できないと思ってます。それは今もずっと。

塩塚:その話ヤバい! 泣きそう!

SPACE SHOWER TVとJ-WAVEの公開収録企画「DRIP TOKYO」での羊文学のスタジオライブ

ー自分にはない部分をリスペクトし合っていると。「似てる」と思う部分はありますか?

塩塚:MCの声が小さい(笑)。

君島:それでシンパシーを抱いたのは覚えてる。僕は本当にMCの声が小さいんですよ。

塩塚:超何言ってるかわからない。

君島:でも、弾き語りで共演したとき、モエカちゃんも同じくらいMCの声が小さくて。
「これは友だちになれる!」と思ったんです。

塩塚:それで初めてちゃんとしゃべったんだよね。「マジで声小さいね、私と同じくらい声が小さい人は初めて見た」みたいに言った気がする。

君島:うれしかったですね。「私と同じくらい」って前置きがあるのもうれしかった。僕もそう思ったよ、って。

ーいい話ですね。音楽的なところでいうと?

君島:「こういうジャンルが好き」みたいなのはわからないけど、(好みが)似てると思う部分はありますね。「音がこうなってる状態が好きなんだろうな」というのは何となく感じます。

塩塚:綺麗だと思うものが近いのかなって。前に送ってくれた「So」もよかったな。

ーオヴァルのマーカス・ポップが日本人女性とやってる歌ものユニットですよね。


君島:モエカちゃんがSoundCloudにアップしてた……ジェイムス・ブレイクのギター版みたいな、弾き語りですごくハモった曲を聴いて「So」を想起したんです。器楽的に声を使ってる感じとか。それで好きかしらと思い、「こんなこと一緒にできたらいいね」と送ってみて。僕は歌うというより、家であんなふうにコーラスを多重録音することにメモリを割くほうが好きで、(塩塚にも)その片鱗を感じています。

まるで違うスタート地点
音楽との出会いとギターとの接し方

ーそんなふうに共感し合う一方で、音楽の出発点はだいぶ違うみたいですね。まず塩塚さんは、昔から歌うのが大好きだったとか。

塩塚:幼稚園のときにSPEEDを聴いて、「歌うってかっこいい」と思ったのが最初ですね。そのあと、小学生になるとYUIさんが好きになって、自分もシンガーソングライターになりたいと考えるようになって。そこからもう少し経つと、今度はサカナクションを通じて「こんな電子音が入った音楽もあるんだ」と知り、中学の終わりにジェイムス・ブレイクと出会って「自分もこういう音楽をやりたい」というのが目標になりました。でも、パソコンは高いし、機材を揃えるのも大変だなって。今でこそiPhoneにGarageBandとか入ってますけど、まだそういう時代じゃなかったし。だから、とりあえずバンドをやろうと。

ー最初にギターを手にとったのはいつ?

塩塚:小学生のときにYUIさんが好きな友だちがいて、その子のものを貸してもらってました。そのあと、中学受験の合格祝いで買ってもらって。

ーそこからたくさん練習したんですか?

塩塚:いや、まったく(笑)。ご存知の通り、今もギターは全然弾けません。私はダンスも好きで、身体の表現に興味があって。ギターも手で弾くから肉体的といえるけど、歌は体から音が出てくるじゃないですか。そう考えると、ギターは弾いてて楽しいけど、どうしてもってわけでもなくて。

ーたまたま手に取ったのがギターだっただけで、そこまで執着があるわけでもない?

塩塚:そうですね。でも、いろいろ出来るようになりたいし、エフェクターで歪ませたり、ギターっぽくない空間みたいな音を作ったりするのはすごく楽しい。バンドではあんまり使えないけど(笑)。

羊文学・塩塚モエカ×君島大空 共鳴し合う2人がギターを奏でる理由

もともとFender Japanのストラトキャスターを使っていた塩塚が、楽器屋で薦められて購入したFender USA FSR American Vintage 65 Jaguar。「ポイントは色の可愛さ」と本人も語るように、限定モデルのソニック・ブルーカラーが映える。ボディにはヨ・ラ・テンゴのジェイムズ・マクニューにもらったサインも。「塗装が薄いのでチューナーを挟んだらロゴが剥がれちゃったけど、そうなると自分のものになってきた感じがするんですよね」(Photo by Kana Tarumi)

ー逆に君島くんは、もともとプレイヤー志向が強かった。

君島:親父がギターをやってて、今日持ってきたガットギターも親父の知り合いからもらったんですけど、これを家で弾かされたんです。最初は興味がもてなかったけど、あるとき「Cのコードを押さえてみろ」と言われて、押さえることができなくて。そこから急に火がついて、ずっと一人で練習してましたね。親父はフォーク、母はAORが好きで、あとはジャズギターのコンピレーションをもらったりして、そういう音楽をずっと耳コピしてました。

塩塚:英才教育だね。

君島:アル・ディ・メオラとパコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリンの『Friday Night In San Francisco』っていうスーパーギタートリオのライブ盤を、親父の知り合いからカセットでもらって、そこで何かの糸が切れた感じがしました。「俺はこれになる!」って(笑)。特に好きなのはパコ・デ・ルシア。ガットギターでこんなにドロドロした表現ができるんだって。そこからずっと技巧的なものを追及しつつ、家にパソコンが来てからは、YouTubeで音楽をどんどん掘っていって。中学生の頃はずっとメタルを聴いてました。

塩塚:出た! その話好き!(笑)

君島:とにかく速く弾けることが正義だと思ってた時期が長かったんですよ。

羊文学・塩塚モエカ×君島大空 共鳴し合う2人がギターを奏でる理由

静岡・浜松の老舗ギターブランド、TOKAIの昭和46年製ガットギター。文中でも言及されているように、君島とは学生時代からの付き合いで、現在もレコーディングやライブで使われている。「もう体の延長みたいになっていて、『こう弾いたらこう鳴る』というのがわかりやすい。あと、ガットギターは弦を交換するのが大変で、僕も2年くらい弦を張り替えてないので、(劣化して)おじいちゃんみたいな音になっている。そうやって音を育てるのも好き」(Photo by Kana Tarumi)

ー君島くんは胸を張って「ギター大好き!」って感じですか。

君島:好きですね。でもしばらくして、技巧的な自分に嫌気が差してきて。弾き語りの女の子のサポートに呼ばれるようになってから、自分が聴いてきた音楽とあらためて向き合い、ギターがどうやって歌に寄り添えばいいのか意識するようになりました。そこからフォーキーなブルースとかフリージャズっぽいアプローチだったり、今の感じに近付いていった気がします。

ー君島くんの音楽はDTMに支えられている部分も大きいと思うけど、自分のなかで生演奏と打ち込みはどんなふうに区分されているんですか?

君島:弾き語りで演奏するギターと、音源で鳴ってる打ち込みは、自分のなかではそこまで変わらないですね。モエカちゃんもさっき言ってたけど、肉体性みたいなものが僕も好きで。自分でギターを弾くときも、どうやってるのかわからないけど確実に人が演奏している、みたいなギリギリの感じをめざしてます。筋肉の伸縮が見えるような状態というか。打ち込みに関してもそう。ジェイムス・ブレイクの1stアルバムみたいなドライに振り切ったものも大好きだけど、自分で作る音楽に関しては、シーケンスでも感情をイメージしながら打ち込みするようにしてます。

ギターの弾き方は無限大
不完全な楽器だからこそ面白い

ー今更ですけど、ギターを弾くのって楽しいですか?

塩塚:楽しい!

君島:僕はそこまでとは思わないんですよね。自分で弾いて歌うなら、本当はピアノのほうがいい。

塩塚:え、そうなの?

君島:鍵盤のほうがいいなって思うことは多いかな、同時発音数も多いし。

塩塚:でも、ギターもいろんな音が出せるじゃん。

君島:たしかに。最近のエフェクターの進歩はすごいしね。ギターらしからぬ音、シンセみたいな音が出せるものもあるし。

塩塚:そうそう、エフェクターも楽しいし……私はお家用の小さいアンプの音が好き。あのチープな感じ。練習用の安物なんだけど、それでチャラーンって鳴らすと、大きい空間みたいなのが広がって綺麗なんですよ。

君島:わかる、僕も中学生の頃からずっと同じアンプを使ってる。

塩塚:あと、君島さんは(ギターの)指板上の音が全部見えてるのかもしれないけど、私はスケールも見ようと思えば見えるってくらいだから、変な押さえ方してありえないことが起こったりして(笑)。それと私、OOIOOが大好きで。ライブに行ったらネックをめっちゃ叩いたりしてた(笑)。

君島:その話で言うと、僕の一番好きなギタリストはマーク・リボーなんですけど……あの人、ギターに出せることを全部やるんですよ。ギターの歴史をしっかり汲んだうえで、それを壊しながら演奏している。YouTubeにギターソロの映像があがってるんですけど、かなりボロボロのビザール・ギターで、チューニングも全然合ってないんですよ。で、それを弾きながら歌ったかと思えば、急に叩きだしたり、風船を当てて音を出したり、プリペアード・ギターみたいな感じで(弦とフィンガーボードの間に)ドラムのスティックを差したりして。そういう意味で、ギターにはおもちゃっぽいところがあるというか。

塩塚:打楽器のようにも使えるしね。弾き方は無限にあるし、人によっても全然違う。

君島:あと、ギターってピアノや他の楽器と違って、チューニングが完全に合うことがないんですよ。ずっと不完全な感じ。ライブ中に弦が切れますからね(笑)。そこが逆に面白いのかなって。

ー塩塚さんの好きなギタリストは?

塩塚:長岡亮介さん!

君島:いいね。僕も一時期めっちゃハマって、真似しようとしてた時期がある。

塩塚:すごいなー。私もあるけどできなかったな。ここ(ギターのボディ裏)にペトロールズのステッカーを貼ってました。

ーどのあたりに惹かれます?

塩塚:長岡さんも「こんな音が出せるの?」「そんなふうに弾けるの?」って感じだし、フレーズのひとつひとつが綺麗で過不足ない。あの記号っぽい感じ、出しゃばりすぎない姿勢が好きです。

君島:たしかに、ペトロールズは衝撃的でしたね。

塩塚:あとは……君島さん?(笑)。あんなふうに自由に弾けたらいいな、練習しようっていつも思ってます。

君島:僕はギターが上手い人、全然好きじゃない。それよりは……ギターなんてどうでもいいと思ってる人のほうが好き。

塩塚:私じゃん(笑)。

君島:「マーク・リボーのどこが好きなんだろう?」って考えてたけど……おそらく、彼はギターがめっちゃ好きなんだけど、かといって執着しているわけでもない。その感じが好きなのかな。

ギターの音はないほうがいい?
自分のなかのルールと世界観

ーテクニックや表現の仕方は違うけど、お二人のギターには歌心のようなものがあると思うんですよね。

塩塚:歌心か……ギターで歌おうと思ってるわけじゃないけど、響きは大切にしていますね。思い描いている景色みたいなものがまずあって、それに合うように音作りしていく。自分があんまり弾けないのもあるけど、複雑なロックギターっぽいフレーズが好きじゃないから、シンプルにすることはずっと意識していて。そこは自分でも気に入っています。

ー演奏を聴かせるというより、あくまで自分の世界を作り上げるために演奏がある。そういう感覚はお二人の音楽からも伝わってきます。

君島:それが歌心なのかなって思いますね。バンドは特にそうで、それがないと成立しないんじゃないかな。イメージを共有して、そのうえで何を鳴らすのか。そこで見えてる景色が海なのか川なのかで全然違う音になるだろうし。

塩塚:職人とか技術者になりたいわけじゃない、みたいなところは君島さんにもあるよね。君島さんはギターをいっぱい弾くけど、どこかに空白もちゃんとあって、職人感がないところがいい。

君島:そもそも僕は、ギターがないほうがいいと思ってるんですよ。

ーそれはどういうこと?

君島:ずっと思ってるんですけど、シューゲイザーってあるじゃないですか。あれはジャンルとか方法論みたいなものではまったくない気がしていて。轟音のなかで歌がスッと抜けてくる状態は僕も大好きだけど、誤魔化しで鳴るようなギターは全然好きじゃない。同じように、ピアノがあるならギターはなくてもいいって感じる場面もあるし、自分の演奏はいらないとか、そういう差し引きみたいなことはよく考えます。

ー鳴らさなくてもいいなら、鳴らさないほうがいいと。

君島:基本、ギターがないほうが美しいというのは絶対的にあると思うし、でもあったほうが空間が広がる瞬間も知ってるし、難しいところですけどね。侘び寂びみたいな、自分のなかだけでのルールがあるのかもしれない。そういうことを、モエカちゃんも僕も無意識に考えてるような気がします。

羊文学・塩塚モエカ×君島大空 共鳴し合う2人がギターを奏でる理由

Photo by Kana Tarumi

ー音楽を通じて表現される美意識や世界観についても、お二人はどこか共振している気がしていて。CINRAのインタビューで、塩塚さんは羊文学の最新EP『ざわめき』について、「許し」と「祈り」を描きたかったと話していましたが。

塩塚:あのときはいろいろ話しちゃったけど……でも結局は、ひきこもり感じゃない?

君島:すごいまとめ方だね(笑)。

塩塚:音楽をやることによって、白い繭みたいなものに包まれていく感じ? 綺麗な音がギターから出たり……綺麗と言ったら伝わりづらいかな。すごく美しくて……なんだろう、「祈り」の場所みたいな。そういう場所にいるような気持ちになれる。

君島:なるほど、すっごく狭くて開けた自分の部屋、繭というか箱みたいな。僕もそこにいるときが本当の自分だと思いながら音楽を作ってる感じがします。「許し」という言葉を使うのであれば、僕が音楽を作るのは、自分を許すため、自分を救うためにやってますね。他人のことは考えていない(笑)。

今日の音楽シーンに思うこと
「スタートの違う人が一緒に遊んでる」

ー話は変わりますが、ここ1~2年で、新しい世代のシーンがすごく盛り上がっている印象で。君島くんが石若駿くんや新井和輝さんと一緒にやり、その君島くんと塩塚さんが交流があって……みたいな相関図をまとめるのが大変なくらい充実している。そういうシーンの現状をどう見ていますか?

君島:どうなんだろう。シーンとか世代って、かなり曖昧な定義付けだと思っていて。歳が近い人がいるのはちょっとうれしいな、というくらいですかね。

塩塚:フリーランスだったり面白いことを始めたり、そういう同世代と出会う機会は増えてますね。例えば性別のこととか、進んだ考えを当たり前にもっていて、それをものづくりを通して発信してる子たちがたくさんいる。そういう人たちと仕事したいし、私たちの世代はそんなふうになってきてるのかなって実感はあります。

君島:「音楽に限らず」って感じだよね。90年代後半生まれの男の子の詩集をもらったことがあって、それもすごくよかった。

塩塚:石若さんとかは私からしたら一世代上って感じ。みんな本当に楽しそう。あと、ermhoiさんが好き。あの人も美しいと思う感覚が同じというか、近そうな気がする。

君島:僕が駿さんのドラムを初めて聴いたのは、King Gnuの前身バンド、Srv.Vinciの頃で。(常田)大希さんと駿さんがほとんど二人だけで作った『Mad me more softly』ってアルバムを(新井)和輝さんに借りて聴いて、「このドラムは何やねん!」って。

塩塚:そうなんだ!

君島:そのあと、駿さんが(2017年に)SONGBOOK PROJECTのイベントで誘ってくれて、初めて対バンしたんです。駿さんはそのとき、ドラムじゃなくて鍵盤を弾いてたんてすけど、めっちゃ上手いんですよ。パッと弾いて何の和音かもわかるし、楽典的なことが入ったうえで、情景もすぐに汲み取ってくれる。僕には自分のルールやスケールとかはあるけど、楽典的なものはほとんどないので。あと駿さんは、高い次元で活動してる人に自分から会ってきたのがすごい。

ー「同世代のシーン」と括ると語弊があるけど、今のロックをシンプルに鳴らす人、テクニカルだったのに今は違うことをやってる人、アカデミックな出自なのにポップなことをやろうとしてる人……と、ひと昔前だったら交わらなかったであろう繋がりの多様性が面白いのかなと。

君島:スタートの違う人たちが同じところで遊んでるっていうのは、刺激が絶えない感じがします。

羊文学・塩塚モエカ×君島大空 共鳴し合う2人がギターを奏でる理由

「サーカスナイト」
君島大空と塩塚モエカ
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