Kobaltは、ユニバーサル、ワーナー、ソニーの世界三大レーベルの巨大出版部門を完全に打ち負かした。授賞式に参加することかれこれ20年、Kobaltの創設者兼会長のウィラード・アードリッツ氏も、巷で大ヒットしたポップソングを作曲の面から称えるこの賞が独立系企業に贈られるのは今まで見たことがないと言う。
20年前に英ロンドンで起業したアードリッツ氏は、Kobaltを単なる音楽出版会社にはしたくなかった。Kobaltは「クリエイターと手を携え、テクノロジーを活用して透明性とデータを発信するサービス企業だ」と、アードリッツ氏はローリングストーン誌に語った。アードリッツ氏は時代がストリーミング主体へ移行するのを、音楽出版会社にとっては「ウィン・ウィン・ウィン(Win-Win-Win)」な環境だととらえた。
IT企業との業務提携が可能になり、ファンにとっても、また著作権所有者にとっても新たな価値を創出できるからだ。そのためにKobaltは業界初のアプリを開発し、クリエイターが収益や各種アクティビティのデータをリアルタイムでチェックできるようにした。また、作曲家との公平な信頼関係の構築にも力を注いだ。
「ストリーミングが収入の大部分を占めるようになればなるほど、透明性も増していきます。ストリーミングとはそういうものです」と言うのは、KobaltのCEO、ローラン・ユベール氏。「目で見て、随時チェックできる……前よりもチャンスが広がりました。正直、昨今のクリエイターには選択肢が広がっています」。
雇用形態、賞レース、チャートの順位にも表れている「インディーズ志向」
ASCAP授賞式での快挙はKobaltにとって大金星だが、インディーズ業界全体にとっても、近年の偉業のひとつでだ。音楽出版業界の幹部らはみな口をそろえて、ここ数年――ストリーミングの台頭と並行して――明らかに「インディーズ志向」の勢いが増している、とローリングストーン誌に語る。そうした傾向は雇用形態や賞レース、チャートの順位にも表れている。作曲家との音楽出版契約にかかる時間はぐんと短縮され、インディーズ企業が参入する道が開けた。MIDiAによる最新の分析と2020年上旬に発表された報告書によると、インディーズ音楽は音楽業界全体の4倍のスピードで成長し、インディーズ系アーティストによる収益は年内に20億ドル(約2130億円)を超えると見られている。
「弊社には、4~5カ月間でチャート1位になった曲が7曲もあります」と言うのは、インディーズ音楽出版会社Pulseの共同CEO、スコット・カトラー氏だ。「ジャンルも多岐にわたります。TOP40にカントリー。これから来そうな作品もあと5曲ほど控えています」。
「独立系企業は作曲家には魅力的でしょうね。在籍者を絞っている分ずっと野心的で、細かいケアをしてくれますから」と言うのは、Prescription SongsのA&R西海岸部門主任、レア・パスリッチャ氏だ(PrescriptionはKobaltの傘下企業で、デュパ・リパのメガヒット曲のいくつかに関わっている)。「いつも言っているんです、『うちはインディーズ精神を持ちつつ、メジャー級の筋肉も備えている』って。インディーズ精神は社内のA&R部門やシンクロクリエイティブチームから来ていますが、Kobaltとの提携や彼らのグローバルリーチと資本力が筋肉となって支えてくれているんです」
幹部らは「インディーズ」という言葉の定義自体が、変化を喜んで受け入れる姿勢を表しているとも言う――移り変わりの激しいマーケットでは、小規模経営のほうが大手企業よりも臨機応変に対応できる。そこがクリエイターには魅力的に映るのだ。
カトラー氏は「インディーズとメジャー」の違いはもはや重要ではなく、こうした考え方の変化からもインディーズ作品の成長ぶりが伺える、と考えている。また両者の違いはしばしば恣意的で、場合によっては正しくない、とも付け加えた――例えば、先の授賞式ではKobaltが年間最優秀出版者賞を受賞した一方、年間最優秀インディーズ出版者賞はBMGが受賞した。だが、後者は何百万もの楽曲を手元に抱えている。
ASCAPの37年の歴史の中で、独立系企業が主要部門を受賞したことがあるかどうか同団体にコメントを求めたが、返答は得られなかった。ASCAPと並ぶ音楽出版賞を主催するBroadcast Music Inc.(BMI)が発表するのは毎年1部門だけだが、2017年に選考条件を拡大したことで、多種多様な出版形態が選考対象となった。「それまで年間音楽出版社賞は、各社が所有する楽曲数を基準としていたため、独立系音楽出版社が受賞するケースはまれでした」。
独立系音楽出版会社の強みである「柔軟性」
独立系音楽出版会社にとって、柔軟性が彼らの最大の強みとなった。Kobaltに関していえば、契約内容を個々に合わせてカスタマイズすることを売りにしている。大手企業のように、拘束だらけの長期契約でクライアントをがんじがらめにすることには興味がない、とアードリッツ氏も言う。「私は常々、『うちが嫌なら無理にいる必要はないよ』と言ってきました。うちの顧客保持率は98%です。皆さんこう言うんですよ、『好きなようにしていいのは分かってる、でもここがいいんだ』と」。契約の40%は、在籍する作曲家の推薦による、とも付け加えた。「みなさん可能な限り信頼とサポート、安心を求めているのだと思います。彼らの普段の職場はたいてい真逆ですから」
ユベール氏も、Kobaltが管理業務契約に力を入れている点を挙げた。会社側は楽曲制作やマーケティング業務よりもロイヤリティの回収や著作権管理に専念しているため、作曲家にわたる前金の額は少ないが、その分より決定権を与えられる。「弊社はおよそ600社の小規模な音楽出版会社を束ねています――こうした企業に代わって、管理業務を中心に山のような業務をこなしています。
Downtown Music Publishingの代表者はローリングストーン誌にこう語った。「インディーズ対メジャーの構図は、業界の考え方としては時代遅れのような感じがします。クリエイターが楽曲を自分で収録し、配信し、宣伝できるうえに、作品の権利も保有することができるような時代に、そんな構図は無意味じゃありませんか?」。同社は今週、元ワーナー・チャペルUKのマネージングディレクター、マイク・スミス氏をグローバル部門の新部長に迎えた――幹部クラスでもメジャーとインディーズの垣根がなくなりつつある。
Downtownではいわゆる”インディーズ”の作曲家がメジャーアーティストと共作するケースがどんどん増えている。Cautious Clayはジョン・レジェンドの新作に3曲提供しているし、アンソニー・ロザマンドはレディー・ガガの「シャロウ」を作曲した。ティー・ロマノはクリス・ブラウンとヤング・サグが最近の作品を手がけている。「ここで浮かぶ疑問は、そもそもインディーズの作曲家とはなんぞや?」と、代表者はローリングストーン誌に言った。「ライアン・テダーはインディーズの作曲家なのか? 彼はジョナス・ブラザーズの”サッカー”や、ビヨンセの”XO””ヘイロー”、アデルの”Rumor Has It”など数々の大ヒット曲を書きました。たまたまDowntown Music Publishingに所属しているというだけです」
「私には、メジャー対インディーズという構図は近年よく見かける他の変化にも当てはまるように思います――Netflixのようなデジタル先行ストリーミングプラットフォーム対ケーブルTVおよび従来のTV。あるいはソーシャルメディア対従来のメディア」と、代表者は続けた。