2020年6月24日、SUPER DOMMUNEとKDDI (au 5G)が主催するAR技術を導入した拡張現実化ライブの第2弾として、DAOKOが無料配信ライブ『DAOKO 4th ALBUM「anima」Release Talk & Live』を行なった。

本イベントは、DAOKOの4thアルバム『anima』の先行配信リリースを記念して、同作のサウンドプロデューサー片寄明人とDAOKOのトークセッションとバンドセットでのライブという豪華な内容で行われた。
特筆すべきは、SUPER DOMMUNE × 渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト(au 5G)とのAR(拡張現実)コラボ演出が行われるライブ。実は、SUPER DOMMUNEでのARを用いたライブ演出は6月14日にFISHMANSも行なわれており、その際は現場の流れにまかせた即興的なAR演出であったが、今回のパフォーマンスでは、あらかじめ綿密に構成されたARによる拡張空間が演出に用いられた。ラテン語で ”生命””魂”を意味するDAOKOの最新アルバム『anima』のタイトル通り、彼女の詩と音の世界に最新技術を用いて生命を吹き込み、曲をより有機的なものへと体現させた一夜となった。

当日の配信の開始前から、YouTubeチャンネルでのチャットには非常に多くの海外のファンからのコメントが寄せられていた。配信ライブとは、普段現場に足を運ぶことができない地域の人々にも場所を超えてコンテンツを提供できる、まさに新時代のエンターテイメントなのだとここで改めて気付かされる。番組が始まる頃には既に、Zepp Tokyoの収容キャパシティを超える人数が世界中から集まっており、新しい空間の広がりを感じる。

開催時刻の20時を少し回った頃、最新シングルの「おちゃらけたよ」のインストver.が流れ終わると、サウンドプロデューサー片寄明人とDAOKOのトークセッションから配信はスタート。『anima』は、前作アルバム『私的旅行』の制作時期から、彼女が自分でやりたいことを詰め込んだデモを作り始めたところからスタートしたという。インディー時代から一緒に作っていた作曲陣とも協力し、まさに彼女の原点回帰と言える作り方で作成されたアルバム。そんな収録12曲全ての解説をDAOKOと片寄明人が一曲一曲説明した。

アルバムトラックには、国内からはDAOKOのインディーズ時代のレーベル「LOW HIGH WHO?」所属で古い付き合いのDJ6月、相対性理論のギタリスト永井聖一、DAOKOのバックバンドのバンマスを務め、まさに今のサウンドのキーパーソンである網守将平、DAOKOも影響を受けたスチャダラパーなどが参加。そして、時折、天の声的に登場するDOMMUNEの宇川直宏が「(今回のDAOKOのアルバムは)世界の文化史を組み込んだようなアルバムだ」と語るとおり、海外からはインドネシアのビートメーカーpxzvc、マスタリングにはブルース・スプリングスティーンらの作品も手掛けたグレッグ・カルビーが参加するなど、海を越えて出来上がった作品となった。
そんな彼らにトラックのイメージを伝えるにあたってDAOKOは、具体的な用語ではなく、先に頭に思い浮かんだ絵を作曲家に伝えたり、感覚を共有していく手段を必死に考えたという。リリックについても、「私は誰のことも憎みたくなくて、嫌だなあと思う人の感覚になれたら、その人の感覚も理解できるのに」、「自分には綺麗事が向いている」と考えていると語った。それに対して、「DAOKOが歌う綺麗事はすっと入ってくる」と評する片寄明人のやりとりから、彼女らの長い関係性が伺えると共に、DAOKOのリリックに掛ける想いを感じられる場面もあった。

少しの転換の間を置いて、バンドセットでのライブが始まる。クラブのように赤く点滅するステージの中でダンサブルなイントロが鳴り響くと、最新アルバムにも収録されているシングル曲「御伽の街」がスタート。ハウス調の軽やかな曲にのって自分のテンションにエンジンをかけていく彼女と共に、現代アート的なイラストや漢字などで彩られた同曲のMVの演出と同じギミックが、気持ちの良いテンポでARとして投影されていく。曲の世界観を如実に完成させたMVがリアルタイムで我々の目で体現されている中、サウンド面では臨場感溢れるバンド演奏と彼女のラップの勢いが相まっていき、思わず画面越しでも身体が揺れてしまう。視覚と聴覚の両方の情報が、彼女のインディー時代を彷彿させる内省的なリリックの世界観を体現していった。

DAOKOが挑むAR拡張現実ライブ 表現に新たな息吹を盛り込んだ一夜


続いて、メロウなナンバーにDAOKOのキュートかつ切ない歌声のバランスが小気味良い「おちゃらけたよ」、イントロのギターが官能的な最新アルバム曲「Sorry Sorry」を続けて披露。「おちゃらけたよ」のウィスパー気味な歌い方をするDAOKOの歌い方は、息継ぎさえもかっちりとリズムにハマってパーカッシブであり、息の漏れ方までも曲の全体の浮遊感を作り上げる大事な要素となっていた。また、「Sorry Sorry」では、アーバンな曲調に乗ったDAOKOの現代の若者の心情を描いたリリックが、微熱を帯びた彼女の歌い方で切なく伝わってくる。曲のアウトロに向けて徐々にバンドの演奏も熱を帯びていったところで、ふっと途切れる終わり方が余韻を残した。
更に続けて、「ストロベリームーン」が始まる。様々な色が混ざり合っていくVJが、失恋でぐちゃぐちゃになった歌詞の世界を示すようであり、幻想的でもあった。Bメロから感情を昂らせていき、サビでしっかりと声を張り上げて歌い上げる。ラッパーとしてだけでなく、シンガーとしてもどんどん成長している彼女の姿が垣間見えた。

DAOKOが挑むAR拡張現実ライブ 表現に新たな息吹を盛り込んだ一夜


「楽しんでますか? DOMMUNE、素敵な機会をありがとう。もうちょっとだけ一緒に素敵な時間を過ごしましょう」と挟むと、「Cinderella step」へ。青を基調としてステージ上で、”泡沫”の歌詞にリンクするように水泡が少しづつ浮かんでは消え、失恋の切なさをリアルに演出させていくARが投影されていく。曲が展開していくにつれて、ステージの青色もどんどん深い色になっていき、沈んでいくシーボトルや小さく輝く海月も画面上に浮かび上がり、心の海の中にゆっくり沈んでいく歌の世界観をよりリアルに感じられた。曲後のMCでは、バンドメンバーの衣装カラーが戦隊モノをイメージした”ダヲレンジャー”をコンセプトにしたことなどで談笑し、バンドメンバーとの仲の良さを感じさせると、「皆もう家の中だと思うけど、こんな曲で終わりたいと思います。ありがとうございました!」と最後の曲「帰りたい!」へ。夜の繁華街をイメージさせるネオンカラーのステージ上で、帰路につく女性が画面に投影されていく。繁華街のイメージの中に浮かぶレトロなドット絵たち、その中で「早く帰ろう!」と息巻くDAOKOの踊りがキュートで印象的で、まさに今日のライブのエンディングにふさわしい楽曲となった。


DAOKOが挑むAR拡張現実ライブ 表現に新たな息吹を盛り込んだ一夜


ライブ終了後、YouTubeでのファンによるチャット一覧にはアンコールを求めるコメントと称賛が溢れており、ファンも大満足のようだった。イベント前半のアルバムのトークの場面では、「このアルバムがこの先の世界への切符のようだ」と語られていたが、このARを投影したライブパフォーマンスも、彼女のアーティスティックな表現に、新たな生命の息吹を与えるような世界への切符になっている。これからの彼女の表現の成長にますます期待が高まる。そんなライブであった。

<ライブ情報>

DAOKO 4th ALBUM「anima」Release Talk & Live @ SUPER DOMMUNE
2020年6月24日(水)

=セットリスト=
1. 御伽の街
2. おちゃらけたよ
3. 新sorry sorry Sorry Sorry
4. 新ストロベリームーン
5. Cinderella step
6. 新アルバム帰りたい!

・スタッフクレジット
LIVE編成:
DAOKO (Vo)
網守将平 (key, Arrangement)
永井聖一 (Gt) 相対性理論
西田修大 (Gt) ものんくる、カーネーション 他
鈴木正人 (Ba) LITTLE CREATURES
大井一彌 (Dr) yahyel、DATS
網守将平 (key)
美島豊明 (Manipulator)
片寄明人 (Sound Producer) GREAT3

LIVE STREAMING編成:
宇川直宏 (Streaming Director) DOMMUNE
水田修 (Technical Director) KDDI
stu (AR Production)
佐伯雄一郎 (VJ)
huez (Lighting)

<アルバム情報>

DAOKO
4thアルバム『anima』

配信リンク:https://TF.lnk.to/anima
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